「悪いわね、友奈。取りに行って貰って。」
「大丈夫ですよ、風先輩。それにこれって勇者部の活動報告するための書類なんですよね。だったら私達にも関係することですから。それに私も休んじゃっていろいろカウンセリングとか受けないといけなかったんで、ちょうどよかったです。でも本当に急ですね。」
「そうなのよ。何故か学校側から言われてね。何でも急激に部員数が増えたから活動内容に変化があったのかって。部室とか予算?とかも見直すかもしれないからって。だから、この書類審査の結果によっては部室ももっと広いところを使えるかもしれないわね。」
「そうですね。天馬ちゃんや姫ちゃんも増えたから、もう一杯ですよね。」
放課後の廊下を風と友奈が並んで歩いていく。
さっきまで受験に向けての補習を受けていた風は、勇者部の部員が増えたことについて学校側から尋ねられたことがあったが、友奈に代わりに取りに行ってもらっていた。
「それにしても、みんな予定が重なっちゃったわね。園子と夏凜は大赦に呼び出されてたし、巫女のみんなも着いて行ったのよね。そもそもアタシ達もそれぞれ元の世界に帰れてないし。」
「本当ですね。天馬ちゃん達は中立神様は関係ないって言ってましたし、今度はどの神様が引き留めているんだろう。」
2人が部室(家庭科準備室)に近づくと、今日もにぎやかな声が外にまで聞こえてくる。
「それ、いくぞ銀。くらえー!」
「はい、球子さん、うおおおりゃー!」
「ふははは、このエビ反り大回転分身射撃を受けるがよい。勇者ども」
少し元気が良すぎる2人が何かをしでかす前に止めようと、風が急いでドアを開く。
「アンタ達、外まで聞こえて…ぶはっ!?」
風は扉を開けた瞬間、ちょうど飛んできた"水"を頭から大量に被ってしまう。
「あ…。」
「しまった。」
風の目の前には砂浜の上で水鉄砲を持ったまま停止した球子と銀がいる。
「ふ、フフフ、アンタ達、アタシの言いたいことは分かるわね?」
「ええっと、違うんだ。言い出したのはタマ達じゃない。」
「そんな、タマちゃん。遊んでくれたらこの世界は滅ぼさないって約束だったのに!」
「そ、そうなんです。風さん、これには世界の命運がかかっていたんです。仕方なかったんです。」
「ええい、問答無用。3人とも、そこに直れー! ん? 3人?」
風は順番に確認する。
「タマ、」
「お、おう。」
「銀」
「あ、はい。」
そして、最後の一人。
「誰だー!?」
「まあ、この世界では初めましてになるよねぇ~。こっちだけ知ってるから変な感じだけど、ええっと、あそこか。銀ちゃん。ボクのシャツとって。あ、ありがと。ほれ、これで分かるでしょ。」
そう言いながらえっへんと胸を張る異物。
水着の上から被ったシャツに書かれていた言葉は名前ではなく、ひらがなで"てんのかみ"としか書かれていなかった。
「は? なに、ふざけてるの?」
しかし、風の反応は鈍く冷ややかな視線を向ける。
「あっれー、思ってた反応と違う。いやいや、もっと一つ一つの出来事に感動しようよ。あいむ、ラスボス。おーけー。」
「いや、ホントだと思うぞ。風。タマ達が暑いから泳ぎたいって言っただけであっという間に部室がこんなんになったし。」
「そうっすよ。風さん。ほら、あっちの砂浜に不似合いに建ってる茶室とかも全部このヒト?が出したんですって。」
一生懸命風に説明するタマと銀だが、自分達が叱られないために矛先を変えようとしていることは、割と見え透いている。
彼女達自身も本気で有耶無耶にできると思っているのではなく、冷却期間を置きたいだけなのではあるが。
その2人の訴えを冷たく見ながら、風が一つ大きく息を吸い込み宣言する。
「そんなことはどうでも良いわ。さっさとアタシの部室を返しなさーい。」
「「「はい、よろこんで」」」
あわただしく、3人が散らばり片づけを始める。
「おーい、須美ー、東郷さん。風先輩来ちゃったから、……うん、そう、撤収だって。え? たぶん残しておけるんじゃないか? あ、園子も園子さんも、もうメモは良いだろう。ほら、帰るぞ。」
茶室は実際に使われていて、東郷、須美、園子(×2)と、暑気あたりを起こした雪花を支えながら棗がのろのろと中から出てきた。
「しっかりしろ。雪花。ほら、水だ。」
「うう、すみません。棗さん。さすがに赤道直下のマラトゥアと部室を直結されるとは思わなかったです。」
なんとか集まった部員を風が確認する。
大人数になってきたので、さっきみたいに紛れ込んでいる不審者がいないよう慎重に全員の顔を確認する。
「はあ、せっかくの高級リゾート感が…。」
「ふ、夕海子、また来れば良いのよ。すでにここも弥勒の掌の上。」
「あ、まってチュン。まだ巨大パフェ(直径28cm)を食べきれてない。」
ぞろぞろと現れた部員たちの様子に風は眩暈を覚えそうになる。
どう見ても普通に南国を楽しんでいるようにしか見えない。
「全員揃いも揃って。満喫しおってからに。はあ、説明をしてほしいところだけど、先に雪花を休ませた方が良さそうね。それで、どうやって部室に戻してくれるのよ。」
「仕方ないか、友奈ともお話したかったけど、また今度にしよ。部室よ復元せよビーム。」
沙耶の目から虹色の光が放たれ、眩しさに全員の目が眩んだ瞬間、いつもの家庭科準備室に戻っていた。
「おーい、犬吠埼、結城、お前たちプリントを忘れて……犬吠埼。勇者部は部室で水着になって何をしているのか、後で説明するように。先生も細かいことを言うつもりはないが、何でもOKにはできないからな。」
結局、代表として犬部長は生活指導室で小一時間問い詰められ、その日は天の神襲来は有耶無耶になってしまったのだった。
「おのれ、あの偽神、よくもアタシの勇者部を何だか知らんが絶対に許さない。こうなればやけうどんよ。」
「お、お姉ちゃん、もう36杯目だよ~。」
かくして、いろいろ大切なことを有耶無耶にしながら、三度続く世界の第一日目が過ぎていく。
ここは神樹が創り出した勇者達に試練を与え、天の神と戦う準備をするための現実から切り離された世界。
その根底の目的《天の神》が地続きにふらりとやって来た目的を見失っていく物語。
てんのかみ「というのはどうかな?」
???「いいから、早く宿題。でないと缶詰だよ。」
てんのかみ「うぐ、調子に乗って勇者部で遊び過ぎたか。」
そして、その天の神は宿題に追われていた。
最後の人は一応オリキャラではありません。