「改めて昨日のこと聞かせてもらうわよ。アタシがいない間に何があったのか。雪花お願い。
(他のメンバーだと脱線するから)。」
「にゃはは、私がいながら面目ないっす(しょうがないですね)。
あいつが本当の天の神かどうか分からないですけど、変な力を持ってるのは確かです。そうだよね、水都。」
「えっと、うん、あの時部室にいた巫女は私とひなたさん、それに須美ちゃんと東郷さんもいたけど、だれも神樹様との繋がりが感じられなくなっちゃったんです。今は大丈夫ですけど。」
頭を抱えそうになりながら、風の脳細胞は次の方針を捻り出そうとする。
「つまり、神樹様と巫女を切り離せるほどの力はあるってこと?
それって結構危なかったんじゃない。どうして電話とかメッセージで呼んでくれなかったの?」
「あいつが部室の扉を開けてすぐあの海岸に移動してしまったんだ。当然圏外だった。
それくらいあの海は違う。すぐに海外だと分かるくらいに海の声が違っていた。」
棗が違う海の声と言うなら、実際日本ではないのだろう。
嘘か真か、今度も厄介そうだと風はため息をつく。
「とにかく、神樹様の神託も無いみたいだし、各自十分に注意して。
一緒になって遊んでた珠子と銀は何か気づいたことはない?」
問われて2人は顔を見合わせる。
「気づいたこと? ただ遊びたかっただけじゃないのか? 遊んでくれって、最初ちっちゃな子供みたいに砂浜で手足をバタバタさせてたぞ?」
「そうですよね。海に変えた後も一緒に遊んでくれてる間は、たかが世界なんて滅ぼす価値もないって言ってましたよ。
あれ、本心みたいでしたけど。」
呑気な2人の言葉に風は少し困ってしまう。
ふざけてるなら叱るところだが、本気にしか見えない。
「だとしても、よ。先生が来たせいでアタシや友奈は短い言葉しか交わしてないのよ。
防人のみんななんて、誰一人見てすらいないんだから」
「まあ、気をつけろって言うのは分かるから、注意してみておくか。あの茶室とか水鉄砲とか、いきなり取り出したからな。」
「そうですね。分かりました。風さん。十分注意します。でも、また一緒に遊べって言ってきたら、どうしますか?」
銀も珠子もそれほど確信があったわけでもないので、あっさりと風の言葉を聞くが、次にどうするかは、まだ、決めかねていた。
「そうね、一度大赦にも確認してみるわ。神樹様が無事なのかも気になるし。
それまでに接触してきたら、高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に???は失敗フラグだし、
話すくらいは良いわよ。下手に刺激して良いのかも分からないし。
でも注意して。世界をこんな風にした原因なんだから。」
けれど、気を張っている勇者達を嘲笑うかのように、1日経っても、1週間経っても、夏休みが最後の一日となっても、天の神は影も形も見せなかった。
そして、最後の一日。
「さあ、行くわよ。2人とも。
銀だけじゃなくて、そのっちまで宿題を残してるなんて。
勇者として、お役目を受けた者として、宿題すらもできてないなんて、英霊に顔向けできないわ。」
「私はちょっと、ほら、夏の祭典の原稿が……(それに一緒にやった方がイベント期待できそう)」
「そ、それを言うならアタシだって!」
三人がやってきたのは市立図書館。
そこで夏休み最後の追い込みを賭けよう……としたのだが、あいにくと着席率が高く課題を手に右往左往していた。
「困ったわね。まさか、夏休み最終日なのに、夏の課題が終わったない人達がこんなにいるなんて。由々しき事態だわ。
我が国はどうなってしまうのかしら。」
「さすがに宿題だけでダメになったりはしないだろ。いや、ダメなのはダメなんだけど。」
「あ、わっしー、ミノさん、あそこ空いてるよー。すみません。ここ良いですか?」
園子は言うが早いが、早速見つけた席についていた2人組に尋ねる。
「ええ、良いですよ。ほら、沙耶ちゃん、そっち詰めて。」
「いや、私たちは、もう帰るから?」
「何言ってるの、まだ数学の課題、終わってないでしょ。」
そこで、ようやく課題をしていたらしい少女が顔を上げる。
「そんな? どうして貴方が?」
「あれれ? どう言うこと?」
「えっと、天の神、だよな?」
三人の前には二週間音沙汰が無かった天の神が、もう1人の少女にお説教されながら、夏休み課題に苦心していた。
三人が席について30分。
3人とも手を動かしているものの、隣の様子が気になって仕方ない。
もっとも須美は借りた本を読み返しているふりだが。
「やっぱり、普通に宿題してるねー。ヒソヒソ」
「だな、それもあっちの人に結構怒られてるよな?」
「そうかな? わっしーがミノさんを怒る時とそんなに変わらないと思うよ。」
「私はそんなにお説教ばかりしてないわ。
それにどう見ても真面目にやってない天の神が悪いんじゃない。
でも、なんか天の神って呼びたくないわ。あんなの。」
「君ら。全部聞こえてるぞ。
私は一光年先の砂が擦れる音でも聞こえるんだからな。」
目と手をプリントに落としたまま、天の神は釘を刺す。
けれど3人は何かを決めたように顔を見合わせ頷く。
「だったら、まずは名前を教えてくれよ。いつまでも天の神じゃ呼びにくい。」
銀が口火を切って無難な要求を試みる。
「名乗ってなかったっけ? 私、松永沙耶だよ。中ニ、そして四国以外の世界を支配するものッ!」
(ふふふ、決まった。)
けれど、決まったと思っていたのは沙耶本人だけで、その場にいる誰もがバラバラのことを考えていた。
「えっと、なんで神様が宿題? それに中ニ? 病気じゃなく?」
「沙耶ちゃん、普通に中学にも在籍してるからね。
あ、横からごめんね。ボクは横手、横手茉莉。よろしくね。」
「は、はあ、よろしく。そう言うものですか。」
何を当然と言う感じの沙耶の言い分に、須美も不思議そうな顔をする。
しかし、考えてみれば、勇者でも宿題があるのだから、神様にだってあるのかもしれない……と、流されそうになって思い直す。
(いえ、油断してはダメ。きっと何かあるはず。風さん達がいないのだから、私がしっかりしないと)
そう考え直して、須美は改めて気を引き締める。
「横手? もしかしてすずさんの親戚とか?」
そんな須美に気づいているのかいないのか、園子が茉莉に話しかけている。
「親戚、はいないかな。ボクは四国の外から逃げてきたから。お父さんやお母さんともその時に。」
「あ、すみません。」
「いいよ、気にしないで。ボクだけじゃないからね。逃げてきたほとんどの人がそうだよ。
それにここは神樹様が作った世界なんだから、元の世界に家族を残してきてる人はたくさんいるだろうし。
だから、ある意味でみんな一緒だよ。」
途中から茉莉と園子が話し始めたためか、沙耶はつまらなそうに宿題に取り掛かり始める。
「ファファファ。終わったぞ。これで娑婆にもどれる。よし、まだ半日あるな。銀、タマを呼び給え。今からこの間の水合戦の続きだ。」
「はい、お疲れ沙耶。その勢いでこれも片付けよっか。」
いつのまにか現れたのか机の近くに積み上げられた書類が語りかけてきた。
「なんじゃー。何でこんな物がー。」
「何でって今月一度も神様仕事もしてないでしょ。
これ、全部多元世界中の経過報告とかアンタの決済が必要な分よ。」
紙束がドサッとテーブルに載せられると紙束の中から、少女が一人強く鋭い視線で沙耶を睨みつける。
「そんなん、アルに適当に書かせておけばいいのに。」
「ふん、それこそあの唐変木は"主なる神の御心"しか言わないじゃん。良いからサッサと見なよ。」
横柄にも聞こえるような態度で3人目の少女は沙耶を急かす。
だが、そんな態度を見ても茉莉は特段気にする風でもなく、いつの間にか園子と創作談義を始めてしまっている。
そこで、ようやく少女は須美達をちらりと見ながら、ため息を一つつく。
「ああ、そういうこと。アンタ達ね。未来の勇者って。一応私はこんな態度だけど、間違いなくこいつは天の神よ。
そして、私は天の神の使徒として"選ばれた人間"、八木千鶴葉。”西暦の勇者が生きていたころ"はそこの茉莉と同じで中3。
まあ仲良くってわけにはいかないけど、アンタ達の中に因縁があるやつもいるし、そのうち、また会うでしゅ……でしょう。」
(あ、噛んだ。)
(噛んだわね。)
前半が素通りしてしまうような印象を持ちながら、須美と銀は同じことを思った。
その間も園子と茉莉は「見られて初めて”作品”足りえる」「いやいや、内に秘めたものを発現させることが…」などと勝手なことを言い続けていた。
結局、須美と銀が聞き出す前に図書館は閉館となり、前と同じく気が付くと天の神達はいずこかへと去っていた。
小説のゆゆゆを知らない人が混乱しないように整理すると、