松永沙耶は神である~ゆゆゆい出張奇譚~   作:スナックザップ

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呼ばれて飛び出てジャジャーン(いつも名前を叫ばれるあのヒト)

それは何もない昼下がりに突然訪れる。

 

「これ、アルフレッド、アルフレーッド!!」

「だから、アルフレッドなんて、いないでしょ。」

「いつもの弥勒の……」

「夕海子お嬢様、校内に私を呼び出すのはお控えください。厳密には不法にあたります。」

 

 

夕海子のいつもの悪癖だと、全員がスルーしようとする。

それでも、"彼"の存在を無視することはできなかった。

 

 

全く間違えようのない異物。

 

 

中学生の彼女達から見れば、見た目からして明確な"大人の男性"と呼べる容姿。

いや、それよりもさらに明解な特徴。

容姿そのものが神世紀ではほぼ見れない"白人"種。

 

そんなものが突然背後に現れた夕海子はおそるおそる振り返る。

 

「えっと、アルフレッド?」

「はい、何なりと仰って下さい。」

 

そこまで言われれば夕海子の答えは決まっている。

 

「今晩のディナーは、フルコースを用意しなさいな。種類は、そうですわね。定番のフランス料理で。」

「かしこまりました。旦那様や奥様とはご一緒に召し上がりますか?」

「えっ? あ、ああ、そうですわね。って、なんですの雀さん」

 

立て板に水と答えが返ってくると、いよいよ調子に乗りかけた夕海子の袖を雀が引っ張って防人の輪に連れてくる。

 

「何ですの。一体。わたくしはこの後のディナー! の予定を決めなくてはなりませんの。」

「弥勒、もう良い。もう休め。見栄もそこまで来れば十分。」

 

今度はしずくが肩に手を置きながら諌めようとする。

 

「もう、しずくさんまで。何が仰りたいのです。」

 

夕海子は腰に手を当て、まるで怒ってますと言わんばかりな態度を見せるが、顔が自慢したくてうずうずしている。

そんな夕海子を雀が大仰な手振り身振りで引き止める。

 

「いやいやいや、どー考えても本物のアルフレッドじゃないでしょ。と言うかアルフレッドなんて実在しないでしょ。」

「雀さん、それは現実逃避というものでしてよ。今やアルフレッドは、今! そこに! 目の前に! いるのですわー!!」

「くっ、いつもと違って本当に目の前にいるから言い返せない。微妙に腹立つ。」

「弥勒が調子に乗ってる。」

 

いつもなら味方のはずの現実が立ち塞がり、雀達は夕海子を揶揄うことさえできない。

ただでさえ、周りになんと言われても執事の名を呼び続けた夕海子の虚言が、実体を得てしまっては手に負えなくなりつつあった。

 

「夕海子、間違いなく、彼はこの時代の弥勒家の執事なのね。」

(蓮華さんナイス、先祖の威厳で何とか止めてー)

(加賀城、これはもっとややこしくなるパターン)

 

「へ、ええ、そうですわ。アルフレッドは弥勒家の執事ですわ。」

「そう、ならば問わねばならないわね。貴方が本当に弥勒家の使用人として得た答えを!」

「何でさー! そこは止めるべきでしょー。」

「フ、甘いわね。雀、弥勒は来るものを拒まず、去るものを追わず、よ。」

「ほら、やっぱりややこしくした」

「もうイヤー。誰か何とかしてー。」

「こうなったレンちは納得するまでテコでも動かないよー。私、しーらない。」

 

赤嶺の言葉が不吉に部室に滞留し、56億7千万に渡る蓮華問答の地獄の幕が開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「10843問目正解よ。フ、なかなかやるわね。」

蓮華がニヒルな笑みを湛える。

だが、夕海子も含めて後ろの勇者部のメンバーは既にぐったりとするか、別のことを始めていた。

 

「おーい、設計者園子、どうだー?」

「うーん、こっちがこう繋がるからー。うん、オッケー。ミノさん、芽吹先輩、手を離して大丈夫だよー。」

「今年の文化祭は園子ズ考案だからな。これでダメなら普通の方法で優勝は難しいだろうな。」

「そうね。これは教室に収まるギリギリ計算し尽くされた複雑系と大きさよ。」

 

 

「ねえねえ、アルフレッドさんて普段どんなお仕事してるの?」

「私達アルフレッドさんの真似して、弥勒さんを元気付けようとしたけど、執事さんの仕事って、あんまり知らなくて失敗しちゃったんだ。」

結城と高嶋の2人は執事とは何かに興味を示し、

 

 

「弥勒さんにIch liebe dich《愛しています》と告げたと言うのは事実ですか?」

「お、おい、あんず、いきなり切り込みすぎだゾ。ますずも引いてないで一緒に抑えろ。」

「あは、ははは。(杏ちゃんってこんな子だったっけ?)」

暴走する杏や、

 

「私達2人もアルフレッドさんの出身地確かめなければ、須美ちゃん」

「はい、蓮華さん。次の質問でアルフレッドさんの出身は独逸で間違いないか確認して下さい。」

国防一派の圧を受けながら、アルフレッドは着実に蓮華の問いを捌いていく。

 

 

 

 

 

そして……、

 

「そこまで。見事56億7千の弥勒家の謎を解き明かしたわね。この弥勒から伝授すべきことはないわ。」

「ありがとうございます。蓮華様。」

 

蓮華の皆伝の言葉を受け、アルフレッドは優雅に礼を返す。

 

「やりましたわ。とうとうご先祖様からも認められましたわー!」

「やっと終わったみたいですね。」

「いやいや、終わったじゃないでしょ、樹ちゃんまでボケに回らないで。おかしいでしょ。何時間経ったのさ。」

 

 

 

雀の言う通り、どう考えても数日では済まない日数が経過しているはずなのに、

太陽は中天に止まったまま変化は見られない。

56億7千万もの問答を繰り返すだけでも時間は莫大となるが、

途中、最初に用意した問いだけでは足りず、蓮華もあれこれと思索しながら問いを続けたため、さらに時間がかかっていた。

 

しかし、雀の疑問にアルフレッドは何でもないことのように明快に答える。

 

「問題数から時間がかかることは分かっておりましたので、回答まで時間を停止しておりました。どなたか不都合ございましたか?」

「それって、神様とおんなじ…」

 

結城の言葉に答えたわけではないのだろうが、その言葉を届かせないかのように地鳴りのような疾走音が鳴り響く。

 

「何やってんだー!! アルー。衝撃のドリルプレッシャーパンチ!」

 

家庭科準備室のドアを開かれると同時に天の神が飛び込み、アルフレッド目掛けて飛び膝蹴りを直撃させる。

勢いが強すぎたのか、アルフレッドは回転しながら家庭科準備室の壁を破り、隣の家庭科室を破壊ながら、壊れた壁の土煙の向こうに消える。

 

「アルフレーッドー!! 人の執事に何をなさるのですか。沙耶さん。」

「え? 弥勒さん。天の神の正体を知ってるの?」

 

弥勒が漏らした名前。

明らかに人間と思える名前に結城は目を見張りながら、夕海子に確認する。

 

「は? 知ってるも何も。彼女は防人の1人よ。」

 

しかし、誰が何を言うより早く、芽吹が咎める。

 

「それよりも友奈、沙耶さんが先日来た天の神ですって? そんなバカな。実際私達と一緒にバーテックスとも戦ったし、重傷をおったこともあったわ。」

 

少しずつ、芽吹がふざけてなどおらず、本気だと部室の全員に伝播する。

 

 

 

 

気まずい沈黙が流れる。

いったい目の前の少女は誰なのか。

アルフレッドを蹴飛ばした後、頭を抱えてヤンキー座りをしていた天の神が、カバッと起き上がる。

 

「くっそう。アルが勝手するなんて。やっぱり神樹様の中だと頭をが緩むのか?

仕方ない。時間停止延長30分で。ちゃっちゃと説明するよ。まずはアル私にもお茶頂戴。」

 

「……私はもう使徒では無い。命令は聞けません。」

「と、このようにアルは元々バーテックスとおんなじような存在だったけど、天から出奔して弥勒さん家に雇われてるわけ。

で、防人のみんなが知ってる通り私は人間だったけど、その後、天の神を追い出して新世界の神ィィィ、になったんだよ。

防人のところにいる私は……まあ、東郷さんから見た須美ちゃんみたいな関係だよ。ここまでおーけー?」

 

天の神は質問を受けるのを避けるかのように、一気に捲し立てる。

 

「えっと、元の世界の防人のみんなの中にもう1人沙耶がいて。」

「今、ここにいるキミは未来で神様になっちゃったから、ここに戻ってくることができて。」

 

次を催促するように結城と高嶋が赤嶺に振り向く。

 

「いや、やらないって。もう良いでしょ。人間が神様になって過去に戻った。それは、つまり……。」

「過去に戻れる。悪くても情報を伝えることはできるはずだ。すごいぞ、柚木君これが本当なら……。」

 

赤嶺が続きを口にする前にリリが体を乗り出すが、その機先を制するようにアルフレッドが否定する。

 

「確かに過去の更新は叶うかもしれません。しかし、過去・現在・未来の整合性を保つことは困難でしょう。

それは人間が食物を摂れば自らの一部とするように、改変は元の時間に相応しい形に修正される。あるいは……」

 

「いや、アル。そんなトゲ抜きみたいな言い方じゃ伝わらないって。

例えるなら無理な過去を挿入することは、免疫も考えずに移植手術を強行するようなものだ。

変更した部分だけじゃなくて、全体が死ぬよ。

キミのママがそうだったように、キミがこれから、グエッ!?」

 

天の神が言い終わる直前に柚木のヘッドロックが決まり続きを飲み込む。

 

「な、何をする。解説中、変身中、合体中の攻撃はルール違反だぞ。柚木。」

「うるさい、人のプライバシーにズケズケと踏み込むな。」

「大丈夫、大丈夫だから、柚木君。」

 

 

「ゲフンゲフン、まとまらないから、前倒しで告げよ。

タマと銀ちゃんには少し言ったけど、私と遊んでくれたら、色々聞きたいことを答えるつもりだよ、

そして、何を選択するかによっては貴方達の望みは可能ではない。その多くの代償も私は教えられる。」

 

けれど、天の神の言葉はそのままは受け取られない。

 

「随分と親切なことで、たくさん殺しましたけど仲良くしましょう、なんてなるわけあるか。」

 

分かりやすく疑わしそうな視線で雪花が皮肉を言う。

少しずつ険悪な雰囲気が広がり始める中、結城が首を傾げる。

 

「あれ、なんかおかしいよ。」

「どうしたの友奈ちゃん?」

「さっきまで普通に話してたのに、なんでこうなるの?」

「いやいや、結城っち。相手分かってる? 試練とかじゃない本物の敵だよ?」

「分かってるよ。せっちゃん。そういう意味じゃなくて……。」

「落ち着いて結城ちゃん、大丈夫、大丈夫だから。」

 

結城が上手く言葉にできずに、まるで癇癪を起こした子供のように自分の中の言葉に詰まる。

 

「それは簡単だよ。友奈。前は私がみんなの敵じゃないって、認識させていたから怒りも憎しみも疑問も出てこなかった。

今はそれを一時的に止めたからね。もうちょっとみんなと遊びたかったんだけど、アルが無理やりステージを進めちゃったから仕方ない。

改めて……。」

 

そこで言葉が途切れるのと入れ替わるように、天の神の様子が変わっていく。

 

背筋が伸びきり、まるで大きく見えるように、

前進から赫い燐光があふれ、明確に人間の業ではないように、

光に触発されて、まるで風が渦巻くような錯覚を見せる。

 

「天の神《ボク》から離れた使徒がアルの他にあと2人いる。

探し出して知ると良い。世界の粛清の本当の意味を。

そして、キミ達は選ぶ。元の世界に戻るか、このまま続けるか。

それまではこの世界は終わらない。私が終わらせない。

私はずっと待っている。この世界を永遠に続けるだけの力が今の私にはあるのだから。」

 

気が付くと天の神の姿は消え、部室の日は朱く、世界は黄昏時を迎えていた。

 

 

 

 




アルフレッドもオリキャラです。原作には夕海子の妄想にしかいません(笑)。

そろそろちゃんと「何をしてもらうか」をはっきりさせとかないと…。
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