「放っておいて良いんじゃないですか? 飽きたら終わりますよ。
沙耶ちゃんの誕生日
開口一番、十華はそんなことを言う。
「駄目だ。
全ての元凶が目の前とは言わなくとも、手の届くところにいる。
何もしないわけにはいかない。」
「じゃあ、どうするんですか? ここで倒しても現実には影響ないんですよ?
わたしたちは神樹様の中に再現されてるだけなんですから。
何のために沙耶ちゃんを倒すの?
ただ仇を討つだけ? ええ、もちろん、それも正しいですよ。
気持ちが昂るだけで現実に帰ればもう一度やり直しですけどね。」
そう言うと使徒は一度だけ睨め付けるように、若葉を見る。
「そして、現実の沙耶ちゃんは、一方的にその情報を得られるけど、わたし達人間は夢も未来も現実に持ち帰ることはできないですよ。
残るのは沙耶ちゃんの記憶だけ。そんなの寂しすぎる。」
若葉に否定されて、十華は少し拗ねたように反論をする。
「十華ちゃん、私達は天の神と戦うことが目的ではないんです。
ここでみなさんと過ごした記憶を現実に持って帰って、少しでも未来を良くするヒントを探しているんです。」
若葉が本当に言いたかったことをひなたが補足する。
「結果は変えられなくても?」
「そうですね。記憶を持ち帰っても叶わないかもしれません。
それでも祈らずにはいられない。何もしないわけにはいかないんです。」
「ああ、それなら……、その気持ちなら分かります。多分みんな同じことを思ってる。
ああ、これは早とちりでした。ごめんなさい。
でも、そっか。それならアルにできるんじゃない?」
少し意外そうな顔をしながらも十華は納得する。
続きを促されたアルは……。
「それは人の在り方ではない。」
言葉少なに否定する。
「でも、方法はあるんだよね。それなら言ってよ。それだけでも気持ちの持ちようが違うんだから。」
「それは……、しかし。」
雪花が食い下がると、アルも言い淀みながら、ちらりと夕海子に視線で伺う。
「言いなさいな。私達はみんなそれを探し続けてきたのですから。」
「それは、御下命として受け賜ってもよろしいでしょうか?」
「そうではなくて、いえ、そうですわね。命令としてお願いしますわ。」
「承知しました。ですが、みなさまが御気分を悪くされる内容がありますので、予め御承知ください。」
そこで一度区切るとアルが詳細を語る。
「方法はシンプルです。
天の神の眷族となれば人間としての制約が解かれ、時間を超越した知識と行動が可能となります。
しかし、人として生きる在り方とは全く異なることになります。
次に実現可能性ですが、地球1つ程度なら私に与えられた権能でも可能です。
しかし、人でなくなれば今感じている葛藤さえも無意味と感じるようになります。」
言い方こそ違うが人間をやめると言っているも同然の方法。
ただ、それが無理でも。ヒントが無かったわけでもない。
「うーん、でも、それっておかしくない?」
「なんだ、園子? 何か思いついたのか?」
形の良い眉根を顰める園子(小)に銀が何か閃いたのかと尋ねる。
「閃いたわけじゃないんだけど、アルフレッドさんの言ってることで不思議なことがあるよ。」
「そのっちは何が不思議なの?」
「さっき、"現実世界の神樹の処理能力では私を再現できない"って言っていたのに、神樹様がなさらない記憶を持って帰る方法があるって言ってるのはどうしてかなって。」
「あ、それは実際に行うのは
アルと同じようにここで起こったことを知ることができれば記憶を得られるかなーと思ったんだけど、そっか、アレって元のアルの望みじゃなくて、天の神の眷族になる必要あるのか。」
園子(小)の疑問にはアルではなく十華が答える。
「それじゃ仕方ないわね。人間でなくなってしまったら意味がない。
あ、でも、十華もアルフレッドさんも私達の味方をしていて大丈夫なの?
天の神から何かされたりはしないの?」
芽吹が念のためと言った構えで尋ねる。
「大丈夫です。沙耶ちゃんは力だけは無尽蔵にあるから、少しくらいお漏らししてても気づかないですよ。
それに、ちょっとだらしないところがあって、いつも茉莉さんに注意されてるくらいですからね。
大男総身に知恵が回りかねる。まあ、それも楽しんじゃってるんですよ。」
「十華、それはないだろう。神の知恵は人間の及ぶところではない。
想像もできないほど隔絶された事象を操る。
だからこそ人間尺度の敵味方の感覚ではないのだろう。」
「あれは間違いなく私の住んでいた世界を滅ぼした。
銀河中にネットワークを持つほどの文明でさえ無くなったんだ。
それをだらしないとか、叱られた、くらいの感性で済ませられても追い付かないよ。
あれはもっとえげつないことを考えてる。」
同じ天の神の下にいたはずの十華とアルと那由多の反応はバラバラだった。
「ええっと……、怖いのも困るけど、行き当たりばったりな敵って言うのもなんか嫌だな。
メブ、結局3人の誰が正しいと思う?」
雀がしかめっ面で三者三様の言葉を聞く。
「そうね。……私もほとんど直接の面識は無い……、こんな時に電話?」
「あら、わたくしの電話にも。」
「私も……。」
「私もです、芽吹先輩。」
急に防人全員の電話がなり始める。
奇妙なことに若葉達も結城達も電話は沈黙したままだ。
「亜耶ちゃんだけで私達には無い、ということは巫女は条件では無いみたいですね。若葉ちゃん、どう思います。」
「わからないな。芽吹、知っている番号か。」
携帯電話の画面をじっと見る芽吹に若葉が問う。
「ええ、知っているわ。私達の知っている防人だった沙耶の番号よ。……出てみるわ。それでハッキリする。」
芽吹がスマホのスピーカーをオンにして、通話をクリックする。
「ああ、やっと繋がった。でも、私はアイツに出遅れたのか。え? ちょっと、みんな押さないで。わあああ!!」
電話の向こうで感じられたのは芽吹にとって懐かしくも騒がしい日々。
知っている声も少し聞こえてくる。
「まさか、全員こっちに来たの?」
しかし、芽吹の懐かしさに答えは無く、電話の向こうはかなりの人数が誰が話すかで混乱している。
「もう、ちょっと、押さないでってば、これじゃこっちの状況を説明できな…むぐ。」
「おお、本当に芽吹隊長の声がしてる。」
「こっちを映せるんビデオ通話ボタンどれにゃ。これか?」
「わあ、勝手に触るなあ!」
「いたあーい。誰よ、私の足踏んだのー。」
少しずつ懐かしさの代わりに芽吹の中にお説教モードが鎌首をもたげる。
(まずいですわ、芽吹さんが狂化状態になってしまいますわ。)
(沙耶ー! メブが爆発する―。電話切ってー。)
(残念、時間きれ……。)
(みなさん、こちらに来られているんですね。はやく会いたいです。)
芽吹以外の夕海子、雀、しずく、亜耶は、いつものことなので思い思いに考えているが、
勇者達は別の事に心を囚われていた。
「お姉ちゃん、今の声ってやっぱり天の神……。」
「そうね、絶対とは言えないけど、似ていたわね。」
腕を組みながら、眉間に皺を刻みんだ厳しい表情で風が樹に答える。
「防人、全員整列・着席!」
堪忍袋の緒が切れた芽吹の電話越しの一喝で、電話は静かになる。
全員が座った音が途切れると、一瞬の間を置かずに芽吹が電話口に問いかける。
「沙耶、色々聞きたいことがあるわ。すぐにここに……勇者部の部室に来なさい。」
「えっと、話があるのは重々承知してるんだけど、みんなをここに置いておけないので、来てもらえると助かるというか、何というか。」
「どこに行けば良い?」
「えっと、うん、これで良いかな? 窓を開けてみて。」
「? もう窓から見える場所に来ているの? それなら……。」
芽吹がスマホを持ち替えながら、窓を開けてみる。
「こっちは昨日ぶりだけど、そっちはお久しぶりだよね。芽吹隊長。」
確かにそこには先日来た沙耶と同じ姿の少女がいた。
髪こそ短く肩くらいまでに変わっているが、
4年ぶりに見た姿は、この世界に来る前と同じに見えた。
あたり前に光景に見えて、あたり前で無い場所。
窓の向こうに広がるのは校内ではない別のもっと広い空間。
「ようこそ、勇者達。これは私達の…大赦関係ない私達の船。
校舎のリノリウムとは違う、と言って金属とも違う、不思議な感触の通路を案内されながら歩く。
時々人間とは違う姿をした者達とすれ違うが、向こうはこちらを気にすることもない。
驚いたことに、芽吹達は何事も無かったかのようにしている。
「すごいよ、東郷さんあっちは映画みたいな頭がおっきな人もいる。ハロー、マイネームイズ、結城友奈。」
「駄目よ。友奈ちゃん。ここは日本語でないと、初めまして、私は東郷、東郷三森。」
「? 大丈夫ですよ。船内全体に翻訳機能がありますから日本語でも、英語でも、問題ありません。」
「アンタ達、何やってるのよ。早くいかないとはぐれるわよ。すみません。ちょっと、通してくださいね。」
早速交流をしようとする結城に東郷が乗っかり、慌てて風が連れ戻す。
「ああ、ごめんなさい。またねー。」
友奈に応じて手を振り返しながら、エイリアンも歩いていく。
「沙耶、いろいろ聞きたいことがあるわ。」
「分かってる。でも、まずはこの船にいる防人と安芸先生と合流しよ。
あれ? ここはまだ稼働できないのか、先週完了だって言ってたのに、アンタレアは時間間隔が違い過ぎる。
しょうがない。もう空間転移で移動しよ。よっと、はい、着いたよ。」
言葉が終わると同時に、気が付くと古い艦橋を想起させる部屋に来ていた。
「東郷さん……、ここは、まさか。」
「須美ちゃん……、ええ、間違いないわ。」
「どうしたの? 東郷さん、この部屋を知ってるの?」
「ええ、友奈ちゃん。この部屋の構成は間違いなく長門級戦艦の艦橋を参考にしているわ。どういうことなのかしら? 松永さん。」
異常な迫力を振りまきながら、東郷と須美が沙耶に迫る。
「し、知らないよ。これはアイツが…天の神と私が分離する前に設計したのを使い続けてる。
逆にこの部屋には意味があるの?
ここだけはなんでこの構成なのか分からないから変更してないんだよ。」
仰け反りながら沙耶が逆に東郷と須美に問いかける。
「この場所は間違いなく長門級戦艦を参考にしているわ。
はあ、松永さん、だったかしら?
貴女、造船技師としての自覚が足りないわ!!」
「え、あ、はい、すみません
(いや、知らないし。これ作ったのは天の神だって言ったのに)。」
「はあ、東郷、もう良いかしら。本題が先よ。
沙耶、貴女と天の神はどういう関係なの?」
反射的に東郷に謝りながらも、不満そうな沙耶を芽吹が本題に引き戻す。
「……そうだね。でも、説明の前に一つ注意することがあるよ。
これから話すことは、あくまで今の私の記憶。
この世界に来たことでアイツか神樹様が制限をかけてる。
だから、鵜呑みにせずに暫定の状況把握だと思ってね。」
沙耶は、そこで言葉を区切ると空中に3Dモデルのようなホログラムを表示させる。
「私と天の神は元は同じ人間だった。そこまでは間違い無い。
ただし、芽吹達以外から見た場合、天の神は平行世界の私。
つまり、違う歴史の中で何かの理由で、元々いた天の神を倒して、自分が高天原に君臨している。
理由とかは知っていたはずなんだけど、制限がかかっていて今は思い出せない。
この辺りは赤嶺ちゃんとか、天馬ちゃん達が敵だった時の情報を忘れさせられたのと同じ。」
「私は造反神様からの教えられていたことを忘れていたし。」
「アタシと美咲は中立神から教えてもらったことを忘れてるねー。」
「不本意ながら、ボクも今は中立神様から頂いた権能を持っていない。
貴女も同じように天の神から得た情報を忘れているということね。」
赤嶺、法花堂、天馬の3人が事実として補足する。
「でも、それが本当にアイツがやったことなのか、神樹様なのかは断じない方がいいと思う。」
何故か千景に手を引かれるようにしていた十華が首を傾げる。
「沙耶ちゃん…って、呼ぶとややこしいから、わたしも天の神様って呼ぶね。
天の神様はそんなにシンボーエンリョは考えないと思うよ。
誰かに会いたくてこんなことをやってしまったような気がする。
それが誰だったのかは記憶が制限されて思い出せないけど。
アルと那由多も思い出せないって言ってたから、未来がこれ以上分枝しないように、神樹様がなさってることじゃないの?」
「その可能性は高い。けど、それさえも制限された記憶が原因だとしたら?
結局私達はこの世界で積み重ねていくことが真実なんだと思う。」
赤嶺が役目を終えて造反神から得た情報を持ち越せなかった前例。
しかし、沙耶はそれでも断定は避けたいという。
「私からも良いですか?
もし、途中で天の神が交代したというなら、私達の西暦の時代にバーテックスを送り込んできたのは。どっちでしょう?
あるいは両方?
そして、それぞれの目的も同じなのか、
杏が何故か少し分かりにくい表現を使う。
「あんずは何が言いたいんだ? 同じことをしているのに、考えてることは別って、なんでそうなるんだ?」
「うーん、少し推測が多すぎるけど、あんずんは手段自体にも意味があるのか気になってるの?」
「そうです。園子先生。
偶然なら良いんですけど、わざわざ人類全体を粛清するなんていう過激な手段を真似ているのは、不自然かなって。
それが違う目的ならなおのこと。何?タマ先輩?」
「あれっ? ミノさんも?」
そこまで聞いて球子と銀がどことなく、言い出しにくそうにしている。
「いや、それなんだが……」
「アタシ達、聞いてみたんですよ。」
「聞いたって……銀、あなた、まさか。」
2人の様子を見て何かに思い当たったように須美が天を仰ぎ、釘を刺しておくべきだったと後悔する。
「何で世界を滅ぼす必要があったんだ?
元の平和な世界に戻せないのかって。
それで……、まあ、何だっけ?」
「ほら、あれですよ。球子さん。」
球子に言いながらも、思い出すようにしていた銀が続ける。
「「できるよ。すぐにでも。でも、後が面倒だから、これから仕込みをしておかないとね。」って。」
あんまりゆゆゆい知らない人とか、もう忘れちゃったよー、な人向けに言えば、
後半の赤嶺、法花堂、天馬の三人もゆゆゆいの人です。
たぶんどこかには動画とかあるはず……。
しかし、予測していたこととは言え人が多いと制御は無理ですね。
もう、AIも暴走しっぱなしだし、作者も暴走しようっと、どっちがより突飛な設定を持ち出すか。