無口で可愛い女の子だと思ってナンパしてみたらメンヘラだった件 ~のじゃロリ妖狐の胃痛に満ちた現代生活~   作:パッタリ

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1話 現代社会の闇(メンヘラ)を舐めてはいけない

 「ふははは! 今日も人間どもは愚かじゃのう!」

 

 わしは街角で一人、ほくそ笑んでいた。

 長い銀髪に、可憐な顔立ち。

 道行く人間どもがチラチラとわしを見て頬を染めているのがわかる。

 

 (見た目は十四歳くらいの美少女! しかしその実態は、百年以上を生きる気高き妖狐、シラギク様じゃ!)

 

 もちろん、心の中での独り言である。

 現代社会はストレスが多い。長生きしている妖怪とて例外ではない。

 わしのストレス発散法は、この完璧な美少女の容姿を使って、人間に美味しいお菓子を奢らせること。

 

 「おっ、あそこにいるのは……」

 

 直感、もとい妖怪レーダーが遠くにいる一人の少女を捉えた。

 長く艶やかな黒髪。年齢はおそらく十四歳くらい。

 無口で大人しそうで、どこか儚げな雰囲気を漂わせている。

 

 (よし、今日のターゲットはあの娘にするか。チョロそうじゃしな)

 

 作戦は簡単。

 ああいう者には、甘える演技をするのではなく、ガツガツと攻めていくのが吉。

 わしは小走りで駆け寄り、彼女の前に飛び出した。

 

 「そこの黒髪の娘! わしはシラギク! 特別に、わしに甘いものを献上する権利を与えよう!」

 「……え?」

 

  少女は目を丸くして、わしを見下ろした。

 

 「……コスプレ? 口調、変だけど」

 「なっ、コスプレとは失礼な! 地じゃ、地!」

 「ふーん……。お腹空いてるの?」

 「うむ! ペコペコじゃ!」

 「……いいよ。一緒に行く?」

 (よっしゃー! 大成功!)

 「あ、私はリンカ。よろしくね」

 

 かくしてわしは、リンカと名乗った黒髪の少女と共に、近くのオシャレなカフェへと向かうのだった。

 

 「苺タルトスペシャル、最高じゃー!」

 

 わしはテーブルに運ばれてきたお菓子に噛みついた。

 口の中に広がる甘さが、日々のストレスを溶かしていく。

 

 「……よく食べるね、シラギクちゃん」

 「うむ! リンカは良い奴じゃな。褒めてつかわすぞ」

 「……ありがとう」

 

 リンカは自分の紅茶には口をつけず、ただジッとわしを見つめている。

 無口で可愛い娘じゃが、ちょっと視線が熱すぎる気がしないでもない。

 

 「……ねえ、シラギクちゃん。ここ、人が多くて少し落ち着かない」

 「ん? そうか? わしは気にならんが」

 「……もう少し、静かなところに行きたいな。二人きりになれるところ」

 「ふむ。奢ってもらった恩もあるしな。付き合ってやろう」

 

 わしは最後の苺を飲み込み、胸を張って答えた。

 この時のわしは、まだ気づいていなかった。

 この無口で可愛い少女が、とんでもない爆弾を抱えていることに。

 

 ***

 

 リンカに連れられてやってきたのは、駅前のカラオケボックス。

 防音の個室なため人目はない。

 

 「ここなら静かじゃな。で、歌うのか?」

 「……ううん。ただ、シラギクちゃんと静かに話したかっただけ」

 

 リンカはソファに座るわしの隣に、なぜか密着しつつ座ってきた。

 

 「ち、近いぞ、リンカ」

 「……ねえ。シラギクちゃんって、不思議な感じがする」

 「ふ、ふん。わしは気高き存在じゃからな!」

 「……手、繋いでもいい?」

 

 断る理由もない。わしは「よかろう」と言って手を差し出した。

 リンカの白く細い指が手に絡まると、ギュッと少し強めに握られた。

 その瞬間。

 

 「……なっ!?」

 「あ……」

 

 ポンッ、という間の抜けた音と共に、わしの頭からフサフサの狐耳が、お尻からは立派な尻尾が飛び出してしまう。

 

 「な、なんじゃと!? わしの完璧な変化の術が解けた!?」

 「……やっぱり。シラギクちゃん、人間じゃなかったんだね」

 

 リンカは驚くどころか、どこか納得したような瞳でわしの耳を見つめている。

 

 「お、お主、何者じゃ!? ただの人間ではないな!?」

 「……私の家、昔は陰陽師の家系だったの。今はただの一般家庭だけど」

 

 リンカは寂しそうに目を伏せた。

 

 「……私ね、昔から変なモノが見えたり、触れたりしたの。でも、親も友達も誰も信じてくれなくて。ずっと、気持ち悪がられてた」

 

 ぽつぽつと語られる過去。

 無口だったのは、他人と深く関わって傷つくのを恐れていたからか。

 しかも、無自覚に強い霊力を垂れ流しているときた。

 それゆえに、手を繋いだだけでわしの変化の術を乱すことができたのじゃろう。

 

 「……だから、ずっと一人だった。でも、シラギクちゃんを見た時、私と同じ普通じゃない匂いがして……」

 「リンカ……」

 

 わしは少しだけ、胸が痛んだ。

 人間社会に紛れて生きる孤独は、妖怪である身としてはよくわかる。

 

 「……馬鹿な娘じゃな。わしのような得体の知れん妖怪に、ホイホイついてくるなど」

 

 ため息をついたあと、空いた方の手でリンカの頭をポンポンと撫でてやった。

 

 「このシラギクは、百年以上を生きる大妖怪じゃ。お主の悩みなどちっぽけなものよ。これからは、わしが暇つぶしに相手をしてやろう」

 「シラギクちゃん……! 私、シラギクちゃんがいれば、他に何もいらない……!」

 

 リンカがわしの胸に飛び込んでくる。

 ふむ。まあ、たまにはこういうのも悪くない。

 可愛い娘に懐かれるのは、気分が良いものじゃからの。

 しかし、わしは現代社会の闇を完全に舐めていた。

 

 ピコーン

 

 帰り道、スマホが軽快な音を鳴らす。

 先ほど交換したばかりの、メッセージアプリからの通知じゃ。

 

 【リンカ:無事に家に着いた?】

 【シラギク:うむ、今着いたところじゃ】

 【リンカ:よかった。ねえ、今何してるの?】

 【シラギク:テレビを見ておる】

 【リンカ:そっか。誰と?】

 【シラギク:一人じゃが】

 

 ピコーン ピコーン ピコーン

 

 【リンカ:本当?】

 【リンカ:嘘ついてない?】

 【リンカ:狐耳の自撮り送って。今すぐ】

 【リンカ:次はいつ会えるの? 明日?】

 【リンカ:ねえ、既読ついてるのに何で返事くれないの?】

 【リンカ:寂しいよ、シラギクちゃん】

 【リンカ:(血の涙を流す猫のスタンプ)】

 

 「ひぇっ……」

 

 わしは思わずスマホを放り投げた。

 たった数分の間に、画面を埋め尽くすほどのメッセージの嵐。

 しかも、内容が重い! 重すぎる!!

 

 「あ、あやつ、孤独を拗らせ過ぎて、極度の依存体質になっとるー!?」

 

 ピコーン

 

 【リンカ:返事ないから、今からシラギクちゃんの家に行っていい? 匂いでわかるから】

 

 「く、来るな! 陰陽師の力、そんなストーカーみたいな使い方をするなー!」

 

 わしは頭を抱え、毛布の上を転げ回った。

 ストレス発散のために声をかけたはずなのに、なぜか胃がキリキリと痛み出している。

 

 「わし、なんでこんなメンヘラ陰陽師の卵に声をかけてしまったんじゃーー!!」

 

 後悔、先に立たず。

 そんな言葉が頭の中を駆け巡った。

 ああ……人間とはなんと恐ろしいのか。

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