無口で可愛い女の子だと思ってナンパしてみたらメンヘラだった件 ~のじゃロリ妖狐の胃痛に満ちた現代生活~ 作:パッタリ
成り上がりについて、じっくり話し合う必要がある。
リンカのその重すぎる言葉により、わしは彼女の家にお邪魔することになった。
案内されたのは、閑静な高級住宅街に建つ、立派な二階建ての一軒家だった。
「……両親は仕事でいないから、気兼ねしなくていいよ。上がって」
「お、お邪魔するぞい……」
わしは周囲をキョロキョロと見回しながら、恐る恐る玄関を上がった。
毎日食費として一万円札を置いていくような親だ。家は立派だが、どこか生活感がなく冷たい空気が漂っている。
(どこかに陰陽術の罠や、わしを捕獲するための結界が張られておらんじゃろうな……?)
内心でビクビクと警戒しながら、二階にあるリンカの部屋へと通された。
部屋は綺麗に整頓されていたが、わしの目を引いたのは本棚だった。
そこには、中学生が読むには難しそうな分厚い参考書や、進学校レベルの勉強本がずらりと並んでいるのだ。
「……リンカ、お主、勉強できるんじゃな」
「……うん。成績がトップだと、好き勝手してもうるさく言ってこないから」
百年以上生きているのに、精神年齢も学力も中学生に負けている気がして、わしはなんだかひどく負けた気分になった。
「さて、本題だね」
リンカがベッドに腰を下ろし、わしを横に座らせる。
「シラギクちゃんがお金と地位、どっちを手に入れるかについて」
「いや、わしは別に成り上がりたいわけでは……」
「地位に関しては、ちょっと難しいかな」
リンカはわしの言葉を華麗にスルーして続けた。
「人間社会でトップになるには、十四歳の外見だと色々と無理があるし。妖怪社会でも、血筋や圧倒的な実績がないと誰もついてこないでしょ?」
「ぐっ……図星じゃ。わしは気高き妖狐じゃが、後ろ盾も貯金もないしな」
「だから、まずはお金を手に入れる。莫大な資産があれば、あの案内状だって手に入るんでしょ?」
リンカの瞳に策士としての光が宿る。
「……妖怪の力を使って、ギャンブルで大儲けしよう。例えば、宝くじの当たりを透視するとか、競馬で勝つ馬を操る。なんでもありなら、いくらでも稼げる」
「お、お主……中学生の分際で、その発想はちょっと引くわ……」
わしはドン引きして首を横に振った。
それはリンカの力を鍛える方向に進みかねないので、いろいろな意味でよろしくない。
「ギャンブル、特に競馬だけはやめておけ。あれは人間には見えん裏の世界となっていて、妖怪や霊力のある人間たちによる地獄の代理戦争になっとるんじゃぞ」
「……代理戦争?」
「うむ。自分が買った馬を勝たせるために、他の馬の足を妖力で重くしたり、逆にそれを防ぐために強力な結界を張ったりと、目に見えん争いが激しすぎるんじゃ。うっかり素人が手を出すと、悪徳陰陽師や呪術師に呪い殺されかねん」
一応、一般人には気づかれないようにやりあってるため、死者が出るまではいかないが。
社会の世知辛いリアルを語ると、リンカは「ふーん」とつまらなそうに頷いた。
「じゃあ、別の方法。……動画投稿はどう?」
「動画?」
「うん。シラギクちゃんが狐の姿になって、私が飼い主として動画を撮るの。普通のペット動画みたいに可愛い日常を投稿して、広告収入やスパチャで稼ぐ路線」
その提案に、わしはハッとした。
(そういえば、知り合いの猫又が人間の飼い猫のふりをして動画に映り、荒稼ぎして豪邸を建てたという噂を聞いたことがあるぞ……!)
ファミレスで汗水流して働くより、ずっと楽に大金が稼げるかもしれない。
「ほほう、それは悪くないかもしれんな……」
わしが一瞬頷きそうになった、その時。
リンカの口元が、ぞくりとするほど妖しく、そして嬉しそうに歪んでいるのを見てしまった。
(いや、待て。よく考えろ、わし)
表向きは飼い主とペット。だが、一度それでお金を稼いでしまえば、生活のすべてをリンカに依存することになってしまう。
(こやつ……動画で稼ぐという名目で、合法的にわしを飼うつもりじゃな!?)
一度その関係を受け入れて大金を手にしてしまえば、リンカに飼われる立場から永遠に抜け出せなくなる!
これは甘い蜜を塗った、完全なる飼育ルートの罠であり、遠回しな監禁計画でもある!
「き、却下じゃ! 気高き妖狐たるわしが、人間のペットに成り下がるなど絶対にあり得ん!」
わしが全力で拒否すると、リンカは舌打ちしそうなほど露骨に残念がった。
「……じゃあ、どうするの? お金、欲しいんでしょ?」
「うぬぬ……まあ、今回は結論を出さなくともよかろう。どうせ案内状が必要になったら、またあのクソガラス……ハヤテに頼み込んで譲ってもらえばいいしな」
わしが肩をすくめて言うと、部屋の空気が急激に冷たくなった。
「……ハヤテ。あの女の人に頼むの」
リンカの声が、地を這うように低くなる。
「……ねえ、シラギクちゃん。そのハヤテって奴とは、どういう関係なの? いつ知り合ったの? 向こうはどういう地位なの? ……全部、詳しく教えて」
メンヘラが発動し、ねっとりとした尋問が始まった。
隠せば余計に拗れるので、わしはため息をついて正直に話すことにした。
「前に言った通り、数十年前からの知り合いじゃよ。初めて出会ったのは……お互い、ある暴力団の事務所の金庫に、こっそり盗みに入った時じゃな」
「……泥棒?」
「若気の至りじゃよ。それで、暗闇で鉢合わせて揉めているうちに、ヤクザが雇っていた陰陽師や呪術師に見つかっての。二人で協力して、命からがら逃げ出したんじゃ。そこから意気投合して腐れ縁、というわけじゃな」
懐かしい話だ。
昔は、今よりも暴力がありふれていた。
人間も、妖怪も。
「その後、なんやかんやあって、わしはこうして適当に自由な暮らしを謳歌し、あやつは人間社会に迎合して、大企業の子会社の社畜になっとるんじゃ。まあ、企業の重役とかにパイプがあったりするから、あやつは案内状を手に入れることができるわけでな」
わしが語り終えると、リンカは不満そうにわしの腕に抱きつき、頭をぐいっと押しつけてきた。
「……私の方が、シラギクちゃんのこと幸せにできるのに。私の方が、強いのに」
「はいはい、わかったわかった」
その強さを発揮されると、いろいろな意味で危ないので勘弁してほしいんじゃが……。
嫉妬するリンカの頭を何度も撫でてやる。
成り上がり会議はどこへやら。
結局、その後はリンカの部屋で一緒にゲームをしたり、漫画を読んだりする、ただのお家デートのような空気になってしまった。
「……ねえ、シラギクちゃん」
「ん? なんじゃ」
「明日、バイトのシフト入ってないって言ってたよね。……今日はこのまま、お泊まりしようね」
リンカが、逃げ道を塞ぐような暗い笑顔を浮かべた。
「き、着替えがないからまた別の日に……」
「……私のパジャマ、貸してあげる。シラギクちゃんに似合うの、用意してあるから」
気がつけば、外はすっかり暗くなっている。
両親不在の豪邸で、激重メンヘラ中学生と二人きりの夜。
抗えないお泊まりの夜を迎えたわしは、胃の辺りをそっと撫でる。