無口で可愛い女の子だと思ってナンパしてみたらメンヘラだった件 ~のじゃロリ妖狐の胃痛に満ちた現代生活~ 作:パッタリ
格安銭湯で朝風呂を済ませ、アパートで身支度を整えたわしは、待ち合わせ場所である駅前の時計台へと向かっていた。
夕方が近づいており、行き交う人々は多い。
その際、ショーウィンドウに映る自分の姿をそっと盗み見る。
きらきらと輝く長い銀髪。白く透き通るような肌に、ぱっちりとした大きな瞳。
(うむ……自分で言うのもなんじゃが、ナルシストというわけではなく客観的な事実として、わしって可愛すぎる。こりゃ道行く人間どもが振り返るのも無理はないのう)
などと自画自賛しつつ、脳内で今日のプランを確認する。
(まずは駅ビルで買い食いしつつ、わしのスマホを新調。いや、買うのが先でもいいか。そのあとはゲーセンで適当に遊んで、最後にクレープでも一緒に食べて機嫌を取る。うむ、完璧じゃ! 我ながら隙がない!)
……まあ、そのプランに致命的な大穴が空いていることなど、この時のわしは知る由もなかったのだが。
「……シラギクちゃん」
「おお、リンカ。待たせた……な……」
駅前に到着するとリンカが駆け寄ってくるが、その姿を見てわしは思わず言葉を失った。
わしは動きやすさ重視のオーバーサイズなパーカーにショートパンツという、普段とあまり変わらないカジュアルな服装。
しかし、リンカは違った。
長く艶やかな黒髪は丁寧に編み込まれ、清楚で可憐な純白のワンピースを身にまとっている。普段の大人しい雰囲気とは打って変わり、気合いの入りまくった本気のデート服であった。
並んで立つと、こっちは近所のコンビニへ行くような格好なのに、向こうはお嬢様のお出かけといった格好。
なんだか、少し気まずい。
「……似合わない、かな?」
上目遣いで不安そうに聞いてくるリンカ。
「い、いや! すっごく似合っておるぞ! まさに可憐な美少女じゃ!」
「……えへへ。シラギクちゃんのカジュアルな服も、すごく可愛い。好き」
ぎゅっとリンカがわしの腕に抱きついてくる。どうやら機嫌はすこぶる良いらしい。
***
まずは念願のスマホ購入から行う。
家電量販店で、最新のスマホを十万円の予算から一括で購入した。
もちろん、画面に貼るフィルムや本体を守るケースも忘れない。
「よーし、これでわしも最新機種じゃ!」
「……シラギクちゃん、初期設定とかデータの移行、私がやってあげる。得意だから」
「おお、本当か? 助かるぞ! 機械は少し苦手でのう」
わしはまったく疑うことなく、リンカに新しいスマホと古いスマホを預けた。
今思えば、この時の己の迂闊さを殴り飛ばしてやりたい。
そのあとは駅ビルの店を冷やかしがてら巡っていき、買い食いを楽しんだ。
そしていよいよゲームセンターへ。
「よしリンカ、あのUFOキャッチャーのぬいぐるみ、わしが取ってやろう!」
「……うん、頑張って」
百円玉を投入し、アームを操作する。
くくく、妖怪の動体視力を舐めるでないぞ。
ガシッ ポロッ
「……な、なんじゃあのアームの弱さは! 撫でただけではないか! 詐欺じゃろ!」
「……ふふっ。シラギクちゃん、ムキになってて可愛い。次は私がやるね」
リンカが操作すると、なんと一発でぬいぐるみの重心を捉え、見事にゲットしてしまった。
「……はい、シラギクちゃんにプレゼント」
「おおお! お主、才能あるぞ!」
他にも、一緒にプリクラを撮ったり、対戦ゲームで白熱したりもした。
その間、リンカの瞳からあのドス黒いメンヘラオーラは完全に鳴りを潜めていた。
純粋にゲームの勝ち負けに一喜一憂し、年相応の中学生らしい無邪気な笑顔を見せている。
(ふふ……なんじゃ、普通にしていればただの可愛い娘ではないか)
わしは内心、ひどくほっこりしていた。
妖怪として長く生きていると、こういう人間の子どもの成長や笑顔を見るのは悪くないものだ、なんて親戚のおばちゃんのようなことを思ってしまう。
ゲーセンを出たあとは、クレープを買って公園のベンチで一休み。
「はい、あーんじゃ」
「……あーん。……おいしい」
わしのクレープを一口食べたリンカが、とろけるような笑顔を見せる。
「……シラギクちゃんのクレープ、甘くて美味しい。シラギクちゃんみたい」
「ば、馬鹿者、からかうでない」
リンカはわしの肩にゆっくりと頭を乗せ、幸せそうに目を細めている。
(うむ、今日のお出かけプランは大成功。これでわしの平穏な日常も安泰というものじゃ)
***
夜、リンカを家まで見送り、わしはニヤニヤとしかがら安アパートへと帰還した。
「さてさて、新調したスマホの使い心地はどうかの〜」
布団に転がり、リンカが設定してくれたピカピカの最新スマホを起動する。
画面をスワイプしていると、見慣れないアイコンがあることに気がついた。
「ん? なんじゃこのアプリ……常時位置情報共有?」
嫌な予感がしてアイコンをタップすると、画面にはわしのアパートの現在地と、リンカの家の現在地が、リアルタイムのマップでバッチリと表示されていた。
「なっ……!?」
慌ててアプリを削除しようと長押しするが、強固なパスワードロックがかけられており、アンインストールすらできない仕様になっている。
ピコーン
その瞬間、メッセージアプリからリンカからの通知が届いた。
【リンカ:今日はすごく楽しかったよ、シラギクちゃん】
【リンカ:アプリ入れたけど気づいたかな?】
【リンカ:これで、いつでもシラギクちゃんの居場所がわかるね】
【リンカ:もう絶対に、離れられないよ】
【リンカ:(謎の端末を握りしめて微笑むウサギのスタンプ)】
「なん……じゃと……」
ショックのあまり新しいスマホを取り落としてしまった。幸い、ケースのおかげで傷はない。
(わしは……身を粉にして、ハヤテに羽むしりの制裁まで加えて手に入れたお金で……自らストーカーツールを買ってしまったというのか!?)
策士。あやつ、中学生の皮を被った恐るべき策士じゃ!
ゲーセンで見せたあの無邪気な笑顔は?
ほっこりしたわしの親心は!?
絶望に打ちひしがれる中、わしの脳裏にとある重大な事実がフラッシュバックした。
(待て……位置情報が常に共有されているということは……)
十代半ばの銀髪美少女の姿では、現代社会で働くことは難しい。
それゆえに、わざわざ大人の女性に変化して、シラカワという偽名を使ってファミレスで働いている。
リンカは前回、匂いでファミレスまで来たが、姿が違うため確証を持てずに帰っていった。
だが、しかし。
もしも、わしのスマホの位置情報が、ずっとファミレスにあるとリンカに知られたら……。
シラカワ=シラギクであることが完全にバレてしまうではないか!
「ば、バイト……どうしよう……」
スマホを家に置いていけば怪しまれるし、持っていけば職場がバレる。詰んでいる。
完璧だったはずのプランは、木っ端微塵に粉砕された。
真っ暗な六畳一間で、わしは新たなる問題に直面した。