魔法至上主義の世界で魔法が使えない俺が最強に至るまで   作:のじゃロリな剣精霊

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第一話 天才の邂逅

「おい、魔法の訓練しようぜ! ディラン、お前的な!」

 

 休日の早朝、寮の俺の部屋を叩いて来た友達……の声に起こされ扉を開ける。

 

「えぇ……それ、俺の訓練にならないんだけど。イアン」

 

 こんな時間に周りの迷惑も考えずに乗り込んでくるのは、魔法学園でも稀代の天才と呼ばれながら、影では奇人、変人と揶揄されるイアン・ジェニア。

 

 魔法学園の試験でも実技、筆記ともに常に主席。

 年二回の対人試験でも、ここまで九戦七勝二分け。

 王立魔法学園きっての才能の持ち主だ。

 

「いいじゃねぇか! どうせお前は魔法を使えないんだから」

 

「……くっ、人が気にしていることをずけずけと」

 

 こいつは確かに天才で、将来は宮廷魔法使いや国立魔法師団の要職を確約されているような紛れもない本物ではあるのだが、こうして、人に遠慮することを知らないなど常識に欠ける面も併せ持っている。

 

「はっはっは! でもいいじゃねぇか! その代わり、ディランにはどんな魔法も効かないんだから」

 

「良かないさ! いくら魔法が効かなくたって魔法が使えなきゃ戦闘力はないも同然。対人戦ならまだしも、これじゃ次の魔物討伐試験はどうやっても不合格になるんだよ!」

 

 一方で、俺はと言えば——超魔力吸収体質と言う特別な体質によって魔法が全く使えない無能だ。

 

「そうか~? お前の超魔力吸収体質って、一見すれば俺なんかよりよっぽどすげぇんだけどな~」

 

 特に深く考える素振りもなく、ぬけぬけとそんなことを言うイアンだが……。

 実際、俺の超魔力吸収体質とは、ある意味で最強の才能、体質ではあるのだ。

 

 魔法を扱うのに必要な素質は二つある。

 それが吸収力と放出力だ。

 

 吸収力が魔力を集め体内に溜めておく力で、魔法使いにおけるいわばスタミナのような物ならば、放出力は加速力、出力を決めるようなものだ。

 

 普通の魔法使いならば、大抵、多少の偏りはあれど、両者が均衡を保つような形で備わっているのだが、俺の場合は違う。

 一万対一でも、もはや百万対一でも利かない程に吸収力が強すぎて、放出力が弱すぎる。

 

 そのため、どんな魔法を受けても吸収できてしまうのは良いのだが、せっかく吸収した魔力を魔法として放出することが出来ないのだった。

 

「ま、もし討伐試験で不合格食らっても、ディランが退学になるようなことはないだろ。なんたってお前は最強の盾ではあるんだからよ」

 

「……うるせぇー。どうせ俺は壁ですよ」

 

 話しながら、ローブを羽織り、ブーツを履く。愚痴を吐きつつも、俺は何かを求めて訓練を続けている。

 

「なんて悪態をつきながらも、訓練に付き合ってくれるお前が俺は好きだぜ」

 

「やめろ、男に好きなんて言われたところで少しも嬉しくない!」

 

 平民出身の俺と侯爵家であるジェニア家の出身のイアン。

 普通なら、こうして会話することも考えられないような身分差のある俺たちだが、なんだかんだでこいつとは長い縁がある。

 こんな風に軽口を叩き合えるのも、俺たちが奇妙な出会い方をしたからだ。

 

 ◇◇◇

 

 王立魔法学園。

 それはこの国でも、一握りの才能を持った者しか入学を許されない名門校だ。

 求められるのは高貴な血筋でも、努力の結果でも、入学時の実力でもない。

 ただ、突出した才能を持っているか否か。

 

 五年前、そんな学園に俺は、あり得ない程に強い魔力吸収体質を評価されて入学を許された。

 

 きっかけは、五年前のさらに二年前。

 まだ故郷のステラシアと言う小さな村で両親と少し年の離れた妹とつつましく暮らしていた頃のこと。

 

 俺はその夜、妹に誕生日プレゼントとして、ステラシア唯一の資源とも言える満点の星空を見せてやるためにとっておきのスポットまで彼女を連れて歩いていた。

 

 そこは森の中の、狭いけもの道を抜けた先にある開けた空間で、当時の俺の中では、他に誰も知らない秘密の隠れ家のような場所だった。

 

「お兄ちゃん、怖いよ……」

 

「大丈夫だ。ほら、もうすぐだから」

 

 当時まだ五歳の妹は昼の森にすらほとんど入ったことが無く、俺の腕にぴったりと引っ付きながら歩いていたのを覚えている。

 

 そんな妹に合わせて歩きながら、目的地へと近づき、一面の森景色から急に開けた空間に出た時だった。

 

「——っ! 食らえっ!」

 

 普段は俺以外に訪れる人がいないはずのそこに、先客がいた。

 そして、そいつはあろうことか、こちらを確認する間もなく巨大な火柱を放って来たのだ。

 

「危ないっ!」

「きゃっ——!」

 

 俺は咄嗟に妹を庇って抱きしめ、背中でその巨大な火柱を受け止めた。

 

「ふっ……追手に子ども使うなど、卑劣極まりない連中……め……?」

 

 火柱を受け止めきったところで、妹を背中に隠しながら、俺はその魔法を放ってきた相手を睨みつけた。

 すると、そいつはまるで化け物でも見るかのような目をして、こちらをぽかんと見つめる。

 そんな相手に俺は言ってやった。

 

「おい! 無差別に魔法で人を攻撃することは自衛目的以外では王国法に触れているんだぞ! そんなことも知らない馬鹿が魔法なんて使ってるんじゃない!」

 

「……な、は? 俺の魔法が効いていない……どころか、この俺に向かって説教だと?」

 

 俺の言葉にそいつは間抜け面を晒し、何か一人でぶつぶつと言っていたが、その時の俺は妹を怖がらせられたことで完全に頭に血が上っていた。

 拳を固く握りしめ、ずんずんその相手との距離を詰めていく。

 

「な、なんなんだよお前! や、やめっ——来るなっ!」

 

 さらに至近距離でもう一度火の魔法を放たれるも、俺はそれを意にも介さずに突き進み——

 

「え、や、やめてくれ。やめてくださ——」

 

 ガクガクと膝を震わせ、崩れ落ちていくそいつの顎を思い切り打ち抜いた。

 

「グフッゥ——」

 

「ちょっと魔法が使えるからって調子に乗るなよな」

 

 見事なうめき声と共に後方へ倒れるそいつが完全に伸びたのを確認し、妹の下へ戻る。

 

「お、お兄ちゃんカッコいい!」

 

 俺が戻る頃には、暗さに怯えていた妹も、そんな恐怖を忘れてしまったかのように目を燦燦と輝かせて、俺に抱き着いて来た。

 

「だろ? だから言ったんだ、大丈夫だって。それに、ほら。上、見て見ろよ」

 

 俺はそんな可愛い妹を抱き上げて、空を見上げさせる。

 

 「え? ……わぁぁあああ!」

 

 俺の言う通りに顔を上げた妹の表情がさらに眩しくなる。

 

「綺麗だろ? これが俺からの誕生日プレゼントだ。誕生日おめでとうヴィオラ」

 

「うんっ! ありがとうお兄ちゃんっ!」

 

 高い木々に囲まれた寒村のステラシアだが、少し外に出れば見えるこの星空は夜に限り、ほとんど雲に隠れない。

 そんな星が視界一杯に見えるここからの景色は俺の大好きな景色だった。

 

 なんて、そんな風に妹のヴィオラと星空を堪能していれば——。

 

「な、なぁ……お前たち」

 

 かなり力一杯殴りつけたはずの不審な王国法違反者が起き上がって声を掛けて来た。

 

「お前たち……は、俺を追ってここに来たのではないのか?」

 

 そう言う不審者をよくよく見てみると、何だか服装の端々から高級そうなオーラを感じる。

 ……もしかして俺、結構やばい人を、具体的には貴族様とかを殴っちゃった?

 

「……違うけど、お前……じゃない、あなたのことはしらな——知りませんし」

 

 つっかえながらも、もしものことを考えて敬語で話してみれば、不審者は一瞬安心したような素振りを見せた後で、顔を真っ赤にして、こう言ってきた。

 

「お、お前! この俺を、ジェニア侯爵家の長男、イアン・ジェニア様を知らないだとっ!?」

 

 

 ——これが、後の天才、イアン・ジェニアと学園で『壁』と呼ばれる俺の最初の出会いだった。

 

 




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