魔法至上主義の世界で魔法が使えない俺が最強に至るまで 作:のじゃロリな剣精霊
「おーいディラン! 今の魔法はどうだったよ?」
相変わらず馬鹿げた迫力のイアンの魔法を受け止めながら、懐かしいことを思いだした。
そう言えば、俺はこいつに無理やり受験票を提出されていなければ、ここには居ないんだよな……。
「お~い! ディランっ! 聞いてるか?」
「……あ、おう。いいんじゃないか?」
物思いに耽り、すっかり訓練に集中することを忘れていた。
「いいんじゃないかって……。クソッ、結局ノーダメージなのかよ。ほんと馬鹿げた吸収力だよな」
俺の言葉に悔しそうな反応をするイアン。
だが、もし俺にダメージがあったら、この訓練はただのいじめだろうに……。
「ダメージがあったらこの訓練自体成立しないだろ……」
と、思っただけのつもりが普通に口を吐いていた。
「ま、それは、良いとして……。そろそろ場所変えるか?」
しかし、そんなことはまるで気にしないように流してから、周りを睨むようにイアンが見渡す。
どうしたのかと思って、俺も周囲に耳目を向けると——
「また壁がイアン様と訓練してるよ」
「いいよなー魔法使えない癖に。イアン様のお気に入りだからって」
「まあ、実際才能は本物だし。壁だけど」
「イアン様もイアン様だよな。あんな奴に肩入れして」
聞こえてくるのは集まった学生たちから俺への嘲笑やらやっかみの言葉だった。
まあ、こんなもの、入学時からもう五年間も続いているのだ。
今更大して気にもならない。
いくら王立魔法学園が才能評価の学園とは言え、魔法の才能を高く持っているのは貴族の子息子女が大半だ。
そんな中で平民の俺が侯爵家長男にして、超有望株のイアンと仲良くしていると言うのが気に入らないという奴らがいるのも理解できないことではない。
だが、俺のせいでイアンが悪く言われるのは気分が良くなかった。
「そうだな。もし周りを巻き込んでも危ないし」
それに気にならないからと言って、腹が立たないわけでもない。
俺は周囲のギャラリーに聞こえるように、暗に「お前らじゃ受けきれないだろ」と言う意味を込めて、イアンの提案に頷いた。
「お、じゃあ、今日はちょっと森の深いとこまで行ってみるか?」
すると、イアンも悪い笑みを浮かべて、宮廷魔法使いでも一人での探索は危険と呼ばれる森の深いところに行くことを周囲に聞こえるように提案してくる。
「いいな。行ってみるか」
俺はその提案に悪い笑みを返し、応えた。
そうして俺たちは笑い合って、森への道を駆けだした。
◇◇◇
俺たちの呼ぶ森とは、正式には迷いの千年樹海と呼ばれるアンブロシウス王国随一の広さを誇る森のことだ。
王立魔法学園はこの迷いの千年樹海から溢れてくる魔物を食い止めるために、王都からは離れたこの地に作られたという伝承が残っており、今でも稀に魔物が出てくることがあるらしい。
それにこの森はその名の通り、迷えば千年は出られないという伝承もあり、王立魔法学園生の間でも一つの恐怖の象徴のような存在だった。
そんな森での探索はいくら王立魔法学園の学生と言えど制限されているのだが、イアンはその圧倒的な実績を買われ、上層エリアへの探索を許可されている。
とは言え、上層エリアは既に地図も作られるくらいには探索されており、そこまでの危険はないと思っていたのだが……。
「なあ、イアン。いくら深いところまで行くと言っても、流石にそろそろ危なくないか?」
そんなイアンについて樹海の中に来たのは良いが、今日のイアンはどうにも少し、様子がおかしかった。いつもは俺にも戦わせてくれるのに、今日はやけに大技を連発して先を急ぐように進んでいる。
俺の言葉を受けても、歩を緩めることなく、ずんずん奥へと進んで行き、体感で、だが、もう完全に中層エリアに入ってしまっている。
「おい、イアン! ちょっと待てって!」
さすがにおかしいと思い、俺はイアンの肩を掴み、無理やり彼を止めた。
「一体どうしたんだよ? なんか家のこと絡みで嫌なことでもあったのか……?」
そう言えば、早朝から部屋に来るくらいだし、何か嫌な報せでもあったのだろうか? 侯爵家長男は何かと大変らしいしななどと思い声を掛けながら、前に回り込み、イアンの顔を見て——俺は絶句した。
「ヨンデル……イカナキャ……」
俺の目に映るイアンの目は、まるで塗りつぶされたかのように黒に染まり、何かを探し求めるようにぼそぼそと同じ言葉を繰り返している。
かなりの力で肩を抑えているにも関わらず、今にもそれを振りほどいてさらに奥へと進もうとしているように感じられた。
「——っ!? イアンっ!?」
見たこともない状態に、咄嗟に友人の肩を揺さぶれば、その瞳に一瞬だけ光が戻った。
「ディ……らン? おレ、何カがおかし……イ……」
少しだけ焦点のあった目で俺を見たイアンの言葉に、俺はようやく状況を理解する。
……これは、精神に作用する魔法を受けた人の症状だ。
だが、俺ほどではないにしろ吸収力もかなり高いイアンがここまで何の兆候もなく魔法の影響を受けているとなると、魔法の規模も力もかなりのものであることが想像できた。
「ここは危険だ、イアン。帰ろう」
原因はおそらく精神干渉の魔法だろうが、その使い手や規模が分からない以上、このまま進むのは得策ではない。
精神干渉系の魔法を受けた時の対応として、第一に考えるべくは原因の除去だが、攻撃手段を持たない俺ではそれも難しい。
そう判断して、イアンの身体を反転させようとした時だった。
「——っ! 危ないっ!」
深い森の中に大きな炎柱が立ち昇る。
その魔法はイアンが、イアン自身に向けて放ったものだった。
イアン自身の顔を目掛けて打ち出されたそれに、俺は間一髪で手を割り込ませ、なんとか彼の自傷行為を防いだが、今のはかなり危なかった。
「……チッ、どんだけ強い魔法を掛けられてるんだ?」
イアンは今もずっと、「ヨンデル、イカナキャ」と繰り返している。
このことから察するに、今の自傷行為のトリガーはおそらく、俺が無理やり帰らせようとしたことだろう。
と言うことは、この精神干渉魔法を取り除かない限り、イアンは樹海から出ることが出来ない。
それほどに強い魔法の状況下にある。
いくら俺の吸収力が強かろうと、全ての魔法を吸い込めるわけではない。
どれだけ近くに居ようと、三百六十度から発動可能な魔法を全てカバーするのは不可能だ。
つまり、イアンを生きて帰すには、俺がこの状況を打開しなければならない。
「クソッ! もう少し早く気がついて居れば……」
悪態を吐いても、もうどうしようもない。
攻撃手段を持たない俺が、この精神干渉魔法の使い手をどうにかするしか、もう俺とイアンが二人とも生きて帰ることは叶わない。
そのレベルにまで状況は陥っていた。
「やるしか、ないよな」
状況は最悪だが、それしか手がない以上、俺にもとれる手段はない。
俺はイアンを止めていた手を離した。
すると、再びイアンは森の奥深くへと歩きはじめる。
「相手を探す必要は……ないな」
恐らく敵の元へは操られたイアンが連れて行ってくれる。
俺は慎重にその後を追い始めた。