魔法至上主義の世界で魔法が使えない俺が最強に至るまで 作:のじゃロリな剣精霊
かなり奥へと進んできたが、不思議なことに、あれから道中で魔物と遭遇することはなかった。
不幸中の幸いと言えばそれまでだが、俺はそのことがどうにも嫌に感じられた。
「どうなってる?」
肌に感じる魔力の濃度が濃くなっていくのと同時に、嫌な気配もどんどん強くなっていく。
そんな俺の呟きに、反応が返って来ることはなかった。
さらに森を進んで行くと、イアンの視線の先に、一本だけ明らかに他とは違う樹が生えているのが目に入った。
「なんだ? あれは……」
その樹はまるで呪われているかのように禍々しい赤紫色の樹色をしており、高く伸びた幹の先の枝には葉の一枚もついていない。
だがどういう訳か、周囲の木々の中でも最も生き生きとしているようにも見えた。
すると、イアンの足取りがさらに早くなる。
「——っ! 目的はあの樹か?」
その足はあの不気味な樹へ向けて一直線に走り出した。
俺も咄嗟に、その後を追って走り出す。
段々樹が近づいてくると、その根元に、何やら洞穴のような空間が出来ているのが目に入った。
「……あそこに、何かがいるのか?」
一旦、観察をと思い、イアンの足を止めようとすると、そのいかにもな空間に向けて、イアンはさらに速度を上げて突っ込んでいく。
「イアン、待てっ! ……クソッ」
当然、俺の言葉が届くはずもなく、中の確認もしないままに俺たちはその空間へと飛び込んだ。
その空間は樹の中とは思えないような不思議な場所だった。
光源の分からない仄かな明かりが灯り、その明かりを追うと、先にはまるで玉座のような大きな椅子が鎮座していた。
「樹の中に、玉座……? 一体、ここは何なんだ?」
言いながら、隣りへ視線を向けると、そこではイアンがまるで
「イアン? ——!」
すると、不意に玉座の方に何かの気配を感じる。
反射的にそちらに目を向ければ、先ほどまで空席だったはずの玉座に一人の幼女が座っていた。
「——っ!? 誰だっ!?」
明らかに幼い身体つきだと言うのに、自分たちより圧倒的に格上だと感じさせる風格。
気を抜けば俺も跪いてしまいそうなほどの存在感。
東の方の伝統的な衣装らしき紫の美しい服を身に纏いながら、感じさせるはまるで竜の如き迫力。
でも、俺は、そんな迫力から咄嗟にイアンを庇うように立ち、ファイティングポーズを取る。
「……ほう? 余の魔力に当てられて、まだ自我を保つ者がいるとは。その才に免じて、質問に答えてやるのじゃ。余は蝕みの魔刀、またの名を魔奪の刀、その刀に宿りし精霊だ」
幼女は俺を面白そうに見てから、尊大にそう名乗った。
「精霊? バカを言うな。お前のように実体を持つ精霊なんているはずがないだろう」
身体が震えるのを隠すように、強気に言い放つ。
だが、そんな言葉とは裏腹に、俺はこの幼女が嘘をついているとは到底思えなかった。
実体を持つ精霊。それは伝承にしか存在しないと伝えられている。
ある者は人を助け、ある者は人を破滅へと導く。そんな伝承の残る伝説の存在が、今、目の前にいるのだと、どうしようもなく俺の直感が告げていた。
「……はっはっ! そう、強がらなくともよいのじゃ。見たことはなくとも、存在は知っているのだろう? とは言え、どうやらかなりの時間が経ってしまっているようだな。お主、名は何と言う?」
俺の思考を見透かした精霊が、今度はこちらの名前を聞いてくる。
「……ディラン」
答えるつもりはなかったのだが、気が付けば、口から勝手に言葉が漏れていた。
「そうか。では、ディランよ。今は魔歴何年だ?」
「魔歴……? それはもう、遥か昔に使われなくなった暦のはずだが……」
警戒は解かないまま、だが、どうしてか彼女の質問を無視することが出来ずに答える。
「ほう? そうか……魔帝の時代も終わっていたのか。だが、ここに家臣がいる以上、血が絶えた訳ではなさそうだが……」
精霊幼女は少し感慨深げに呟いてから、俺の後ろで跪いているイアンの方に視線を向けた。
……魔帝? 家臣?
一体この幼女は何の話をしているのだろう。
幼女から視線を離さずに、俺は頭の片隅で思考を続ける。
今は少しでも他のことを考えていなければ、俺もイアンのようになってしまうような気がしていた。
「……よし、分かった。ディランよ。もう下がってよいのじゃ。魔帝の時代も終わったとなれば、誰に遠慮することもない。その者の身体を奪い、余の時代を築くとしようではないか」
すると、一気に俺から興味を失ったように視線を外して、幼女がそんなことを言いだした。
「待て、こいつの身体を奪うとは、一体どういうことだ?」
俺はその視線に再び割り込むように一歩を踏み出しながら聞いた。
「……余は質問を許した覚えはないが?」
「——っ!?」
冷徹な眼光。
その睨みの一つで、体が竦み上がる。
だが、一瞬でも気を抜けば、終わりだと自分を奮い立たせた。
「……ほう? これでも、まだ耐えるか。面白い」
その勇気が功を奏してか、再び精霊の興味が俺へと移った。
「良いだろう。ディランよ。余が本気の一端に触れ、未だなお自我を保っている褒美だ。機会を与えよう」
そう言うと精霊は虚空へと手を伸ばす。
すると、その手の中に、一振りの刀が出現した。
見惚れそうになるほど美しい、妖しげな魅力を放っている刀。
精霊はそれを俺に向けて差し出して来た。
「この刀こそ、余の宿りし、魔奪の刀。これを抜き放ち、余を制すことが出来たならば、その者の身体を諦め、この地から逃してやろう」
否定しようにも、有無を言わさぬその圧力に俺は刀に向けて手を伸ばすことしかできない。
そんな俺を精霊は興味深げに眺めていた。
刀を受け取り、その柄を握る。
すると——
「——っ! ガァァァアアアアッ!!!」
激しい痛みと共に、全身から何かを抜かれていくような感覚に苛まれ、俺は絶叫した。
「ほう……」
叫びながら、必死に状況を分析する。
そうでもしないと頭を全て、その痛みに飲み込まれてしまいそうだった。
精霊はこの刀を魔奪の刀と言っていた。
つまり、俺から今抜かれているものは……魔力。
常に魔力を吸収し続け、どんな魔法だろうと飲み込んで来た俺の超魔力吸収体質が溜め込んだ魔力をこの刀に奪われているのだ。
その証拠に、俺から吸い上げた魔力で刀は段々と深い赤紫の魔力を纏って行っている。
「グッ……うおぉぉぉ!!」
だが、それは俺の魔力を奪い、溜め込んでいる証拠でもある。
ならば——。
俺は、初めて魔力を吸収することに意識を傾けた。
すると、身体の中から魔力が抜けていく感覚が少しだが、弱くなったように感じられる。
握った柄は、現状まだ抜けそうにないが、俺が奪われる魔力と、吸収する魔力、その両方を拮抗させることが出来れば、この刀を抜ける、そんな気がした。
少しずつ、少しずつ、吸収量を上げるようにイメージを強くしていく。
今まで放出にしか向けたことのなかった意識を、無意識に出来ていた吸収の方へ向けていく。
「——!」
カタッと、刀が僅かに揺れ、鞘から僅かに刀身が顔を見せた。
「……ほう!」
目の前で精霊がニヤリと笑う。
だが、そんなことを気にしている余裕はない。
「あぁぁぁぁぁぁっ! 俺に……従えっ!」
いつまでも終わらない綱引きに、拮抗させようと抑えていた力を解放し、俺は体質の、才能の限りを尽くして刀から魔力を吸収した。
その時——。
まるで、最初から自分の物であったかのように、急に刀が手に馴染むようになる。
そして、先ほどまでの苦労とは何だったのかと思わせるほどにあっさりと、俺は刀を抜き放った。
パチパチと乾いた音がこだまする。
視線を上げれば、精霊が俺に向けて拍手をしていた。
「まさか、本当に余を制してしまうとは。ふっ、ふはっ! ふははははっ! 良い、良いであろう! 決めたぞ。余はディラン、お主と共に時代を統べるとしよう!」
精霊がそう言った途端、刀が鞘へと戻り、勝手に俺の腰元へと収まる。
「さぁ、行こうぞ! 余とお主の力でこの世に覇を唱えるのじゃ!」