ドパガキダンジョン 作:匿名
街の北に突然現れたダンジョンは、簡単だった。
あまりにも簡単だった。
「一周で一分程度とは……あと一周だけクリアして帰るか」
今朝仲間の財布から黙って借りた金は、彼女の首飾りになった。
金が消えたと騒ぐ仲間には、「管理が甘い」と説教しておいた。
「ここで倍にして戻せば、誰も損してないだろ」
短すぎてまだ調査書が埋まっていない。階段を一つ降りる。
「スライムが二匹。さっきと配置が違う。やはり入るたびに変わるタイプか」
見え見えの落とし穴をまたぎ、スライムを二度斬る。最奥までは、わずか四十秒。
このダンジョンで変わっているのは、報酬だけだった。
最奥には、三枚の回る円形石板と三つの赤い宝玉がある。
一周目は薬草。二周目は銅貨一枚。
「薬草じゃ返せないんだよ。金になる物を出せ」
三枚の石板が勢いよく回る。薬草、硬貨、剣、髑髏、宝石。
C級冒険者とはいえ、長年戦ってきた動体視力には自信がある。
「こい」
宝玉を叩く。
ガチン!
剣。
ガチン!
剣。
「ここだ!」
最後の宝玉を叩く。
ガチン!
三枚目も、剣。
瞬間、石室が赤、青、金に明滅した。
床が割れ、虹色に輝く聖剣が台座ごとせり上がる。
「これは……?」
光る剣! 噴き出すスチーム! 高鳴る音! 瞬くフラッシュ!
「ほう、やってみせよう」
俺は柄を両手で掴み、全体重をかけた。聖剣が指一本分だけ持ち上がる。虹の光が強くなる。
抜ける。
あと少しで——。
「うおおおおおおおおお!!!」
が、駄目!
カチン。
剣が止まり、虹が消えた。
「はずれ……?」
報酬受取口は空だった。
俺は痺れた両手を見た。今のは握る位置が悪かった。次ならもっと強く引ける。絵柄だって、もう目で追える。
勝ち方だけはもうわかっている。取り返すまで帰らなければ、盗みもバレない。
「あと一周だけクリアして帰るか」
左右の壁に、二つの入口が開いた。
左は外へ出る「出口」。右はダンジョンの入口へ戻る「もう一周」。
俺は記録もせず、右へ走った。
背嚢から滑り落ちた調査書が、見え見えの落とし穴へ吸い込まれていった。
◇ ◆ ◇
「ドーパドパドパ! これでやつも脳汁がドパドパドパねぇ!!」
暗い部屋で、虹色のサングラスをかけた男が笑っていた。
「実験は成功ですね、マスター様」
その横で、無表情な女が帳簿へ線を引く。
豊満な胸部と頭から生える二本のツノがなければ、普通の秘書にでも見えたかもしれない。
いや、秘書と言うには身に纏う布面積が小さすぎた。
「ところでマスター様、当たりは入っているのですか?」
「入ってるように見えれば十分ドパ。この世界に景品表示法はないドパねぇ!」
「ケイヒン……?」
「気にしなくていいドパ」
ぼんやりと光る水晶板では、男が十二周目のスライムを斬っていた。
「それより、次の冒険者が来たドパよ!」
隣の水晶板には、ダンジョンの入口に立つ男女二人が映っていた。