ドパガキダンジョン   作:匿名

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第十一話 世界征服の、その先も

 

「……負けました」

 

 夜が明けても、魔王様は秘書の椅子にいた。

 盤面では、最後まで味方だった国がこちらへ宣戦布告している。

 巻き戻しへ伸びた手が、途中で止まった。

 

「もう一度やれば、勝てます。どこで間違えたかも、わかっています」

「なら、もう一ターンどうぞドパ」

「それです」

 

 魔王様は盤面を閉じた。

 

「そう思っている間に、夜が明けました。現実の軍への指示まで後回しにした。あなたを従わせるつもりが、私の方が椅子から立てなくなっていた」

 

 黒い水晶を机へ伏せ、俺を見る。

 

「認めます。あなたは、すごい」

 

 虹色のサングラスを押し上げた。

 いつもの勝ち台詞が、少し遅れた。

 

「ようやく顧客満足度が伝わったドパねぇ」

「ですから、私を手伝ってください」

 

 魔王様は、昨夜の契約書を破った。

 ダンジョンを直轄にする条項も、俺を部下にする条件も、真ん中から裂ける。

 

「奪った仕組みを動かすだけでは、あなたと同じことはできません。私は、次の仕組みを考えるあなたの力が欲しい」

「運営権は?」

「お返しします。今度は、対等な協力者として」

 

 手元の画面から『権限がありません』が消えた。

 俺は新しい契約書を出しかけ、その手を止めた。

 

「こっちも、一つ明かしておくドパ」

 

 サングラスを外し、机へ置く。

 

「俺は、この世界の人間じゃないドパ。別の世界で死んで、こっちへ来た」

「異界の知識、という推測は正しかったのですね」

「俺のいた世界では、こういうゲームが山ほどあったドパ。暇があれば遊んで、終わっても別のを始めてたドパよ」

 

 消えた盤面へ、魔王様が目を落とした。

 

「……あれが、山ほど」

「そこに食いつくドパ?」

 

 魔王様は咳払いをした。

 

「では、人を夢中にする方法を、異界で学んだと」

「遊んだ分くらいは、こっちで稼がせてもらうドパよ」

 

 俺が笑うと、魔王様も笑った。

 

「言ってくださればよかったのに」

「正体を隠してたのは、お互い様ドパ」

「そうでしたね」

 

 彼女は青いリボンの帽子を手に取り、俺の前でかぶり直した。

 

「では、これからは隠し事なしで」

「世界征服の共同経営ドパね」

「私が土地と兵を。あなたが、人を呼ぶダンジョンを」

「全員、自分から通ってくるようにするドパ。二人で世界を支配するドパよ!」

 

 差し出した手を、彼女が握った。

 契約書も、魔王軍の印もない。

 それでも離す気にはならなかった。

 

「……その先は、どうなさるのですか」

「先?」

「世界を手に入れた後です」

 

 彼女は握った手を見ていた。

 耳まで赤い。さっきまで世界を要求していた口が、何度か開きかけて閉じた。

 

「私と共に道を歩むなら……征服が終わったからといって、どこかへ行かれては困ります」

 

 あれ。

 これ、告白じゃね?

 

「終身契約のお誘いドパ?」

「茶化さないでください」

 

 指が強く握り返された。

 

「あなたと、これからも一緒にいたいと言っています」

 

 俺はサングラスへ手を伸ばしかけた。

 握られているので、届かなかった。

 

「……俺も、お前がいいドパ」

「新しい秘書では、駄目ですか」

「駄目ドパ」

 

 彼女が笑った。

 魔王の威厳なんて、どこにもなかった。

 

「結局、その『ドパ』はキャラ作りなのですか?」

「それだけは秘密……だよ」

 

「……そうですか」

 

 彼女は笑ったまま、俺の手を離さなかった。

 

「では、最初の約束です。今日は私の選んだお店で、一緒に食事をしてください」

「世界征服の祝勝会ドパね!」

「まだ征服していません」

「前祝いドパ!」

 

 ようやく手が離れた。

 彼女は黒い水晶へ店の名前と待ち合わせの時間を入れ、俺に見せた。

 

「食事の間は、仕事の水晶を置いてください」

「お前も、ゲームは禁止ドパ」

「ええ。約束です」

 

 帽子のつばを直し、秘書が扉へ向かう。

 出ていく前に振り返った。

 

「約束を破ったら、ここら一帯、吹き飛ばしますからね」

「必ず行くドパ!」

 

 秘書は満足そうにうなずいた。

 

 魔力はある。世界中へ広げる算段もついた。

 その先まで一緒にいたいと言ってくれる相手もできた。

 

「ドーパドパドパ! 最高のハッピーエンドドパねぇ!」

 

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