ドパガキダンジョン 作:匿名
「……負けました」
夜が明けても、魔王様は秘書の椅子にいた。
盤面では、最後まで味方だった国がこちらへ宣戦布告している。
巻き戻しへ伸びた手が、途中で止まった。
「もう一度やれば、勝てます。どこで間違えたかも、わかっています」
「なら、もう一ターンどうぞドパ」
「それです」
魔王様は盤面を閉じた。
「そう思っている間に、夜が明けました。現実の軍への指示まで後回しにした。あなたを従わせるつもりが、私の方が椅子から立てなくなっていた」
黒い水晶を机へ伏せ、俺を見る。
「認めます。あなたは、すごい」
虹色のサングラスを押し上げた。
いつもの勝ち台詞が、少し遅れた。
「ようやく顧客満足度が伝わったドパねぇ」
「ですから、私を手伝ってください」
魔王様は、昨夜の契約書を破った。
ダンジョンを直轄にする条項も、俺を部下にする条件も、真ん中から裂ける。
「奪った仕組みを動かすだけでは、あなたと同じことはできません。私は、次の仕組みを考えるあなたの力が欲しい」
「運営権は?」
「お返しします。今度は、対等な協力者として」
手元の画面から『権限がありません』が消えた。
俺は新しい契約書を出しかけ、その手を止めた。
「こっちも、一つ明かしておくドパ」
サングラスを外し、机へ置く。
「俺は、この世界の人間じゃないドパ。別の世界で死んで、こっちへ来た」
「異界の知識、という推測は正しかったのですね」
「俺のいた世界では、こういうゲームが山ほどあったドパ。暇があれば遊んで、終わっても別のを始めてたドパよ」
消えた盤面へ、魔王様が目を落とした。
「……あれが、山ほど」
「そこに食いつくドパ?」
魔王様は咳払いをした。
「では、人を夢中にする方法を、異界で学んだと」
「遊んだ分くらいは、こっちで稼がせてもらうドパよ」
俺が笑うと、魔王様も笑った。
「言ってくださればよかったのに」
「正体を隠してたのは、お互い様ドパ」
「そうでしたね」
彼女は青いリボンの帽子を手に取り、俺の前でかぶり直した。
「では、これからは隠し事なしで」
「世界征服の共同経営ドパね」
「私が土地と兵を。あなたが、人を呼ぶダンジョンを」
「全員、自分から通ってくるようにするドパ。二人で世界を支配するドパよ!」
差し出した手を、彼女が握った。
契約書も、魔王軍の印もない。
それでも離す気にはならなかった。
「……その先は、どうなさるのですか」
「先?」
「世界を手に入れた後です」
彼女は握った手を見ていた。
耳まで赤い。さっきまで世界を要求していた口が、何度か開きかけて閉じた。
「私と共に道を歩むなら……征服が終わったからといって、どこかへ行かれては困ります」
あれ。
これ、告白じゃね?
「終身契約のお誘いドパ?」
「茶化さないでください」
指が強く握り返された。
「あなたと、これからも一緒にいたいと言っています」
俺はサングラスへ手を伸ばしかけた。
握られているので、届かなかった。
「……俺も、お前がいいドパ」
「新しい秘書では、駄目ですか」
「駄目ドパ」
彼女が笑った。
魔王の威厳なんて、どこにもなかった。
「結局、その『ドパ』はキャラ作りなのですか?」
「それだけは秘密……だよ」
「……そうですか」
彼女は笑ったまま、俺の手を離さなかった。
「では、最初の約束です。今日は私の選んだお店で、一緒に食事をしてください」
「世界征服の祝勝会ドパね!」
「まだ征服していません」
「前祝いドパ!」
ようやく手が離れた。
彼女は黒い水晶へ店の名前と待ち合わせの時間を入れ、俺に見せた。
「食事の間は、仕事の水晶を置いてください」
「お前も、ゲームは禁止ドパ」
「ええ。約束です」
帽子のつばを直し、秘書が扉へ向かう。
出ていく前に振り返った。
「約束を破ったら、ここら一帯、吹き飛ばしますからね」
「必ず行くドパ!」
秘書は満足そうにうなずいた。
魔力はある。世界中へ広げる算段もついた。
その先まで一緒にいたいと言ってくれる相手もできた。
「ドーパドパドパ! 最高のハッピーエンドドパねぇ!」