ドパガキダンジョン 作:匿名
「今朝も首飾りくれたのよ。もう売ったけど」
「じゃあ、今日はそれで買い物だな」
首飾りを売った金で、彼氏に新しい剣帯を買ってやった。残りは私の財布に入っている。
あの男には、なくすと怖いから家に飾ってあると言えばいい。
彼氏と笑いながら、ダンジョンへ向かう。
「あいつ、お前と付き合ってるつもりだぞ」
「そう思わせてるの。その方が便利でしょ?」
「次の依頼もあいつにやらせようぜ」
「戦うのはあいつ、報酬は全部いただきね」
依頼を選んで、「できないから助けて❤️」とあいつに媚びて、報酬は彼氏と山分け。
ちゃんと役割分担している。
そのためにも、さっさと連れ戻さなければ。
ダンジョンへ入ると、噂の男が奥から走ってきた。
「ちょっと! 迎えに来てあげたわよ!」
「あと一周!」
私の横を素通りして、そのまま入口へ戻っていく。
目は真っ赤で、鎧は汗に濡れていた。私が手を伸ばしても、見向きもしない。
「ねえ、私より大事な用事なの?」
振り返りもしなかった。
いつもなら、これで慌てて戻ってくるのに。
失礼なやつ。帰ったら少し焦らしてやろう。
最初の部屋には、スライムが二匹いた。私たちの正面に一匹ずつ。
壁が眩しく光る。
「簡単じゃない」
「俺たちで当てちまおうぜ。あいつと分けなくて済む」
二人で一匹ずつなら、あいつの出番はない。
「せーのでいくぞ」
剣を構える。
「せーの!」
二つの刃が、スライムを両断した。
私と彼氏の間に石壁がせり上がり、目の前に文字が浮かぶ。
「今のはそっちがずれた!」
「はあ? 俺の壁には、お前が遅れたって出てるぞ!」
壁が沈む。
彼氏は、自分の表示を見せろと言う。だが文字はもう消えていた。
「ほらな。何も出てないだろ」
「さっきまでは出てたの!」
私の前には、はっきり『あなたは完璧』と出ていた。
こいつは自分が失敗したくせに、同じ表示だったと嘘をついている。
絶対に認めさせてやる。
「もう一回よ!」
二度目は、私が合図を出した。〇・二秒差。
三度目は、彼氏に合図を任せた。〇・一秒差。
私の表示は、どちらも「あなたは完璧」。なのに彼氏は、私が遅いと言い張り続けた。
「次は私の剣を見て振って」
「お前が俺に合わせろよ」
四度目。私が剣を上げても、彼氏は構えたままだった。
合図を待っているのかと思ったら、こっちを睨んでいる。
「振れよ」
「そっちこそ」
私が先に振った。慌てた彼氏の刃が遅れて落ちる。
また壁が上がった。
「ほら! やっぱり私が正しいじゃない!」
「こっちも完璧だっつってんだろ!」
壁が沈むと、彼氏は出口へ向き直った。
「もういい。帰るぞ」
「自分のせいで当たらないからって逃げるの?」
足が止まった。
「お前が下手だって証明してから帰ってやるよ」
どちらが正しいかを証明するまで、帰るわけにはいかない。
最初に探していた男が、また背後を走り抜けた。
「あいつのために来たくせに、俺には合わせられないんだな」
「あいつなら私に合わせられたわよ!」
彼氏が剣を鞘へ叩き込んだ。
「だったら、あいつと組めよ!」
「あんたなんか、こっちから願い下げよ!」
彼氏が手のひらを出した。
「残りの金、半分よこせ」
「私がもらった首飾りでしょ!」
「俺があいつとのこと黙っててやったからだろ」
財布を胸へ押さえた。
何もしていないくせに、半分も取るつもりなのか。
「その剣帯も返してよ!」
「これはもらった物だろ!」
左右に二つの入口が開く。
「見てなさいよ。あんたがいなければ一発なんだから」
「当たっても分けてやらねえからな」
先に大当たりを出して、目の前で全部使ってやる。
泣いて謝ってきたって、銅貨一枚やるものか。
私たちは、別々の入口へ駆け込んだ。