ドパガキダンジョン   作:匿名

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第四話 あと〇・一秒でA評価!

 

「子供の言うことを、本気にしないでくださいよ」

 

 俺は生徒に的確な指導をしただけだ。

 抗議に来た親を鼻で笑った。

 

「娘は、もう先生と二人きりになりたくないと——」

「規定のタイムを切れないから、居残りで見てやってるんです」

「泣いても帰してもらえなかったと聞きました」

「泣く暇があるなら走ればいい。指導の仕方まで、素人に口を出されては困りますね」

 

 話を切り、机の上のB級認定証を親の方へ向けた。

 これを見せれば、大抵は黙る。

 

「俺はB級冒険者だ。この学校を魔物から守ってる。嫌なら、お宅の子が辞めればいい」

 

 親はまだ何か言いたそうだったが、俺が扉を開けてやると出ていった。

 最初からそうすればいい。

 

 机へ戻り、調査依頼を開く。

 街の北で、C級が三人帰ってこないという。

 

「雑魚どもが。俺が片づけてやる」

 

 手柄を立ててA級になれば、学校も親も、もっと黙る。

 認定証を懐へしまった。帰ったら、これを一つ上の物へ取り替える。

 

 ダンジョンは簡単だった。

 スライムを斬り、穴を跳び越え、壁の宝玉を叩く。

 

総合B評価

 

惜しい! あと三・八秒でA評価!!

 

「……俺がB止まりだと?」

 

 たかがスライム二匹の迷宮にまで、B扱いされる筋合いはない。

 あと三・八秒。穴の手前で減速しなければ、それくらい縮まる。

 

 二周目は、鎧の裾が膝へ引っかかった。

 こんなものを着ているから遅いのだ。

 入口で脱ぎ、壁際へ置く。スライム相手に鎧がなくても困らない。

 

記録更新! あと一秒でA評価!!

 

「ほら見ろ。俺の実力じゃなかった」

 

 鎧を脱いだだけで、これだけ伸びた。帰ったら生徒どもに見せてやろう。

 できないのは努力が足りないからだ。俺が今、証明している。

 

 次は背嚢だ。水筒が跳ねるたびに背中を叩く。

 薬も弁当も、一周一分なら使わない。鎧の上へ投げた。

 懐の認定証も抜き、背嚢へ押し込む。次はAなのだから、もういらない。

 

 三周目。あと〇・一秒。

 

「これなら、いける!」

 

 走る。

 斬る。

 跳ぶ。

 

自己最高記録!

 

惜しい! あと〇・一秒でA評価!!

 

 出口の向こうが暗くなり、また明るくなった。

 授業に遅れる。だがBのまま戻れば、昨日の親にまで頭を下げることになる。

 Aを取ってから帰ればいい。待たせた分だけ、立派な先生が戻ってくる。

 

 昨日より速い。さっきより速い。

 なのに、まだB。

 

「ちゃんと見ろ! 俺は速くなってるだろ!」

 

惜しい! あと〇・〇一秒でA評価!!

 

「ほら! もうほとんどAだろ!」

 

 残る荷物は剣だけだ。

 これを置けば腕が軽くなる。だが、丸腰で魔物に向かうなと教えてきたのは俺だった。

 

 子供と一緒にするな。俺はB級だ。

 

「スライムなんか、殴ればいい」

 

 剣を投げ捨てた。

 一匹目で拳の皮が裂けた。薬は背嚢にある。

 戻ろうとして、タイムを見た。

 

「……あと〇・〇一秒だぞ」

 

 血のついた拳で、二匹目を殴る。

 最後の穴を跳び越えたところで、膝が折れた。

 立とうとすると、ふくらはぎが攣る。壁のタイムは止まってくれない。

 

 学校では指一本で人を呼びつけていたのに。

 今は床を這い、宝玉へ手を伸ばす。

 ようやく叩いた壁に、またBが光った。

 

「もう走っただろ! 言われたとおりにしただろ!」

 

 返事はない。涙を拭う間にも、タイムは進んでいた。

 

 出口は開いている。鎧も薬も、入口へ戻れば拾える。

 だが、今やめたら、剣まで捨ててBだったことになる。

 俺はその文字の下へ額をつけた。

 

「Aにしろよ! なあ! 頼むから!」

 

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