ドパガキダンジョン 作:匿名
「子供の言うことを、本気にしないでくださいよ」
俺は生徒に的確な指導をしただけだ。
抗議に来た親を鼻で笑った。
「娘は、もう先生と二人きりになりたくないと——」
「規定のタイムを切れないから、居残りで見てやってるんです」
「泣いても帰してもらえなかったと聞きました」
「泣く暇があるなら走ればいい。指導の仕方まで、素人に口を出されては困りますね」
話を切り、机の上のB級認定証を親の方へ向けた。
これを見せれば、大抵は黙る。
「俺はB級冒険者だ。この学校を魔物から守ってる。嫌なら、お宅の子が辞めればいい」
親はまだ何か言いたそうだったが、俺が扉を開けてやると出ていった。
最初からそうすればいい。
机へ戻り、調査依頼を開く。
街の北で、C級が三人帰ってこないという。
「雑魚どもが。俺が片づけてやる」
手柄を立ててA級になれば、学校も親も、もっと黙る。
認定証を懐へしまった。帰ったら、これを一つ上の物へ取り替える。
ダンジョンは簡単だった。
スライムを斬り、穴を跳び越え、壁の宝玉を叩く。
「……俺がB止まりだと?」
たかがスライム二匹の迷宮にまで、B扱いされる筋合いはない。
あと三・八秒。穴の手前で減速しなければ、それくらい縮まる。
二周目は、鎧の裾が膝へ引っかかった。
こんなものを着ているから遅いのだ。
入口で脱ぎ、壁際へ置く。スライム相手に鎧がなくても困らない。
「ほら見ろ。俺の実力じゃなかった」
鎧を脱いだだけで、これだけ伸びた。帰ったら生徒どもに見せてやろう。
できないのは努力が足りないからだ。俺が今、証明している。
次は背嚢だ。水筒が跳ねるたびに背中を叩く。
薬も弁当も、一周一分なら使わない。鎧の上へ投げた。
懐の認定証も抜き、背嚢へ押し込む。次はAなのだから、もういらない。
三周目。あと〇・一秒。
「これなら、いける!」
走る。
斬る。
跳ぶ。
出口の向こうが暗くなり、また明るくなった。
授業に遅れる。だがBのまま戻れば、昨日の親にまで頭を下げることになる。
Aを取ってから帰ればいい。待たせた分だけ、立派な先生が戻ってくる。
昨日より速い。さっきより速い。
なのに、まだB。
「ちゃんと見ろ! 俺は速くなってるだろ!」
「ほら! もうほとんどAだろ!」
残る荷物は剣だけだ。
これを置けば腕が軽くなる。だが、丸腰で魔物に向かうなと教えてきたのは俺だった。
子供と一緒にするな。俺はB級だ。
「スライムなんか、殴ればいい」
剣を投げ捨てた。
一匹目で拳の皮が裂けた。薬は背嚢にある。
戻ろうとして、タイムを見た。
「……あと〇・〇一秒だぞ」
血のついた拳で、二匹目を殴る。
最後の穴を跳び越えたところで、膝が折れた。
立とうとすると、ふくらはぎが攣る。壁のタイムは止まってくれない。
学校では指一本で人を呼びつけていたのに。
今は床を這い、宝玉へ手を伸ばす。
ようやく叩いた壁に、またBが光った。
「もう走っただろ! 言われたとおりにしただろ!」
返事はない。涙を拭う間にも、タイムは進んでいた。
出口は開いている。鎧も薬も、入口へ戻れば拾える。
だが、今やめたら、剣まで捨ててBだったことになる。
俺はその文字の下へ額をつけた。
「Aにしろよ! なあ! 頼むから!」