ドパガキダンジョン 作:匿名
「先生を探す仕事だ。今夜も遅くなる」
「わたし、あの先生嫌い。走るの教えてくれるのはいいけど……」
「そんなこと言うな! B級冒険者がわざわざ学校で教えてくれてるんだ。文句を言うなよ。先生は俺がちゃんと連れ帰るから」
ああ、俺は理想的な父親だ。
娘だって妻だって、愛人だってきちんと愛している。
娘は口を閉じた。妻も、それ以上は何も言わなかった。
わかってくれたらしい。
妻に娘を任せ、愛人との待ち合わせへ向かった。
その前に、ダンジョンを一周だけする。A級の俺ならすぐ終わる。嘘にならない程度には働いておくのが、家庭円満の秘訣だ。
金貨が一枚落ちた。
「こいつは、あっちの食事代だな」
壁の向こうで足音がした。
「先生! いるなら返事をしてくれ!」
返事はない。壁を叩いても開かない。
仕方ない。待ち合わせに遅れてまで、同じ場所にいるわけにもいかない。
帰宅したら、手がかりはあったと言っておこう。
二日目は、子供の病を防ぐ護符だった。
娘の首へ掛けてやる。
「お父さん、すごい!」
「お前たちのために働いてるんだぞ」
「先生は見つかったの?」
妻は護符を見ていなかった。
「今から探しに行くんだろ。急かすなよ」
娘が護符を握って手を振ったので、振り返してやる。
わかってくれる家族が一人いれば、それでいい。
また夜の街へ出た。
愛人にも土産を買った。
「奥さん、怒らないの?」
「仕事だって言ってある」
笑って肩へ寄りかかってきたので、もう一杯注文した。
三日目。報酬を受け取るには二周。
四日目は三周。五日目は五周。
五周目の報酬は銀貨だった。愛人に頼まれた香水には少し足りない。
あと一周で金貨が出れば、釣りまで来る。
六周目は薬草。七周目も薬草。
ここで帰ったら、余計に回った分が無駄になる。金貨一枚だけ取って終わろう。
鐘が鳴るたびに、次で帰ると決めた。
ようやく銀貨がもう一枚出て外へ出た時には、待ち合わせの店は閉まっていた。
翌日は先に顔を出そうとしたが、入口の表示で足が止まった。
昨日は店が閉まるまで回ったのだ。今日だけ休んで、あれを無駄にするのか。
すぐ済ませるつもりで、また中へ入った。
「最近、本当に仕事ばっかりね」
帰宅した俺へ、妻が冷めた夕食を出した。
「だから、そう言ってるだろ!」
ようやく嘘をつかずに済んだのに、何が不満なのか。
愛人からも、約束を破ったと手紙が来ていた。こっちは遊んでいるわけじゃない。
「明日は運動会だよ。ちゃんと来てね」
「当たり前だ。家族が一番だ」
「お母さんの隣、空けておくね」
席まで取るのか。終わったらすぐ帰れと言われそうだ。
まあ、顔を出して手を振れば十分だろう。
娘の招待札を、愛人からの手紙と一緒に胸へ入れた。
七日目。
最奥の壁が、金色に輝いた。
「家庭を守れるのか……!」
最近、妻が夜の行き先を細かく聞いてくる。
これを家に置けば、安心して出歩ける。
護符の時も、土産を見た娘は喜んだ。結界石なら妻だって文句を言えない。
ちゃんと成果を持って帰ればいいのだ。
「一周だけだ」
走って、斬って、戻る。
運動会の鐘が鳴った。
胸の紙を出す。『今夜も待ってる』。違う、そっちじゃない。
もう一枚には、娘の字で『ぜったいみててね』。
まだ最初の競走には間に合う。出口へ二歩進んだ。
背後で、結界石を囲む金色の光が大きくなった。
運動会は来年もある。この石は、今日を逃したら最初からだ。
「後で何か買ってやればいい」
左へ行けば、出口。
右へ行けば、結界石。
「家族のためだ。仕方ないだろ!」
二枚とも丸めて捨て、右へ走った。