ドパガキダンジョン   作:匿名

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第六話 そういうことにしておきましょう

 

「管理室に籠もっていては、顧客解像度が上がらないドパ!」

 

 俺は秘書を連れ、街へ視察に出た。

 二本のツノは、幅広の帽子の中へ隠してある。歩くたびに帽子がずれ、そのたびに彼女が押さえていた。

 屋台で串焼きを二本買い、一本を渡す。

 

「お父さんを見ませんでしたか?」

 

 広場の端で、少女が通行人へ手書きのビラを差し出していた。

 隣の少年が残りを抱えている。一枚ごとに、鎧姿の男の顔が少しずつ違った。

 

「……あんなやつ、戻ってこなければいいのに」

 

 少女の後ろで、母親が呟いた。

 

 母親が娘の肩へ手を置いた。

 

「もう帰ろう。足、痛いでしょう」

「これだけ配ったら。あと三枚だから」

 

 母親はしばらく黙ってから、しゃがんで娘の靴の踵を起こした。

 少女はその肩へつかまりながら、次の人を探している。

 

「少し座ろう。僕が聞いてくるから」

「でも、お父さんが通ったら、わたしの方がすぐわかるよ」

 

 少年の束から一枚取り、こちらへ走ってきた。

 靴の片方は踵が潰れ、足を上げるたびに脱げかけている。

 

「この人、見ませんでしたか? この紙、持っていってもらえますか?」

 

 受け取った紙には、顔より大きな剣と、何度も書き直した名前があった。

 七日目ログインボーナスのA級だ。

 

「先生を連れ戻すって言ったのに、運動会の日から帰ってこなくて」

 

 紙を渡した手首に、細い紐が結んであった。

 

「それは何ドパ?」

「かけっこで一番になったら、腕につけてくれるの」

 

 少女は袖をまくって見せた。

 

「お母さんの隣に、お父さんの席も取ったんだよ。走る前に見たけど、まだ来てなくて」

 

 俺は串焼きを口へ運びかけた。

 

「でも一番なら、後からでもわかるでしょ。だから、これ見せるの」

 

 ほどけかけた結び目を、小さな指で締め直す。

 あの男は、その時間に二枚の手紙を捨てていた。

 

「……腹は減ってないドパ?」

 

 まだ口をつけていない串焼きを差し出す。

 少女は手を伸ばしかけ、少年を見た。

 

「半分こしてもいい?」

「好きにするドパ」

 

 受け取ると、大きい方の肉を少年へ向けた。

 

「ずっと一緒に探してくれてるの」

 

 少年は一つだけ抜き取り、残りを少女へ返す。

 少女は肉を頬張りながら、通り過ぎる鎧姿を目で追っていた。

 

 俺は秘書へ向き直った。

 

「父親を帰すドパ。奥さんのところへ」

「今も周回中です。七日目の報酬を諦めておりません」

「出口へ誘導して、それ以外は閉じるドパ」

 

 秘書は黒い通信水晶を取り出したが、まだ命令を送らない。

 

「解放する理由を、報告書へ記載しなければなりません」

「A級の帰還者が出れば、安全性を宣伝できる。次の客を呼ぶためだよ」

 

 少女が、串に残った最後の一つを食べ終えた。

 

「おいしかった。ありがとう」

「北門の方でも待ってみるドパ。もうすぐ帰ってくるかもしれないドパよ」

 

 少女が母親の手を引いた。少年も残ったビラを抱えてついていく。

 

 秘書は通りの向こうへ目をやり、それから俺を見た。

 

「……そういうことにしておきましょう」

 

 水晶へ解放命令が送られた。

 

 しばらくして、北門から鎧姿の男が走ってきた。

 

「お父さん!」

 

 少女が飛びつく。男の腹へ顔を押しつけてから、袖をまくって腕を差し出した。

 

「見て。一番だったよ」

「おお、偉いぞ! お父さんも家族のために頑張って——」

「お帰りなさい。話は家で聞くわ」

 

「いつものお店にも、聞いておいたから」

 

 男は娘の肩へ置いた手を止め、北門を振り返る。

 

「もう一周してきていいか?」

「駄目」

 

 少女が、父親の手を両手で握った。

 今度は男も振りほどかなかった。

 

 少年が、一人だけ戻ってきた男の後ろを見た。

 

「中に、ほかの人はいませんでしたか?」

「……壁の向こうに何人もいた。俺では開けられなかった」

「なら、僕が連れて帰ります」

 

 家族が歩き出すと、少年はこちらへ来た。

 黒い通信水晶を一度見てから、俺へ頭を下げる。

 

「あの子のお父さんを帰してくれて、ありがとう」

 

 返事を待たず、少女たちを追いかけていった。

 

「あの少年……」

「どうしたドパ?」

「いえ、何でもありません」

 

「帰還者が宣伝する前に、次の客が決まったドパねぇ」

 

 秘書は笑わなかった。

 

「人間の味方をすれば、魔王様が黙っていませんよ」

「それをお前が報告すれば、ドパね」

 

 彼女の手の中で、黒い水晶が光っていた。

 俺は報告を止めろとは言わなかった。

 

 秘書は水晶へ指を置き、通信を切った。

 

 屋台へ戻ると、彼女は果実水を二つ買った。

 代金を出そうとした俺へ、片方を押しつける。

 

「こちらは私が払います」

「経費にするドパ?」

「私が払います」

 

 果実水を受け取ると、秘書は有無を言わせず俺の袖を引いた。

 

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