ドパガキダンジョン   作:匿名

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第七話 報酬を見ない少年

 

「マスター様。昨日の少年が来ました」

 

 水晶板には、一人でダンジョンへ入る少年が映っていた。

 

『中にいる人を、全員返してもらいます』

 

 昨日、俺たちに礼を言った時と同じ声だった。今度は頭を下げず、剣を抜く。

 

「見込み客が自分から来たドパねぇ! これが口コミ集客ドパ!」

「あの少年。この町で唯一のS級冒険者です。いわゆる勇者ですね」

「それを昨日報告するドパ!」

 

「S級でも、欲しい物くらいあるドパ。ここじゃ俺がルールを決めるドパよ!」

 

 成功実績の高い施策から、全部ぶつける。

 

 虹色に光る聖剣。見ない。

 スチームも、フラッシュも、少年の背中を照らしただけだった。

 

惜しい! あと〇・一秒でS評価!

 

 数字の浮かぶ壁ごと斬った。

 『惜しい!』の文字が真っ二つになって床へ落ちる。少年はその上を通り抜けた。

 初回ログインボーナスの金貨は、踏まずに跨いだ。

 

「施策への反応、ゼロです」

「全部盛りでCVRゼロなんて聞いたことないドパ!」

『出してくれ! あと一周すれば抜けるんだ!』

 

 壁の向こうから、三百周目のC級が叫んでいる。

 その声に、少年が初めて足を止めた。

 少年は報酬部屋へ続く扉ではなく、その壁を斬った。

 

「帰りますよ」

「離せ! 次こそ当たる!」

 

 暴れる男を肩へ担ぐ。

 

「出口を閉じるドパ! まだ帰すとは言ってないドパ!」

 

 外へ続く通路を、分厚い石扉が塞いだ。

 少年はC級を背中へ担ぎ直し、剣を一度振るった。

 石扉が斜めにずれ、向こうから日の光が差し込む。

 

「出口がなければ、作ります」

 

 男を庇って破片を避け、そのまま外へ運び出す。

 待っていた衛兵へ引き渡された男が、慌てて振り返った。

 

『俺の財布の金も、返してもらおうか』

 

 衛兵の隣から別の男が進み出た。

 C級は空の報酬袋を抱え、入口を指す。

 

『今から倍にするんだ! あと一周だけ貸してくれ!』

『先に大当たりを出すのは私よ!』

『そいつより俺の方が速い!』

「続きは外でお願いします」

 

 別々の通路で競う元恋人たちを、両脇へ抱える。

 女が暴れても、男が蹴っても、歩く速さすら変わらない。

 二人もまとめて出口へ押し出した。

 

『あと〇・〇〇〇一秒なんだ。次こそA評価に……!』

「学校から迎えが来ています」

 

 血の滲んだ拳が止まった。

 

 少年に背負われて出口をくぐる。

 待っていたのは、衛兵と、学校へ抗議に来ていた親だった。

 

『B級冒険者だぞ! この扱いは何だ!』

『学校から、もう来ないでくれと伝言です』

『あと〇・〇〇〇一秒おおお!』

 

 四人目が、両腕を取られて連れていかれた。

 

「迷路を変更するドパ!」

「突破されました」

 

 水晶を一本、ダンジョンコアへ押し込む。

 少年の前に新しい壁がせり上がった。天井へ届く前に斬り倒された。

 

「まだ完成してないドパ!」

 

 もう二本押し込む。これで、今日稼いだ分は全部だ。

 

「壁を三重にするドパ!」

「一振りで壊されました」

 

 三枚分の修復費が、同時に帳簿へ載った。

 

「魔物を追加ドパ!」

「傷つけずに押しのけています」

 

 少年は、扉も壁も正面から壊した。

 修復に使う魔力が、滞在魔力を上回っていく。

 

「赤字ドパ! 物理的にも赤字ドパ!」

「集客施策は大成功でしたね」

「皮肉がうまいドパねえ!?」

 

 残った水晶を掴んだ。これまで貯めた分まで使えば、もう一枚は作れる。

 その手の中で、紫色の光が薄れていく。

 映像では、最後の壁が崩れた。

 瓦礫の下から、ゴブリンの腕だけが出ている。

 石床へ、赤い血が広がった。

 

 少年は出口へ背を向け、引き返した。

 出口では、戻ろうとする元恋人たちを衛兵が押し留めていた。

 

「もういいドパ! 早く出ていくドパ!」

 

 自分を襲ったゴブリンへ治癒魔法をかけ、肩を貸す。

 出口まで運ばれたゴブリンは、戸惑いながら何度も頭を下げた。

 

 外で待っていた少女が駆け寄った。少年は笑って頷き、ゴブリンの包帯を結び直している。

 

 最後に残っていた少年も、もう外だ。

 壁の修復が始まるたび、棚の水晶から紫色が抜けていく。

 一本。二本。昨日まで満杯だった棚が、端から透明になった。

 

「魔力が! 魔力が抜けていくドパ!」

 

 掴んでいた水晶を胸へ抱えた。

 これだけでも残れば、次の仕掛けを作れる。

 だが、指の間の光まで薄れていく。

 

「修復を止めるドパ! 壁なんか穴が開いててもいいドパ!」

「もう消費されています」

 

 最後の紫が消えた。

 俺は透明な石を振った。振っても、握っても、光は戻らない。

 

「現在の滞在者、ゼロ。修復費で、本日の収支は赤字です」

 

 水晶板には、誰もいない通路が並んでいた。

 何百周も走らせた客。毎日集めた魔力。あいつが来るまでは、全部うまくいっていた。

 丸一日かけて稼いだ分も、その前から貯めていた分も、今はただの透明な石だ。

 

 虹色のサングラスを外した。

 秘書が何か言いかけ、口を閉じた。

 その気遣いが、今は一番きつかった。

 

「……完全敗北ドパ」

 

 外の映像で、少年が少女へ手を振っていた。

 何事もなかったように、二人で街へ歩いていく。

 

 俺はサングラスをかけ直した。

 空っぽの水晶を机へ叩きつけ、立ち上がる。

 

「このままでは終わらないドパよ!!!」

 

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