やっぱり鉄は早い内に打つべしですね。指がスラスラ動きます。因みにプロットなんてものは存在しません。私が寝てる間に夢でこんな話を見たので書きました。後悔はありません。
そんでもって私はまのさばはかなりやり込みましたがリゼロは途中途中抜けています。実はレグルスもそこまで詳しくなかったり…なので結構解釈違い〜みたいなのってあると思うのですが、そこは勘弁していただけるとありがたいです。勿論感想欄に此処はレグルスならこうなんじゃないか?みたいなのは全然歓迎です。ただコミュ障すぎるので感想返信はやらないと思います…
先程まで確かに動いていた二階堂ヒロという名の存在は、もうそこにはなかった。
ラウンジには、先ほどまで人間がそこにいたという事実だけが、あまりにも生々しく残されていた。静かだった。あまりにも静かすぎた。
誰も口を開こうとはしない。
少女達の視線は、一か所に集まっている。誰もが理解していた。これは夢でも、演出でもない。本当に、人が死んだのだ。
先程ゴクチョーから伝えられた魔女因子のこと。そして、この牢屋敷を管理している看守が、ただの人間ではないということ。
それらについて、まだ半信半疑だった者も多かった。だが、今となってはもう疑う余地などなかった。目の前で起きた出来事が、何よりも雄弁にその事実を証明してしまったからだ。
「くっ……!」
紫藤アリサが小さく息を漏らした。ヒロの死体を看守が淡々と片付けている。その光景に耐えられなくなったのか、アリサは突然、素早く駆け出した。向かった先は、これまで看守が守っていた通路側。
看守がヒロの処理に意識を向けている今ならば、ここから逃げられると、そう判断したのだろう。足音がラウンジに響く。
彼女にとって、この場所に留まり続けることこそが危険だった。ここにいれば、次に死ぬのは自分かもしれない。その恐怖が、彼女の足を動かしていた。
そして――
看守が反応した。
先程まで死体の処理を行っていたはずの看守が、まるで最初からアリサの動きを把握していたかのように、ゆっくりと振り返る。
その背に備えられた刃が、ラウンジの照明を受けて一瞬だけ光った。
「待ちたまえ!」
凛とした声が響く。蓮見レイアだった。彼女は迷うことなく、看守とアリサの間へ割り込んだ。まるでアリサを庇う壁になるように、その身を置く。
腰に携えていたレイピアを抜き、しっかりと構える。その表情には恐怖がないわけではなかった。むしろ、これほどの状況で恐怖を感じない方がおかしい。
それでも彼女は退かなかった。
「彼女に手を出すな! これ以上の悲劇は起こさせない!」
その声には、皆を守ろうとする強い意思が込められていた。
しかし――
看守は答えなかった。言葉を理解していないのか。それとも、理解した上で聞き入れるつもりがないのか。看守はただ、手にした鎌を大きく振り上げた。
少女達の間から、小さな悲鳴が漏れる。
「やめて……!」
しかし、その声も届かない。
(もうやめてよ……!!)
桜羽エマは――
○レイアを庇った
○ただ見守った
────────────────
●レイアを庇った
○ただ見守った
エマは考えるより先に動いていた。
看守とレイアの間に、その身体を滑り込ませる。
「エマくん!?」
まさか自分を庇うために飛び出してくるとは思っていなかったのだろう。
レイアの表情が驚愕に染まる。
「何を――」
言葉を最後まで続けることはできなかった。
看守の刃が振り下ろされる。
エマは避けることも、言葉を発することもできなかった。そして、次の瞬間。
彼女は左右に分かれ、その場に崩れ落ちた。
間も置かずに訪れた悲劇に、少女達は皆、恐怖を顔に張り付かせていた。
誰かが震えている。
誰かが口元を押さえている。
誰かは、目の前で起きたことを理解することさえ拒んでいるようだった。
「どうして私を庇ったりしたんだ……あれぐらいなら、避けられたのに……」
レイアはエマの方を見つめたまま、呆然と呟いた。自分なら避けられた。少なくとも、そう思っていた。だからこそ余計に理解できなかった。なぜエマは自分の前に出たのかが。
エマからすれば、レイアはアリサのために命を投げ出そうとしているように見えたのかもしれない。幾ら相手が芸能人であったとしても、その身のこなしがどこまで通用するのかなど、エマにとっては知る由もなかった。
だから、ただ思ったのだ。
この人を助けなければ。
目の前で誰かが危険に晒されているなら、自分が助けなければ。
その単純な思いだけで、身体が動いてしまったのだろう。
「彼女達を守ろう」
そう考えていたレイアは、自らを庇って倒れたエマを前に、深い悲しみに沈んでいた。
しかし。
そんな少女達の様子など知ったことではないとでもいうように、看守はまだ動きを止めようとはしていなかった。
「……っ! 待て!」
レイアが顔を上げる。
「もう十分じゃないのか!? アリサくんだって、もう逃げようとしていない! 彼女はルールを破ってはいないんだ! これ以上アリサくんを切り捨てようとする理由はないだろう!」
必死の叫びだった。しかし看守は何も答えない。ただ、アリサの横を素通りしていく。その歩く速度は一貫していた。歩くというよりも翔けると言ったほうが正しいのだろう。
「……」
偶然だったのだろう。
レグルスは出口に近い場所にいた。
ルグニカ王国は、少なくともかなり大きな国だったはずだ。だからこそ、この場にいる者達の反応が気になった。誰もが「ルグニカ王国」という名前を聞いても、意味が分からないという顔をしている。知っている者がいない。それどころか、誰一人としてその国名に聞き覚えがない。
「……まさか」
レグルスはそう考えた。ここは、自分がいた場所とは違う。
それどころか――
違う世界なのではないか。
そう考えれば、妻の心臓の鼓動を感じられないことも説明できる。見慣れない装飾。見知らぬ少女達。そして、理解できない牢屋敷。
何もかもが自分の知っている世界とは違っていた。納得することはできた。
だが――
認めることはできなかった。
「僕の世界じゃない」
その事実を直視すれば、自分が置かれている状況を認めなければならなくなる。何か手掛かりがあるのかもしれない。ここがどこなのか。なぜ自分がここへ連れてこられたのか。そして、妻達のもとへ戻る方法があるのか。事が済めば、すぐにでもこの牢屋敷を調べなければならない。
そう考え、出口の近くに陣取ってしまった。それがいけなかった。
偶然、紫藤アリサが逃げようとしていた。
そして偶然、桜羽エマが倒れたことによって、アリサが逃げる意思を失った。
その直後。看守の視線が、レグルスを捉えた。
そして――
偶然、レグルスは目を離していた。
レグルスの権能、獅子の心臓。それは、自身が触れたものを停止させることができる力。自らの肉体を停止させることで、外部からの干渉や物理法則すら受け付けない。彼にとって、それは絶対的な防御だった。
しかし。
ここはレグルスがいた場所とは別の世界。妻がいない。そのことによって、彼の権能にはこれまで経験したことのない制限がかかっていた。
レグルスは常に権能を使い続けていた。そうすることで、老いることも、傷つくこともない。完璧な存在であり続けられたからだ。
だからこそ。
自分自身に、改めて権能をかけ直す。そんな行為をする必要など、百数十年の間に一度もなかった。それが最大の隙になった。
自分の権能が、以前のように常時無敵の状態ではなくなっている。
その事実に気づくまでに二秒。
そして、自分自身に権能をかけ直すまでに一秒。
たった三秒。
それだけの時間。だが、看守にとっては十分すぎる時間だった。
「づづッ……があッ……!」
レグルスの身体が大きく揺らぐ。上半身と下半身が離れ、彼はその場に崩れ落ちた。
少女達の間から、再び悲鳴が上がる。
あまりにも立て続けだった。
短時間のうちに、三人が看守によって殺されてしまった。
しかし、レグルスはまだ意識を失っていなかった。致命的な状態でありながら、それでもなお彼は生きようとしていた。メルルという少女が見せた治癒の力を使ったとしても、もはやどうにもならないだろう。それほどまでに深刻な状態だった。
それでも、レグルスは認めなかった。自分がここで終わることなど。自分がこんな場所で死ぬことなど。そんな未来を、彼は受け入れることができなかった。
ドクンッ。
レグルスは権能を使う。
心臓の動きを止める。それによって身体への影響を抑える。しかし、それを長時間続けることもできない。生命活動そのものに影響が出てしまうからだ。
だから、ほんの数秒。
権能を使う。止める。一呼吸。そして再び使う。ただそれだけを繰り返す。延命と呼ぶにはあまりにも頼りなく、本人にとってはただ苦痛を先延ばしにしているだけの行為だった。
それでもレグルスは続けた。
ドクンッ。
(っ! あぁ、巫山戯るなよ……なんで僕がこんな目に遭わなければいけない!?)
頭の中で、怒りが膨れ上がっていく。
(僕はただ妻たちと、そこにある平凡な日常を過ごしていただけなのにっ!)
彼にとって、それが何よりも重要だった。自分の日常。自分の権利。自分の妻達。そのすべてを突然奪われた。
(なんで僕が妻たちと離れ離れにされなければならないんだ!)
レグルスにとっては、それすらも許されないことだった。
(これは僕の妻である彼女たちの権利と! そして夫である僕との夫婦の権利を侵害している!)
少女達は、またもや起こってしまった悲劇に、もはや立っていることすらままならなくなっていた。
ある者はその場に座り込み、ある者は顔を伏せる。
恐怖に耐えられず、意識を失ってしまう者さえいた。
誰もが理解し始めていた。
この場所では、誰かが死ぬことが特別な出来事ではない。次は自分かもしれない。その考えが、少女達の心を縛り付けていた。
ドクンッ。
(そもそも! なんで今僕を狙ったんだ!)
怒りがさらに膨れ上がる。
(僕はルールなんて破っていない! ただそこに立っていただけだろう!)
それなのに。なぜ自分が。なぜ自分だけが。そんな理不尽な思考が、レグルスの頭の中を埋め尽くしていく。
ドクン。
(僕は悪くない!)
その言葉だけが何度も繰り返される。
(僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない。僕は悪くない……!)
自分に言い聞かせるように。
何度も。
何度も。
トクンッ。
(僕……は……)
看守は、ヒロとエマ、そしてまだかろうじて意識を保っているレグルスの身体を淡々と片付けている。
その動きに感情は見えない。まるで、ただ決められた作業を行っているだけだった。少女達は誰一人として声を上げられなかった。恐怖心は、既に限界を超えている。短い間に三人も死者が出た。これでは、いつ自分が死ぬのか分からない。
ただ一つ。少女達が理解したことがあるとすれば――
この牢屋敷の中に、明るい未来は存在しない。
その事実だけだった。
BAD END
────────────────
○レイアを庇った
●ただ見守った
「はぁっ!」
レイアは看守の刃を軽やかに避けてみせた。一瞬の判断。そして、普段から鍛えている身体能力。あれほどの状況でありながら、彼女は冷静に動いていた。さすがに少しばかりの冷や汗は浮かんでいる。しかし、レイアはアリサを守りきっていた。
元々、看守も牽制程度のつもりだったのだろう。看守はそれ以上刃を振ることなく、何事もなかったかのように元の作業へ戻っていった。
「……」
ラウンジには、奇妙な沈黙が残った。今の出来事を見ていた少女達は、誰もすぐには口を開けなかった。そんな中、最初に声を上げたのは、やはり蓮見レイアだった。
「みんな! 聞いてくれ!」
先程あんな出来事があったばかりなのに。それでも彼女は、皆を鼓舞するように声を張った。恐怖に支配されそうになっているこの状況で、誰かが皆をまとめなければならない。
彼女はそう考えているのだろう。
「私達はどうやらここで共同生活を強いられることになるらしい。それがいつまで続くのかは分からないが……今は大人しく従おう」
少女達は黙って彼女の話を聞いていた。
「知り合ったばかりではあるが、私は君達をできる限り守りたい」
その言葉には迷いがなかった。
「先程のヒロくんのような振る舞い、また、あの状況下でのアリサくんの逃亡は、全員に危険が及ぶかもしれない……。今後は勝手な行動は謹んでもらいたい」
「チッ……」
アリサが小さく舌打ちする。さすがに言い返すことはできないのだろう。レイアの言っていることが正しいということは、アリサ自身も理解していた。自分が逃げようとした。その結果、レイアに庇われた。反論しようとしても、胸の中に残る罪悪感がそれを邪魔していた。
「まずは、自分のポケットを見てくれないか」
レイアがそう言うと、少女達は一斉に自分のポケットを確認した。
「各自、スマホを配給されているようだが…残念ながら圏外だ」
画面を確認した少女達から、落胆の声が漏れた。
「外との連絡手段にはならない。我々は捕まって閉じ込められたのだから、当然だろうが……」
外へ助けを求める。その可能性が、また一つ潰された。
しかし、スマートフォンには別のものが入っていた。
「このスマホの中に【魔女図鑑】というアプリが入っていた」
レイアは画面を確認しながら続ける。
「先ほどゴクチョーも言っていたが、【魔女図鑑】はルールブックらしい。牢屋敷のマップや規則、我々の囚人情報が入っていた」
「この【魔女図鑑】に記されたルールブックを遵守し、生活していこう。全員、しっかり目を通しておいてくれ」
しかし――
「魔女とか囚人とか知るかよ!」
アリサが声を荒げた。
「1秒だってこんなとこいたくねぇ。ウチはここを出るからな!」
彼女にとっては、ルールを守って生活することよりも、この場所から出ることの方が重要だった。
外に残してきた大切な家族がいるのかもしれない。あるいは、単純に彼女自身のプライドが、この状況を受け入れることを許さないのかもしれない。
理由は分からない。ただ一つ分かるのは、アリサがこの牢屋敷に従うつもりがないということだけだった。
「あのさぁ!」
そんなアリサに向けて声を上げたのは、レグルスだった。
「黙って聞いていれば君! 紫藤アリサ……だっけ? 君は実に酷い女だね」
「んだと!?」
アリサが睨み返す。しかし、レグルスは怯まなかった。レグルスにとって、蓮見レイアは実に優秀な人材だった。先程から見せているカリスマ性。周囲をまとめる能力。そして、看守の攻撃を避けるほどの軽やかな身のこなし。
新しい妻候補としても実に良い人材ではないか。そんな考えが頭の片隅に浮かぶほどだった。
だからこそ、その彼女の言葉を無下にするアリサの態度が、どうしても我慢できなかった。
「先程君は蓮見レイアに救われた」
レグルスは淡々と言う。
「少なくとも、彼女が立ち塞がらなければ、君はあのまま二階堂ヒロと同じような結末になっていただろうさ」
アリサの表情がわずかに強張る。
「それなのに君は、お礼という、助けられればするべき当然のことをやらず、挙句の果てにはその彼女の発言を無下にするって、一体全体どういう訳?」
「……」
「君は本来、先程彼女に深くお礼をして、そして彼女の言葉に耳を貸すべきだったんだ」
レグルスは止まらない。
「少なくとも、その行動には意味がある。対して君がしたことは何?」
アリサは黙っている。
「自分どころか周りを危険な目に合わせて? 彼女の言葉に耳を貸さない? それって、人が持つ『言葉を通わせる』っていう当たり前で平凡な権利を、自ら手放しているってことだよね?」
「それって実に傲慢で、怠惰で、そして自分の意見を通そうとする、強欲なんじゃない?」
「……チッ……!」
図星だったのだろう。
言い返したい気持ちはあったが流石にこの状況で自身の意見を通そうとは思えなくなったのだろう。アリサは何も言わないまま、ラウンジを出ていった。
既に自由時間になったのか、看守はアリサを追おうとはしなかった。それを確認してから、残った少女達も互いの顔を見合わせる。やがて、多数の少女がレイアの意見に賛成する形になった。
しかし、全員が同じ意見だったわけではない。桜羽エマや橘シェリー等は、レイアとは別の方針で行くことに決めたらしい。
「ヒロちゃんを殺した、あいつらに従うなんて嫌だっ! アイツラを絶対に許さない!」
エマは強い口調で言った。その言葉には、怒りと悲しみの両方が込められている。
「はいはーい! 私もエマさんについていきますよぉ〜!」
橘シェリーが手を挙げる。
「面白そうな方につくのが私の信条ですから!」
「わたくしもあなた側につきますわ。偉そうに仕切るやつが嫌いなんですの」
「うう……エマさん……」
彼女達は牢屋敷からの脱出を第一に動くことに決めたらしい。ただ、そんな彼女達と行動を共にすることには、どうしても危険が伴う。そのため、自然とグループは二つに分かれていった。
完全に敵対したわけではない。しかし、目指す方向は違っていた。
「……みんなで協力し合うに越したことはないけれど、意見が合わないなら仕方がない」
レイアはそう言って、エマ達を責めることはしなかった。
「私たちは一旦地下に戻るよ。ルールによれば、地下監房に居なければならない時間だ」
そう言って、レイアが歩き出す。彼女についていくと決めた少女達も、ぞろぞろとその後を追っていく。
しかし、数歩進んだところでレイアが足を止めた。視線の先に、レグルスがいる。彼だけは、まだその場に立ったままだった。レイアは少しだけ首を傾げると、彼にも声をかけた。
「レグルスくん。君も早く監房に戻るとしよう」
「あぁ、そうだね。その方がいいんだろう」
レグルスはそう答えた。だが、その声にはどこか引っかかるものがあった。
「ただねぇ……」
彼はしばらく考え込む。そして、自分の中で答えを出したように、レイアへ向き直った。
「確かに、君は素晴らしい人材だ」
レグルスが話す。
「僕や彼女達の権利を守り、まとめ上げている。君が皆をまとめようとしていること自体は、僕も素晴らしいことだと思っているよ」
しかし、レグルスの言葉はそこで終わらなかった。
「だけど素晴らしいのは君個人であり、この牢屋敷は完璧じゃない」
「えっと……?」
「そんな場所でフザケたルールに縛られたうえで行動するだなんて、そんなの僕の、僕だけの、大切な自由意志による行動の権利の侵害でしかないじゃないか」
レイアは困惑した表情を浮かべた。彼が何を言いたいのか、完全には理解できなかったのだろう。
「つまり、君の言い分は正しいし、できる限り君の要望は聞いてあげたい」
レグルスは続ける。
「だけどさ、いかに温厚な僕でも我慢の限界ってものがあるものだよ」
彼は、自分の考えを正当化するように言葉を重ねる。
「だからこそ、僕は僕の権利を守る為にも、この子たちの方につくことにするよ」
レイアは黙って聞いている。
「勿論、それがつまり君の敵になるなんてことじゃない」
レグルスは穏やかな口調を崩さない。
「意見が一致していないわけでもない。ただ、君が従うべきとしているこの牢屋敷自体が間違っていると僕は考えているわけで」
そして、最後にこう付け加えた。
「だから君も、勿論僕も悪くはない。なんせ僕らは互いに尊重しあい、そして自身の権利を守っているだけなんだから」
「……」
レイアは少しの間、レグルスの顔を見つめていた。彼の言葉の中にある矛盾を理解しているのか。それとも、理解した上で何も言わないことを選んだのか。
やがて彼女は小さく頷いた。
「あ、あぁ……そうかい。分かったよ。伝えてくれてありがとう」
自分の事をあれだけ褒めてくれた人物が、まさか自分とは別の少女のもとに行くとは思ってもいなかったのか、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔を一瞬浮かべた後、レイア達は監房へと戻っていった。
ラウンジに残されたのはエマ、シェリー、ハンナ、メルル、レグルスの5人のみとなっていた。
「で?で?私達はどうするんですか?みんなで協力して看守をぶっ倒します?」
目を輝かせながら、橘シェリーが発言する。
「そ、そんな事できないよ!ヒロちゃんみたいに殺されちゃう」
そう橘シェリーを諭しながらも、エマは冷静にどうやってこの牢屋敷から脱出するかを考えていた。
「…とりあえず、僕達も一旦地下に戻ろう。規則には、目を通しておくべきだよ…レグルスくん…?さん…?も、それでいいよね?」
レグルスに対しては、まだイマイチ距離感が掴めないでいた。白を基調とした服装に白髪、白い肌と白い印象しかないレグルスではあるが、その印象をかき消すほどに彼の言動は印象的だった。
「あぁ、僕の事はどちらでも、好きな方で呼ぶといい。それは君達が持っている当たり前の権利であり、そして名前の呼ばれ方程度で文句を言うほど、僕は愚かじゃないんだ」
「ふーん…なら、ノミとかカイコとかわたあめさんって呼んでもいいですか?!」
「…あのさぁっ、いくら僕が温厚で無欲だからと言ってもね、限度があるんだよ?!だいたいそう言って当たり前みたいに相手の優しさに甘えるのって、ちょっと違くない? というより、それはもはや失礼に値するよね。失礼そのものだよね。礼を失するってことは、相手に対してその程度の価値しか見てないってことだよね。相手の価値を見損なうってことは、それはもはや相手の人生の、生き方の侵害だ。他者の権利の侵害だ。無欲で理性的な僕に対する、僕の権利の侵害だ。」
「あっはは〜いやー失敬。これは失言でしたね!」
「あなた!仮にも初対面の人に使う名前ではないでしょう!だいたいなんなんですのそのチョイスは!」
「えー!いいじゃないですか!レグルスさん、白色で綺麗ですし、髪の毛とかふわふわしててわたあめみたいだなぁ〜って思ってたんです!」
「あのぉ…」
「思ってたんです!じゃないですわこのノンデリゴリラ!だいたい百歩譲ってもノミなんて言うもんじゃないでしょうに!」
「えー!だからさっき謝ったじゃないですか!」
「あのさぁ!さっきから当事者である僕を無視して離してるけど────」
(あはは…なんだか随分賑やかなグループになっちゃったな)
エマはそう遠い目をしながら見守っていた。
◇監房
「全く…僕は僕の権利を守る為に桜羽エマの方に付いたのに、結局僕の権利は侵害されてしまったじゃないか。これならまだ少し僕が我慢して蓮見レイアの方に付けばよかったよ。いや?別に普段僕が我慢をしてないわけじゃないんだよ?ただ、普段よりももっと我慢をしようかと言う話だ。だけどさ、それって僕の権利の侵害だよね?僕は僕で他のやつは別の存在だ。そんなのが生きてた所で僕に何のメリットがあるっていうのかな?そんな奴らの為に我慢をする必要があるなんて、それはやっぱり僕の権利の重大な侵害でしかないじゃないか」
「はいぃ…」
監房に戻ったレグルスとメルル。恐らくレグルスはメルルに対して話しているのだろう愚痴は、怯えた表情を浮かべる彼女にはそこまで届いていなかった。
「あの…」
「──つまり、僕のこの…ん?あぁすまない、少し僕が喋りすぎたみたいだ。普段温厚な僕が少しだけ怒ってしまったよ。だけど、僕は他の愚かな奴らとは違い謝罪ができる。謝罪をすることで自らの非を認め、相手に敬意を払うことができる。これってとっても素晴らしいことじゃない?当然、僕がもし謝罪を受ける側だとしたらその謝罪を受け入れ、相手を許すだろう。だからこそ、君もこの謝罪を受け入れて僕を許してくれよ。それが、僕達人間の在り方ってものだろう?」
「は、はいっ!受け入れますぅ…それで、その…あのぉ…」
「なんだい?勿体ぶらずに言ってみなよ。君は僕の謝罪を受け入れてくれた。つまり僕は君に対してほんの少しだけ感謝しているんだ。謝罪を受け入れるという当たり前の行為を行ってくれた君に対してね。悲しいことにこの世の中にはそんな当たり前ができない屑どももいる。だからこそ僕は、謝罪を受け入れてくれた君の話を聞く権利があるんだ」
レグルスの怒涛の話に目を回すメルル。常人なら此処でついていけず逃げ出すか思考を放棄するが、それでもメルルは話し出した。
その話はある意味レグルスにとっても元の世界の事について知れるかもしれない話であり──
「大魔女様…魔女教について、お話を聞いてもいいですか…?」
──この牢屋敷についての重要な話でもあった。