目が覚めたらアブソルだった件…いや、なんで!? 作:W297
???SIDE
ホテルに帰ってきたユウリたちのポケモンは静かな時を過ごしていた。
…理由は単純、白斗の存在だ。
「…」
ボールから出された後、白斗はずっと部屋に隅で壁に背を無けてうつむいていた。
下げられてから、一言も話していない、
『…未来』
『…うん』
穂乃花と未来は、そう2人で声を掛け合って白斗の元へと向かう。
『…白斗、隣いい?』
『…好きにしろ』
穂乃花がそう話すと、白斗は下を向いたまま静かに返す。
『…私もいいかな、白斗?』
『…ああ』
未来もそう言って、2人は白斗を挟むように座る。
…2人は何も言わなかった。
ここで白斗に無理矢理聞いても、彼は逆に自分の殻に引き籠ってしまう。
長い付き合いである2人は、それを分かっていた。
…ただ、そばにいる。それが2人の選択だった。
『…』
白斗は二匹の存在を感じながら、じっと床を見つめていた。
『…俺さ、何もできなかったことは正直どうでもいいんだ』
…白斗はそう話し始めた。
◇ ◇ ◇
『…俺さ、何もできなかったことは正直どうでもいいんだ』
俺は穂乃花と未来の2人に向けてそう話し始める。
『ポケモンバトルなんだから、勝つこともあれば負けることもある。それぐらいは分かってる。
相手が強かったんだ。俺は水のフィールドで力を十分に発揮できなかった。それだけなんだよ』
『…うん』
穂乃花はそう俺の言葉に頷く。
『…ユウリは俺を先頭に選んでくれた。
フィールドを見ても、俺なら行けるって信じてくれたんだ』
そして、俺の右前足の爪が床に食い込む。
『…でも、俺が相手に対して何もできなかった結果、ユウリは俺を下げた。
ユウリは俺をボールに戻すって判断をしなきゃいけなかったんだ』
俺は静かに涙を流しながら続ける。
『ユウリは俺を責めていない、そんなことなんて分かってる。
…俺は、ユウリにそんな判断をさせてしまった自分が嫌なんだよ』
『白斗…』
未来はそう声をかけてくれる。
『…俺が他の技を持っていたら?
俺が水の中でも自由に動けたら?
…俺がもっと強かったら、ユウリにあんな顔をさせずに済んだんだ』
俺は天井を見上げる。
『前の世界でも今の世界でも、誰かに頼られるのは嫌いじゃなかった。むしろ、頼ってもらえるのは嬉しかった。
でも、いざ自分が頼られたときに、何もできなかった。
白斗は目を伏せる。
『…ユウリの期待を裏切ったんだよ、俺は。
折角選んでくれたってのに、なにやってるんだろうな…』
俺は静かにそう告げる。
…数秒の沈黙がその場に流れる。
そんな中で、未来が息を吸った。
『…白斗、今なんて言ったの?』
未来はいつもより低い声でそう話してくる。
『ユウリにそんな判断させた自分が嫌い…だって?
…ふざけないでよ』
未来の体が震えていた。
『ふざけないでよ、白斗!
そんな判断をさせた自分が嫌いだって、なんでそんなことをあなたが言えるの!?』
未来は俺に向かって叫んでくる。
『白斗は、ミスばっかりする私には怒ってきたけど、ちゃんとフォローしてくれた!
『失敗したからって、それまで頑張ってきたことまで全部なくなるわけじゃない』って白斗は私に言ってくれた!
なんで、白斗はその言葉を自分に言えないの!?なんで自分は失敗してはいけないって思ってるの!?』
『…違う!これは…!』
『違わない!』
未来はそう俺の言葉を遮ってくる。
『…私はユウリのポケモンになったばかりだけど、白斗が頑張ってきたことくらい見ればわかる!
その今まで頑張りがさっきのバトルで0にでもなったって言いたいの!?』
『…そんな訳、ねえだろ…!』
…まどろみの森に生まれ、ユウリと出会い、ユウリのポケモンとなってここまでバトルしてきた。しんどいバトルもあった。決してスムーズにいくことなんてなかった。
…まだまだ短いが、ポケモンとしての俺はユウリとの旅がすべてだ。
『そんな訳ないなら、自分を許してあげなよ!
私は…!』
未来は涙を流したまま俺に続ける。
『私は、そんな人に副会長を任せた覚えはない!』
…未来の言葉が、部屋に響いた。
『私が白斗に副会長をまかせたのは、何でも完璧にできるからじゃない!
その人が頑張ってきたことをちゃんと見てくれる人だったから、私は白斗に声をかけた!』
未来の叫びは止まらなかった。
『私が何回失敗しても、白斗が見捨てることはなかった!
何度迷惑がかかっても、白斗は最後まで付き合ってくれた!
そんな白斗が、自分だけは許さないなんて、私は認めない!』
未来はそう言って俺に巻き付いてくる。
昨日の出会った時とは違う、優しい抱擁だった。
『…お願いだから、そんな悲しい顔しないでよ白斗…。
そんな顔をした白斗なんて、私は見たくない…!』
未来がそう話した後、誰も言葉を発しなかった。
…沈黙をやぶったのは穂乃花だった。
『…未来の言う通りだよ、白斗。
昔からの癖だよ、他人の失敗は許容するのに、自分の失敗にはとことん厳しいところ』
未来はそう続けていく。
『…白斗、ユウリが1回何もできなかったから失望するなんてトレーナーじゃないってことは分かってるはずだよ。
ユウリのことを大事に思っているのは分かるし、ユウリに苦しい判断をさせたくなかったって思いも分かる。
…でも、ユウリは白斗にこれ以上傷つけたくなくて下げたって…、白斗ならそれぐらい分かるでしょ?』
『…ああ』
俺は穂乃花の言葉にそう返す。
『…ユウリは、白斗にこれ以上無理をさせたくなかった…。
それが答えなんじゃないかな』
穂乃花は少しだけ笑みを見せながら続けていく。
『白斗がユウリのことを大切に思っているのと同じくらい、ユウリだって白斗のことを大切に思ってるはずだよ』
『…そう、だな…』
俺は穂乃花の言葉に静かにそう返した。
『…うん、ようやくいつもの顔戻ってきたね』
『白斗…、良かった…』
『ああ…、ごめん2人とも…』
俺は2人を見つめる。
あの生徒会室で、何度も一緒に過ごした穂乃花と未来。
あれから姿は変わっても、自分が支えてきたと思っていた2匹。
けれど今は、その2匹が自分を支えようとしてくれている。
『いいよ、白斗。いつものことじゃん』
『今まで白斗は私を支えてくれてたんだよ?
私が白斗を支えたっていいじゃん』
その2人の笑顔は、俺たちが人間だったときの顔を思い出させてくれた。