目が覚めたらアブソルだった件…いや、なんで!? 作:W297
「ただいまー」
俺と穂乃花と未来が話していると、ユウリが部屋の外から帰ってきた。
「…なにか、話してたのかな3人とも」
「ソルル(まあな)…」
俺がそう小さく鳴くと、ユウリは荷物を置いて俺の顔を見てくる。
「…うん、さっきより顔はよくなってるし、話しても大丈夫かな」
ユウリはそう言って、俺の近くへと歩いてくる。
ユウリは俺の体を抱き上げたあと、ベッドに座って俺を膝の上に乗せる。
今日のユウリからは思いっきり抱き着かれそうな雰囲気はない。
好きにさせて大丈夫だろう、今日のユウリは。
「…今日のバトル、ごめんね無理させて」
ユウリはそう言いながら俺の頭を優しくなでてくる。
「あのフィールドでも、アブソルならなんとかできるって私は思った。
…でも、ルリナさんの方が上手だった。ちゃんと私のバトルを見て、対策してきてた」
ユウリはそのまま続けていく。
「…あの時、アブソルが何もできずに攻撃を受けているのがつらかった。
これ以上アブソルに無理してほしくなかったから、私は下げたの」
ユウリはそう話してくる。
まるで、悪いのは俺に無理をさせた自分…、そう言っている気がした。
…違う、ユウリは何も悪くない…。
俺がもっとできれば…。
「…アブソル、今回は負けたけど、私のアブソルへの信頼は変わらないよ。
アブソルは弱いポケモンじゃない。私の大事な強いポケモン。
まどろみの森で仲間になってから、私のためにずっと闘ってくれてるのは分かっているから。
…それでね」
ユウリはそう言った後、改めて俺に話してくる。
「…これからのバトルも、アブソルには先頭で出てもらうよ」
『…っ!』
笑顔のユウリからそう告げられた。
ユウリの信頼が、前とは何も変わっていないということを示しているこの言葉。
…ただ、俺にはその言葉を聞いてから体が震え始めた。
「…アブソル、やっぱり君は先頭で流れを作るポケモンだよ。
私のバトルは、アブソルが出てくれるからこそ成り立ってるって思うんだ」
…ユウリが先頭で選んでくれる、それは俺を信頼しているという何よりの証。
ただ、俺の頭にさっきのバトルが思い出される。
…また、何も出来なかったら?
…また、ユウリにあの顔をさせてしまったら?
…またユウリに交代をさせる判断をさせてしまったら?
『…くそっ』
俺は必死に足の震えを抑えようとするが、抑えられない。
…ああ、怖いんだ俺は。
バトルに出て、またユウリにあの顔をさせてしまうのが怖いんだ。
…バトルで怖いなんて、今まで思ったことなかった。
「アブソル…?」
ユウリは小さく体を揺らす俺を見てそう声をかけてくる。
…最悪だ、折角信頼してるって言ってるユウリの前で…。
「…もしかして、また何もできないのが怖いの…?」
俺はそのユウリの言葉を肯定も否定もしない。
…ただ、俯いたまま震え続ける俺を見て、ユウリは「そっか」と話してくる。
そして、ユウリは俺の体を優しく抱きしめてくる。
いつもの激しいハグとは違う、俺を安心させるための抱擁だった。
「…大丈夫、無理しなくていいんだから」
ユウリはそう体を撫でながら話してくる。
「…怖いんだよね?私にあの判断をさせてしまうのが」
俺の赤い目からは涙が出ていた。
…マジで、何やってるんだよ俺は。
生徒会で、未来のサポートをして。穂乃花の相談に乗って。
誰かが失敗したって、俺はそいつに何度だって大丈夫だと言ってきた。
…だが、今の俺はユウリに抱き締められて、泣いてしまっている。
(…妹かもしれない奴だってのに、なに見せてんだよ俺は…)
情けないこの姿を愛奈がみたらどう思うだろうか。
兄として見せていい姿では決してないだろう。
…ユウリにとっては、俺を頼れるポケモンだと思ってくれてる。
俺はコイツを守りたいと思ってユウリのポケモンになった。
…ただ、今はユウリに守られてる。
『…ごめん、ユウリ…』
俺は泣きながらそう呟く。
「…アブソル、私は君なら大丈夫だって思ってる。
これからまた何もできないことがあるかもしれない。
でも、それも含めて一緒に強くなっていきたいんだよ、私は」
ユウリはそのまま続けてくる。
「…私はアブソルが何回負けても立ち上がってくれるポケモンだって信じてる。
だって、今までずっと一緒に過ごしてきたんだから。それぐらいわかってるよ」
ユウリは俺の目を見て話していく。
「…怖いなら、怖くてもいい。
私はアブソルのことを信じてるからさ」
ユウリはそう言ってくる。
…正直、ユウリが「大丈夫」と言ってくれてるがまだ怖い。
次のバトルでも、また失敗するかもしれない。
またユウリを悲しませるかもしれない。
その恐怖は、消えていない。
それでも…、ユウリは俺を信じてくれている。
穂乃花と未来も、今まで支えてくれた分支えると言ってくれてる。
蒼真や玲、祐希も気持ちは同じだろう。
(…下向いてても、仕方ねえ)
…無理矢理でも、前を向いてみよう。
もう、俺は一人じゃないんだから。
「また一緒に頑張ろうね、アブソル?」
『…ああ』
ユウリの言葉に、俺は静かにそう返した。