第1話 時には超えてけ超次元
そのスポーツに魅せられたのは、俺──
白と黒が特徴的なそのボールを蹴った瞬間、何とも言えない気持ちが溢れ出してきて、気付けば夢中になって走り回っていた。
親戚に引き取られてからもその熱は冷めることはなく、地元のジュニアチームに入ってプレイを続けた。
そんな俺も中学校に入学。雷門中と呼ばれる東京でも有数のマンモス校だ。ガイダンスなんてものには目もくれず、その日の内容が終わると速攻サッカー部の部室へガンダッシュ。どうやら同じようなことを考えていた新入生が数人いたようで、そいつらと意気投合していると部室の中からオレンジのバンダナを巻いた熱い男が出てきた。
「し……新入部員がこんなにも……!?──よーし皆ぁ!サッカーやろうぜッ!!」
我らがキャプテン──円堂守氏の声が、空高く響き渡った。
それに応じるかのように、俺たちも腕を天高く突き上げる。
俺達の戦いはこれから始まるのさ。
そして、数ヶ月の時が流れた──!
〇
サッカー部、部室。
築何年だよってレベルのボロボロ具合なその無骨な建物内で、俺や雷門中サッカー部1年の面々はゲーム機を手に怠惰を貪っていた。
「よーし、ようやく来たぜ結婚イベ。1周目は王道のビアンカを選んだからな。今回はルドマンの顔を立てるためにフローラを妻に娶るぜ」
「何言ってるでやんすか。男なら黙ってビアンカと添い遂げるでやんすよ」
俺の発言に食いついてきたのは、同じ1年生の栗松鉄平。鼻に一生付いてる絆創膏と栗頭が特徴的な出っ歯チビだ。
「いやビアンカとはもう余生まで過ごしたから。今回は生まれも育ちもお嬢様のフローラと結婚したいのよ。道中でルドマンから差し入れもあるしな」
「物に釣られるのかよ。男として情けないな、渚は」
会話に割り込んできたのは宍戸佐吉というオレンジアフロ。彼もまたゲーム機をカタカタさせながら口を挟んできていた。ちなみに宍戸は、前髪で目が隠れているから未だに素顔を見たことがない。
「情けないって……。じゃあ宍戸は毎回ビアンカを選ぶのかよ」
「いや俺はデボラ派だから」
「こいつだる」
宍戸に殺意が湧いてきたところで、ボロ部室の入口扉が勢いよく開かれた。そのせいで埃が少し舞った。眩しい太陽の光と共に現れた人物に片目の視線だけ注ぐ。
「さぁみんな、練習だ!!」
声高々に言い放ったのは、我らがキャプテン──円堂守さん。頭に巻いた(?)オレンジのバンダナがトレードマークの熱血男だ。噂によるとプライベートでも常に付けているらしいけど、いつ洗ってんだ?
円堂さんの言葉に、俺たち1年ズは一瞬顔を見合せ、その後すぐにゲーム画面へ視線を落とした。
「練習っすか……」
「そうだよ壁山!!俺たちはサッカー部だ!お菓子を食べるのが活動じゃないぞ!」
地面にケツを付けてポテチをバリボリ貪り食っていた雷門1の巨漢、壁山塀吾郎が面倒くさそうな声を上げた。ちなみにこいつは体重が150キロある。恐らく入る部活を間違えている。
「グラウンドの使用許可は取れたでやんすかねぇ?」
「……!そ、それは今から見に行くんだよ!皆でな!」
「どうせ他の部活に使われて、俺たちみたいな弱小部には使用順が回ってこないでやんすよ」
「そんなの行ってみなくちゃ分かんないだろ!!──分かった、じゃあとりあえず俺が見てくる。使えそうだったら今日こそ練習するからな!」
そう言って円堂キャプテンは扉を開けっぱにしたまま、グラウンドの方へダッシュしていった。俺はその背中をボーッと眺める。キャプテン……いつになくやる気だったな……。何かあったんだろうか?
「どうせ俺たち風情がグラウンドを使えるなんて、ありっこないでやんすよ」
その栗松の発言に誰も何も言わなかった。だけど、多分みんな同じことを思っている。俺たちが入部してから今日まで、学校にあるグラウンドをサッカー部が使わせてもらったことなど、1度たりとも無いのだ。どうせ今日も同じ展開が待っている……きっとみんなそう考えている。
だけど──……。
いつになく燃えていたキャプテンの瞳が脳裏を過ぎった。
「──俺もグラウンド見てくるわ」
ゲーム機の電源を落とし、椅子からゆっくり立ち上がる。練習着には着替えてあるから、軽くジョグでもしながら向かうとするか。
「……?どういう風の吹き回しだ?」
宍戸が首を傾げている。
「別に。たまにはキャプテンの背中追うのも悪くないかなって」
「何言ってるんだ?てか結婚相手はどうするんだ?」
「ああ……。何回ルドマンに求婚しても受け入れてくれなかったから、データ消した」
「ええ……言ってること変わってるじゃん……」
そんな声を背に受けながら、俺は部室を出てキャプテンの後を追った。
〇
雷門中サッカー部は弱小である。
そもそもサッカーをやるための11人という人数すら揃っておらず、部室もオンボロ。自然と校内での立ち位置も低くなっていき、気付けば入っているだけで馬鹿にされるようになっていた。
肩身も狭ければグラウンドも満足に使えないので、部員の皆さんもさっきみたいにやる気ゼロの状態になってしまっている。そうしたらボールすら触らない日々が多くなり、気付けば今みたいなゲーム三昧な部活動になった。もう名前もサッカー部じゃなくてピコピコゲーム部とかに変えた方がいいんじゃないの?って程に。
そんな中でもキャプテンだけは、熱を保ち続けていた。雨の日も、風の日も、なかなかボールを蹴ろうとしない俺たちに熱く声をかけては断られ、無視され、相手にもされなくなり。
それでもキャプテンは、諦めずに何度でも俺たちに声をかけ続けた。
多分彼の根っこはひどく真っ直ぐで、そして何より俺たちのことをどこまで行っても信じきっているんだと思う。
そんなキャプテンだから、俺はいま彼の背を追っているんだと思う。
──と、そんなこんなでどデカい校舎の真ん前にあるグラウンドへ到着。サッカーゴールは置いてあるその場所に目を向けると、キャプテン含めて数人の生徒が何やら言い争いをしていた。
「今日はこのグラウンドを相撲部が使うでごわす!弱小サッカー部に使わせるより、よっぽど有意義でごわす!」
「なに言ってんだよ!相撲でこんなに広いグラウンドを使う必要なんてないだろ!?」
あの体型、そして喋り方的にキャプテンと言い争ってるのは相撲部の連中だ。体も態度もデカイ彼らに、キャプテンは負けじと言い返している。
「それは差別発言でごわすか!?言いんでごわすか!?サッカー部の立場が余計に危うくなるでごわすよ!?あ、新聞部のお方!こちらの変態バンダナ男が差別発言をしてるでごわすよ!」
こいつ……国技の選手だとは思えないほど悪質な手法を使ってくるな……。見てられないや……。
「キャプテーン」
「あ、渚。来てくれたのか?」
「多勢に無勢そうだったんで」
「そっちか!一緒にサッカーやりたくなったのかと思った」
「それもありますよ。でもその前にこの人ら何とかしないと」
ピッと指さすのは相撲部員。じろりと彼らが俺に視線を投げつけてくる。
「なんでごわすか、お前も弱小でごわすか?」
「悲しいけど言い返せない……。だけどアンタらもそんな大した結果残せてないでしょ。語尾にごわすって付けてるだけで相撲部気取ってるだけじゃないの」
「むむ……痛いところを……。だが語尾の"ごわす"を馬鹿にするのは頂けないでごわす。このごわすには大きな意味があるでごわすよ」
「そうでごわすか。それならちゃんと言わないといけないでごわすね」
「な、渚。お前もごわす感染ってるぞ」
顔面ゼロ距離で相撲部の人と睨み合う。唇と唇が触れてしまいそうだ。何はともあれ舐められっぱなしじゃいられない、俺たちを弱小呼ばわりしやがって。否定は出来ないけど他人に言われると腹が立つ、それくらいのプライドはある。
「それならこいつはどうだ?アンタらのステージで戦ってやる。サッカー部VS相撲部、ドスコイお相撲対決だッ!!」
高らかに言い張ると、相撲部のみならず円堂キャプテンも目を丸くして俺を見ていた。
「ルールは簡単!テキトーに書いた円の中で相撲を取り、手をついたり円の枠から外に出た方が負け!ま、ただの相撲ってことさ」
単純ゆえの奥深さ。相撲は日本の国技。言うなれば日本男児の誰もが通過してきているスポーツ。内容に不足などない。
「正気かよ……」
「狂ってやがるぜ……」
相撲部の面々がボソボソと何か言っているが気にしない。どうせ負けた時の言い訳でも考えているのだろう。これだから図体だけの奴らは。
「お、おい渚。平気なのか?そんなこと言って」
キャプテンが恐る恐る言ってくる。
「いつになく弱気ですね、らしくない。一石二鳥ですよ。おい相撲部!!この戦いに勝った方がグラウンドの使用権を得る!!永遠にな!!──これであの暑苦しい奴らも追い出せて、ついでにサッカーの練習もできる。願ったり叶ったりじゃないですか」
「とんでもないヤツ入部させちゃったかな……」
ドンと来いってやつさ。俺はそそくさとサークルを描き、相撲部の先鋒と向き合う。相手にとって不足なし、我が生涯に一片の悔い無し。
「そ、それでは見合って見合って……」
キャプテンが弱々しい声で言った。
「はっきょい!!!」
セルフスタートを切った俺は、野生のイノシシの如く敵に突進!
脳天から相撲部の体にぶつかり、一瞬感じる。
あれ──?岩──?
その後の記憶は無い。気付けば保健室のベッドで寝かされていた。
〇
鉄塔──。
我らが稲妻町を見下ろす巨大な建築物。
その足元はちょっとしたスペースがあり、町民の皆様の憩いの場的なものになっている。
「うおおおおおお!!!」
そこに響く獣のような雄叫びがひとつ。それが聞こえたと思ったら、今度は地響きのような低い音が聞こえてくる。
「──ヨシッ!!」
音の正体は円堂キャプテンが木に吊るしたタイヤぶん投げ、重力を纏って返ってくるそれを受け止めるトレーニングだ。見るからに危ない事をしているが、キャプテンは特殊な訓練を受けているのでモーマンタイ。
「いやヨシじゃなくて。いつもここでこんなことしてるんですか?キャプテン」
聞くと、頬の汗を拭いながらキャプテンは笑って答えた。
「おう!いいトレーニングになるぞ!渚もやるか?」
「お、俺はいいや。キーパーじゃないし」
あっぶな。危うく付き合わされるところだった。こんなキケンナアソビやれるか。カラダ吹っ飛んでこの高台から転がり落ちて河川敷の川で流されるのがオチさ。
缶ジュースを飲みながらボケーッとキャプテンのトレーニングを眺める。日中もそうだったが今日はいつになく気合いが入っている。夕方になった今もそう。何が彼をそう突き動かすのか。
「あ、そういや帝国との試合が決まったぞ」
「それか答えは」
一瞬でピンと来た。それだよ理由は。他校との試合。だからこんなに張り切ってんだ。
「ん?ああ久々の試合だからな、気合いも入るってもんだろ?」
「久々どころか、俺たち1年は入部してから初試合ですよ」
「それもそうだな、ははは!!──悪い」
いや謝らないで欲しいんだけど。なんかちょっと胸が痛いから。別に試合が無かったのはキャプテンのせいではない。
「遂に試合か〜、嬉しいようなそうでもないような」
「そこは喜ぼうぜ!初試合だぞ!」
「人数どうするんですか」
「あえ」
真理をついた一言にキャプテンが凍る。そりゃそうよ。だって俺たち今8人しかサッカー部員いないんだから。
「ってかこの状態でよく帝国と試合組めましたね。どんな手使ったんですか?」
「いやぁ俺が引っ張ってきたってよりかは、学校側が手配したようなもんさ。あいつだよ、理事長の娘のあいつ」
「あ〜、あのお嬢ですか。何がどうなってこうなったんだろ」
2人して首を傾げる。帝国が俺たちみたいな弱小と試合?一体なぜ?
帝国学園……日本でもめちゃんこ強い学校で、全国も常連。そんな彼らと試合……大丈夫かこれ。試合になるのか?
「──何はともあれ、まずはメンバー集めからだな。試合は2週間後だし、皆にも声をかけて練習も始めないと」
「ですね。試合があるとなるとアイツらも身が締まるだろうし。並行してメンバー集めもしてかないと」
「……それが一番の問題だよなぁ」
キャプテンが空を見上げる。そうだよなぁ。校内でのこの立ち位置なサッカー部に入ろうとする人……いるのかなぁ……。
「それに試合に負けたら廃部らしい」
「なんですって?」
「サッカー部解散」
「そんなの泣きますよ、サッカーじゃなくて俺が」
「じゃあ頑張らないとな、色々と」
爽やかなサムズアップをするキャプテン。廃部か……まぁ意味が分からない訳でもない。誰が言い出したかは分からないけど、今の素行を見ていたらそう言われちゃうのも無理はない。のんびりとゲームなんてしてた今までの自分を呪いたい気分だ。
状況を整理しよう。2週間後に強豪との試合があって、負けたら廃部。俺たち普段からは練習なんてしてなくて、しかも相撲部に負けたから学校のグラウンドは使えない。なんなら人数も足りない。
詰みでは──??
えーと、この状況を何とか出来る人っているんですか?そんな救世主のような人がこの世に?雷門中に?本気でどうするよ。
そんな時だった。
「おーい、円堂。──と、渚か?」
俺たちに声をかけてくる男が1人。いや、その後ろからもう1人やってきた。
「風丸!」
「それと宮坂!」
「おう、元気そうだな」
「渚も円堂さんみたいにトレーニング?珍しいね」
現れたのは同じ雷門中の陸上部の2人。風丸さんと、俺と同い年の宮坂だ。下校中に鉄塔に来たのか、2人とも学ランを着ている。
「精が出るな。こんな時間まで」
「まぁな。試合が決まったから余計に」
「そうなのか、良かったじゃないか。どことやるんだ?」
「帝国ですよ帝国」
「帝国!?……悪いことは言わない、今のうちに棄権しとけ」
いや風丸さん判断はやっ。聞いた瞬間それかい。
「帝国ってあの帝国だよね?全国にもほぼ毎回出てきてる」
宮坂が言う。こいつサッカー知識少し持ってるんだ。
「そだよ」
「試合になるのか?」
「多分ならないです。なので今どうやって審判にバレないように卑怯な手を使うか考えてたところです」
「スポーツマンシップの欠片も無いじゃないか」
しゃーない。誰がどの角度から見ても勝てっこないなら使える手は使わないと。プラン1は相手のドリンクに強力な下剤を盛り、後半から敵の腹を破壊して強制的に試合を終了させる。腹を治す薬が欲しければ棄権しろと脅し、勝利を掴む。これがプランだ。
「冗談だよ冗談。でも人数も足りてないからさ。風丸、誰かフリーな生徒知らないか?」
キャプテンの問いに風丸さんは顎に手をやり考える。そんな素振りもカッコイイなこの人は。おい宮坂、お前も考えろ。なに隣でボケっとしてんだ。その金髪引っこ抜くぞ。
メンバーか……フリーと言ってもある程度運動できる人じゃないと厳しいんだよなぁ。運動が出来ないから運動部に入っていない人とか呼んだところでなっていうのもある。出来れば即戦力がいいんだけど。サッカーやったことなくても、何か一芸に秀でている人とか。
「ん……?待てよ……?」
そこで俺の頭に天啓が降り注いだ。
いるじゃないか、一芸どころか二芸も三芸にも秀でてそうな人材が。
「風丸さん、サッカー部に入ってくれません?」
「──はい?」
素っ頓狂な風丸さんの声が響いた。宮坂が一瞬眉を顰める。
「風丸さん、陸上でもかなりの成績残してましたよね?その足があれば、帝国に一泡吹かせられるかも」
「なに言ってんだ渚。俺サッカーなんて授業くらいでしか」
「でも風丸さん、もう陸上界に俺の敵はいないって言ってたじゃないですか!」
「は?」
「えぇ!?」
風丸さんと宮坂がそれぞれのリアクションを披露。
「国内に俺と肩を並べられるやつはいない……部内なんて以ての外……はぁ、誰か俺と同じスピードの世界で生きているやつはいないのか……って、このまえ屋上でボヤいてたじゃないですか!」
「いやいやいや!そんなこと誰も言ってない!」
「後輩の面倒見るのダルいって言ってたじゃないすか!下の子たちのキラキラした瞳がたまにしんどくて、俺も末っ子ムーブができた1年の頃に戻りてぇって言ってたじゃないすか!」
「え?風丸さん、え?」
「捏造するな!!」
風丸さんが慌てふためいている。宮坂がジト目でそんな風丸さんを見ている。いいぞ……この調子だ……。
「俺知ってんすよ!クラスの女子に、稲妻町に瞬足を広めたのは俺、とか言ってキャーキャー言われてちょっと得意そうにしてたの俺知ってんすよ!女の子たちは陰でそのことバカにしてましたけど」
「ブレーキ踏めッ!!渚ッ!!」
何のためにこんなことしてるかって?アレだよ。陸上部内での風丸さんの立場や評価を落として、居心地を悪くさせるんだよ。そしたらどうなるか?居場所を失った風丸さんはサッカー部に入るしかなくなるんだよ。彼の脚は本物だ。必ず戦力になる。だからこうして後輩の宮坂がいる前であることないこと言うのさ。
「風丸さん……今の本当なんですか?」
「いや宮坂、落ち着け!あんなの渚のバカが勝手に言ってるだけだから!」
「見損ないましたよ風丸さん……はぁ……。僕あなただけは尊敬してたのに……。もう陸上部には顔を見せないでください。リスペクトできない先輩はチームには要らない」
「み、宮坂ァァァァ!!!」
まんまと俺のホラを信じ込み、風丸さんに幻滅した宮坂はその場から去っていった。そんな彼の背に、風丸さんの腕が届くことはない。地に手と膝をつき項垂れる風丸さん。よし、作戦通りだ。
「知ってました?風丸さん。ああ見えて宮坂はツイ廃なので、いま聞いたことは全部今夜中にはSNSにアップされますよ。俺も入学式に左右違う靴下履いてきたこと拡散されましたも」
「そんな……俺の……印象が……」
「それにあいつ地味にフォロワー多いです。3年のお姉様方にも可愛がられてるから、そっちの方にも情報は行き渡ります。2年はもちろん、俺たち一年の間にもね」
「お、終わった……。現代社会の闇に俺は殺されるのか……」
ガチで死にそうな顔をしてる風丸さんを見て、内心ほくそ笑む。これで風丸さんの心は砕けた。陸上魂も消え失せた。そうなった風丸さんが取る選択肢というのは……。
「大丈夫です、風丸さん。俺たちサッカー部がいます」
「ふわわ?」
訳の分からない言葉が、風丸さんの口から出てきた。
「全校生徒から見放されても、俺たちは傍にいます。例え風丸さんが痛い厨二病になっても。変なペンダントを首から下げて全身ピチピチのタイツ姿で忍者走りしてても、俺たちは理解してあげられます」
「なにを言ってるんだお前は……」
「俺たちはもう同志ってことですよ!」
闇に染まった風丸さん。そんな彼の心を照らせるのは圧倒的な光。理解者。背中を押してあげられる者。
例えこちらから闇の中へ蹴落としていたとしても、真っ暗闇の中じゃ誰が蹴ってきたかは分からない。どん底の精神を暖かく包み込む光さえ与えれば人は動く。
暗く染まっていた風丸さんの瞳に小さな光が差し込む。俺という光が、風丸さんの心を照らす。
「同志……?」
「はい!一蓮托生、運命共同体!だからあなたはもう……サッカー部の仲間ですッ!!」
「な、なかま……」
なんか壊れたおもちゃみたいだ。まぁ今日はそれでよし。メンタルはそのうち回復する。
「一緒に帝国と戦いましょう!!風丸さん!!」
「あ……ああ……!ああ!俺……やるよ……!この脚で帝国のDFラインを切り裂いてみせる!!」
「マジかこいつ」
「マジで感謝☆」
風丸さんは落ちた。ポケットからクッシャクシャの退部届と綺麗な入部届を出して、風丸さんに署名をさせる。これで晴れてメンバー入り。9人目のサッカー部員の誕生だ。
とりあえず風丸さんは帰路につかせ、キャプテンとベンチに並んで座る。キャプテンはドン引いた目で俺を見ていた。
「渚……あんなんで良かったのか……?」
「え?何がですか?」
「もはやお前が怖いよ俺は」
「キャプテン……普通の次元で生きてちゃダメですよ……」
え?と首を折るキャプテン。俺はベンチの上に立ち、手をグーの形にして夕日に目掛けて突き出す。
「今までの次元や目線で生きてたら、帝国なんかには勝てない!俺たちが目指すのは次元を超えたもの──そう、超次元サッカーなんですよ!!」
市販や与えられたものさしを使っているようじゃ、いま俺たちの目の前にある壁をぶち破ることなど出来っこない。殻を破り、常識外れの動きをしていかなければ、俺たちのサッカー部は失われてしまう。
そんなことさせない。曲がりなりにもキャプテンたち先輩が1年間は守ってきた場所なんだ。それをたった1つの試合の結果だけで壊されてなるものか。
「今までごめんなさい、キャプテン。これからはチームの為に頑張りますよ!まずは打倒帝国学園ッ!!」
──いま思えばこの日から始まった。
──俺たち雷門イレブンの、伝説が。