──河川敷。
我らが雷門中の近くにある、川沿いの土地。
綺麗な川の上を立派な橋が通っており、土手沿いの芝生では下校途中の学生や小さな子供連れのお母さんたちが緩やかな時を過ごしている。
そこにはグラウンドがあり、なんとサッカーゴールも設置されている。なんでも、町のサッカーチームの練習場として使われているからか、そのような設備が揃っているようだ。
「染岡、いったぞ!!」
「おうよッ!!」
そこに響き渡る、元気な男の子たちの声。ボールを蹴る音や弾く音、地面を駆ける喧騒がそこかしこから聞こえてきた。
「風丸さんッ!!」
「ああ!!俺のスピードについてこい!!」
声の主はそう、我々雷門イレブンだ。
来るべき帝国との試合に向けて、俺たちはここ河川敷で紅白戦を行っている。部員はなんと12人になっていた。風丸さんを勧誘してから追加メンバーが3人もいる。もう立派なサッカーチームである。
「いや〜、やっぱコートを使っての練習は最高ですね〜」
休憩中、ドリンクを飲みながら横にいる染岡さんに話しかける。ピンクの坊主頭でコワモテの染岡さんは、タオルで汗を拭きながら反応した。
「わざわざこんな所まで来る意味は分からんがな。なんで学校のコート使えねぇんだ。しかも相撲部が占領してやがる。めちゃくちゃスペース余らせてたぞアイツら」
「ははは、なんででしょうね〜。多分俺たちのことよく思ってないあの理事長の娘の差し金じゃないですかね〜」
笑って誤魔化す、相撲部とのことは。自分から勝負をふっかけておいて瞬殺されたなんて、皆には見えない。キャプテンと新聞部の人には賄賂を渡しておいた。リークさえされなければ、こんなことになっているのが俺のせいってことはまずバレない。
「でも俺、ちょっとだけですけど見てたでやんす。渚が相撲部に喧嘩ふっかけてそのまま──」
「──あーっと栗松、顔の近くに小バエがいるよぉ!!」
「ぎゃっぷ!!!」
反射的に栗松に向けてシュート。ボールは見事栗松にヒットし、そのまま川に落ちて流されて行った。
「おい、人数減っちまったぞ」
「大丈夫です。12人が11人になっただけなので、帝国とサッカーは出来ます」
「そうだけどそうじゃないんだよな……」
風丸さんが頭を抱えている時、俺はとある視線を感じ取りその方向へ首を向けた。
「誰だ……あの人……?」
目を向けた先には逆立った銀白色の髪が特徴的な男……。雷門中の学ランを着ているから、うちの生徒なのは間違いない。学年にあんな人はいなかったと思うから……上の学年の人……?
「……」
独特な雰囲気のあるその人はしばらく俺たちの様子を見た後、スっと消えるようにその場を後にした。一体なんだったんだろう?もしかして入部希望なのかな?超サイヤ人みたいな髪型してたけど、まさか戦闘民族?
ちなみに栗松は小一時間後に戻ってきた。相撲部とのことを確認してみたが、綺麗さっぱり記憶から抜け落ちていた。
〇
──そうして迎えた、帝国学園との決戦の日。
フツーの日のフツーの放課後に行われるそれに対して、まあまあの数のギャラリーが集まっていた。
観客たちに見守られながら、俺たち雷門イレブンは帝国学園が来るまでウォーミングアップをすることに。
「結局、帝国なんて強豪校がウチと試合する意図は読めなかったッスね」
「だな〜、夏未お嬢様に聞いても教えてくれなかったし」
「しかも負けたら廃部でやんすよね?次なんの部活に入るか決めておいた方がいいでやんすか?」
「そうだな……カバディ部なんてどう?」
「そんなのあったでやんすか?」
そんなテキトーな会話をしながら、部全体でウォーミングアップを続ける。すると、突如として地響きのようなものが俺たちの体を揺らした。
「ななな、何だァ!?」
「地震でやんすか!?」
そして、雷門中に黒い影が落ちる。晴天のはずなのに、まるで学校全体を覆い隠すかのような薄暗さだった。
「おい、あれを見ろ!」
どこかの誰かが声を上げる。その理由は当然のように察しがついた。多分みんな思っていることは同じだろう。
なぜって?だって動く要塞みたいなのが校舎に入ってきたんだもん。
兵器を搭載してそうなどデカい乗り物が雷門中の敷居を跨ぐ。その迫力に俺たちは呆気にとられていた。
「なんじゃありゃ……」
「さすが超次元」
まるで戦争にでも来たのか?ってレベルだ。そしてその乗り物から煙幕みたいなのが発生してきた。いよいよじゃねーか。
乗り物の扉が開かれ、中から制服を着た学生?らしき人たちがゾロゾロと出てくる。凄い……訓練された兵隊さんみたいだ……。彼らは綺麗に整列すると、敬礼のようなポーズを取る。何アレ……帝国ではああいう教育されてんの……。
「レッドカーペットだ!」
「レッドカーペットが敷かれたぞ!」
なんで?と思う方がほとんどだろう。だが実際に、整列した生徒たちの間にレッドカーペットが登場してきた。そしてその上を歩いてくるのが……。
「アイツらが……!」
「ああ……帝国のレギュラーメンバーだ……」
いわゆるスタメンってやつだ。深緑のユニフォームを着たちょっとガラの悪そうな選手たちが、俺たちのコートへ侵入してくる。そこで俺たち雷門イレブンの目に、1人の人物が目に留まる。
「見ろよ先頭のやつ……マントにゴーグルしてるぜ?」
「それ思いました。俺の見立てだと、恐らくあの人は水泳部……」
俺の観察眼のレベルの高さに皆が驚く。冷静になろう、サッカーにおいてあんな高そうなゴーグルなど確実に不要。つまり、あのドレッドヘアーの人は水泳で使うゴーグルを既に装着してきている。凄く気合いの入った人なんだろう。
もしかしたら、水泳対決をしにきたのかもしれないな。そうだ、それならプールの方へ案内してあげなくちゃ。
「栗松、先頭のドレッドヘアーをプールの方へお連れしてあげて」
「わかったでやんす」
二つ返事で栗松が了承。圧巻の迫力を誇る帝国イレブンの方へ、バカみたいに駆けていく。グラウンドが少しざわついた。
その場にいる皆の視線が栗松へ集中する。栗松は先頭のドレッドヘアーと少し会話をすると、トコトコと俺たちの元へ戻って来る。
「なんて言ってた?」
「失せろ栗まんじゅう、試合ではお前から血祭りにあげてやる。って言われたでやんす」
「お前なんでそんなこと言われてケロッとしてんだよ」
平然と言ってのける栗松。何食わぬ顔で帰ってきたかと思いきや、とんでもないこと言われてるじゃねーか。
「あと、レッドカーペットは試合の邪魔になるから片付けてって言ったら、お前がやれって言われたでやんす。だから今から片付けてくるでやんす」
「なんでこの数秒でパシリにされてるの?」
帝国イレブンがこちらに向かって歩いてきた。それと入れ替わるように栗松はレッドカーペットの方へ走って行く。……ほんとにマキマキし始めた!
向かい合うように、雷門イレブンと帝国イレブンが並び立つ。ゴーグルマントを始めとした見た目に個性ありまくりなメンバーが勢揃いって感じだ。眼帯してる奴もいれば、幼稚園児くらいの身長の人、逆にうちの相撲部より巨漢な人もいる。う〜ん、見た目だけだと既に負けてるな。
「鬼道有人だ。初めてのグラウンドだから、ウォーミングアップをしてもいいか?」
ゴーグルマントは鬼道って言うらしい。そんな彼の要望にキャプテンは快く応え、俺たち1年はボールを出すことに。帝国はと言うと、ウォーミングアップから卓越した技術力を見せつけてきた。なんか超スピードで動き回って、その場から姿が消えたと錯覚させる人もいる。こんな奴らに勝てるのか?
「じゃあ目金はベンチスタートで、残りの11人がスタメンってことでいこう」
「「「おう!!!」」」
「えぇ!?10番を背負っている僕がベンチ!?」
ヌルッと目金さんにベンチウォーマー役が与えられた。沈み込む目金さんをベンチに残し、整列の為にグラウンド中央へ向かう俺たち雷門イレブン。
「そういえば染岡さん、俺たち作戦とか決めてないですよね?」
「確かにな。けど、俺たちに作戦とか戦術とか、そんなもんはまだ早いだろ」
「たしかに」
妙に納得しちゃったけど、本来ならありえない会話だ。俺たち一体どうやって帝国に勝ちに行くんだ?
「とりあえずボール奪ったら俺に集めろ。俺がスリーポイントシュート決めてやる」
「染岡さん、今からするのはバスケじゃなくてサッカーです」
自称・雷門のエースストライカー兼点取り屋の染岡さんは言う。試合の雲行きどころか部の未来まで怪しくなってきた。
レッドカーペットを撤去した栗松も合流し、両チームが並び立つ。ギャラリーもなかなかに集まってきた。
「それではこれより、雷門中と帝国学園の練習試合を始めます!!」
帝国側が用意してくれた審判が声を荒らげる。両者睨み合う中、俺も俺で帝国側の選手の顔を眺めていた。やたらとデカイヘッドフォンをしている奴や、今から激しい運動をするはずなのにマスクをしている人もいる。前髪がアルファベットのJみたいになってる色眼鏡を付けた奴は異様に目立っているな。
「五条勝だ……よろしく……」
「あ、ああ……。よろしくお願いします……」
えらく渋い声だった。この人ホントに中学生か?
「おい渚、あのゴーグルマントの人まだいるよ。水泳部じゃなかったのか?」
隣に並んでいた宍戸が言う。確かに列の先頭、円堂キャプテンの対面に例の水泳部がいた。よく見るとキャプテンマークも腕に付けてる。
「おかしいな。絶対水泳部だと思ったんだけど。てか冷静に考えるとあのマントなんの役に立つの?」
「赤いからマタドールみたいに血の気を滾らせる効果があるとか?」
「え?サッカーでそんなことしていいの?絶対ダメだよね?審判に言いつけなきゃ」
「おいテメーら……鬼道さんを侮辱したか……?」
目の前に立っていたマスクを付けている人が、ドスの効いた声でそう言ってきた。
「あんま舐めてっと潰すぞ」
「あ、僕なんも言ってないっす。おたくのキャプテンさんをバカにしてたのはこっちのオレンジアフロです」
「そうか、ならそっちを潰す」
「こいつ平然と仲間を売りやがった……!」
全ての罪は宍戸に擦り付け、キャプテンと鬼道さんと呼ばれた帝国の主将が試合前に握手……と思いきや拒否られてた。握手する価値もないって。感じわる……。
各々が自身のポジションにつき、試合開始のホイッスルを待つ。今日の俺のポジションは染岡さんの隣。ツートップの片側だ。
「よーし、みんなぁ!気合い入れてけっ!!」
「「「おう!!!」」」
後ろからのキャプテンの声に励まされ、俺たちは褌を締め直した。ボールは帝国側から、ホイッスルが鳴り響く。
「そらよ」
開始直後、眼帯をした選手が俺に向かってボールを軽く蹴って渡してきた。
「え?どういうこと?くれるの?」
俺の質問に眼帯は笑いながら答える。
「一発だけシュートを撃たせてやる。やってみろ」
会場がざわめいた。なんだコイツ……。もしかしてこれも帝国の作戦……?
「さ、佐久間さん……?」
「何言ってんだアイツ……」
「総帥に殺されるぞ……」
帝国側もざわついてるーッ!!!まさかの独断、佐久間さん!!カッコつけたものはいいものの、誰の台本にも入ってなかったやつだコレ。
「えっと……貰っちゃっていいの……?佐久間さん……だっけ」
「……いいから撃てぇ!!」
「よぅし分かった、行くぞぉ!!!」
後に引けなくなりヤケになった佐久間さんの意思を汲み取り、俺はシュートモーションに入る。
右足のつま先でボールを吸い上げ、地面に当て跳ね返させる。タップリフトの要領で浮いたボールは、地に波紋を残しながら少量の水飛沫を纏い始めた。
そのまま宙に浮き体を空中で回転させながら、水を纏った右脚で力強くボールを蹴った。
「"アクアブレイク"!!」
「なにぃ!?」
「必殺技だとっ!?」
帝国の皆さんの驚いた声を受けながら、俺の放ったシュートはコートのちょうど真ん中からゴールへ向けて一直線へ向かっていく。
「早い──ッ!!」
帝国のキーパーに構えさせる時間すら与えないまま、放たれた水蹴弾はゴールネットに突き刺さった。
あっという間の出来事に、会場が一旦静まり返る。次の瞬間、その静寂が切り裂かれるように歓声が湧き上がった。
盛り上がる雷門中の生徒たち。いきなりの先取点で呆気にとられる帝国イレブン。
「佐久間……選手交代だ……」
「……悪かった、鬼道……」
そして鬼道さんに選手交代を命じられ、ベンチに戻っていく佐久間。
肝心の雷門イレブンはと言うと、みんな「これくらい当然」といったような顔でいた。少しは喜んでよ。
「まさかヤツ以外にもこんな選手がいたとはな」
佐久間をベンチに帰らせた鬼道さんが近づいてきた。帝国イレブンがびっくりしているなか、この人だけは平静を保っていた。
「面白くなってきた」
「負けたら廃部になっちゃうんで。アンタらにはきっちり負けてもらって、バタフライで学校まで帰ってもらいます。──水泳部の方ですよね?」
「……バタフライは難しいからまだ出来ない」
衝撃の事実発覚──!
帝国の鬼道さん、バタフライが出来ない模様──!!
こうして雷門と帝国の戦いの火蓋が切って落とされた。
【超次元メモ】
・アクアブレイク
→タップリフトからのジャンピングターン。水を纏ったシュートが敵ゴールへ弾丸のように飛んでいくぞ。元ネタは"初めまして日本"のやつ。