レッドカーペットが敷かれたぞ!
帝国との試合が始まった──。
開始1分で帝国の佐久間さんによる判断ミスで、まさかの雷門中が先制。俺──渚 悠の必殺シュート、アクアブレイクで1点を獲得。後は時間いっぱいパスを回していれば勝てると思っていたけど、そうは問屋が卸さない展開が待っていた。
気付けば10点、帝国側に取られておりました。
何がどう起こったか、簡潔に説明します。帝国側からのリスタート直後、FWの方がお返しとばかりに雷門ゴールへシュートを撃つ。結構な距離があったのにも関わらず、キャプテンはそのシュートに吹き飛ばされ、為す術もなくゴール。これで同点。後はまるでゲームのようにバカスカと帝国にシュートを撃たれまくれ、スコアは10ー1。ギャグかこれは。
「所詮はこの程度か」
俺のマークに付いていた帝国DFが言う。俺一人に三人もマークが付いているから、なかなか思うように動かせてくれない。なにこれ反則じゃないの?選手一人につきマークは一人までとか、そういうルール無いの?
加えて帝国イレブンによるファウルギリギリのラフプレーにより、雷門イレブンは満身創痍。特に栗松は宣言通り血祭りにあげられており、救急車で病院へ運ばれて行った。あいつは多分もうこの試合には戻って来れないと思う。代わりに入った目金さんも眼鏡をかち割られていた。とんでもなく重症だ。
審判のホイッスルが鳴り響く。前半終了の合図だ。余裕綽々といった様子でグラウンドから出る帝国に対して、俺たちは地面を這いつくばりながらベンチへ戻る。
「も……もう動けねぇ……」
「後半戦う力なんて……もう残ってないっすよ……」
まぁ当然のごとく出てくるのは弱音な訳で、チーム全員が口には出さなくとも考えていることは同じだろう。セコイ手で陸上部から引き抜いた風丸さんも意気消沈している。マジでごめんなさい。
「クソ……俺がスリーポイントシュートを決めていたら……!」
染岡さんはまだスリーポイントシュートの話をしている。惜しい場面は1回あったけど、染岡さんのシュートは軽々と止められていた。やっぱり普通の戦い方じゃ帝国にはかないっこない。
「みんな……」
「もうボロボロ……。こんなんじゃ後半なんて……」
我らが木野MGが心配そうな声を出す。女子にこんな顔をさせるなんて不甲斐ない……けど、圧倒的な力の前では無力。そしてその隣にいるメガネを頭に乗せた青髪の子は誰だ。部外者をベンチに入れるんじゃない。
「どうしましょう、キャプテン」
「……」
円堂キャプテンに尋ねるが、珍しく物静かで、ボロボロになった部員たちを見つめている。なんだろう……責任でも感じてるのかな……?何かブツブツと呟いているけど。スゴ技特訓……ナニ……?
こうなったら大人の意見を参考にしよう。そう思いベンチで大人しくしているサッカー部の顧問、冬海先生に助言を求める。偏見かもしれないが、なんとも頼りがいの無さそうな人ではある。
「先生、外から見ていてどうでした?なにか策とかあれば」
「……私はサッカーの知識なんてほぼゼロなんですよ。居るだけの監督……顧問です。私にアドバイスを求めるのはナンセンスですよ、渚くん」
そう言って突っぱねられた。なんだこいつ、さては帝国のスパイだな。当てにならないならいい、自分たちで何とかするしかない。
「とにかく1点は取れてんだ。そしてその点を取ったのは渚。だったら、渚に集中してボールを回すしかないんじゃないか?」
提案してくれたのは半田さん。2年生ということもあり、部内でも発言力はある。そしてちょっとイケメンだ。
「だね。3人マーク付いてるけどなんとか引き剥がして、またアクアブレイクを撃ってもらうしか」
マックスパイセンも同調。まぁそれが作戦としてはいい気もしなくもないけど、致命的な欠陥があった。それも俺にしか分からない欠陥が。
「それが申し訳ないんですけど、もうアクアブレイクは撃てなくて……」
「なんで?どっか痛めたのか?」
「もう俺のTPはからっきしでして……」
「TPってなに?」
そうこうしてる間に審判から集合の声掛けが入った。ロクに作戦も決められないまま、俺たちは再びコートへ。円堂キャプテンはまだブツブツ言っている。一体どうしたんだ?本当に。
雷門ボールから試合は再開。染岡さんから受け取ったボールを、後ろの少林へ回す。だが、あっという間に帝国にボールを奪われてしまった。
「奴は出てこないのか……」
「え……?やつ……?」
近くにいた鬼道さんがそう言ったのが耳に入った。やつ……?奴って誰だ……?誰かを待っている……?
「出てこないのなら、引きずり出すまで……。"デスゾーン"開始……!」
「ですぞーん?」
不吉なワードが飛び出してきたな、なんだそれは。デスなゾーンで死のエリア?おいおいまさか……。
自エリアへの侵入を許し、帝国側のストライカー3人が中央へ集まる。ボールを天高く蹴り上げると、それを囲むようにクルクル回りながらトライアングルを形成し始めた。なんだアイツら、目とか回らないのか?
邪悪なエネルギーがボールへ集約し、紫色の光に包まれる。それらを解き放つように、宙へ上がった3人が天空からボールを踏みつけるように蹴落とした。
間違いない、あんなの喰らったら人は死ぬ。そんな馬鹿な、中学のサッカーで死人が出てたまるか。けどそういえば栗松は病院送りにされてたな。
「キャプテン!!」
思わず声が出た。このシュートは止めなくていい、ゴールから逃げてくれという想いを込めて。GKのキャプテンが倒れたら、誰が雷門のゴールを守るんだ。
「おおおおおッ!!!!!」
そんな俺の思いとは真逆に、キャプテンは果敢にデスゾーンへ立ち向かう。ボロボロの両手でシュートを受け止め、威力を殺し続ける。だが、勢いが凄まじすぎるのか、徐々に両足がゴールラインに近づいていく。
「フン、無駄だ。デスゾーンを受けて生き残った者はいない」
「俺たち今サッカー中ですよね!?」
鬼道さんの超次元発言に驚愕しつつ、固唾を飲んでキャプテンを見守る。デスゾーンとの押し合い……キャプテンも負けじと食らいつくが……。
「──っ!?」
「──?」
「うわぁっ!?」
最終的にはその威力に押し負け、再び雷門ゴールは割られてしまった。ドサリと地面に倒れ伏すキャプテン。あんなシュートをモロに受けてしまったら、もう。
「今なにかを感じたな……」
「え……?なに……?」
「いや……気のせいか……」
隣で鬼道さんがブツブツ言い始めた……。聞いても何も答えてくれない。なんだ、そのゴーグルには何が見えているんだと言うんだ。
辛うじて立ち上がったキャプテンからボールを貰い、センターサークルへ。しかし、雷門イレブンでまだ立つ力が残っているのは俺と目金さんだけ。当の目金さんは帝国学園への恐怖で膝が爆笑している。産まれたての小鹿みたいだ。
審判のホイッスルでゲーム再開。目金さんからへなへなパスを受け、俺一人で帝国陣営へ切り込む。戦う気力が残っているのは、俺とキャプテンだけだ。なら俺がなんとかしないと。
スライディングをかわし、チャージを受け流し、DFラインへ。しかし、前半でずっと俺のマークに付いていたストーカーDF三人衆が立ちはだかる。
「調子に乗るなよガキがァ!!」
その3人に3方向からタックルを受け、押し潰される。ボールが足元から離れ、帝国側へ。
「ちくしょう……まだだ……」
「はっ!こんな状態でまだやろうってのか?」
「まだ試合は……終わってない……」
地面に顔をつけながら、残り少ない力で立ち上がる。足元はフラフラ、ボールを奪いに行く体力すら残っていない。だけど、俺が倒れる訳にはいかない。
「守るんだ……俺たちのサッカー部を……」
「はっ!やってみろよ!」
強烈なシュートが俺に目掛けて撃ち出される。避けることもままならないまま顔面にクリーンヒットし、地面に倒れ込む。
「まだ……だ……ボール……を……」
「お望みならくれてやるよぉ!!」
帝国の選手2人に腕を持たれ、強引にその場に立ち上がらされる。そこに飛んでくる強烈なキック。白黒の弾丸は俺の腹に綺麗にめり込んだ。
「ひャははは!哀れだなぁ!」
避けることも許されず、俺の体に何度も撃ち込まれる蹴弾。痛みが全身に走る度に溢れてくる後悔の念。なんでもっとちゃんと練習してこなかったんだと。
ようやく解放され、そのまま地面に倒れ込む。もう目を開ける力も残っていない。サッカーをする力なんてもってのほか。
ああ……このまま終わるのか……。
帝国に無様に負けて……サッカー部も解体……俺たち雷門イレブンも散り散りに……。
「……やだ」
そんなこと……。
「いや……だ……」
そんなこと、ゆるせない。
このまま雷門中サッカー部が終わるなんて、そんなこと……。
短い期間だったけど、必死に練習してきたんだ。
泥んこになって、汗まみれになって。
キャプテンだって、鉄塔で特訓を続けてきたんだ。
いつか俺たちがやる気になった時、頼れる人であるために。
その想いを……ここで……こんなところで終わらせちゃいけない……。
それだけじゃない……!
「──マジかこいつ……」
「まだ立つのか……!」
立つだけで精一杯、歩くことも出来ない。
だけど俺は、ここで立ち向かわなきゃいけない。
あの日……俺の心を奪ったサッカーを……。
日が暮れるまでボールを追ったあの日々を……。
サッカーへの情熱を。
終わらせる訳にはいかないんだ。
「──まだやれるぞ」
グラつく視界で敵を見据える。余力は皆無。けど、死ぬ気で足だけ動かす。まだ試合は終わっていない。まだ俺たちは負けてない。まだ……まだ……。
視界が薄暗くなり、景色がナナメに。あ、これトぶやつだ。ぐらりと揺れ動く体。ここで俺も終わりか。
そんな俺の体を待っていたのは固い地面ではなく、人肌を感じるものだった。
うっすらと目だけ小さく開くと、雷門のユニフォームを着た誰かが、俺の体を支えてくれている。
「だ……だれ……」
「……」
返事は無かったので少しずつ首を動かすと、薄い金髪を逆立てた男が、俺の体を支えてくれていることが分かった。この人……どっかで見たことあるな……。
「たしか……河川敷で……俺たちを見てた……」
「あとは任せろ」
記憶が思い起こされる。帝国との試合の為に河川敷で練習していた時、遠くから俺たちを見ていた男が1人いた。その人だ……間違いない……。
「出てきたか……豪炎寺修也……!」
鬼道さんの嬉しそうな声が聞こえる。そういえばあの人、誰かを引きずり出すって言ってたっけ。それがあの豪炎寺って人なのか?
自陣まで丁寧に運ばれ、ゆっくりと座らせられる。風丸さんが支えになってくれたおかげで、辛うじて豪炎寺さんの背中を見ることが出来た。
背番号10、目金さんと交代したのか。けど、何故かその背はやけに大きく映って見える。安心感っていうのか。この人ならなんとかしてくれるような、そんな気にさせてくれる。
「本命の登場だ。全員配置につけ」
鬼道さんの指示で帝国が陣形を展開。対する俺たち雷門イレブンは、まだ少数の人しか立ち上がることが出来ていない。
「もう一度デスゾーンだ」
鬼道さんのその言葉に背筋が凍る。まただ。またあの凶悪シュートが放たれる。
宙を舞う帝国ストライカーが、キャプテンに向けて再び黒い雨を降らす。キャプテンだってもうボロボロだ、そんな状態でまたデスゾーンを受けたら……。
「スゴ技……ノート……全身のエネルギーを……右手に……」
何かを呟いたと思うと、キャプテンはおもむろに右手を空へと掲げた。
「──ッ!?」
「なんだ……!?」
「アレはっ!?」
掲げた右手に込められたエネルギーが具現化する。
それは光の巨大な手になり、飛来する死の弾丸を迎え撃つためゴール前に立ちはだかる。
「"ゴッドハンド"!!!」
まさしく神の手と呼ばざるを得ない……そんな光景が俺たちの前に広がった。デスゾーンに真っ向から立ち向かい、光が闇を包み込むように収束していく。
「キャプテン……!」
思わず声が漏れていた。そしてこの時だったんだろう。俺たちの心に火がついたのは。円堂キャプテンが王者・帝国のシュートを受け止めたこの時に。
「デスゾーンが……止められた……!?」
「円堂……!」
「いよっしゃあ!!」
完璧なセーブだ。ボールはキャプテンの右手の中で勢いを失い、威力が殺される。すぐさまキャプテンは、今しがた止めたボールを前線へ投げ込む。
「行け、豪炎寺!!」
カウンターとなったそれは、先に前線へ上がっていた豪炎寺さんの元へ運ばれる。あの人は信じていたんだ、キャプテンがシュートを止め、自分の所までボールを持ってきてくれることを。
豪炎寺さんが空高く飛び上がると、その両脚に爆炎が灯る。
体を大きく回転させ炎に抱かれるようなモーションで、豪炎寺さんは鮮やかに舞っていた。
「"ファイアトルネード"!!」
左脚から放たれた炎弾は帝国ゴールへ伸びていき、キーパーを弾いてゴールネットを揺らした。
記念すべき雷門中の2点目のゴールだった。
「凄い……」
そうとしか言えなかった。
目の前で見せつけられた完璧なゴールにただ、俺は目を奪われていた。