俺がスリーポイントシュートを決めていたら…!
結論から言おう──帝国学園に勝ちました☆
疑問に思ったそこのあなた。ありのまま、起こったことを説明します。
豪炎寺さんがファイアトルネードっていうバチくそかっこいい必殺シュートで点をもぎ取った後、帝国学園の鬼道さんが突如として棄権を申し出たんだ。自陣に戻ってセンターサークルからリスタートするのかと思いきや、そのまま要塞バスに乗り込んでいくその背中はちょっとシュールでした。最初は新手のフェイントかと思ったよ。
以下、試合後のメンバーのコメント。
「俺たちの真の能力を感じてビビったんすかね?」
と壁山。君なんかしたっけ?
「帝国のヤツら……あんなに強えのになんでスリーポイントシュート撃たなかったんだ……?」
と染岡さん。いい加減スリーポイントシュートの事は忘れてください。
「20ー2?勝ちは勝ちでやんす、勝った方が正義でやんす」
と栗松。レッドカーペット片付けさせられて血祭りにあげられたヤツが何を言ってんだ。
とまぁこんな感じで心境様々ですが、あの帝国に勝ったという訳でサッカー部の廃部は免れ、なんなら校内でのサッカー部の地位も少し上がった。
「渚くんサッカー超うまいじゃん!」
「見てたよあのゴール!」
「ちょっと見直した!」
そして俺の地位も──。
帝国戦で初得点となった俺のシュートは学校内でも話題になり、ちょっとした有名人状態に。廊下を歩けば女子たちに声を掛けられ、部活の練習中に差し入れが学校のお姉様方から渡される。これが俗に言うモテ期というやつか……。ふふ、太陽の光が眩しいぜ。
「でもキャプテンのゴッドハンドもカッコよかったよな!」
「豪炎寺さんのファイアトルネードもな!」
加えて帝国にも通用する必殺技を目の当たりにした部員たちも、いつか自分たちもあんな風に技が出せるようになるかもしれない、とモチベーションも上がっている。結果として部活動に火がついた我々は、休みの日も学校のグラウンドや河川敷を使ってボールを追いかけた。帝国との試合は諸々と良い結果をもたらしてくれたんだ。
「フットボールフロンティア。中学サッカー界最強を決める大会。俺たちはこれで優勝を狙う」
バンとボロ部室の壁に叩きつけられたのは1枚のチラシ。中学サッカー日本一を決める大会のものだ。
「俺たちにももちろん参加資格はある。そして、出場するなら狙うは優勝!みんな、やってやろうぜ!」
キャプテンの言葉にその場の全員が賛同。気合十分って感じだ。ホント、数日前と比べようもない程の差だよ。それだけみんな燃えてるってことだから、良い事なんだろうけど。
「ゴールはキャプテンが守り、シュートは豪炎寺さんが決めてくれるから怖いものなしでやんす」
「ちょいちょいちょい、あの帝国さんの"初めて"を奪ったのを誰だとお思いで?」
「渚、お前はこれ以上目立つなでやんす。お前が女子にモテているのを見ると虫酸が走るでやんす」
「この栗まんじゅうめ……!その鼻の絆創膏引っぺがしてやろうか……!」
そんなこんなで当面の目標も出来たし、後はそれに向けて頑張るのみ。必殺技も使用者が増えたことだから、安定感も増すはずだ。う〜ん、実に超次元な話だ。
そうさ、キャプテンと豪炎寺さん、オマケに俺の技があればフットボールフロンティア優勝だって夢じゃない──。
「サッカー部には入らないぞ」
「ぶべぇ!!??」
豪炎寺さんの一言に、飲んでいたオレンジジュースを盛大にぶちまけた。
昼休み、たまたま豪炎寺さんを見つけた俺は彼をランチに誘い、中庭で一緒にご飯を食べていた。〆のオレンジジュースを飲んでいた時に出てきたのが上の言葉。驚きのあまり口からオレンジジュースの噴水が湧き出たのだ。
「な……ナンデ……!?なにゆえ……!?もしかしてユニフォームダサかったですか!?」
「正直それもある」
あるんかい。凄い凛々しい顔で言うなこの人。
「冗談はさておきだ。俺はもうサッカーはやらないと決めてるんだ」
「……なんか訳アリって感じすね。内容は聞いても?」
少し遠い目をした豪炎寺さんは、少しだけ間を作ってから話し始めてくれた。やけに神妙な面持ちだ。
「サッカーの試合を応援しに来てくれる予定だった妹が、トラックに轢かれたんだ」
「……え?」
想像の遥か上を行く言葉に息を飲む。妹さんが……トラックに……?
「去年から寝たきりなんだ。一向に目を覚まさない。──俺は思うんだよ。サッカーさえしてなければ、優香は今も元気にいてくれたんだろうなと……」
「そんなの……」
違う、関係ない──。そう強く訴えたかった。
だけど、色んな感情が混ざっていた豪炎寺さんの横顔を見ると、そんなことは言えそうにない。
責任を感じているんだ、そしてそれを背負い込んでいる。だからこの人は、サッカーを捨てる選択をした。簡単な選択じゃ無かったはずだ。
ファイアトルネード──。技の鮮やかさは今でも俺の脳内に色濃く焼き付いている。あんな凄い技を放てる人が、そう簡単にサッカーを捨て去ることなんて出来るはずがない。苦しい選択だったはずだ。
それを……赤の他人である俺が無責任に……一緒にサッカーをなんて……言えるはずもなかった……。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。豪炎寺さんはベンチから立ち上がった。
「お前のシュートは見ていた。立派な才能だ。凄いストライカーになれるさ、きっと」
そう言い残して豪炎寺さんは校舎へ戻って行く。
僅かな寂しさを感じさせるその背にかける言葉を、俺はまだ知らなかった。
〇
「やっほー、渚くん」
「あー?」
「私のことわかる?帝国の時、木野先輩の横にいたんだけど」
「うーん?」
「もしもーし?人の話聞いてるー?」
「うんばっば」
「もうっ!何そのテキトーな返事!」
バン!と机を叩かれ、大きな音に思わず飛び上がる。何事かと思って見ると、いつかの青髪メガネが席の前にいた。何やらムスッとしている。俺、何かやっちゃいました?
「あ、ああ……。あんたは確か……」
「うんうん」
「無許可でベンチ入りをし、物知り顔で試合の分析をしていたよー分からん女の人」
「な……なにその認識!ひどすぎない!?」
思ったことをそのまま言葉に並べると、物凄い迫力で青髪メガネが迫ってきた。きょ、距離が近い……。もう少しパーソナルスペースってやつをだな……意識してもらって……。
オホン、と息をつき、青髪メガネは話し始めた。
「私は音無春奈。今は新聞部だけど、サッカー部のマネージャーになりたいの」
「あ、そーなんだ。そんじゃよろしく」
「あ、うん。よろしく……。まぁまだキャプテンとかに何の話もしてないんだけどね……」
「ああ、うちのキャプテンなら特に細かい話なんてしなくても平気だと思うよ。木野mgには通しといた方が良いと思うけど」
「そんな感じね、OK。この後顔出す予定だったから、その時一緒に挨拶しておく」
キャピキャピというか、テキパキしてる子だなぁと思う。音無春奈……か。
「見た感じ俺とタメだよね?何組?」
「いや同じクラスなんですけど……。もしかして知らなかった……?」
「ははは、こいつは失敬」
同じクラスの子でした。普段からサッカー部の子としかつるんでないからな。あんまり他のコミュニティのことは知らないのだ。ちなみに俺のクラスにサッカー部は俺だけ。つまりクラスではぼっち。そこんとこヨロシク。
「んもー、じゃあ連絡先交換ね。──はいありがとう。それでさそれでさ、次の試合の話聞いた?」
「試合ー?」
流れるように連絡先を登録され、次の話題に移っていく。なんだこのコンテンツの消費速度。現代日本の生き写しみたいなヤツだな。
「そ、試合!帝国に勝ったでしょ?それを聞きつけた他校からの練習試合の申込が殺到してるらしいの」
「ふ〜ん。さしずめ、帝国を倒した俺らに勝って、知名度を上げようって魂胆かな?片腹痛いわ!」
「まぁそんな感じだと思うよ。でねでね、次の試合の対戦校がさっき決まったようなの」
「部員より情報早いやん。さてはお前も帝国のスパイ?」
「んなわけあるか……!」
あ、良かった違った。疑わしいことしたらすぐに帝国のスパイ扱いするのやめた方がいいかも。
「次の対戦校はね──尾刈斗中よ!!」
声たかだかに言い放たれたその校名。
尾刈斗中……オカルト……オカルト……ね。
「ふん……名前でビビらそうったってそうはいかないぜ……!音無、お前マネージャー志望?だったら塩買ってグラウンドに盛り塩作っとけ!あとなんかスピ系の人をお呼びしろ!!」
「名前聞いただけでビビってるじゃない……」
別にそんなんじゃねーし。ただなんか相手が怪しいことしてきたら対策出来るかなって思っただけだし。だからこのブルブル震えてる膝は怖いからとかじゃねーし。
ともかくだ。せっかくの試合、気合を入れていかないといけない。それに今回も帝国戦と同じように勝ちに行かないと。いつあのお高く止まった理事長の娘──雷門夏未が廃部の2文字を突きつけてくるか分からない。皆がやる気になっている今、水を刺されたらたまったもんじゃない。
──俺はもうサッカーはやらないと決めてるんだ。
豪炎寺さんの言葉が思い起こされる。本当ならあの人にも力を借りたい。だけど、そう身勝手な事ばかり言うことは出来ない。帝国戦で助けてもらった……それで充分じゃないか。豪炎寺さんになれるかは分からないけど、あの人のように俺たちも頑張ればいいだけだ。
「ようし!そうと決まれば早速練習開始だ!行くぞ音無!」
「──わっ!?ちょっといきなり引っ張らないでよ!」
大丈夫、皆で力を合わせれば出来ないことなんて無いさ。
そう信じて、俺と音無は部室へと向かった。