塩の御加護を受けた俺に死角はない
半田さんが尾刈斗中から先制点を奪取──!!
しっかり必殺技を習得してきた我らが先輩のゴールで、雷門イレブンは確実に勢いづいていた。
「うらあああああ!!!でやんす!!!」
物凄い剣幕でスライディングを繰り出す栗松。しかしそれはヒョイっと優にかわされてしまっていた。どうやら彼は勢いだけらしい。
「喰らえ、ファントムシュート!!」
DFラインが突破され、雷門ゴールへ尾刈斗の必殺シュートが撃ち込まれた。ファントムシュート……?なんだアレは……ボールが何個にも増えて見える……?もしかしてインチキ……?
「ゴッドハンド!!」
──が、尾刈斗の小細工もどこ吹く風とばかりにキャプテンはシュートを受け止める。信頼の塊──ゴッドハンドだ。
「皆ぁ!まだまだ攻めるぞぉ!」
頼もしいったらありゃしない。ゴッドハンドがあれば安心して攻撃に出られる。
「俺にボールを回せッ!!」
前線で染岡さんが叫んでる。それを聞いた少林がロングパスを放る。大きな弧を描いたパスが、尾刈斗の守備ラインへビヨーンと伸びて行った。
「ははは、少林。そんな緩やかなパスが通るかいな」
それを見て思わず笑う。流石に尾刈斗中を舐めすぎだよ。
「おぉらぁ!!ナイスパスだ少林!!」
「あ、通った」
それを染岡さんが執念でトラップ。敵DFに競り勝ちながらゴール前フリー。
「くぅらえ!!これが俺の必殺──"ドラゴンクラッシュ"だぁ!!!」
──やはり完成させていたか、染岡さんも。
染岡さんの右脚に青白い光が収束する。すると背後から青い竜が顕現し、染岡さんのシュートと共に咆哮。そのまま勢いよくゴールへ放たれていく。
「すげぇ!!」
「ど、ドラゴンだ……!あいつドラゴンを呼び出しやがった……!」
その様を見て盛り上がる雷門イレブン。青い弾丸は敵GKの手に触れる事なく、ネットを揺らした。速い……スピードだけなら俺のアクアブレイクよりも上かもしれないな……。
「いよっしゃあ!2点目だぁ!!」
笑顔の染岡さんが自陣へ戻って行く。あんなに悩んでいたのが嘘のようだった。メンヘラ彼氏みたいなオーラだしてたくせに。
「どんどん凄くなっていくな、このチームは」
自陣へ戻る最中、肩を並べてきた豪炎寺さんが言う。2点目を取って喜びに包まれるイレブンを見て、豪炎寺さんも口角を上げていた。
「惹かれちゃうんですよね、あの熱血キャプテンに」
「円堂にか?」
「はい。あの太陽みたいに眩しい人がいるから、自然と」
「……俺もそのうちの1人なのかもな」
そんなこんなで前半終了。2点のリードを保ったまま、俺達は後半戦へなだれ込むことに。
だけど、本当の戦いは後半から始まった──。
「お前ら!!奴らに本当の恐怖を刻み込んでやれ!!」
物騒な事を言い始めたのは、尾刈斗中の監督さんだ。試合前、俺と豪炎寺さんに挨拶をしてきたアイツ。あの時の爽やかな出で立ちは微塵も感じさせない、荒々しい声を上げていた。
「まーれまーれまれ止まれ……まーれまーれまれ止まれ……」
「──?なんだあの人、なんかブツクサ言い始めたぞ」
「気でも触れたでやんすかね?」
次の瞬間にはお経のような言葉をブツブツ言い始める始末。なんだアレ、新手の妨害か?監督ってか大人がそんなことしてきていいの?
「喰らえ……!"ゴーストロック"!!」
尾刈斗の目隠しが変な動きをし始めた。手のひらを俺達の方へ向けて来たけど……。手相でも見て欲しいのかな?
「まーれまーれまれ止まれぇ!!!」
その時だった──。体に違和感が生じる。厳密に言うと下半身。
「あれ……?なんだ……?」
「足が……動かん……?」
奇妙な出来事が俺たち雷門イレブンを襲う。足が動かせない……まるで石になったみたいに……!
「もらったよ……!」
目隠しにボールを奪われる。そのまま彼は一気に前線へ。しかし、それを止められる者は誰もいない。ただ目玉だけを動かして、その姿を追うだけ。
「ちょっと、あなたたち何をしているの!」
ベンチから夏未お嬢様の声が聞こえる。ありゃお怒りだ。そりゃそうさ、傍から見たらボーッと突っ立って敵のエリア内への侵入を許してるんだから。けど俺たちもふざけてる訳じゃない、本気で足が動かない。
「ちょっと渚くん!塩!塩の柱はどうしたの!」
「想定外だ!思っていたよりオカルトパワーが強かったわ!」
「頼りになんないわねもうーっ!」
音無も声を荒らげている。チクショウ尾刈斗中め、想像よりやるじゃないか……!ふざけた見た目だけどその実力はホンモノだったか。
──っていうかこの状況かなりヤバくないか?見たところキャプテンも動けなさそうだし、DFも機能していない。こんなのやられ放題になるんじゃ……。
「ハハハ、ガラ空きだな!シュート!」
尾刈斗中の目隠しが楽しそうにボールを蹴る。キャプテンは必死に腕を伸ばすが、案の定ゴールネットが無惨にも揺れる。得点を知らせるホイッスルが鳴り響くと同時に、俺たちの体に自由が帰ってきた。
「ほほほ……ホントに体が動かなかったッス!こ、これが呪いってやつッスか……!?」
「情けないことを言うな、壁山!こんなの何かの間違いさ!」
「間違いって風丸さん……。こんなの呪いとしか言いようがないッスよ……!」
動揺が隠せない我々雷門イレブン。尾刈斗イレブンはその様子を見てニヤニヤしていた。例の監督は嬉しそうに拍手をして得点を祝っている。う〜ん……一体どんな手を使ってるんだ……。
「──チッ!狼狽えんな!とにかく俺のドラゴンクラッシュで点を取り返してやる!」
吠える染岡さん。試合を再開しボールは再び尾刈斗ゴール前へ。染岡さんがシュートモーションを取ると、青いドラゴンが顕現される。
咆哮と共に繰り出される蹴弾、誰もが3点目を取ったと安堵した時──。
「──"ゆがむ空間"」
敵GK──仮面を付けたジェイソンみたいな選手が、腕をくねくねし始めた。すると、ジェイソンの周囲がボヤけて見えてくる。……なんだ?目に砂でも入ったか……?
決まるかと思ったドラゴンクラッシュは、ジェイソンが歪ませた空間によって威力が減退していき……。
「ぬぁにぃ!?」
すっぽりと腕の中に収まった。その状況に唖然とする雷門イレブン一同。嘘だろ、完全に決まると思ってたのに。
「ちょいちょいちょいちょい染岡さん!数分前に初披露した技がもう止められてますやん!自称・雷門の点取り屋の異名が泣きますよ!」
「自称言うな、ぶっ飛ばすぞ!!」
ご立腹な染岡さんを尻目に、ジェイソンは目隠しにロングパス。不敵な笑みを浮かべた目隠しが、再びあのポーズをとった。
「この試合はもらったよ……ゴーストロック……!」
「うお……!なんだよぉ〜もぉ〜!またかよ〜!」
またまた訪れるゴーストロック。雷門イレブンの足が再び止まる。待って、これフツーに詰みじゃね?これ連発されたら勝てないよ。
「ぐぎぎぎ……!おい栗松、お前何とかしろ!!」
「無理でやんす!おいらの体も動かないでやんすから!」
目隠しが吸血鬼みたいな奴にパス。それを受けた吸血鬼は悠々とボールをゴールへ押し込んだ。笛がなった瞬間、俺たちの拘束は解かれる。
「あっという間に2-2の同点じゃねぇか……」
スコアボードの得点が入れ替えられる。半田さんと染岡さんで作った貯金がパァになった。
ゴーストロック……一体なんなんだよあの技は……。急にこっちの足が動かなくるってどういうことだ?超次元サッカーといっても限度があるだろ限度が。
「ククク……呪いの恐ろしさがようやく分かってきたみたいだね……」
「なに……!?」
自陣に戻る目隠しがすれ違いざまに煽ってきた。
「帝国から1点を奪った君の実力を見に来たんだけど、思っていたより大したことは無いみたいだ。拍子抜けだよ」
「こ、こいつ……言いたい放題言いやがって……!」
「ゴーストロックの謎を暴かない限り、雷門に勝利は無いよ。そうだな、帝国は20点だから、僕らは30点取ってあげようじゃないか」
「さ、30点だとぉ……!」
そんな点数ありえるのか……?バスケやバレーじゃあるまいし、サッカーで30点て。しかももう後半は始まってるんだぞ。
雷門ボールで試合再開。──と同時にゴーストロック。あっさりボールは奪われ尾刈斗イレブンが俺たちの陣地へなだれ込んでくる。
そのまま3点目のゴールが決まる。くそ、なんなんだこの理不尽サッカーは。こんなのされるがままじゃないか。ええい、こうなったら審判に直談判だ。
「ちょっと審判!あいつら……尾刈斗はセコ技を使ってますよ!さっきから俺たちの足が動かないんだ!きっと何か仕込んでるに違いない!」
「うむ、実は私の足も動かなくなっていたんだ。あの目隠しをした選手が変なポーズを取った直後にね」
「アンタもかかってたんかい!」
だめだこの審判……俺たちと同じ穴の狢だ……。
よく考えろ……必ず何かタネがあるハズだ……。そうじゃなきゃ、あいつら今ごろ世界を獲ってるぞ……。むしろなんでサッカーやってんだって話だ……。
「渚、おいら全てが分かったでやんす」
近くに来た栗松が耳打ちしてくる。
「なにぃ?聞かせろ早く」
「あの監督が怪しいと見たでやんす」
栗松が親指で尾刈斗の監督を指さした。やけにニコニコしているな、自分たちが勝ち越しているから気分がいいんだろう。
「アイツが何かしてるのか?」
「催眠術でやんすよ。おいら、この試合が始まるまでの期間でちょっと勉強してきたでやんす。例のゴーストロックを使っている時、あの監督がブツブツ何かを言っているのは気付いてたでやんすか?」
少し前のことを思い出す。そうだ……確かにゴーストロックを使っていた時、あの監督がブツブツ何かを唱えていた……。呪文……みたいな……。
「まーれまーれまれとまれ……ってやつか?」
栗松が指を鳴らす。
「つまり、あの呪文をかき消してしまえば──」
「ゴーストロックは破れる!」
俺たちはハイタッチをする。完璧な分析だ。これで尾刈斗中のセコセコ戦法も終わりを迎える。そうなりゃこっちのもんさ。
再開のホイッスルが鳴った。敵陣へ駆け上がる俺たち雷門イレブン。しかし、またもや尾刈斗の奴らはゴーストロックの構えを取り始める。
「まーれまーれまれとまれ……。まーれまーれまれとまれ……」
ビンゴ、やっぱりあの監督がまれまれ言い始めた。あれだ、あの呪文が言霊になって、俺たちの足を動けなくさせていたんだ。タネが分かれば怖くない、後はやるだけだ。
「そう何度も同じ手を食らうか!いけ、栗松!」
「任せるでやんす!」
瞬間、栗松の姿がフィールドから消える。常人の目には捉えられない程の超スピード、これが栗松の真の力。
「隙だらけでやんす!」
あの耳にこびりついて離れてくれない独特な声が、少し離れた所から聞こえてくる。顔を向けると、栗野郎は尾刈斗の監督の背後に回っていた。
「なっ……!?」
「栗松!?いったい何を!?」
慌てふためくのはいつだって一般人。栗松の挙動に尾刈斗だけじゃなく味方である雷門イレブンさえも度肝を抜かれている。誰もが次の栗松の起こすアクションに気を取られている中、俺だけはただ1人薄ら笑いを浮かべていた。
「やっちゃいなー!!」
「うらぁぁあ!!"うしろのしょうめん"!!でやんす!!」
膝カックン──。後ろから相手の膝の裏あたりを軽く押して、膝を一瞬ガクッとさせるいたずらのこと──。しかしこれは一般社会でのこと。俺たちがやっているのは超次元サッカー。それゆえ、ただの膝カックンに見えてもそれはただの膝カックンではない。
栗松の膝が尾刈斗監督の膝を折る……そんな生易しいレベルじゃない。栗松が行ったのは"カックン"とはない、それはもはや"両膝蹴り"。
「うぐぉああああ!!!」
痛々しい声を上げながら、オカルト監督は立っていた場所から吹き飛ばされる。ただの膝カックンでこの威力、これがうしろのしょうめん。オカルト監督はぴょーんと空を飛んで行き、対面にあった雷門ベンチの近くの地面に突き刺さった。音無が小さく悲鳴をあげていた。
「いよぉし、ナイスだ栗松!ほら、足も動くぞ!やっぱりアイツの呪文のせいだったんだ!」
「ゴーストロック、破れたり!でやんすね!渚、そのまま決めちまえでやんす!」
周りが呆然としているなか、俺はボールをゴール前まで運び、シュートモーションに入る。
「アクアブレイク──!!」
水流を纏った蹴弾が棒立ちのジェイソンの真横を通り抜け、ゴールネットを揺らす。決まった、同点ゴールだ。これが俺と栗松の連携技。恐れ入ったか。
「よぉし次だ次!さっさと逆転して、美味いラーメンでも食べに行きましょうぜ!──あれ?」
ゴールを決めパッと振り返る。目の前に広がっていた光景に俺は目を丸くした。
なんと栗松がレッドカードを出され、フィールドから出ていく様が。なんだアイツ……なんであんな警察に連行されてるような雰囲気が出せるんだよ……。周りの皆も悲しそうな瞳をしている。そんな何か悲しい事件が起きたみたいな。あ、オカルト監督は泡吹いてる。
「尾刈斗中監督への悪質な行為により、栗松くんは退場!たった今の渚くんのゴールもノーカウント!監督不在により試合続行は不可能と判断。栗松くんの過失など総合的な観点から、この試合、尾刈斗中の勝利!!」
え──……?
そんなこと……ある……──?
コートの四隅に立てられた塩柱が崩れさる。
染岡さんが怒りのオーラを纏いながら栗松の胸ぐらを掴む。
「こんな……こんな痴態を晒すなんて……」
夏未お嬢様の肩がわなわなと震えている。あれ、そーいえば試合に負けたら俺たち──。
「サッカー部は廃部よ!!これは理事長の言葉と思ってもらって結構です!!」
廃部──重くのしかかる2文字──。
俺たち雷門中サッカー部の歴史は、粛々と幕を下ろしたのだった。