超次元じゃなきゃ生きられない!   作:みかんフレーク

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【前回のあらすじ】
シャ〜!ガラスもピカピカ!


第9話 俺たちのサッカー

フットボールフロンティア、1回戦。

 

 我らが雷門中と野生中の試合が、間もなく始まろうとしている。

 

 スパイクの紐を固く結び直し、軽く水分を補給する。最後にもう一度、念入りに脚を伸ばしておく。

 

 待ちに待った公式戦だ。今までのような「負けたら廃部」という崖っぷちの戦いとは、若干ベクトルが違う。とはいえ、負ければそこで敗退。後がないという点では、同じ状況だった。

 

「渚クン、だっけ? さっきの姿、カッコよかったよ」

 

 脚を伸ばしていると、すらりとした長身の人が傍にやって来た。

 

 土門さん。ついさっき、このサッカー部に入部してきた2年の先輩だ。人のよさそうな笑みを浮かべて、俺を見ている。

 

「ちょっとムカついちゃったんで。それに、音無が困った顔してたし」

 

「それであんなでかい男に立ち向かえるんだから、相当度胸あるじゃん。俺、ちょっとビビってたもん」

 

「ははは、ウソつくの下手だね、土門さん」

 

 土門さんが目をぱちくりとさせる。何のことだか分からない、とでも言いたげな顔だった。

 

「全然そんなふうには見えませんでしたよ。むしろ、ちょっと楽しんでたような」

 

「鋭いね~。あんまり隠し事とか通じないタイプ?」

 

 HAHAHA! と2人して笑い合う。

 

 この人、食えないタイプだ。

 

「兄ちゃ~ん!」

 

 土門さんと仲良くストレッチをしていると、どこからかそんな声が聞こえてきた。

 

 顔を上げると、小学生くらいの子どもが3人、雷門側のベンチに向かって手を振っていた。小さな楽器なんかも持っている。可愛い応援団だ。

 

「さ、サク! 何でお前がここに!?」

 

 リトルボーイたちの姿を見て、ひときわ大きな声を上げたのは壁山だった。慌てた様子で、小学生軍団のもとへ駆け寄っていく。

 

「だって、兄ちゃんがシュート決めるって言ってたから! 兄ちゃんの勇姿を目に焼き付けておこうと思って!」

 

 ああ、あれが例の――。

 

 壁山がこの前言ってた弟くんか。兄貴にあることないこと吹き込まれて、壁山こそ雷門のエースだと思い込んでいるガキンチョだ。

 

「だからって、こんな山奥まで来ることないだろ~!」

 

 壁山、すっごい困ってる。

 

 そんな兄貴を、弟くんはキラッキラの眼差しで見上げていた。尊敬してるんだろうなぁ。自慢の兄貴なんだろうなぁ。

 

 そりゃそうだよな。兄貴はカッコイイもんだからな。

 

「来るよ! だって雷門の人はみんな、兄ちゃんの舎弟なんだろ?」

 

「――!?」

 

「はい?」

 

「ゑゑ!?」

 

 不意に投下された爆弾。

 

 シャテイ? 今、あの子、舎弟って言った?

 

 壁山を見る。すごい。滝みたいに汗が流れている。

 

「ささささサク!? 急に何を……!?」

 

「えー! だって兄ちゃん言ってたじゃん! 雷門は俺がいないと駄目だって! 帝国に勝てたのも、兄ちゃんのオーラにビビってあいつらが逃げてったからだって! 尾刈斗中ってとこのカラクリを暴いたのも、兄ちゃんのおかげだって!」

 

 弟くんが意気揚々と、しかもデカイ声で、これまでの兄の功績を語り始める。

 

 その全てが虚偽。俺たちの知っている歴史が、壁山に都合のいい形へ塗り替えられていた。

 

「あと、マネージャーはみんな兄ちゃんに惚れてるって!」

 

「え……?」

 

「か、壁山くん……?」

 

 マネージャー陣の冷ややかな視線が、一斉に壁山へ突き刺さる。

 

 あいつ終わった。

 

 カッコつけたいばかりにテキトーこいてた罰が、今まさに当たっている。敢えて言おう、カスであると。

 

「壁山クーン、ちょっとこっち来ようか~」

 

「ひぃ!? そ、染岡しゃん!?」

 

 事のあらましを聞いていた染岡さんが、ヤクザみたいな顔で笑っていた。

 

 ヤクザスマイルとか聞いたことないぞ。人ってあんな顔ができるんだ。

 

 こりゃ今日の試合、壁山は出られないな。理由は、今からボコボコにされるから。

 

「壁山の話だと、音無はアイツに惚れてるってことらしいけど。ちょっと、その辺の真相を確かめてみようか」

 

「ちょっと! やめてよ!」

 

 音無をからかってみたら、ちゃんとキレられた。

 

 そんなに否定しなくても……。それはそれで壁山が可哀想な気も……。

 

 しないわ。全くもってしないわ。

 

「バカなこと言ってないで、さっさとコートに出なさい。もう試合始まるから」

 

「うっす~」

 

 音無に背中をはたかれ、コートへ向かう。ちょうど整列の時間だった。

 

 今日は新入部員の土門さんもスタメン起用だ。だが、壁山と染岡さんはまだ戻ってこない。

 

 2人が森の方へ消えてから、少し経つ。たぶん今頃、壁山はパンイチで木に吊るされているのだろう。

 

「あれ? 雷門中はメンバーが足りないようだね」

 

「ちょっと今、野暮用で……。あ、戻ってきました! あそこのピンク坊主と緑のデカブツがスタメンです」

 

 審判に答えたところで、タイミングよく2人が戻ってきた。

 

 染岡さんの頬には返り血がつき、壁山のユニフォームからは袖がなくなっていた。

 

 一体どんな仕打ちを受けたのだろうか……? そっちが気になって、試合に集中できそうにないぜ。

 

「焼きを入れといたぜ。壁山ァ! お前、この試合で活躍できなかったら、東京にいられなくなると思えッ!!」

 

「は、ハイっすぅ!!」

 

「トンデモ展開になってるじゃねーか」

 

 完全にヤクザと、それに従う子分だった。

 

 東京にいられなくなるって……。そんな、人を追放できるような力持ってんの、染岡さん。

 

 弟くん見てみろよ。尊敬していた兄貴の無残な姿を見て、半泣きになってるよ。完全にトラウマになってるよ。

 

「試合開始ぃ!!!」

 

 ピーッとホイッスルが鳴り響き、雷門ボールで試合が始まった。

 

 豪炎寺さんから届いたボールを、そのまま少林へ流す。パスを出した俺も、一気に敵陣へ駆け上がる。

 

 少林から半田さん、マックスさんへ。テンポよくパスが繋がり、あっという間にゴール前まで攻め込んだ。

 

 再び俺の足元へ戻ってきたボールを、高く蹴り上げる。狙うのはもちろん、豪炎寺さんだ。

 

「やっちゃってください、豪炎寺の兄貴!」

 

「おう!」

 

 応じた豪炎寺さんが宙へ跳ぶ。その脚に炎が現れ、身体の回転に合わせて勢いを増していく。

 

 燃え盛る炎をまとい、豪炎寺さんがゴールへ狙いを定める。

 

 決まった――誰もがそう思った、その時。

 

 地上から、何かが跳ね上がってきた。

 

「やらせないコケ!」

 

「!?」

 

 豪炎寺さんの背後に、小柄な選手が現れる。ニワトリのトサカみたいな髪形をした、あの男だ。

 

 豪炎寺さんが脚を振り抜くより早く、そいつの足がボールをさらっていった。

 

「ウソだろ……! 本当に映像で見た通りじゃないか……!」

 

 野生中の試合ビデオは確認済みだった。そこには、ずば抜けた跳躍力を誇る選手が1人映っていた。

 

 それが今、豪炎寺さんから空中でボールを奪った、あのニワトリだ。

 

 なんて高さだ、ありゃ。人間業じゃないぞ。

 

「コケ! 空中で俺に勝てる奴なんざ、この国にはいないコケ!」

 

 それは言い過ぎだろ……と思ったけど、口には出さないでおいた。

 

 奴は国というもののスケールを見誤っている。

 

 だが、今この場にいる誰よりも跳躍力があるのは事実だ。DFラインを指揮しているのも、たぶんアイツだろう。

 

 あのニワトリを攻略しない限り、野生のゴールを破るのはなかなか厳しそうだぞ。

 

「カウンターだ!!」

 

 野生の守備陣から、ロングボールが放たれる。ボールは一気に中盤を越え、前線の選手へ渡った。

 

 まずい。俺たちは皆、攻め上がっていた。ボールを失った今、守備に戻るのが間に合わない……!

 

 ゴールへ迫る野生のストライカー。絶好のシュートチャンスだ。向こうにとっては。

 

 こっちにとっては絶体絶命だ!

 

「おっと! そう簡単にはやらせないぜ!」

 

「ど、土門さん!」

 

 その進路を塞ぐように、土門さんが飛び出した。

 

 皆で攻め上がっていたと思ったが、彼だけは違ったらしい。カウンターを警戒して、後ろに残ってくれていたんだ。

 

 いいぞ、素晴らしい判断だ!

 

「いくぜ!! “キラースライド”!!」

 

「ひ、必殺技だぁ!! まさか使えたのか!?」

 

 土門さんが地面すれすれまで姿勢を落とす。

 

 次の瞬間、その脚が何本にも増えて見えた。幾重もの残像を引きながら、相手の足元へ滑り込んでいく。

 

 これがキラースライドってやつか。

 

『俺のスライディングは人を殺すぜ』

 

 挨拶した時に言っていたことを思い出す。

 

 なるほど、キラーは殺し屋。名は体を表すってやつか。

 

「喰らえぇぇぇ!!!」

 

「ぐぎゃあああ!!!」

 

「!?」

 

 キラースライドをモロに喰らった野生の選手が、物凄い叫び声を上げながら宙を舞った。

 

 なんだアレ。ただのスライディングだろ? なんで人が上空に飛んでいくんだ……!?

 

「いいぞ、土門!!」

 

 キャプテンが土門さんの活躍に声を上げる。

 

 いや、よくはないだろ……!

 

 相手の選手、頭から地面に墜落してピクピクしてるぞ……! なんでこれがファウルじゃないんだ……? そして、なんで審判は何も言わないんだ……!

 

「もう一丁だ! 行ったれ、ピンク坊主!」

 

「誰がピンク坊主だ!」

 

 奪ったボールを、土門さんが染岡さんへ回す。

 

 気付いたら、ピンク坊主のあだ名が浸透していた。こうなったら後が怖いぞ。

 

「俺のドラゴンクラッシュを喰らわせてやる!!」

 

 叫びながら、染岡さんがシュートモーションに入る。

 

 その周囲に青い龍が現れ、咆哮を上げた。染岡さんが脚を振り抜けば、そのままゴールへ襲いかかる――はずだった。

 

「“スーパーアルマジロ”!!!」

 

 横合いから、丸まった巨体が突っ込んできた。

 

 猛烈な回転をかけたそいつは、まるで弾丸だ。シュートを放つ寸前の染岡さんに、容赦なく激突する。

 

「うぉぉぉああ!!!!」

 

「そ、染岡さーん!!!」

 

 吹っ飛ばされた染岡さんが、そのままコート脇のフェンスに叩きつけられた。派手な音が響き、もうもうと砂煙が舞い上がる。

 

 だ、大丈夫かアレ。トラックにはねられたみたいになってたけど……。

 

「おぉい! 今のは完全にファウルだろ!! 染岡さん、生きてますか!? 自分の組の名前を言えますか!?」

 

 砂煙の向こうで、染岡さんがわずかに顔を上げた。

 

「――……お、お前らといた数ヶ月……悪くなかったぜ……」

 

「――!?」

 

 染岡さんが、ゆっくりと目を閉じる。

 

 そして、そのまま動かなくなった。

 

「染岡……!?」

 

「染岡さんがやられた……!?」

 

 試合会場にどよめきが広がる。流石の俺たちも、動揺を隠せなかった。

 

 一方、染岡さんを吹っ飛ばした野生のライオンキングは、鼻くそを食っている。

 

「さ、サッカーで人が死んだ……!?」

 

 突きつけられた現実……。

 

 動かない染岡さん……。

 

 これが超次元サッカー……なのか……!?

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