チャンピオンの後継者   作:ケツアゴ

1 / 1
プロローグ

「皆様、出棺の時間となりました。どうか最後はあのコールで見送って下さい」

 

 未だ中学生になる前程度の少年がマイクを持つ中、豪華な棺が車に担ぎ込まれる。

 

 この日、とある元ヒーローの葬儀が取り行われていたが、集まったファンは年配が多い。

 

 無理も無い話だ。活躍していたのは不動のNo.1であるオールマイトがデビューするよりも前。オールマイトのデビュー後に後進の育成に方針を変更、以前より行っていた道場に集中する事になった。

 

 その道場も時の流れと彼の老いによっての指導者不足で寂れてしまっている。

 

 だが、格闘技が形骸化するより前の時代における世界チャンピオンであり、元No.1ヒーロー。

 

 彼を忘れ去っていない往年のファンに加え、自分達が姿を見せれば騒ぎになるからと離れた建物から棺を乗せた車を見送るのは錚々たる面々だ。

 

「急だったなぁ。師範もお歳なのは分かっていたけれど……」

 

「俺が知っている奴は殺しても死ななさそうな男だったがな」

 

 デビュー前、高校入学前に道場に通っていたオールマイトと現役時代の彼を知るエンデヴァー、他にはヨロイムシャやグラントリノといった年代が被るヒーローが集まっていた。

 

「もう出発するみたいだね……」

 

 オールマイトが別れを惜しむ様に呟く中、車が出発すると同時にそのヒーローが現役時代に行われていたコールが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

サーターン! サーターン!サーターン! サーターン!

 

「やっぱり彼の見送りと言えば、これしかないよね。相棒と二人で手を振って……あの場合2人って言えるのか分からないけれど」

 

 亡くなった彼の名は阿久間 英雄(あくま ひでお)・ヒーロー名【ミスターサタン】。多くの人を救い、その中には未熟な頃のトップヒーローも多く含まれる英雄であった。

 

 

 

 

「……やっと終わった。遺産の処理は専門家に任せるとして……」

 

 喪主をやり切った疲れからかソファーに倒れ込んだのはサタンの孫の扱吸(そうきゅう)

 

 彼にとって最後の血縁者だったサタンを喪った事に未だ現実味を感じない彼は暫く考え事をした後で部屋に居ない筈の誰かに話し掛けた。

 

「今更だけれどお爺ちゃんと一緒にいかなくて良かったの?」

 

『サタン、お前の事を心配してた。だから、俺が一緒に居る』

 

 彼にだけ聞こえる声で返事が戻ってくる中、何気なくテレビを付ければ追悼番組をやっている局があった。

 

 そこで語られるのは治安が悪化していた時代に活躍した救世主としてのサタン。

 彼にとって祖父は見えっ張りで臆病で優しくて勇敢な人で、救世主と称えられても同じ人物とは思えない。

 

 ただ、こうやって追悼する番組を見ることで、本当に死んだのだと思うことができた。

 

『大丈夫だぞ。俺達が忘れない限り、サタンずっと一緒。サタン、友達。ずっとずっと友達。俺、サタンのことずっと忘れない』

 

「そうだね。僕もお爺ちゃんを絶対に忘れないよ」

 

 この時になって漸く涙を流せる中、スマホに連絡が入った。登録されている番号でピッコロの表示。

 

 祖父の友達で今後後継人になってくれる相手からの連絡だった。

 

 

 それとは別に家電からの着信履歴が二つ。出久と克己、幼馴染二人の家からだ。

 

 

「うーん。これは早めに連絡しないと、後からやかましいぞ。特にかっちゃんは絶対面倒になる」

 

 時は流れ、扱吸も高校入試の時期を迎えていた。志望校は雄英高校ヒーロー科。

 

 士傑学園も候補に入っていたが、保護者であるピッコロから自分が教師をしているから甘えが出るとして却下された。

 

『今回は俺は出ないぞ。お前だけで頑張れ』

 

「うん。分かってるよ。それにしても……かっちゃんも出久も相変わらずだったなあ」

 

 試験の内容は対ロボットによるポイント稼ぎ。三種類のロボットを倒す事で得られるポイントが成績になるのだが、彼の目の前には三体の1Pロボ。

 

『目標発見! ブッ殺ス!』

 

「ダイナマイトキック!!」

 

 正面から突っ込んでくるロボットに彼が放ったのは空中での連続飛び蹴り。

 三体の頭部を一撃で破壊した後に残骸を踏み台に近くのロボットの真上に次々と飛び移りながら破壊して行く。

 

「おっ! あれが例の3Pか」

 

 彼の目の前には二体の3Pロボット。背中にミサイルランチャーの様な物を取り付けた相手に対して扱吸の腕からピンクの肉塊が生み出され、それが広がって二体を包み込むと彼の体に吸収される。

 

 次の瞬間、彼に背中にロボットと同じミサイルランチャーが出現した。

 

「それじゃあ高い所からロボットを探そうかな」

 

 一瞬だけ彼は目を閉じて集中する。真下から風が吹く様に髪が動き、体が宙に浮いた。

 

「早速発見! たっまやー!!」

 

 そして受験生の放つ音に反応して寄って来たロボットに背中から放たれるミサイルの雨。

 次々にロボットを破壊する中、扱吸が視線を向けたのは腕を押さえて蹲る生徒。

 

 どうやらロボットの攻撃と壁の間に腕が挟まれたせいで酷い青痣になってしまったらしい。

 

「ちょっと見せて。うんうん、この程度なら直ぐに治せるからジッとして」

 

「え? ちょっと……」

 

 相手が返事をする前に彼が手を翳せば淡い光に包まれて怪我が癒えて行く。

 

「は? なんで……」

 

「義を見てせざるはなんとやらって奴さ。じゃあ、次があるから」

 

 こうして扱吸は視界に入った仮想ヴィランであるロボットを倒し、怪我人を癒したり倒したロボットの下敷きになるなどした他の受験生を助ける中、地響きが起きた。

 

 説明にあったお邪魔キャラ。倒しても意味の無い0Pであり、その巨体に他の受験生が逃げる中で真正面から見据えていた彼の横から知った顔が現れた。

 

「あぁ? 何をボーッとしてやがんだ?」

 

「やっほー。かっちゃん、久しぶり。どうせなら最後に一番強いのに挑みたいと思ったけれど、かっちゃんは逃げるよね?」

 

「ざっけんな! 俺だけでぶっ殺す気だったわ、ボケ!!」

 

 それを聞くなり彼は幼馴染である爆豪克己の襟首を掴んで飛び上がり、ロボットの顔面まで運ぶと放り投げる。

 

「サタンミラクルスペシャルウルトラスーパーメガトンパンチ!」

 

「死ねぇ!!」

 

 強烈な爆破と同時に叩き込まれた拳は一見すると威力が無かった様に見えるが、爆破で損壊したロボットの頭部は二秒後に発生した衝撃によって完全に破壊されて巨体が倒れて行く。

 

「はい、キャーッチ! そして……ケーキになっちゃえ!!」

 

 彼は再び克己の襟首を掴み、続いて口から発生したピンクのビームが命中したロボットの残骸はケーキになって本来よりも遥かに被害を減らした。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。