「急に動かなく成りましたね……」
脳無が出久達を攻撃する寸前に十三号先生のブラックホールがそれを阻止したけれど、今の脳無は電池が切れたみたいに動かない。
雲の上で出久の指を治療しながら離れて観察する中、扉が吹き飛んだ事で意識がそっちに向いた。
「私が来た!!」
あっ、オールマイトが来てくれた。じゃあ、あの動かない奴の対処は任せても良いよな?
「あの黒霧もそうなんですが、ブウさんが言うにはの脳無からは生きた人間の気配がしなかったそうです」
「今動かないのは命令する相手が居ないから……か? それより阿久間、この雲は黒霧の個性なんだな?」
「何か色々と混ざってる気がしましたけれど、そうですよ」
「そうか……」
俺の返答に相澤先生が顔を曇らせる中、委員長に連れられて他の先生方も集合し、生徒も戻って来た。
これで全部解決……と思ったんだが、俺はこの後で警察に行く事に。
黒霧の解放と拘束の為には仕方が無いが、トレーニング一日休みはキツいな。
相澤先生達と向かうのは警察署でも結構大きい所。到着すれば既に白いマントを靡かせながら待っている人がいた。
緑色の肌をした異形系個性の持ち主で俺の後見人で士傑高校の教師をやってるピッコロさん。
「見る限り温いトレーニングはしていないみたいだな」
「ヒーローになりたいからね」
ピッコロさんは元々は父さん側の爺ちゃんの友達で、爺ちゃんが心臓病になって大変な頃に子供だった父さんを預かっていた人だ。
爺ちゃんより父さんに年齢が近いとは聞いたけれど、何歳だっけ?
そんな関係で今回の事に同席する事になったピッコロさんと共に警戒厳重な部屋へと。
「それじゃあ出しますよ」
「ああ、頼む」
相澤先生が思い詰めた顔で許可を出したので肉の繭に包んだままの黒霧を出したけれど、全身を包んでいる霧が消えて元の顔が見えている。
「っ! 白雲……」
知り合い? 見た目高校生くらいだけれど、個性の影響で分からない人も居るからな。
相澤先生が拳を握り締めながらも抹消を発動させて黒霧の個性発動を封じ、警察官が拘束具を付ける。
どんな関係なのかは多分聞かない方が良さそうだな……。
黒霧の拘束を終え、もう帰る事になったけれど相澤先生は多分運転出来る状態じゃない。
それだけ動揺を見せる中、ピッコロさんから申し出があった。
「車ごと俺が運んでやる。入学してから吸扱がどれだけ上達したかみたい事だしな。どうせ治せるんだ。骨の十本や二十本は砕ける覚悟をしておけ」
うん、スパルタ! 楽しみだけれども!
翌日、マイク先生も何処か上の空で授業が進む中、昼休みに出久の個性制御の話になった。
「レンジに入れた卵が破裂しねえイメージだぁ? 何処の糞ポンコツ馬鹿がそんな教え方してんだ、ボケ」
かっちゃんの容赦無い第一声。AFOとの繋がりがほぼ確定となってから少し気遣う感じになったが、流石に俺も今の意見には賛成だ。
「普通レンジに生卵入れねえよ? 力通すイメージならコップに水入れるとか風船に空気入れるとかで良いじゃん。マジでアホな制御イメージだな」
AFOに利用されているだろう以上はアドバイスなんて良くないとは思うが、かっちゃんに止める気は無いらしい。
それも含めた上で何かあった時は止める気なんだろうな。
「そうか。溢れ出さない様に水を容器全体に注ぐイメージで……ブツブツブツブツ」
……相変わらずだな、此奴。
口元に手を当てて高速で呟き始めた姿に見慣れていない連中はドン引きで、俺以上に接する時期が長かったかっちゃんさえも引いている。
そうそう、襲撃はニュースになったが雄英体育祭は行うらしい。
去年は最終競技がスポーツチャンバラだったが、今年は何をするんだろうな。
「多分そうなるとは思ってたが、訓練施設の使用許可出なかったな」
「先輩方が大詰めっすからね。俺達はブウさんが居てくれて助かったっす!」
ウチにもそれなりにトレーニング器具があるから、筋トレとかはそれでした後で、走り込んで有酸素運動した後はブウさんの体内で被害無視の個性訓練。
ヨロイムシャさんにも放課後に少しだけ見てもらえる機会がまた有ったし、順調に伸ばせている筈だ。
そうそう、敵情視察なのかB組や編入狙いの普通科がA組を見に来ていたっけな。
宣戦布告して来た普通科の奴、ぶっちゃけヒョロイっつーか、全然鍛えていない感じだったけれども、個性に自信があるタイプか?
それよりも今は少し考えている事がある。
「選手宣誓をしろって言われてるんだが、どんな内容にすべきと思う?」
「知るか」
「無難なのは逆に恥ずかしそうっすよね! 全国中継だし!」
あー、確かに此奴日和って無難にしたなって思われそうだ。
そんなこんなで順調に訓練をしつつ、体育祭の日はやって来た。
『HEEEY!! 刮目しろオーディエンス!! 集まれマスメディア!! 今年もお前らが大好きな若者の青春暴れ馬!! 雄英体育祭が始まりエブリバディ!?アーユーレディ!? 1年ステージ、選手の入場だ!!』
何時ものテンションに感じるマイク先生だが、何となく声に覇気が足りない様子だ。
英語の授業中だって上の空の時があったし、黒霧……白雲さんとやらが関係しているのか?
死んだ筈のヒーロー候補が改造されてヴィランになったとか尊厳破壊ってレベルじゃねえしな。
『どーせアレだろ!! 目当てはこいつら!! 敵の襲撃を受けたのにも関わらず、鋼の精神で乗り越えたキセキの新生!! ヒーロー科1年A組だろォ!?』
だが、今は俺達の時間だ。あまりにも大きな力の影に怯えて縮こまる暇はない。
マイク先生の言葉にB組連中はオマケ扱いっぽくて気に入らないって感じだが、これから力示せば良いだけだろう?
『一年生代表による選手宣誓!』
俺の最初の出番がやって来る。入試一位として台に上がってマイクを前にすれば観客の呟きが聞こえてきた。
おっ、爺ちゃんとの関係が知られてるのね。
「長々と使い古された物を口にするのも面白くない。なので皆が心の中で燃え上がらせている物を言葉にしよう」
前置きを終えた俺は人差し指を高々と突き上げる。爺ちゃんが事件解決後に大勢の前でやっていたポーズ。そして、叫んだ言葉だ。
「ナンバーワーン!!」
静寂、もしや滑り倒したかと思いきや遅れて歓声。……助かった。