相も変わらずC&Cの仕事をこなす毎日。
ネル先輩は相変わらず好き勝手に動いているし、アスナ先輩は気付けばどこかへ消えている。カリンさんは真面目で、アカネさんは物腰柔らかに物騒なことをする。去年から何も変わらない。
変わったものがあるとすれば、私の方だった。
一年前ならC&Cの部室へ呼ばれるたびに、何をさせられるのかと多少は身構えていた。それが今では、アカネさんから「本日は警備任務です」と聞いても、まず思うのは夕飯までに帰れるかどうかである。
人間、慣れというものは恐ろしい。
「今回はリオ会長から直接?」
「ええ」
アカネさんが頷いた。
珍しい。
C&Cはリオ会長直属の組織ではあるが、毎回本人から細かな指示が飛んでくるわけではない。大まかな目的だけ渡され、現場ではネル先輩やアカネさんが判断することの方が多い。
ところが今日は、わざわざリオ会長本人が部室まで来ていた。
「ミレニアムの廃墟で、ゲーム開発部があるものを発見したわ」
壁面のモニターに廃墟の画像が表示される。
私はその光景に若干嫌な記憶を刺激された。
去年ヒマリ先輩と入った場所とは違うらしいが、ミレニアムの廃墟というだけであまり良い印象がない。誰も使っていないくせに妙な設備だけは生きているし、機械は突然襲ってくるし、扉は意味の分からない認証を要求してくる。
できれば関わりたくない場所の一つだった。
「ゲーム開発部って、一年のモモイさん達ですよね」
「そうよ」
「廃墟なんか行ったんです?」
「先生と一緒にね」
「……先生も?」
数日前にD.U.で会った大人の顔が浮かぶ。
変なところで行動力のある人だ。
「そこで?」
「人型の機械を発見したわ」
画面が切り替わった。
黒色の長い髪。
小柄な少女。
写真だけ見れば、普通のミレニアム生にしか見えない。
「名前は天童アリス。現在はゲーム開発部の一員として扱われているわ」
「人型の機械を拾って、そのまま部員にしたんです?」
「結果だけ言えば」
「ゲーム開発部も先生も行動が早いなぁ」
私ならもう少し調べる。
とは思ったものの、口にはしなかった。
自分がその場にいたわけでもないし、拾った本人たちには本人たちなりの事情があったのだろう。知らない相手の判断を、後から聞いた話だけでどうこう言うほど暇でもない。
むしろ気になったのは別のことだった。
「会長」
「何?」
「その子のこと、どこまで知ってるんです?」
一瞬。
本当に一瞬だけ、リオ会長の視線がこちらへ向いた。
「現時点で確定している情報は多くないわ」
「そうですか」
それ以上は聞かなかった。
この人がこういう答え方をする時は、だいたい何か知っている。
でも、何かを隠していること自体は今に始まったことではない。
C&Cそのものをセミナーへ堂々と公開しているわけでもないし、会長個人で抱えている案件がいくつあるのか、私には見当もつかない。
必要になれば言う。
必要がなければ言わない。
リオ会長はそういう人だ。
私も、その辺りはもう諦めている。
「それで、私たちは何を?」
アカネさんが本題へ戻した。
リオ会長は別の資料を表示する。
「以前ヴェリタスから押収した、暗号解読機『鏡』。これを彼女達が押収品保管室から持ち出そうと画策しているわ」
「盗みに来るってことですか?」
「そうよ」
「なんでですか?」
「廃墟から回収した物品の解析に使うつもりね」
「えぇ……」
得体の知れない物を拾ったというのに、大胆なことをするものだ。
「C&Cには保管区画の警備を任せる。必要以上の損害は避けて」
「了解です」
アカネさんが答える。
私も一応頷いた。
要するに。
ゲーム開発部が来る。
止める。
それだけ。
簡単な仕事だった。
*
「G.Bible?」
その日の午後、今度はユウカさんから説明を受けた。
「そう」
セミナーの一室。
机を挟んで座るユウカさんは、既に疲れた顔をしていた。
「ゲーム開発部は今、ミレニアムプライスに出すゲームを作ってるの。そのために伝説のゲーム攻略本みたいなものを探していて、それがG.Bible」
「攻略本?」
「……正確には、ゲーム開発における究極の指南書だとか何とか」
「余計胡散臭くなった」
「私に言わないでよ」
ユウカさんも同じ感想らしい。
「そのG.Bibleを手に入れるために、鏡が必要なんです?」
「ヴェリタスに解析を頼んだ結果、そういう話になってるみたい」
「それで勝手に持っていくと」
「そう」
深いため息。
「あなた達には、絶対に渡さないでほしいの」
「まあ仕事なら」
「その返事、信用していいのよね?」
「何です、その目」
「あなた、たまに変なところで流されるから」
「失礼ですね」
「自覚ないの?」
「あたしゃ善良な一般ミレニアム生ですよ」
最近はそろそろこれには無理があるんじゃないかと思い始めてる。しかし心だけでもそうありたいものだ。
ユウカさんはまだ何か言いたそうだったが、結局諦めたように資料を閉じた。
「それにしても」
私は渡された書類を眺めながら、ふと思う。
「リオ会長、ゲーム開発部が廃墟に行ったことも、アリスさんのことも知ってましたよ」
「……そうなの?」
「ユウカさん知らなかったんです?」
「少なくとも、詳しくは聞いてないわ」
「ふーん」
またか。
リオ会長は、相手によって渡す情報を分けている。
セミナーの会計であるユウカさんにも伝えていないことを、C&Cには一部だけ話す。
逆もあるのだろう。
全部を一か所に集めない。
合理的と言えば合理的。
面倒と言えば面倒。
「ハヤテ?」
「何でもないです」
「また会長のことで何か考えてる?」
「いつものことだなって」
「……何が?」
「隠し事」
「…………」
ユウカさんが何とも言えない顔をした。
たぶんこの人も、思うところはあるのだろう。
「まあ、今は鏡の方ですね」
「そうね」
私も話を戻した。
リオ会長が何を考えているかなんて、本人が喋らない限り分からない。
分からないものを延々考えても仕方がない。
*
鏡が保管されている区画は、普段ほとんど人が来ない。
頑丈な扉と、無駄に長い通路。
その奥に目的の保管庫がある。
「配置はどうします?」
カリンさんが尋ねると、アカネさんは簡単な見取り図を広げた。
「カリンさんは外周から監視を。アスナさんは侵入者が入った場合の遊撃をお願いします。私は全体の対応を」
「リーダーは?」
「今日はまだ戻っていません」
ネル先輩は私用で不在。
珍しいことでもない。
「じゃあ私は?」
「最後の通路をお願いします」
「一番奥?」
「はい」
「暇そうですね」
「ハヤテさんまで抜かれる状況になれば、それなりの問題が起きていますので」
「それもそうか」
私としてはありがたい。
立って待っているだけなら疲れない。
「アスナ先輩」
「なに?」
「途中でどっか行かないでくださいね」
「大丈夫!」
「その返事が一番不安だなぁ」
アスナ先輩は笑っていた。
まあ、何とかなるだろう。
*
しばらくは、本当に何もなかった。
静かな廊下で一人、壁に背中を預けながら私は端末を眺めていた。
コユキさんから連絡が来ている。
『今日も遅いです?』
『お腹空きました』
まだ夕方にもなっていない。
『まだ早いでしょう』
返すとすぐに既読がつく。
『成長期なので!』
『自分で何か食べてください』
『ハヤテ先輩の部屋に何があります?』
『なんで私の部屋前提なんですか』
『もういます!』
「…………」
当然ながら私はコユキさんに合鍵なんてものは渡していない。
つまり。
「また開けたな」
後で一応注意しよう。
どうせ笑って流されるだろうけれど。
端末を閉じた頃、遠くから小さな爆発音が聞こえた。
「あ」
来たらしい。
続いて銃声と、一瞬遅れて通信が入ってくる。
『侵入を確認しました』
アカネさんの落ち着いた声だ。
「何人?」
『ゲーム開発部の皆さん、それから先生も』
「先生もいるんだ」
少し意外だ。
と考えたが、あの人なら参加していてもおかしくない気もする。
『そちらへ向かう可能性があります』
「了解です」
銃を確認する。
数日前に一緒に戦った相手と、今度は敵対。
キヴォトスでは別に珍しくもない。
所属や目的が変われば、昨日一緒に戦った相手と今日撃ち合うことくらい普通にある。
だから特に何も思わなかった。
どのくらい手加減しようか。
*
結局、ゲーム開発部は全員私のところまで辿り着いた。
長い通路の向こうに姿を見せたのは、モモイさん、ミドリさん、ユズさん、アリスさん。そして数日前にD.U.で知り合った先生だった。途中でアカネさん達とやり合ってきたせいか、全員それなりに疲れている。ここまで来られた時点で大したものではあるけれど、最後の一人を任された身としては感心して通すわけにもいかない。
「05! C&Cの05!」
私の顔を見るなり、モモイさんが妙に切羽詰まった声を上げた。
「知ってるんです?」
「知ってるよ! 元ヤンなんでしょ!?」
「……誰から聞いたんです、その話」
「隠してるつもりなんだろうけど、ミレニアムでは有名だよ!」
初耳である。
中学時代の話なんて、自分から進んで話した記憶はほとんどない。それでも知らないところで広がるものらしい。昔なら少し気にしたかもしれないが、今さら否定して回るのも面倒だった。
先生も私に気づき、少し困ったように手を上げる。
「ハヤテ。この前ぶり」
「どうも」
「……通してもらえたりは?」
「仕事なんで無理ですね」
「だよね」
それで話は終わった。
ゲーム開発部は鏡を持ち帰りたい。私はそれを守るよう言われている。どちらにもそれなりの事情があるのだろうけれど、今ここで私が考える必要のあることではない。
なら、やることは一つだった。
*
普通に全員倒した。
アカネさん達を抜いてきた時点でかなり消耗していたし、こちらは保管庫の前でずっと待っていただけなので条件も良かった。先生の指揮が思ったより厄介だったことと、アリスさんのレールガンが洒落にならない威力だったことを除けば、細かく語るほどのこともない。
モモイさんとミドリさんを先に動けなくして、物陰にいたユズさんを見つけ、最後にアリスさんのレールガンをどうにかした。
それだけである。
「……強くない!?」
一通り片付いた後、床に座り込んだモモイさんが納得のいかない顔でこちらを見上げていた。
「皆さん、ここまで来る途中で疲れてたでしょう。私だけ新品みたいな状態だったんで」
「それ差し引いてもおかしいよ!」
「C&Cですからねぇ」
先ほど一般ミレニアム生を語ったとは思えない二枚舌だが、気にしないことにする。
その少し後ろでは、先生が申し訳なさそうな顔をしている。数日前には一緒にD.U.で戦った相手だが、今度はこちらの保管区画へ不法侵入する側にいる。
「先生も大変ですね」
「ハヤテに言われると耳が痛いな……」
「別に怒ってないですよ。ユウカさんが後で怒るでしょうし」
「それが一番怖いかも」
「でしょうね」
私まで説教に加わる必要はない。事情も全部知っているわけではないし、そもそも彼らがどういう経緯でここまで来たのかにも、それほど興味がなかった。
ただ、一つだけ気にはなった。
「そこまでして、その鏡が欲しいんです?」
「欲しい!」
「何に使うんでしたっけ」
「G.Bibleを手に入れるため!」
「ああ、例の攻略本」
「攻略本じゃない! 伝説のゲーム開発指南書!」
「似たようなものでは?」
「全然違う!」
モモイさんが力強く否定する横で、ミドリさんが少し困ったように笑っている。
私はゲームを作ったことがないから、彼女たちがどれくらい追い詰められているのかは分からない。ただ、ゲームそのものは好きだったので、G.Bibleというものには少し引っかかった。
「それを手に入れたら、面白いゲームを作れるんです?」
「もちろん!」
「中に何が書いてあるかも知らないのに?」
「うっ」
勢いが止まった。
別に論破したいわけではない。ただ、少し不思議だった。
自分たちでゲームを作りたいと言いながら、その答えをどこかにある伝説の本へ求めている。切羽詰まっていればそういうものに縋りたくなるのかもしれないが、もし本当にそこへ完成された答えが書いてあったとして、それをなぞって作ったものを自分たちのゲームと呼んで楽しいのだろうか。
「まあ、欲しいなら探せばいいと思いますけど」
「……何?」
「ただ、最後くらいは自分達で決めた方が楽しいんじゃないかなって。それだけです」
モモイさん達が黙る。
言ってから、少し余計なことを言ったかと思った。私は作る側ではないし、彼女たちがどんな思いでゲームを作っているのかも知らない。
「作ったことない人間の感想なんで、聞き流してください」
「最後に逃げた!」
「知らないことまで偉そうに言う方が嫌でしょう」
「それはそうだけど!」
そこで、これまで静かに聞いていたアリスさんが顔を上げた。
「ハヤテ先輩は、ゲームが好きですか?」
「好きですよ」
「では、アリスたちが作ったゲームも遊んでくれますか?」
「完成したら」
答えると、アリスさんはぱっと表情を明るくした。
「はい! 必ず完成させます!」
さっきまで撃ち合っていたとは思えないくらい嬉しそうだった。
こういうところを見ると、本当に機械なのかと少し疑問に思う。とはいえ、ミレニアムには妙なものが多いので、その程度でいちいち驚いていたら身が持たない。
さて。
問題はここからだった。
「……ところで」
モモイさんの視線が、保管されている鏡へ向く。
「これ、持っていったら駄目?」
「駄目でしょうね」
「お願い!」
「私に頼まれても」
「ハヤテ先輩!」
今度はアリスさんまで加わった。
私は鏡を見て、それからゲーム開発部を見る。ここで渡せばユウカさんに怒られる。それは間違いない。アカネさんにも呆れられるだろうし、ネル先輩にも何か言われる。
一方、ここで改めて彼女たちを縛り上げて、誰かが迎えに来るまで見張るというのも面倒だった。
それに。
ここまでして欲しがっているものを取り上げたところで、たぶんこの人たちは諦めない。
「……まあ」
私は鏡から少し離れた。
「持ってけば?」
数人分の目が丸くなった。
「いいの!?」
「良くはないと思います」
「どっち!?」
「私は一回止めましたし。ここからまた捕まえて見張るのも面倒なんで」
「そんな理由で!?」
「どうせ諦めないでしょう、皆さん」
「うん!」
「そこは少し迷ってくださいよ」
先生が苦笑している。
「ハヤテ、本当にいいの?」
「先生が確認する側なんです?」
「一応ね」
「良くはないですよ。でも」
もう一度、ゲーム開発部を見る。
正直なところ、少しだけ興味もあった。
そこまで必死になって探しているG.Bibleとやらを手に入れた結果、この人たちがどんなゲームを作るのか。
それくらいは見てみたい。
「……まあ、流れで」
「流れで!?」
モモイさんの声が通路に響いた。
*
「それで、なぜ鏡が無くなっているのでしょう?」
ゲーム開発部が逃げた後。
保管区画まで戻ってきたアカネさんは、空になった場所を確認してから穏やかな声で尋ねた。
表情もいつも通り柔らかいが、圧倒的な『圧』を放っている。
「……持っていかれました」
「それは見れば分かります」
「一回は全員倒したんですよ」
「はい。その報告も受けています」
「その後、ちょっと話して」
「はい」
「なんか流れで」
アカネさんが数秒黙った。
「流れで?」
「はい」
「警備対象を?」
「……はい」
微笑みが少し深くなった気がする。
「ユウカさんへのご説明は、ハヤテさんからお願いいたしますね」
「一緒に行きません?」
「私は警備計画上の問題点をまとめる必要がありますので」
「逃げました?」
「あなたの問題でしょう?」
異論はない。ごもっともである。
そう思っていると、今度は端末が震えた。
表示された名前を見て、私は数秒ほど出るか迷った。
ネル先輩。
「……アカネさん」
「出てください」
「まだ何も言ってないんですけど」
「分かりますので」
仕方なく通話を開く。
『ハヤテ』
「はい」
『鏡取られたって聞いたんだけどよ』
「情報早いですね」
『お前が最後に守ってたんだろ?』
「そうですね」
『ゲーム開発部に負けたのか?』
「いや、普通に全員倒しましたよ」
電話の向こうが静かになった。
『……じゃあ何で鏡がねぇんだよ』
「それが」
少し考えたものの、他に適当な説明は浮かばなかった。
「流れで渡しました」
『ぶっ殺すぞ!!』
想定通りの返答だった。
端末を耳から離しながら、私はアカネさんを見る。
「ネル先輩、元気ですね」
「……」
結局、その後しばらく説教を聞くことになった。
*
鏡の件から数日後。
私はC&Cの部室でゲームをしていた。
当然ながらユウカさんにも怒られたし、始末書のようなものも書かされた。とはいえ鏡そのものは既にゲーム開発部の手に渡っており、今さら私が取り返しに行くような話にもならなかったので、一通り怒られたところで終わった。
その日の午後、部室の扉が開いた。
「ハヤテ」
入ってきたネル先輩が、こちらへ軽く顎を向ける。
「来い」
「どこへ?」
「あのロボットのとこ」
「アリスさん?」
「ああ」
私はゲームを一時停止した。
ネル先輩の表情を見る限り、ただ顔を見に行くだけではないだろう。
「何するんです?」
「ちょっと遊ぶんだよ」
「その顔で言われても信用できないんですけど」
「いいから来い」
特に予定もなかったので、私はゲーム機を置いて立ち上がった。
案の定、ネル先輩の言う「遊ぶ」は、普通の意味ではなかった。
*
少し離れた場所で、ネル先輩とアリスさんが戦っている。
私はアカネさん達と一緒に、その様子を眺めていた。
最初に見た時から分かっていたことではあるが、アリスさんの身体能力はかなり高い。大きなレールガンを平然と扱うだけでも十分おかしいのに、ネル先輩を相手に近距離でもまともに動けている。
「本当に機械なんですよね」
「そう聞いています」
隣のカリンさんも戦闘から目を離さずに答えた。
「頑丈ですねぇ」
「ハヤテちゃんもやる?」
アスナ先輩が楽しそうに尋ねてくる。
「嫌ですよ。ネル先輩相手にした後の人と戦うの、絶対疲れるじゃないですか」
「それもそうだね!」
あっさり納得された。
私は改めて二人へ視線を戻す。
アリスさんは楽しそうにしていた。
攻撃を避けるたびに声を上げ、ネル先輩が距離を詰めれば負けじと動く。ネル先輩の方も機嫌がいいので、本当に本人たちにとっては遊びの延長なのかもしれない。
少なくとも、目の前の光景だけを見るなら、リオ会長がわざわざアリスさんについてC&Cへ話した理由は分からなかった。
ただし、だから何もないとも思わない。
廃墟から見つかった機械で、普通の生徒とは比較にならない身体能力を持ち、用途の分からない大型兵器まで扱える。リオ会長が調査するには、それだけで十分な理由になる。
「会長、やっぱり何か調べてるんでしょうね」
私が何となく呟くと、アカネさんも穏やかに頷いた。
「おそらくは」
「ヒマリ先輩も噛んでそうだなぁ」
「可能性は高いでしょうね」
二人とも、何か分かったところで必要なら話すだろう。
話さないなら、今の私には必要のない情報だということだ。
リオ会長に対してその考え方が正しいのかは知らないが、一つ一つ秘密を暴こうとしても疲れるだけなので、私はとっくにそう割り切っていた。
ちょうどその時、アリスさんがネル先輩の攻撃を大きく避けて、嬉しそうな声を上げた。
「ネル先輩! もう一度お願いします!」
「おう! 次は避けんなよ!」
「それでは修行になりません!」
どう見ても楽しんでいる。
私は壁に背中を預けたまま、しばらく二人の様子を眺めていた。
アリスさんが何者なのかは、まだ分からない。
けれど、分からないからといって今ここで答えを出す必要もない。
少なくとも今日のところは、ネル先輩と楽しそうに遊んでいるゲーム開発部の後輩。
私に見えているのは、それだけだった。