Per noctem volamus. 作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ
多分原作プレイヤーの方からしたら違和感あると思います。
それと僕は創作欲のアップダウンが激しいので途中でほとんど書かなくなるかもしれません。
───良き兵士とは何だろうか?
ある者は戦争が上手い者である、と言うのだろう。
またある者は、軍紀を遵守する者である、と言うだろう。
別の人間に言わせれば、勇敢な者である、と言うのだろう。
さらにまたある者は、国家に忠実な者、と言うかもしれない。
いずれにせよ、良き兵士とは守るべきものを守ることの出来る者だ───雑に結論付けるならば、それも解のひとつと言えるかもしれない。
そのような男女を称えることは昔から行われてきた。特に優れた者には、格別の栄誉が与えられる。
それはアメリカ合衆国では名誉勲章と呼ばれる。それはロシア連邦ではロシア連邦英雄と呼ばれる。フランス共和国ではレジオンドヌール勲章と呼ばれる。
そして連合王国は良き兵士に、ヴィクトリア十字章を与えた。
兵士として最大の名誉。胸に掲げる十字こそ、誇りの証だ。
───ならば問わねばならない。守るべきものを守れぬ兵士の胸に掲げられる十字は、ただの虚像か?
その十字が示さんと輝く、その誇りは、実は虚空に過ぎないのだろうか?
彼らは、実は全くもって栄誉を受けるに相応しくないのだろうか。
ある男は守るべきものを殺めた。それこそが国家へ忠実であることを示すと信じて。
ある男は守るべき国を捨てた。国家への忠誠を見せた男さえ切り捨てる国に、誇りなど持てないと。
彼らの十字は虚像か?国家のために愛するものさえ殺せる男の十字は?国家を守ることを辞めた男の十字は?
...これもまた、確定したただ1つの答えを出すことは難しいのかもしれない。
だが、ここに1つの解を示そう。
その勲章が示すのは兵士の勇敢さだ。彼らは最後には守るべきものを守りきれなかったのかもしれない。
だが彼らが示した勇敢さは決して消え去らない。
そして十字が輝き続ける限り、誇りも決して消え去らない。
彼らは決して僭称者ではない。紛れもなく、誇りを持つ勇敢な兵士だと。
2030年5月11日、19時22分、旧サンタフェ・マウンテンズ空軍基地近傍
「...高ぇ山ばっかり見てくんのも飽きてきたな」
男は咥えタバコをしながら一言呟いた。短く整えられた髪に、ヨーロッパ系の顔立ち。そしてスコットランド訛りの英語。人口の半数近くがヒスパニックで構成されるニューメキシコ州において、男は少々の異質さを感じられたが、人種のサラダボウルなどと渾名されるアメリカ合衆国においては、その存在は目立つほどとも言いがたかった。
サンタフェ山脈。ロッキー山脈最南端のサングレ・デ・クリスト山脈の、さらにニューメキシコ州側。数千メートル級の山が立ち並ぶこの山脈沿いの道路を、元イギリス空軍爆撃機パイロット、デニス・マクラガン=エヴァンス中佐は車で走り抜けていた。
静寂に包まれた道路。もう30分は対向車に遭遇していない。ここまで見てきたものと言えば、目の前に広がる雄大なサンタフェ山脈の山々と道路脇に生える木々、そして哀れなコヨーテの轢死体程度だった。
「この辺り、逆にコヨーテ轢くようなドライバーが居たんだな。そもそもドライバー自体いないもんかと思ったが...」
デニスは愛用のロスマンズの吸殻を道路に投げ捨てた。吸殻のポイ捨てを咎める者さえこの辺鄙な地域には存在しない。彼を見つめているのは天高くの月くらいだった。
───デニス・マクラガン。かつてのコールサインはヴァンパイア0-1。
イギリス空軍には戦闘機パイロットとして入隊したが、後に所属飛行隊の機種転換に伴い爆撃機パイロットに転向した。
BAE ヴェンデッタ。冷戦終結後の予算削減の波の中、予算の無駄使いという声高な声を全て跳ね除け完成した、イギリス空軍が誇る最新鋭爆撃機。デニスの属していた第9飛行隊はヴェンデッタを集中運用する飛行隊として指定された。
トーネード搭乗時代から対地攻撃の腕で知られていたデニスにとっては、爆撃機への機種転換はさほど苦ではなかった。
機種転換直後、世界を異形が襲った。それは深く海の底から現れ、世界各地で船を沈めてきた。
人々はそれらを深海棲艦と呼んだ。まるで第二次世界大戦のように、ミサイルなど使わず、魚雷や大砲をもって人類に宣戦なしに戦いを挑んできた。多くの人々はそれらに対抗する術を持たなかった。
理不尽な暴力がために人類の歴史が終焉を迎えようとする中、人々は終わりに向けて時を待った。
だが、神というものは人類に厳しい選択肢を与えた。どうやら人類がただ座して死を待つという楽な道を選ぶことは許さなかったらしい。
彼らの前に希望が現れた。深海棲艦同様、まるで第二次世界大戦のような魚雷や大砲で装備した少女達。だが彼女たちが砲口を向けたのは人間ではなかった。
深海棲艦を沈め、人類を守る美しき海の乙女達。彼女たちに何者かと尋ねた者たちはみな驚いたと言う。彼女たちは皆、古い戦争の艦の名を名乗ったのだから。
ある者は金剛、ある者はアイオワ、ある者はウォースパイト───人類史上最大の戦争を駆け抜けた、鉄の城が美しき女性となって現代に蘇った。船というのは往々にして女性として取り扱われるが、それにしてもこれは全くもってオカルトかなにかの類であった。しかし人類に対抗手段を選り好みしている時間などなかった。オカルトの極みのような異形が人類を海どころか陸からも駆逐せんとしているのだ。
人々は彼女らを艦娘と呼んだ。そして、艦娘を指揮できる者───提督を彼女らの司令官として配置した。彼らにより、地球の覇権を掛けた大戦争が幕を開けた。
「ああ、ああ、全くいい物語だこと。美しき鉄の女が選ばれた特別な野郎とよろしくやって世界大戦終わらせようってんだ。プロパガンダにゃ困んないねぇ」
誰に言うでもなく、デニスは吐き捨てた。タバコを失い、寂しくなった口を埋めるべくガムを噛む。それは爆撃機に乗っていた頃から、長時間任務でも集中力を切らさぬよう口に放り込んでいたものだった。人工甘味料の味が口の中に広がり、間もなくして唾液に溶け込んで喉奥へと消えていった。
戦争は1年前に終わった。約5年に渡り世界の海を舞台に繰り広げられてきた戦争は2029年9月1日、ハワイ諸島解放戦の完遂をもって終結が宣言された。
「300人の乙女が世界を賭けて人類のために戦った...どいつとこいつもふざけた紹介をしやがる」
たかだか300人で戦争を終わらせられたと本気で思っているのか、とデニスは息を吐いた。
艦娘だけじゃない。あの戦争を駆け抜けた兵士は他にもいる。
深海棲艦というのは不思議なもので、現代の軍艦や砲弾やら戦闘機がミサイルをいくらか叩き込んだところでどうも有効ではないようだった。
さらに、戦闘機はともかく、軍艦については接近することがリスクだった。
連中が持っていた兵装は、かつての戦艦に積んでいた砲塔と比べたら比較にならないほど小さいもので、いいとこ人の背丈と言ったところの大きさだった。ところがそのミニ砲塔から放たれる砲弾やら魚雷やらを食らうと、軍艦の横っ腹には大穴が空き、魚雷を食らえば浸水を始め、運が悪ければ竜骨を叩き折られて海の藻屑となるのである。
だが艦娘はそうでは無い。服が破れる位で済むのだ。これは彼女たちの持つ艤装のおかげだった。
まともに打撃を与え、敵の攻撃に耐えられるのが艦娘だけとあらば、もちろん艦娘が戦争の主力になる。人々は艦娘のみが、人類の救世主だと考えた。
だが真実は違う。深海棲艦に攻撃を与えられる者は彼女たちだけではなかった。
提督としての適性はない。艦娘たちを率いることは出来ない。だが艦娘に代わり深海棲艦に有効な攻撃を与えられる者が居た。彼らが操作する砲を深海棲艦に撃ち込めば、敵深海棲艦は現代艦船の精密砲撃にたちまち沈む。彼らが駆る戦闘機が投下する精密誘導爆弾は、驚くべき精度を持って恐るべき敵戦艦を一撃で爆散させる。
選ばれし兵士達。彼らは各国軍のなかでこう呼ばれた。
───
デニスは選ばれた者だった。デニスと彼の相棒だった男が飛ばす爆撃機───王立空軍第9飛行隊所属、ヴェンデッタB.2、機体番号XH916は、「選ばれし者たち」の中でも最大の火力を誇った。
前線の艦娘が危機に陥れば、ヴェンデッタB.2 XH916は3基のF135-RR-703を燃やし、マッハ1.4のスーパークルーズで駆けつけ、2000lb誘導爆弾を大量に送り付け、人類の敵達を水底に送り返す。
1人だけ殿になり、今にも沈みそうになる艦娘が居たなら、彼女の代わりに高度15000mから深海棲艦に死をデリバリーする。
いかに危険な任務だろうと、この2人は生き残り、そして戦果を挙げてきた。彼らはいつしか、デニスと相棒のイニシャルを取り、「不死身のDD」とさえ呼ばれるようになった。
戦争を終わらせる最後の一撃───ハワイに最後に居座っていた姫級に、最後に爆弾槽に抱えていたGBU-28を叩き込み、破壊したのもデニス達だった。
戦後、デニス達は勲章を受けた。
───ヴィクトリア十字章。イギリス軍人が受ける最大の栄誉。彼らが示した「並外れた勇敢さ」を称えたものだった。
(...何がヴィクトリア十字章だ)
デニスのハンドルを握る手が強まる。受勲される頃には、デニスは空軍への信用を失っていた。終戦間際に起きた、ある事件のせいだ。ヴィクトリア十字章も、その事件を表に出したくない軍上層部が、デニスらを宥めるために受勲したに過ぎなかった。
デニスは空軍を抜けた後、イギリスを捨てた。そして今、ここにいる。アメリカ空軍がかつて秘密裏に建設した空軍基地。話によれば、終末戦争に備え、空軍機の秘密地下基地として整備されたらしいが、今や放棄されたこの基地を気にかける者など誰もいない。デニスはこの広大な空軍基地を米軍将官との、戦争中に出来たコネで入場許可を取り付け、住み込んでいた。
辺鄙な土地だが静かに暮らすには最高の場所だ。もう二度と飛行機の操縦桿を握る事もスロットルを押し込むこともないだろう。広大な地下秘密基地で、イギリスを離れて暮らす。ひとりぼっちの男にはちょうどいい。
「....?」
デニスの駆るランドローバー・ディフェンダー オクタのライトが、道の脇に影を捉えた。
「グリズリー...じゃねぇな。デケェコヨーテかなんかか?」
またしてもコヨーテか。今日はやたらと動物の死体を見るな───そう思ったデニスはすぐに考えを変えることになる。
「おいおい嘘だろ...ありゃ人間か」
面倒なことになった。この辺りにはろくに人間などいない。勝手に野垂れ死んでるならともかく、他殺だった場合、自分が殺人事件の重要参考人になるなど御免こうむる。
いずれにせよ、死体を放っておくわけにはいかない。
ディフェンダーを倒れている人間のそばに止めて降りる。
「こりゃ...女か。服はあまり汚れてないな」
哀れかな、道路脇でうつ伏せになって転がっていたのは金髪の女だった。こんな普段誰も通らない道路に転がっているくらいだ、まぁ歩いていて野垂れ死にの可能性は低いだろう。
「大方、レイプされた後殺されてそのまま適当に道に捨てられたって所か。にしても服だけ着せ直すたぁな。変わった事しやがる...」
デニスはディフェンダーに戻り、積んでいたミリタリーグローブを嵌めて女を探った。グローブ越しに体温の温かみが伝わる。まだ死んで間もないか。
「死因はなんだ?服が汚れてないのを見るに、刺殺では無さそうだが」
ショートの金髪は首元を隠しておらず、故に絞殺ではないことが明らかだった。
髪にも血は飛び散っていない。脳天に銃弾を撃ち込まれたわけでもなさそうだ。
うつ伏せになっていた体を転がしてやる。
「綺麗な顔だな。刺殺でも銃殺でも、絞殺でもないと。なら一体...」
腕を組んで考えるデニス。その目線は顔から離れなかった。
ただ単に、その顔がよく整っていたからではない。どこか面影が、
「...」
デニスは車に積んでいた拳銃からウェポンライトを外した。
女の閉じた瞼を開き、ウェポンライトの強烈な光を当てる。
青い瞳の中の瞳孔が、収縮したのが見えた。
「まだ生きてるのか。脈の方は...クソ、弱いな。衰弱してる。病院はここからじゃ遠いし...一旦基地に運んで休ませるか」
ガムを吐き出したデニスは急いで女をディフェンダーの後部座席に放り込み、アクセルを踏み込んだ。BMW製の4.4L V8エンジンが山脈にこだまする。
デニス・マクラガン=エヴァンスは知らなかった。
この女との出会いが、自身の生活から静寂を消し去ることになるとは。
そして、かつての事件───元相棒、今は亡きダレル・バーンズ中尉とその妻の死に迫ることになるとは。
デニス・マクラガンの休戦は終わりを迎えようとしている。
Per noctem volamusとはラテン語で「我らは夜を飛ぶ」を意味します。
これはイギリス空軍第9飛行隊のモットーでもあります。