入部選考試合から数日が経った。
俺たちは無事に雷門中サッカー部への入部を認められ、正式な部員として練習に参加するようになっていた。
最初は五人だけだった俺たちも先輩たちと一緒に練習をすることで少しずつ雷門のサッカーというものを理解し始めていた。
全国屈指の強豪校というだけあって練習の内容はかなり厳しい。
それでも、入部選考試合で味わった悔しさを思えば弱音を吐いている暇なんてなかった。
そして、そんな日々を過ごしているうちに、ついにその日がやってきた。
フットボールフロンティア、通称FF。
中学生サッカー界の頂点を決める大会、その予選がいよいよ始まるのだ。
部室に集められた俺たちの前で、響木監督が組み合わせ表を広げた。
俺はその紙を見た瞬間、思わず目を見開いた。
原作のFFとは明らかに違う。
この世界では関東地方そのものが四つのブロックに分けられており、それぞれのブロックで代表校を決め、最後に全国の舞台へ進む仕組みになっているらしい。
そして、それぞれのブロックには聞き覚えのある強豪校の名前が並んでいた。
帝国学園。
木戸川清修。
そして、雷門中。
どの名前も原作では全国大会を語るうえで欠かせない強豪校だ。
だが、この世界ではその強豪たちが関東予選の段階から別々のブロックに分かれている。
つまり、全国大会へ進むためには、俺たちは自分たちのブロックを勝ち抜かなければならないということになる。
俺は組み合わせ表をじっと見つめながら、これから始まる戦いの大きさを改めて実感していた。
「俺たち雷門の初戦は、尾刈斗中だ」
響木監督が静かに告げる。
その名前を聞いて、俺の中に原作の記憶が蘇った。
尾刈斗中。
個性的な選手たちを擁するチームであり、雷門にとって決して油断できない相手だ。
だが、この世界の雷門は原作とは違う。
そして何より、俺たちには原作には存在しなかった戦力まで揃っている。
そう思ったところで、俺はふと気になった。
俺たちの先輩には、まだちゃんと話したことのない選手がいる。
その人物は、俺たちが普段練習しているグラウンドの端で、一人静かに試合映像を見つめていた。
周囲の選手たちが騒いでいても、彼だけは冷静に画面を見続けている。
俺がその姿を見ていると、響木監督がこちらに気づいた。
「紹介しておこう」
監督が呼びかけると、その人物がこちらへ歩いてきた。
年齢は俺たちより上で、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
そして、その口から告げられた名前を聞いた瞬間、俺は固まった。
「笹波公明。三年生だ」
「……笹波?」
思わず聞き返してしまった。
その名前には、どうしても引っかかるものがあった。
笹波という名字。
俺の知っているイナズマイレブンの世界で、この名前から連想される人物は一人しかいない。
まさか。
いやそんなはずはない。
そもそもこの世界は俺が知っている原作とは違う。
だからこそ俺はそれ以上考えるのをやめた。
「ポジションはMFだ」
笹波先輩は淡々と自己紹介する。
「チームの司令塔を務めてもらっている」
その言葉を聞いて、俺は改めて笹波先輩を見た。
司令塔。
それも、ただパスを出すだけの選手ではないらしい。
練習中のプレーを見ていても味方がどこへ動くのかを常に把握している。
相手の守備がどこへ寄るのかを一瞬で判断し、その逆へボールを送り込む。
まるでフィールド全体を上から見ているかのようなプレーだった。
俺たち一年生がどれだけ必死に走っても、その動きを先回りするようにボールが飛んでくる。
そして驚くべきことにその実力は帝国学園の鬼道有人と並ぶと言われているらしい。
帝国の司令塔、鬼道有人。
その名前と肩を並べる選手が雷門にいる。
それだけで、雷門がなぜここまで強いのか、その一端が理解できた。
「……すごい」
思わず声が漏れる。
「そうでもない」
笹波先輩はそう言って、ほんの少しだけ笑った。
だが、その目には確かな自信が宿っていた。
俺はそんな先輩を見ながら、心の中で再びあの名前を思い浮かべる。
笹波公明。
この世界が原作と違うという証拠が、また一つ増えたような気がした。
そしてもう一人。
響木監督が俺たちの視線を別の選手へ向ける。
「そして、もう一人紹介しておく」
そこにいたのは、どこか監督と雰囲気の似た三年生だった。
俺が不思議そうに見ていると、監督は静かに口を開いた。
「響木正蔵。三年生だ」
「響木……?」
またしても、俺は聞き返してしまった。
名字が同じだ。
偶然なのかと思ったが、周囲の反応を見る限り、どうやらそういうわけではないらしい。
「俺の息子だ」
「えっ?」
思わず声が出た。
まさかの事実だった。
響木監督の実の息子。
そう言われてみれば、顔立ちや雰囲気にどこか似ている。
「ポジションはDF、そしてGKもできる」
正蔵先輩が簡潔に説明する。
「基本はDFだが、円堂がリベロに上がったときは俺がゴールを守る」
その言葉を聞いて、俺は円堂を見る。
確かに、円堂は単なるGKではない。
フィールドプレイヤーとしても非常に高い能力を持っている。
もし円堂を前線へ上げることができるなら、その分だけ雷門の攻撃力は大きく変わる。
そして、その穴を埋めるのが正蔵先輩というわけだ。
「つまり、円堂が前に出るときの最後の砦ってことっすか?」
壁山が尋ねる。
「そういうことだ」
正蔵先輩は頷いた。
「よろしく頼む」
「よろしくっす!」
壁山が勢いよく頭を下げる。
俺たちもそれぞれ挨拶を交わした。
こうして改めて雷門のメンバーを見渡してみると、かなりの戦力が揃っていることが分かる。
円堂、豪炎寺、風丸、飛鷹、染岡
そして、笹波先輩と響木正蔵先輩。
さらに半田や影野、マックス、シャドウといった選手たちもいる。
原作で知っている雷門とは、まるで別のチームだ。
しかも、これだけの戦力を揃えながら、響木監督は少数精鋭という方針を崩していない。
だからこそ、一人一人に求められる役割は大きい。
俺も、その中の一人にならなければならない。
「いよいよ始まるぞ」
円堂が組み合わせ表を見ながら、拳を握る。
「FFだ!」
「そうだな」
豪炎寺が静かに答える。
「俺たちは、全国を目指す」
その言葉を聞いて俺の胸も熱くなった。
入部選考試合では俺のイナズマスピアは円堂のマジン・ザ・ハンドに止められた。
あのときの悔しさはまだ消えていない。
だからこそ次は勝ちたい。
ただ練習するだけではなく本物の大会で自分の力を試したい。
そして、俺たちが最初に戦う相手は尾刈斗中だ。
原作とは違う世界。
原作とは違う雷門。
原作にはいなかった選手たち。
ここから先、何が起こるのか俺には分からない。
だけど一つだけ確かなことがある。
俺はこの世界で、俺自身のサッカーをやる。
そのためにもまずは最初の相手を倒す。
「尾刈斗中……絶対に勝つ」
俺がそう呟くと、隣にいた少林が大きく頷いた。
「もちろんだよ!」
「でヤンス!」
栗松も拳を握る。
「俺たち、ここまで来たんでヤンスから!」
「俺も頑張るっす!」
壁山も力強く答えた。
宍戸も静かに頷く。
俺たち五人が雷門のユニフォームを着て戦う、最初の公式戦。
いよいよFF予選が始まる。
そして俺たちの前に、新たな強敵たちが立ちはだかることになる。
笹波公明 三年生 林属性
とあるキャラの父親に当たる人物、これによって25年後の彼の人生は大きく変わるだろう、性格は冷静沈着
響木正蔵 三年生 山属性
響木監督の息子 DFGKの両方をこなせる、頑固のように見えるがとても優しい