未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話   作:龍館まこと

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1話 悪役になってリスタート!

 

 気が付くと、なんだか騒がしい場所に居た。

 

「……は?」

 

 と、ぼやいた自分の声がワっという歓声やギャっという悲鳴でアっという間に掻き消される。

 

 おいおい、なんだここ。

 

 俺が周りを見回すとそこには──熱狂があった。

 

 赤い絨毯を敷き詰められた広すぎるフロアはルーレットやカードに興じる人々でごった返しており、そこかしこで勝った負けたが発生している。

 

 うわー、ここカジノだ。

 

〝熱〟を愛する奴らの魔窟だ。

 

 そして居る人間の髪色や外見特徴的に、ここ日本じゃない。

 

「でも外国……? ってわけでもねえな、コレ……!」

 

 きょろきょろする俺の目に飛び込んできたのは、クッソ醜悪な……もとい。かなり特徴的なオブジェだ。

 

 ここのカジノのオーナーである、オークみたいな見た目をした三段腹の成金デブの金ピカ彫像。

 

 葉巻くわえて天を仰ぎ見るクッソウザいポーズに、俺は電流が走るように思い出す。

 

「これ『エンタングルド・クロニクルズ』だ……」

 

 ハードでダークでグロとエロがきわどく、救いの無い展開が持ち味で『読むと(ストレスで)痩せる』とまで言われてなお人気を誇る勇者と魔王系のファンタジー漫画作品である。

 

 ちなみに既刊二十五巻。アニメ化も控えている。映画もやりそうだが「PG12は無理だろ」とかネットで言われてるけど。そんな感じの作品だ。

 

 こんなこと思い出している時点でおわかりいただけるだろうが、俺はエンタングルド・クロニクルズ略して『エグドロ』の大ファンだ。……略称、もっと他にあったろって? 内容に即して考えるとエグくてドロドロだからピッタリってファンの間で満場一致なんだよ。

 

 俺がどれくらいのファンかというと、あまりに容赦のない展開に救いのif展開を求めて自分で二次創作やってそれを本にしてイベントに出ていたくらいのファンだ。

 

 そしたら「救いが無いからイイんだろうがわかってねえ虹創作」とかってエッ〇ス(旧T〇itter)で過激な原作主義者に引リポ(旧引リツ)でからまれたけどな! そいつともなんだかんだでレスバの末に和解してリアルの飲み友になった。いまとなってはいい思い出だ。

 

 ……イヤ。思い出っていうか。

 

「いまの状況から察するにコレ『前世の記憶』だよなぁ」

 

 俺はエグドロに転生しちまってると見ておおよそ間違いなさそうだ。

 

 うおお、マジか。問題は作中のいつ、どこの、誰に転生しているかなんだけど。

 

 あ、賭博用の新品コインあるじゃん。銀色だから顔映るだろ。俺はつまみあげたそれを目の前にかざした。どれどれ……歳は中高生くらいだな。ん? 青い髪(・・・)。なんかイヤな予感する。

 

 そのとき、俺が居た賭け台のディーラーらしき男が両腕をバっと左右に広げて大仰に言う。

 

「さぁみなさま、今宵最後の大博打となる闘剣(デュエル)、どちらに張るかお決まりでしょうか! オッズは当カジノの最強闘技者である【万斧圧夫(バンプアップ)】ドレイクが一・二倍‼」

 

 ディーラーが指さした石造りの屋外ステージに、身長二メートル半はありそうな大男がのしのしと上がっていく。

 

 傷だらけの半裸にバケツみたいな兜をかぶった汗まみれの身体が一歩踏み出すたび、十数メートル離れているはずのここまでズシンと振動が伝わってきた。

 

 みぢり……、と丸太のような腕の筋肉を軋ませ、数十キロはくだらない鉄塊のような大斧を肩に載せる。野生の熊を思わせる迫力があった。

 

 対して。

 

 その正面にトコトコと歩いていくのは背丈でいえばドレイクの腰にも届かないような少年だ。

 

 錆びた片手剣を携えて、ぼろくてサイズの合っていない衣服を着用している。

 

 流れるように滑らかな金髪ボブカット、その前髪の下に見える眼は。

 

 燃えるような赤に輝き、剣と服装に見合わない〝圧〟を周囲に発していた。

 

「対するは本日ここまで四戦を勝ち抜いてきた少年剣士、ルイス・ヨークシアあぁぁーッ! オッズはなななんと、五〇倍! 今日のラッキーボーイに賭けるか当カジノ最強の安定感に賭けるか、さあ締め切りまであとわずか‼」

 

 焚きつけるディーラーに乗せられて、何人も賭けに走る。

 

 ──その光景に。

 

 そしてコインに映った自分の顔に。

 

 俺はいま、このときが、エグドロ本編においてどういう場面かを認識する。

 

「うーわ二巻の六話だな……少年編の最後の方、十五歳の【勇者(ブレイバー)】ルイスがさらわれた妹を取り戻すべくこのカジノで勝ち抜くパートだ」

 

 ここでエグドロの先の展開のネタバレをしよう。

 

 主人公である【勇者(ブレイバー)】ルイスの双子の妹、シエラ・ヨークシアはカジノで勝っても取り戻すことはできない。

 

 オーナーである三段腹成金デブが「五戦勝ち抜けば妹は無事に返してやる」とか言ったからそれに乗ったルイスだが、じつはこの闘剣(デュエル)は時間稼ぎに過ぎなくてその間にシエラは魔王崇拝の邪教団に奴隷として売り払われてしまうのだ。で、その後はまぁー散々な目に遭って変わり果てた姿で六巻から再登場する。エグドロ読者のダイエットポイントのひとつだ。

 

 ちなみにこの時間稼ぎのあと、あるくっだらねぇ妨害が入らなければ間に合ってたかも~……というのも胸糞加速ポイントだ。

 

 その妨害とはルイスが五戦終わったあと、とある同級生のお貴族少年が「バカなァァ! お前が、お前ごときが勝つなんてッ、そんなの有り得ないッッ‼ おおおまっ、お前のせいで僕は破産だっ、ふふふざっ、ふざけるなぁァァッ‼」という逆恨み以外の何物でもない言葉をぶつけてつかみかかってくることにある。

 

 その間にシエラは邪教のところに宅配(〇ーバーイーツ)されてしまうのだ。

 

 マジで最悪だね。

 

 俺はこの同級生のお貴族少年が出てこなくてルイスの邪魔をしないifルートも何度か二次創作した。本当に邪魔な害悪野郎なのだ、この少年。

 

 陰欝な青い髪(・・・)にまなじりの下がった他人を嘲る眼、なんか腹の立つ口許。襟の立ったえんじ色のロングコートを着ていて「僕はエリートなんだァァ」が口癖だから「襟ート(笑)」とかネットで叩かれている、コール・ブレイズとかいう少年。

 

 ……そいつが、俺がつまんで正面にかかげた銀色コインの表面に映っている。

 

 ええ、そうです。

 

コール(害悪野郎)に転生しちゃったかぁ……」

 

 俺は頭を抱えた。

 

 二次創作だと凌辱系の竿役か悲惨な目に遭うカスとしてしか描かれないキャラだ。というのも先ほど述べた逆恨みのように、主人公ルイスの足を引っ張る行動ばっかするお邪魔キャラだからである。

 

 このカジノでも、十五歳にして親のコネとカネ使って賭博させてもらってる七光りお貴族野郎のくせに、負ければゴネるしルイスの邪魔するしでほんと死ねとしか言いようがない。

 

 そのくせ、憎まれっ子世にはばかるという慣用句の体現者である。

 

 本編では魔王軍に加わるなどしてしぶとく生き残り、無駄に高い戦闘センスを駆使してルイスの道中で妨害ばかりしてくるライバルとも言いたくないクソ野郎だ。

 

 マジでこんな奴生かしておく必要ないと思うが……しかし、これってチャンスか?

 

 ここでルイスの邪魔をしなければシエラはきっと助かる。

 

 なにせ【万斧圧夫(バンプアップ)】ドレイクを前に妹を思うルイスの気持ちが彼の真価を発揮させ、【勇者(ブレイバー)】の力に目覚めて瞬殺! ──というのがここでの流れなのだ。作中初期の燃え場面である。

 

 おお、そんなのを拝めるなんてファン冥利だ。

 

「ルイスにベットで!」

 

 俺は残る有り金すべてをルイスに賭けた。なおここまでの四戦でコールはすべてカジノ側の闘技者に賭けたため、ことごとく負けているという流れだ。

 

 自業自得としか言いようがないが、同級生で学院のなかの成績トップに躍り出ているルイスが気に入らなくてとにかく彼の逆張りをしているというのがこのお貴族野郎コールなので、どうしようもない。

 

 でも俺がコールになった以上ここからはルイスの邪魔をせずしっかりサポートしよう。

 

 なんならこれまで二次創作してきた経験を生かして、if展開を本物にすることだってできるはずだ! なにせ二十五巻までの展開はまるっと頭に入ってるんだからな!

 

「なんかテンション上がってきたな~」

 

 ドレイクに勝てるのか、と緊張でこわばっているルイスの横顔を見ながら俺はわくわくしている。【勇者(ブレイバー)】覚醒の瞬間だ。ファンとしてぜひ見届けたい。

 

 ただシエラの居場所も気になるな。この時間帯って、どこに居るんだろ。(コール)が邪魔しなければ絶対間に合う距離なのかな。

 

 そう考えていたとき、ちょっと目にゴミが入った。痛ぇ。なんだよこんなときに。

 

 左掌でぐしぐしと、つぶった両目をまぶたの上から押すようにする。

 

 すると──

 

 ──この場から離れて歩き出すコール

 ──裏口から出たとき道に蹄の痕を見つける

 ──目をやると馬車がある

 ──走り出す馬車

 ──追いかけ始めるがもう間に合わない

 

 ────そんな映像が、見えた。

 

 え、と思って周囲を見回す。

 石造りのステージ上、ルイスの横顔はこわばっていて、まだ一秒たりとも経過していない。だが映像は明らかに一分くらいの長さがあった。

 動揺しつつ、もう一度両目を閉じる。ぎゅっと強くまぶたを閉じて、目の前に集中した。

 するとまた映像が見え始める。

 

 ──この場から離れて駆け出す(・・・・)コール

 ──裏口から出たとき道に蹄の痕を見てそのまま走りつづける(・・・・・・・・・・)

 ──馬車の中を調べてシエラを発見する

 ──走り出す前に馬と馬車を繋ぐ馬具を切る

 ──邪教の者たちと戦闘に入る

 

 という風に────映像が、さっきと変わっていた。

 歩いていたら馬車の発進に間に合わなかったようなので、『走ったらどうなるか?』と考えてから目を閉じたら、このように変化があったのだ。

 

「もしかしてコレ、未来が見えてんのか? それにこのままだと……ルイス間に合わないのか⁈」

 

 (コール)が邪魔してなければ助かる、ってわけでもないのかよぉ!

 

 内心で愚痴を言いつつ俺は、裏口に居るはずのシエラの元へと駆けだしていた!

 

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