未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話   作:龍館まこと

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11話 歴史を変える旅に出ます

 

 ドロップアイテムを駆使して強敵を倒したら推しキャラに冷たい目を向けられるという苦難を乗り越えた俺は、ライラックと共にルイスとシエラのもとに向かった。こんちは。

 

「おいコール・ブレイズ! シエラがコケたというのは嘘だったじゃないか! 心配で心臓が止まるかと思ったんだよこっちは! あとこの石板はなに⁈」

 

 コケた程度で心臓停止ならそら誘拐されたらそれどこじゃないだろうな……と思い、俺はあらためてこいつが【勇者】に目覚める条件が妹にあったことに深く感じ入る。同時に、その物語をはじめさせずにこいつらになるべく安心安全な人生を送ってほしいな……という気持ちになる。

 

「なに遠い目をしているんだよきみは。……だいたい、きみ、よくここに顔を見せることが出来たものだよね……昨日、僕に、あんなことしておいて……」

 

 頬を赤くして顔を背けるルイス。

 

 そういやその件片付いてなかったな……と思い出した俺もなんだか気まずい。

 

 考えてみれば「これから一緒に魔王倒す旅しようぜ」と誘うには、俺・ライラック・ルイス・シエラだと性別の比率がかなり偏っている。俺が黒一点過ぎる。はっ、そういえばエグドロ原作だとルイスパーティはルイス・戦士(男)・僧侶(女)・盗賊(男)でむしろ紅一点パーティだなぁと思ってたが、僧侶のロクサーヌはやたらルイスと仲が良かった。

 

 あれはルイスへの好意かと思ってたけど、よく思い返してみると『同性ゆえの気安さ』だったような気もする……! なんだこの新解釈、これでまた一本描けてしまうぞ。

 

「なんとか言ったらどうなんだい、おい。遠い目から帰ってこないどころか深まっているじゃないか目つき」

 

「あ、ごめん。ちょっとトリップしてた」

 

「なっ、なにを妄想していたんだよきみは! 本当に! もう!」

 

「いやトリップってそういう意味じゃなくて……すみませんでした、昨日のことは謝ります」

 

「……坊っちゃん、あたしに興味あるんじゃなかったっけ? あっそう。ふーん。あっ別に気にしてないんで。どーぞご勝手によろしくやりやがってください男女の仲ですもんねふーん」

 

「ライラック、ちょっと待っていろいろ誤解がないか……って男女の? 仲? なんで女だってわかってんだ?」

 

「見りゃわかるでしょ。歩き方は骨盤広い女の癖があんだし、どんなに男っぽく繕っても他人から見えてる手指とか顔とかの手入れが男とは違ってんだし」

 

 すいません俺あんまりにも女性との関わりが前世含め少なくてその辺の機微に疎くて……と言うのもなんなので、黙るしかなかった。

 

「坊っちゃん、逆になんでソコ触れずに女だってわかったん? ……あ、やっぱいいです。触れずにじゃなくて触れてわかったってことね、はー。もういいわ。メイド黙ります」

 

「違うんだよ。アレは事故で」

 

「うわ本当に触ったんだ。ほんとヤラシイね坊っちゃん」

 

「心底引いた目をしないでぇぇ……」

 

「……あの、僕はきみらの雑談だか猥談だかにいつまで付き合えばいいのかな」

 

「違うんだよ! あーもう、とりあえずアレ見てくれ」

 

 めんどくさくなってきたので俺は向こうの方を指さした。

 

 ルイスが目を細めながら俺の人差し指を辿る。その方向には、まだ土煙をあげている街並みとそのなかでところどころ突き出している石板群がある。市街地破壊もいいとこだ。

 

「ここの石板と同じ奴? 地の属性魔法(エレメント)、に見えるけれど」

 

 救貧院の前にある広場に出現している大石棺──ルイスあるいはシエラを捕えて運ぼうとしていたものになります──をこんこん叩いてルイスは言う。

 

「そうだ。さっきここに魔王軍の幹部が来た、この石板はそいつの攻撃だよ」

 

「えっ⁈」

 

「そんで魔王軍の狙いはルイス、お前と──シエラだ。この前シエラが連れ去られそうになったのも奴らによるものだ。話を、聞いてくれないか?」

 

 俺が頼み込むと、ルイスはシエラの一大事とあって即断でうなずいてくれた。シスコン極まってるなぁ。

 

 救貧院の院長に話を通して、応接室を借りた俺は正面に座ったルイスとシエラに話をしようとする。

 

 と、その前に。聞いておきたいことがあるんだった。

 

「そういやお前の名前が男性名で、性別隠してることってなんのためだ?」

 

 神殿での託宣は『この年に生まれし、金髪に燃える瞳と左手に剣の紋章を持つ者』でしかなく、性別についての記述はなかったはずなのだ。

 

 純粋な好奇心も手伝って問う俺に、ルイスは一度シエラと顔を見合わせてから話し出す。

 

「これは……僕とシエラが五歳のとき、生まれた村から僕らを拾っていった聖職者様からの言いつけだったんだよ。『いつか聖域からの使いが来たときはきみを淑女として扱い、本当の名を呼ぶ』『だからそれまでは女児であることと、本当の名を伏せて男として生きろ』『もしきみを迎えに来る者があっても、性別と真の名を述べなければ信じてはならない』『きみの存在を知れば村ごと滅ぼす者だから』って」

 

 なるほど。神殿からの人間が迎えに来たときに、信用出来る相手か判別するための符丁だったわけか。聖職者ことウィルヘルムなりの安全策だったに違いない。

 

勇者(ブレイバー)】ルイスが女だと知ってる奴こそが味方、と。

 

「元居た村はたしかにその後滅んだ。でも、いつまで経っても迎え、来なかったけれどね。聖職者様いわく、僕とシエラには特別な才能があって聖域に必要な人間なんだ、ってことだったのに」

 

「いろいろ事情があったんじゃないか、うん」

 

 旅の途中で骸になるとか、そういう感じのことが。

 

「だから、僕の本当の名前を知っているのはもうシエラだけなのかもしれないね。男の子として生きるのにも慣れてしまったし……そろそろ救貧院を出る年齢だから。女二人だと外の世界は生きづらいのだし、僕が男装したままでシエラを守る方がいいだろうなとは考えている」

 

 まっすぐな眼でこちらを見るルイスを見て。

 

 俺は。

 

 さすがにこれシスコンと茶化せないな……という心持ちだった。

 

 というか、これか。ルイスがずっと男装を解かないで二十五巻も走りつづけてる理由。

 

 シエラを守るためにはじめたことだから、それを完遂するまでは男装のままで居よう……という決意。なんと尊い……。

 

 その妹との戦いで一度目は敗走、二度目は自分以外のパーティ全滅、三度目でとうとう勝ったが妹の命を奪う、という最悪の結末を乗り越えて進んでいるエグドロ原作のことを考えると俺は口許を手で覆うしかなかった。

 

「な、どうしてきみが泣いているんだい、コール・ブレイズ」

 

「なんでもない。頑張ってきたんだなぁと思っただけ」

 

「坊っちゃんときどきキモいよね。なんなん? ひょっとして『歴史書』でこの子らになんかあったん?」

 

「『歴史書』、ですか?」

 

 シエラが首をかしげる。キモいと言われたのは傷つくが、話題がちょうどよくスライドしてくれたのでそこはナイスアシストだライラック。

 

「俺、ちょっとだけ未来が視えるんだよ。この世界のしばらく先まで描かれた『歴史書』みたいなもんを夢で見ててさ。俺、お前らが聖職者に『必要な人間』って言われた理由も、魔王軍に狙われてる理由も知ってるんだ」

 

「……コール様、お気は確かで?」

 

「この流れ、わかってても来るの嫌だなぁ……」

 

 ルイスとシエラの二人にも二十桁の数当てる奴を披露した。ルイスはそれでも信じようとしなかったので奴の用意したコインで裏表当てるのを二十回、ダイス十個で同時に全部の出目当てるのを三十回披露してようやく信じてもらえた。そこから俺は、【勇者】の託宣についてこの時点で話せる限りのことを話した。

 

 ルイスは考え込み、シエラは「わたしは【勇者】でないのならとくに使命などはないのでしょうか……?」となんかちょっとしょげていた。いや、あの。あなたはあなたでステータスの伸びがヤバイので。あとでその辺は話しますね。

 

「……急にこの頃きみの性格が変わったのも、その夢で『歴史書』を見てショックを受けたから、ということかい」

 

「そうだ。ルイス、お前が【勇者(ブレイバー)】っていう、この世で唯一魔王を討ち滅ぼせる存在で。だからこそ神殿に必要な人間だって言われてたことを、知ったからだ」

 

 過酷な旅路を、知ってしまったからだ。そう思っていると、ルイスにひとつ訊かれる。

 

「しんでん? 聖域のこと?」

 

「そう、聖域のこと。……これまでの俺は本当に、散々非礼と失礼を重ねてきたしどうしようもない奴だったと思うけど。先の未来が視えたら、生き方を変えなきゃと思ったんだ」

 

 深く頭を下げて、俺はルイスとシエラに頼み込む。

 

「『歴史』に干渉するにはお前たちの力が必要なんだ。お願いします。俺に力を、貸してください。俺は視てきた未来を変えて、不幸になるひとを少しでも減らしたいんだ」

 

 筆頭に、ライラックとお前らが居る。その熱も込めて、俺はただ頭を下げつづける。

 

 やがて二人が、そっと俺の肩に手を置いてくれた。

 

「歴史とやらはわかりませんが、コール様。あなたが必要としてくださるのなら、わたしの心は決まっております」

 

「……そこまで言われて断るわけにもいかないよ。きみはシエラを、先日と今日と二回助けてくれたし」

 

 顔を上げると、赤の瞳と朱の瞳が、俺の眼の奥をのぞきこんでいる。

 

 横からやってきたライラックがひょいっと両肩にあったルイスシエラの手を持ち上げ、「んじゃよろしくってことで」と言って俺の手の上に重ねた。

 

 ライラックも手を置き、三人分の掌の重みが載る。

 

「パーティ結成みたいな? いーじゃん、こういうの。若い感じで」

 

 誰ともなく、ふふと笑った。

 

 俺はじわじわと込み上げる実感と共に、旅立ちを宣言した。

 

「じゃあ、出発しよう!」

 

「はいはい。きみがリーダーで、ひとまずいいよ。で、まずはどこへ行くんだい?」

 

「そうだな、記念すべき全員での共同作業は──」

 

 

        ◇◇◇

 

 

 ざく、ざく、とシャベルで地面を掘り進める。

 

 町はずれの山の中腹までやってきた俺たちは、ひたすらに深くまで穴を掘る。

 

「……あたし疲れたんだけど、坊っちゃん」

 

「……はあ、ふう」

 

「……なんで僕ら、こんなことしてるんだっけ?」

 

「【四天王】の一角がこんな片田舎で落とされたなんて知れると魔王軍も邪教団も聖職者の裏切り者も絶対動く。まだ俺たちはそれに対抗出来るパワーがない、だから発覚を遅らせる」

 

 というわけでマイホーム〇ーローしてもらう。

 

 俺たちの後ろには筵《むしろ》でぐるぐる巻きにして運んできたモルダーの死体があった。額の角が筵からも突き出しているのがシュールである。

 

 山にモルダーを埋めて時間を稼ぎ、その間に俺たちは逃げつつレベリングを進める。魔王討伐に必要なアイテムを手に入れたり資金を構築したり原作パーティのメンバーを助けたり、やるべきことは盛りだくさんだ。

 

 まずは活動資金づくりだな……いまの時期だと十二巻で言ってた海挟んだ隣国の旱魃《かんばつ》が近いか? その影響で国境沿いにひとが押し寄せて物価への影響が……だと相場の上下が読みやすいものの方がいいか……確実を期すならまだこの時点では未採掘の鉱山……。

 

「坊っちゃーん。トリップしてるとこ悪いんだけど次の目的地とかどこにすんの」

 

「ん、そうだな」

 

 俺はいま考えていた案の提示のつもりでぼやいた。

 

「海か山、どっちがいい?」

 

 ……ヤベ、いまのシチュエーション合わせると死体埋めに行く場所の相談みたいだなコレ。

 

 

 

            旅立ち編・完

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