未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
ブレイズ家には「諸国を見て回って見聞を深めてきます」と言って、おつきのメイドとしてライラックを伴う形で家を出て。
救貧院を早めに卒業したルイスシエラも一緒に旅に出た。
故郷である町を出て一か月。
安心安全に魔王を倒すためのレベリング旅はつづいており、野営もつづいていた。
現在は山の中腹の開けた場所で一夜を明かしたところで、食事を取ったら出発の予定である。
「朝食がもうすぐ出来ますよ~」
と、炊事係のシエラが言うので俺とルイスは朝の稽古を止めた。
ちょうどルイスが俺への斬撃を外して
俺は剣を引いて二歩下がり一礼する。
「……うぅ。また勝てなかったぁ」
「いやお前成長速度がとんでもないんだけどな」
いまだって俺は未来視で三十一回やられてる。勝てる三十二回目を現実にしてるだけで、実際の敗北回数は俺の方が遥かに多いのだ。
「ライラックさんにもっと教えてもらう時間を増やそうかな」
「それされるとあっという間に抜かれそうでこわいぞ、俺」
俺もルイスもライラックに教えを乞うているけれど、俺の方はそれにプラスでいまも日に二千回三千回の未来視稽古をコッソリ挑んでいる。それでやっとこの実力差なのだから、ルイスがもっと本腰入れたらおしまいだ。さすが【
「シエラを守るためにはもっと強くなりたいからね僕。魔法も、コールの教えてくれた鍛錬法でだいぶ伸びてきたのだし」
原作終盤で取り入れてた鍛錬法だからな。レベル低い現状の段階から取り入れたらそりゃ伸びはとんでもないことになるだろうよ。
「つーかコツ掴むのが早いんだよお前。追いつかれないように俺もっとテキトーに教えようかな」
「そっちだって
「見返りね。そんなら……物はあげられるもんないし、なんかしてやろうか?」
「えっ。い、いや。別に。思い出がほしいなんて、言っていないけれど……?」
俺も聞いてないけれど? そんな話してたか?
などと言っていると煙草吸いつつ稽古を見てたライラックが眠たそうな半目で俺たちを見る。
「朝からお盛んだね坊っちゃん、ルの字」
「嫌な言い方やめろよ」
「僕はコールとはなんにもないから。ないったらないから」
「じゃ今日はあたしが坊っちゃんと添い寝していいん? もとはルの字の番だったけど」
「おい添い寝とか言うな。寒さ対策で固まって寝てるだけのことを」
明け方は冷えるし火を焚ける場所ばっかじゃないからな。ちなみにどういう組み合わせで寝るのかはローテだ。くじにしようかと提案したら「未来が視える奴のくじ引きなんて信用できない」とルイスに反対された。たしかに。
「添い寝は……あれは仕方なくのことなんだから、順番変えるのは違うと思う」
「言い訳だ~。いひひ、まーそーゆうことにしといてあげよか」
「むむ……ライラックさんがそういうこと言うなら僕も言うけど」
「お、なになに」
「この間の川辺で水浴びしているとき、ライラックさん『坊っちゃんってさ、あたしらが水浴びのぞきに行っても怒らないと思わん?』って──」
「ルの字。この話やめよ」
「え~? 聞こえないなー」
けらけら笑いながらライラックにやり返しているルイスだった。というか俺のぞかれそうになってたの? 今後周り気にしよっかな……。
ともあれ、一か月共に旅をしているうちに結構仲が良くなったらしい。こういう言い合いも日常茶飯事だった。
「朝食、出来ましたよー」
シエラが火のそばから呼んでいる。俺たちはとことこ歩いていい香りのする方へ向かう。
切株に器と鍋を並べていたシエラは、俺に向かって会釈をした。
「簡単なもので申し訳ございませんが。干し肉と野草をスープにいたしました」
「いやいや、シエラの料理はいつもうまいよ」
「そんな、わたしなどまだまだです。食材を手に入れる段階は、みなさんに頼り切りですし」
ちなみに最初のうちは「メイドなんだし」という先入観でライラックに任せようとした俺だがこの女、追撃を生業に暮らしていたためか食材の入手は抜群に上手いが調理はかなり雑だった。早さと楽さ重視のサバイバル飯になっているので味の方はいまひとつというか……ライラック除く俺たち三名のテンション下落がヤバかった。
というわけで救貧院の食事係を務めていたとの設定がおまけページに記載されていた、シエラに食事役をお願いした。限られた食材で年少組から大人まで幅広い年代が食べられるものを作っていただけはあり、腕前は相当なものだった。ありがてえ。
「早くわたしも自分で食材を手に入れられるようになりたいものです」
「ある程度鍛えたし、たぶんすでにイケると思うけどな」
「そうでしょうか? 正面切っての戦いはみなさんにお任せしてしまっているので、どうにも強くなった実感が沸かないのです」
そうは言うけどお前、潜在ステータス的には単独でルイスパーティを全滅に追い込むスペックあるからね。
まあさすがにまだ一か月だから高効率鍛錬でもそこまではいってないが、どちらかといえばシエラの強みは上級魔法を使いこなすことよりも『
「さて飯だ飯だ。器借りるぞ」
「はい、コール様どうぞ」
「シエラ、僕の分は野草少な目で」
「マシマシにしますね」
「シーちゃん、そこの調味料とって」
「……味を見てから足していただけません? 最初から文句がおありですか?」
「あっハイやっぱいいです」
食事と栄養にはこだわりがあるらしく食卓ではシエラのパワーが強かった。ライラックも言い負かされている。
そんなこんなで、朝食だ。干し肉といくつかの野草を塩で味付けしただけのはずだが、滋味深く沁みる逸品になっている。ライラックが同じ食材使うと〝野性〟って味になるのはマジでなんなんだろうな。
「さてそれじゃいただくか」
「その前に魔法は解いてくれないかな? 稽古も一区切りついたんだしさ」
「あ、悪い悪い。じゃあ、解──」
除、と俺が言いかけたとき、さっきまで俺とルイスが稽古していた平地に大きな影が差した。
次いでドズンっ、と凄まじい重さを伴う音が着弾する。
目をやると、そこには動く巨岩があった。
いや黒く照り返しのない体毛がそう見えるだけか。ずんぐりとしたシルエットで四つん這いになってなお二メートルくらいありそうな、熊──に似た魔族。ずしんと出す前足はそのひと踏みで人間の頭三つ四つ同時に潰せそうなくらいにデカく、太い。立ち上がったら五メートルあるんじゃないか?
首をもたげてこちらをにらむ光のない眼の横から、鉱物結晶じみた角が天を衝いていた。黄ばんで使い込まれた、刃のような牙が並んだ大口が開けられるとボォォォゥ、と木々が揺れざわめくような咆哮が放たれる。
完全に俺たちを獲物と定めたらしく、よだれを垂らしていた。
「うわ、魔族」
「山のなかで魔法を使っていたので、狙われたようですね……」
シエラがぼやく。
どういう仕組みかはエグドロ原作でもまだ明らかになっていないが、魔族は魔法に反応してその使い手を優先的に襲ってくる習性を持つ。
かといって魔法なしで魔族に抵抗することは非常に難しいため、『襲われる危険を承知で』魔法を習得するしかないというジレンマがあるのがこのエグドロ世界だ。
ライラックはやる気がないらしくまったく手を止めずに器からはふはふ食べていた。
「坊っちゃんとルの字でがーんば」
この程度なら文字通り朝飯前でしょ、と言わんばかりの態度だ。俺とルイスはため息をつく。
「しゃーないやったるか」
「僕が右からでいい?」
「頼んだ、俺は左からいく」
「あと魔法の方いい加減よろしく」
抜剣しつつルイスに言われたので、俺は途中だった作業を完遂する。
「おっと忘れてた。解除────
俺とルイスが鍛錬のため全身に掛けていた、
その枷から解き放たれ、俺とルイスの身体能力は一気に跳ね上がった。
これが原作終盤から逆輸入の高効率鍛錬法である。
「じゃあ行くぞ。シエラもしっかり、戦いを見といてくれ」
地面を蹴ると身体が軽く、速すぎて景色が一瞬で置き去りになる。
接近してくる俺たちに反応して熊型魔族は大口を開けた。噛み付きの距離でもないのにこの予備動作……俺は未来視を発動して先に起こることを確認する。
──口の奥で火花が飛び、火炎弾を吐き散らす
──俺とルイスが避けた後ろでライラックとシエラも回避
──朝食が切株ごと黒焦げになる
「……こっのヤロウ俺の朝飯を!」
俺は避けずに前へ進み出た。剣に掛けている強度上昇の
吐き出された火炎弾はまっぷたつになり後方の左右に散っていった。
「あー魔法を使うタイプなんだね。少し、動きを止めようか」
風の
チカッ──とスパークして強烈な雷撃が発生。
ルイスの左手から熊型魔族までを一瞬の稲妻が繋ぎ、温度上昇に膨れ上がった大気がドンと低い音圧を轟かす。
最後に俺が『自分の
熊型魔族は丈夫な体毛と地面に触れた尻尾からある程度は威力を逃がしたようだが、電流により筋肉が収縮し苦しそうに身を縮める。ここを狙って俺は突っ込んだ。
と。
「コール様、
戦況を見ていたシエラが叫ぶ。
熊型魔族が立ち上がる。身を縮めたのは攻撃の予備動作だったか。
「コール!」
「わかってる」
ルイスの注意喚起に俺は返しつつギリギリまで引きつける。
両の前足を掲げて振り下ろす、渾身の一撃。
横っ飛びでかわす。叩き込まれた一撃はこの熊型魔族が飛来したときよりもなお巨大な衝撃を生み出し、切株の上で俺の食器が跳ねていた……のを、ライラックが見もしないで空中でキャッチしてこぼさず卓上に戻している。
「お前、朝食の一品になってもらおうか」
俺は避けた勢いのままに剣を振り薙いだ。熊型魔族の首は両断され、俺の斬撃の軌道上で草叢がざわりと風に波打った。
レベリングは、順調である。