未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
そんなこんなで熊型魔族も朝食の仲間入りを果たした。
むしゃむしゃと食べていると、シエラがちょっと不安そうに言う。
「……今回も見ているだけでしたが、わたしの力量は本当に上がっているのでしょうか?」
「いや、むしろ一番後ろでしっかり戦況を見てもらうことがシエラの場合重要なんだ。
本人にはいまいち実感がないようだけど、俺に「まだ来ます!」と指示を飛ばせたこと。それが一番、彼女の『
「そうですか……ううん、コール様がおっしゃるのなら、そうなのですよね。頑張ります!」
「うん。絶対守るから、安心しろ。俺の背中を常に見ててくれ」
洗脳と改造の元凶は潰したとはいえ、この世界はエグドロ。またぞろシエラに危機が迫らないとも限らないし、しっかり守れるところに居てほしい。
そういう想いを込めて言ったのだが、シエラははっとしてぐっと口を閉じ無言でぷいっとあさっての方を向いてしまった。
……『絶対守る』より『頼りにしてるから一緒に戦おう』とかの方がよかったか? 機嫌を損ねてしまっただろうか。未来視しとけばよかったか。
「コール・ブレイズ。軽々しくそういうことをうちのシエラに言わないでくれるかな」
「あやっぱ良くなかったよないまの。いや俺も、頼りにはしてるんだぞ? ただシエラの将来の戦法的にどうしても後ろに居てもらいたいもんだから」
「ふーん。なら隣で戦っている僕については、どう考えているのさ。僕だって危ない目に遭うときは、あると思うのだけど」
「そりゃそんときは命懸けて守るよ」
「……なーんか軽いんだよね僕に対しては」
「坊っちゃんソレ誰にでも言っとらん? 守るとかそーゆうの。あたしにも言ったじゃん。言って、くれたじゃん」
いや誰にでもじゃない、推しキャラのお前らにしか言ってない。
あ、でもその意味では今後も会う予定の推しキャラに同じこと言うかもだし……『誰にでも』ではないけど、対象者は増えるか……。
「なに指折り数えてんの。誰守るか考えてんのソレ。どんだけ気が多いの坊っちゃん」
「ていうかライラックさんにも言ったのかい? 守るって? いまのところ自分の方が弱いのに?」
「そーなんよ。この子急に決意した感じで『守れるようになりたい』とかカマしてくんだからハズかったよねほんと」
「コール・ブレイズ。きみは、ほんっとうに、気が多いね!」
「別に気が多いとかじゃなくね……?」
詰められるので流すのが大変な俺だった。でも不幸な目に遭わせたくないからさぁ。今後も似たようなことはたぶん言っちゃうよ俺。
ふぃーともあれ、ごちそうさま。
熊の心臓まるっと焼いて食べてみたが結構ジューシーでコリコリしており美味しかった。さすがに血の腸詰めはやる気にならなかったので俺のニ〇イゴハンはこれにて終幕。
皿を洗うパートに入ると、食後の一服で煙草をふかしているライラックが輪っかにした煙を吹きつつ言う。
「しかし朝からよく食べられんねそんなの」
「前からやってみたかったんだよ。まさかこんなとこで実現出来るとは思わなかったけど」
モツ系そんなに好きではないらしいライラックはうわー、という顔で俺を見ていた。ルイスとシエラは興味半分でつまんでいたけどな。
「うーん。個人的には、しっかり切って下ごしらえをした上で焼いた方が美味しくいただけたと思うのですが」
「ごめんなシエラ、たぶんそう言うとは思ったけどコレは丸焼きであることにこそ意味があるから……」
「それにしても雷の
屈みこんだルイスは毛皮をつまんで、ぼろぼろと崩れたのを見て肩をすくめた。俺は野営の片づけをしつつ、声をかける。
「別に路銀のことは気にしなくていいぞ」
「うわー、お貴族様発言だ」
「坊っちゃんさすがにそれは引く」
「家の金使うって意味じゃねえよ! 俺未来がちょっとわかるって言っただろ!」
「もしやまた賭博ですか?」
カジノでさらわれかけたので賭博場が嫌な記憶になっているのか、眉根を寄せるシエラ。
まーカジノで稼ぐのもまとまった金が入るから、必要に応じてやるつもりではあるけどさ。
「賭博は日銭稼ぐのに使うだけだな。長期的には別の計画と策がある」
「わあ、やはり商いの御家の方ですね。どのような深謀がおありなのでしょう」
「町から出るときみんなに『海か山、どっちがいい?』って訊いて、いま山に来たわけだろ」
「だね。まさか山ごもりで一か月過ごすとは思わなかったけれど」
「追っ手が来るかもしれないから街には滞在したくなかったんだよごめんて」
街下りたらきちんと宿とって休もうな、だからそんなジト目で俺を見るなルイスよ。
「……ごほん。そして俺は『歴史書』の知識で、ある程度まで世界の流れが読めてるわけだ」
五年先までの知識がメインの、既刊二十五巻の歴史書だ。俺の行動でバタフライエフェクトが生じている可能性は高いが、蝶のはばたきも地中にまで影響するのは時間がかかるはず。
というわけでここからはひと山当てにいく。
「山での稼ぎの方法──それはゴールド・ラッシュだ」
「ごーるど……らっしゅ? ですか?」
「次の峠の先にあるカンキ山、いまは炭鉱しかないけど半年後にはある坑道から金が出る」
「えっ! 金が⁈」
「その結果として五年後には【工業都市・カンキ】と呼ばれるまでになってて、いま俺たちが居るこの山も全部掘り起こされて木一本残ってない」
エグドロ世界の文明水準は産業革命よりちょっと前、という感じだが鉄道はスタートしている。カンキ山での金採掘は運搬のための鉄道延伸も招き、いまなーんもなくて熊が出てるこの山一帯を街に変えてしまうのだ。
……まあそれだけ欲望の集う街になるとよからぬ野望を企む奴も引き寄せられるので、五年後のエグドロ原作本編だと邪教団が魔王軍に捧げるための人間を集めてる人身売買シンジケートとかが街の地下に跋扈しているのだが。そこも鉱山開拓の最初期に介入出来れば未然に阻止可能なはずだ。
「そう言われても僕、スケールが大きすぎていまいち想像が出来ないのだけども……」
「でもあたしらが住んでたあの町も、もとを正せばブレイズ家が他国との交易の中間拠点として『つくった町』なんよ。十数年前までは農家が数軒のほぼ草原だったっつーね」
「そう。カネが動けば街は出来る。その過程で、最初期に関わることが出来れば大金を得ることが可能なわけだ」
すでに五年後編で活躍する大商人・スパニエルには資金援助してるしなー。エグドロ原作の通りならあと五か月でスパニエル商会は大ヒット商品でブレイクしてすさまじい利益を出す。いまのうちに援助しておけばあとからいろいろ返ってくる。
「じゃあ、僕らはこれから山に潜って金を掘るのかい?」
「それ、
シャベルを強化してひたすら穴を掘る。寝るときは岩に繋がったヒモを持って警戒しながら寝る。って強化系の念修行やってもいいんだけど。
「でも結局のところ金鉱脈掘り当てても俺らは鉱山の持ち主じゃないから、めちゃめちゃ儲かるかというとそうでもない」
「ではどうなさるおつもりですか? ……山を買う?」
「金稼ぐためには金が要るっていう真理を突いてきたな……まあそれは難しいから、俺らが狙うのは需要の先回りだよ」
「言い回しがムズい。もーちょい具体的に教えてくんないと」
飽きてきたのか煙草の箱をいじくりはじめたライラックが言う。俺はご要望にお応えした。
「まずはつるはしの買い占めだ。急にやるとバレるから少しずつ着実に溜めておく」
「ふむふむ」
「スパニエル商会にも一枚噛んでもらって流通網を掌握していこう。あとは俺が覚えてる限りの坑道を人足雇って掘り進めて、金が出たら大々的に広告打って宣伝して鉱山の持ち主につるはしを売り込む。事業ごと売っ払って大金に替えられたらそれがベスト」
「なるほど。なんとなくコール様の計画は掴めました。それだけのお金が確保できるのでしたら、今後のコール様の生活は困らなくなりそうですね」
「……あーいやそれはそうでもないかも」
さらっと『自分たちの』ではなく『コール様の』と言ってるあたりにシエラのしっかりとした自立への心根を感じつつも指摘すると当人が恥ずかしがるだろうからあえてスルーして、かつ現状を正確に伝える俺だった。
「なしてよ。会社売っ払うなら坊っちゃんの実家クラスの資産にはなんじゃないの」
俺の発言にライラックが首をかしげる。
たしかにね。普通それだけの資産が出来たらあとはうまく運用出来ればブレイズ家の両親みたいに悠々自適に暮らせるんだけどね。
俺の稼ぐ金、もう使い道が決まってるんすわ。
「魔王倒すのに必要な【聖剣】が半年後の競りにかけられる。こいつを落札するのに、ブレイズ家の成した〝大当たり〟五回分くらいの金銭が必要なんだよ」
「……は? いやナニソレ。あたしら魔王倒すんでしょ、倒すのに必要な剣なら交渉して引き出しゃいいじゃん。いま誰が持ってんの殴り込み行こうよ坊っちゃん」
「いま、誰も持ってないんだよ」
俺のつぶやきにライラックは「?」の顔をした、ルイスも腕組みして眼を閉じる。
シエラだけが思いついたらしく、片手を挙げた。
「ほいシエラ、どうぞ」
「コール様が海か山に行き先を絞ったことから察しますと……海に、ある?」
「そうだ」
「いま『誰も』持っていないということは、おそらく『ひとが手に入れることの難しい場所』。深海にあるのでは?」
「そのとおり」
「でも競りにかけられる。加えて、高額になる。……あっ。それこそ、【聖剣】も黄金で出来ているのではありませんか?」
「正解だ。こんだけの情報からよくわかったな」
「えへへ」
照れるシエラとハイタッチする俺だった。
シエラ、水平思考クイズとか得意そうだな。今度飯時にいくつか出して遊んでみよう。こういう先を読めるのも彼女の『特性』が発揮されてるのかなーと俺は思った。
そう考えているとむくれた顔でルイスがシエラを見て、そんな自分にいま気付きましたという感じにはっとしていた。なんなの。
「うううう……シエラが褒められていて気分がいいけどシエラときみが接近しすぎているのが気になる」
「お前もいろいろ複雑だな」
軽い気持ちで俺が言ってぽんぽんとルイスの肩を叩くと、ライラックにばんばんと肩を叩かれた。
なんなの。俺がなにしたっていうの。