未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
RPGとか漫画とかにおける盗賊は素早さが高くて錠前破りが出来てたまに攻撃時に相手からアイテムを盗む、とかが特徴だと思うがギイはとくに素早くはなく、錠前破りのスキルもなく、アイテムスティール的な技もない。
『とにかく気配がない』の一点突破で盗みをおこなう。
そんな彼のパーティ加入の理由は単純で、「お金がない」からと野盗じみたことを繰り返していたらルイスにシバかれて仲間入りするというものだ。
「じゃ、悪い奴じゃん」
「でも動機は村の貧しい子どもを食わしていくためだったんだよ」
「じゃ、良い奴じゃん」
「でも盗んだ金で豪遊するし貯蓄とか将来のことは一切考えないんだよ」
「じゃ、ヤバイ奴じゃん」
「でも子どもの将来は心配してて悪い大人は見つけ次第殺そうとするんだよ」
「マジでヤバくて怖い奴じゃん」
ライラックがドン引きしていた。
そうなんだよね。刹那主義すぎるというか。
でもそういう、子どもには優しい奴なので十五歳でまだ大人と呼びきれないルイスには、わりと保護者的な視線を向けている。
だからこそシエラに殺害されたあとで事前に【聖剣】を盗み出してくれていたというのが発覚したとき、「ああ、居なくなったあとでも、道を開いてくれてたんだ……」とルイスは涙する。このシーンのおかげでギイの人気は結構高い。同人で生存ifが描かれてる数も多いのだ。
「まあ、子どもたちのための金に困って盗みに入ったんだとは思うけど」
「だとしたら……『歴史書』の正史で手に入れていらっしゃったミシン共和国の富豪様や競りに参加予定だった方々が、ギイ様に依頼をされたのでしょうか?」
「可能性はある。でもそいつらの手に渡るだけなら、最悪俺がギイをふんじばって『もっかい盗み返してこい』って言えばいいからそんなに心配ない。問題なのは」
「もし依頼を出したのが邪教団や魔王軍、【聖剣】を邪魔だと判断している輩であった場合、ですか」
「そう。またどっかの深海とか人の手が及ばないとこに捨てられたら、手に入るのがいつになるかわかんなくなる」
「でも坊っちゃん、捨てられるんじゃなく壊されるって可能性はないん?」
「十九巻の山場だな」
「じゅうきゅうかん?」
「……『歴史書』の話。【聖剣】の破壊方法を魔王軍が見つける展開がそこに記されてる。ちなみに時間的にはいままだ四巻くらいだからだいぶ先だよ」
転生を繰り返せる魔王の、来世に繋がる縁すら断ち切るのが【聖剣】だ。【勇者】の特異魔法を無制限にする鍵という以外にもそういう能力がある。
で、悪魔宰相が来世を断つ【聖剣】の力を研究した結果、相反する力を持つ【魔剣】を生み出すことに成功する。これを駆使して襲い来るのがかなりの難敵で、【聖剣】が破壊されそうになるという展開だ。アツかった。
「でもいまは【聖剣】自体が託宣でしか伝わってないから、聖職者の裏切り者から聞いてても魔王軍はその破壊方法なんて思いつきもしてないはず。それについては俺たちと神のみぞ知るってわけだ」
「カミってのはよーわからんけど。ま、とにかくごく少数しか【聖剣】の存在知らんからそもそも魔王たちが壊すとか考えてないってのはわかった。そゆことね」
「それじゃあ、早いところ僕たちで手に入れるとしようよ。コール」
ルイスにうながされ、俺はうなずいた。ひとまず旅立つ前の準備としては……出発前に一か所、ひとを送り込んでおく必要があるだろう。うん。
ともあれ、そんなこんなでやってきました海上都市・ジョーグ。
移動はある方法でかなりショートカットしたのだが、それでも六日かかった。鉄道流通網、早よ。
「うわ、大きいっ! 海だ!」
「本当ですか、ルイス……あ! 海です!」
先頭を歩いていたルイスとシエラがきゃっきゃと走っていく。そういや山んなかの生まれだから海見たことないんだよな二人とも。
魔族避けの、街を囲む高い城壁を抜けたその先──俺たちは開けた海沿いに出ていた。海岸線に沿って長くつづいていく街は白い石灰で塗られた壁が輝き、なんか地中海とかを思わせる建物が多い。カルスト地形なのかな。
「んで海洋調査館だっけ。ひとまずそこからその盗賊王? とかゆーの追えばいいんでしょ」
「うん。……前に気乗りしないって言ってたし、申し訳ないんだけど。追跡を頼みたい」
「気にせんといてよ坊っちゃん、あたしだって魔王倒すためならしゃーなしって割り切れるって」
でも割り切る必要は、あるんだな。
作中終盤の上位キャラが所属する【
立場を捨てて辺境のブレイズ領まで来て、最期には俺なんかを守るために命を落とした。そんなひとの過去をほじくり返すことはなるべく避けたかったが、そう考える俺の顔を見るや否やライラックは言ったものだった。
「あたしもそのギイってのと同じで、子どもの将来は心配するよ。坊っちゃんとルの字とシーちゃんと。三人がしっかり生きてける未来、【聖剣】がないと切り拓けないっしょ?」
「子ども扱いかよ」
「大人だかんね」
いひひ、と笑って俺の頭をぽんぽん叩いた。
半年、鍛錬を重ねてきたことで俺とルイスもだいぶ近接戦でライラックに迫ることが出来てきたが、まだ勝ち切ったことはない。じつは未来視シミュレートでコソ練しまくって使えるようになった【
「さって、新聞の日付的にも事件発生からだいぶ経ってんだし。早速追いかけよっか」
「頼むぞ」
俺たちは砂浜の海岸線に沿って歩き、海洋調査館だという大きな建造物に近づいていった。海に突き出すようにつくられた武骨な石造りの建物である。
現場付近は、制服に身を固めた官憲がまだ動き回っている。ブレイズ家は成金貴族に過ぎないので地位は高くないし、こういった連中への立場を利用したアプローチは得意じゃない。
「ライラックさんの
「ん。出来るだけ現場に近づけると助かんだけど」
「では、入口の方々の気を逸らしましょうか」
シエラが言って、最近の装備品に加わった日除けのマントをふぁさりと払った。
内側にはいくつもの魔法陣がひしめいている。そのうちのひとつに、ぽんと手を触れていった。
「
魔法陣が光り輝き、内側からずるんと首が突き出る。手品師が鳩とか出すのよろしく、けれど出てくるサイズは段違いだ。
前足が蝙蝠の翼になったトカゲ、というイメージの飛竜は馬くらいのサイズ感で普通にひと一人くらいは乗れる。エグドロ原作ではこいつの群れを率いてシエラが襲ってくるというのが一戦目だったのでそれを再現すべく召喚出来るようになってもらった。
「行って」
飛竜がシエラの手での指示に従い、海に向かって飛ぶ。
水面に向かって低空飛行、調査館から沖の方へ伸びる桟橋めがけて派手に水しぶきと轟音を立て突っ込んだ。
「なんだ? 不審な物音がしたぞ」「あっちだ」
入口を固めていた官憲たちがばたばたとそちらに向かって動く。シエラは魔法陣に触れて召喚を解除、飛竜の姿を消して証拠隠滅していた。
「手薄になりました。行きましょう、みなさん」
「シエラ、召喚速度も操作精度も腕上がったもんだなぁ」
「ええ。コール様の高効率鍛錬に付き合わされましたので」
「アレな。ちょうどカンキ山の近くに飛竜の巣があってよかったよ」
召喚魔法は殺さずに魔族を捕えて魔法陣に閉じ込める、というのが習得に必要な過程となる。
だから基本的にははぐれて単独になっている魔族を狩るのがセオリーだが、はぐれ魔族はそもそも群れから追い出された弱い奴だったりするので経験値効率が良くない。俺とルイスが
というわけで召喚魔法の場合は……『複数の魔族を同時に』『自分で叩いて弱らせて上下関係を叩き込んで』『魔法陣に押し込めつづける』というのが高効率鍛錬法だ。
よって飛竜の巣に居た百五十九匹を、ワニ〇ニパニックよろしくあっちを叩いてこっちを叩いて弱らせしながら魔法陣に留めた。三週間くらいかかったっけ? まあでもこれによってシエラの召喚魔法レベルは飛躍的に上昇し……すでにどこの貴族の家に出かけても推薦状なしの手ぶらでお抱え魔導士として雇ってもらえるステージに至った。シンプルに物量攻撃の手数ならもううちのパーティでトップだ。
「あらためて、ありがとうございます。わたし、自分がこれほどの腕になってしまうとは思っていませんでした」
「いや、シエラはもとから才能あっただけだよ。群れを相手取るのも得意だって、『歴史書』で知ってたからな俺」
「いいえ、あのようにろくな食事もとれない環境に追い込んでくださったおかげです」
「気にしなくていいよ、シエラには強くなってほしかったからな」
「本当に、休む暇もなく。飛竜が狩って残した獣をなんとか食べて、飢えを凌いで」
「……あの、シエラ?」
「わたし、一生忘れませんからね」
にこーっと笑顔で言ってるけど食い物の恨みの話してる?
俺が震えていると、横を走るルイスが「僕いまだに子どものころシエラと分けた糖蜜パイ、僕の方がピースが大きかったって喧嘩のたびに言われるからね」と知りたくなかった原作裏設定を聞かされることとなった。俺の好感度もう終わっただろコレ。
「ねー坊っちゃんたち、これ奥の方で合ってるん? あたしよーわからんまま走ってんだけど」
「う、うん。貴重品を保管してるとこだって記事にあったし、間違ってないはず」
気を取り直して走る俺。
ロビーからいろいろな資料が並ぶ棚の部屋をいくつも過ぎて、最奥の辺りに辿り着くと壊されたドアが目についた。
「あれだ、ライラック」
「りょーかい」
「ていうかコール、あのドア、ノブはひん曲がってるし蝶番のところも歪んでないかな?」
「ギイは錠前破りの技能とか持ってないんだよ」
「力技過ぎると思うのですが……」
うん。怪盗とかよりは強盗っていう方が合ってるとは思う。パワー型の盗賊なのだ。
そんな現場に来てライラックはひざまずき、床に手を当てる。
「じゃあちょっくらむかし取った杵柄ってことで。追跡、はじめよっか」
ぐっと全身に力を込め、掌を押し付けるとライラックは目を閉じた。
どういう
ものの十秒ほどで「うん」と言って床から手を離したライラックは、立ち上がると来た道の方を見やる。
「ここから六日くらいかかる位置に潜んでんね。盗むことに罪悪感あったみたいだし、本人的にもかなり不本意にやらされてんのが伝わってくる」
「そんなことまでわかるのか?」
「あたしの
ぽりぽりとヘッドドレス越しに頭を掻く彼女は、ばつが悪そうだった。
その能力について、自分のなかで折り合いがつかないことがうかがえる。
俺はそんなライラックに、自分が思うことを正直に伝えた。
「ライラックは、優しいんだな」
「は?」
「過去を、他人の記憶をのぞく能力がフェアじゃないと思ってるから、使いたくなかったんだろ。それに『弱い感情と判断される』って言い方は──感情の弱い強いを自分が、他人が決めていいわけじゃない、って気持ちを感じた」
特異魔法が勝手に判定してるだけで、ライラックのなかではきっと「弱い感情と思われることだって、本人にとっては大事なときもある」と思ってるんだろう。
「自分の能力が他人の考えとか感じ方とかを蔑ろにするっていう、……俗な言い方するなら『暴力性』が。嫌なのかなってさ」
推測が合ってるのかはわかんないけど。仕事で国防のためだからと仕方なく運用するならともかく、そこに居るのが嫌になってせっかく野に下ったのにまた力に囚われるのは嫌だろうな……と、少なくとも俺が同じ立場ならそう思う。
するとライラックは。
口許を隠しながら顔を背けて、天を仰いでハーとため息をついた。
「キッショ。なんでわかんの」
おっと作中重要人物の身体を乗っ取ってるボスキャラっぽいセリフが飛び出したぞ。じつは額に縫い目とかないだろうな?
なんて、茶化す空気でもない。はー、ともう一回ため息をついたライラックは、気持ちを奮い立たせてくれた様子だった。
「……あたしなんかを優しいって言う、坊っちゃんが一番優しーよ。自分の特異魔法のことはやっぱ苦手だけど……坊っちゃんがあたしの気持ちわかってくれてんなら、あたしのこと考えてくれてんなら、だいじょぶ。辛くない」
だから行こ、とライラックは俺の手を引っ張ってくれた。メイドに先を急かされてるのでは世話ないな。
「二人の世界に入りきらないでほしいものだね」
「そうです。わたしたちも居るのですから」
悪い悪い。俺が若干申し訳なさそうにルイスとシエラに向き直ると、ライラックも慌てて俺の手を離してぷいと向こうの方に視線を投げた。
「それでライラック、俺たちの次の進路ってどこになるんだ?」
問うと彼女はんー、と答えづらそうにうめいた。それから、おそるおそるこっちを顧みつつ静かに言う。
「六日くらいかかるって言ったっしょ」
「言ったな」
「ここまで、六日かかったっしょ」
「かかったな」
「……ほぼ来た道戻るカンジ」
マジでかー……。
記憶を読む能力じゃ予期出来ないし仕方ないことだったが、俺たちは盛大にガクっとなる以外のレスポンスが出来なかった。