未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話   作:龍館まこと

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17話 ローレン教と神殿の不可解

 

 せっかくはじめての海に来たというのにルイスとシエラには申し訳なかったが、追うべき相手がここに居ないのではさっさと移動しなくてはならない。

 

 俺はカンキ山からの出発前にひとを送り込んだ場所に「山に戻る」との文面を送る。

 

「坊っちゃんそれどこに送ってんの?」

 

白銀平原(はくぎんへいげん)ってところの道具屋。ちょっと金払って動いてもらってる奴らが居るから」

 

「どーゆー連中?」

 

「傭兵」

 

 いま雇える最高戦力で出向いてもらった。そこの道具屋とはギイが正史で現在働いている場所であり、おそらく彼はそこを人質に押さえられて従っているはずなので。

 

「人質さえ取り戻せば、ギイが依頼主に従う必要もなくなるってわけね。やるじゃん坊っちゃん」

 

「そううまくは運ばない気もするけど……まあ、交渉の札として」

 

 ギイにもエグドロ原作功労者として不幸になってほしくないからな。さあ、あとは急いで追いついて【聖剣】を取り戻すぞ。

 

 俺たちは来た道を逆走しはじめた。

 

「また飛竜(ワイバーン)で旅かぁ……おしりが痛くなるんだけれど」

 

「ルの字もそう思う? あたしもちょっと尾てい骨しんどい。シーちゃんはだいじょぶなん」

 

「まだ我慢出来ます」

 

「ほらぁ! 僕のシエラに我慢なんて覚えさせないでほしいよ、コール!」

 

「馬車旅だと倍以上時間かかるしもっと尻痛くなる。これが現状ベストな移動法なんだよ」

 

 飛竜(ワイバーン)に乗れば地形に関係なく進める。とはいえ人間を乗せると疲労が早まるため、次々に飛竜(ワイバーン)を召喚し直して新しいのに乗り換えながら進む。

 

 これぞ俺の編み出した道のりショートカット法、伝馬制(てんませい)ならぬ伝竜制(てんりゅうせい)である。飛竜(ワイバーン)の大量召喚が可能なシエラが居るからこそ出来る荒業だ。……とはいえ風向きや気候(飛竜(ワイバーン)の奴、変温動物に近いのかあんまり高い山とか降雪地帯を通ろうとすると動きが極度に鈍る)次第では通れない場所も多いので、そこは情報を得て事前に組み立てる必要があるのだが。

 

 幸いエグドロ原作の巻末おまけには土地の詳細設定や危険な飛行型魔族の棲む地域も載っていたので問題ない。俺は全部覚えてるからな。

 

 風を切って飛ぶ飛竜(ワイバーン)で進んでは降りて野営、を繰り返して道を戻っていく。RPGなんかでもお使いクエストとかわらしべクエストとかで街と街の間をやたら振り回されるのむかしよくあったけど、リアルにやらされると徒労感がかなりデカいな……。

 

「坊っちゃん、霧出てきた!」

 

 はばたく飛竜(ワイバーン)のなかでも速い奴に乗って先の方を進んでいたライラックが荒れ狂う風のなかで声を張り上げる。む、たしかに空気がべたついてきた。

 

「山の方の気温低いんだな。おーし! 降りるぞ!」

 

 霧のなかを進んでいくのは墜落の危険があるので、俺たちは地上に降り立った。ジェットコースターなんてメじゃないくらいの勢いと速度に内臓が浮くの、慣れないな。

 

 ふわりと着地して召喚を解除し、霧の出た森のなかで開けた野営地を探す。魔族が近づいててもわかんなくなりそうな深い霧なので、早いとこ休みたいな。

 

 考えながら木の根を避けて歩くと、横でシエラがぶるっと震えた。

 

「霧で気温が下がったせいでしょうか、寒いですね」

 

「シエラのマントは機動力重視で薄手にしたからなぁ」

 

 召喚の魔法陣にパっと触れられるようにしないとアクションに遅れが出るから、あまり重くて厚手のものにしていない。そのせいで湿り気には弱いようだ。

 

「冷えるだろ」

 

「まだまだ平気です」

 

「……顔色良くないんだよ。マントと濡れた上着一旦脱げ」

 

「えっ。ぬ、脱げとは」

 

「言葉通りだ。そんで俺のマントの方に入っとけ。体調に障ると召喚にも影響出るだろ、ここからも頑張ってもらわなきゃいけないんだから」

 

 俺のマントは防御力のことも考えて裏地を厚めにこしらえているので、多少の雨なら弾いてしまう。ばさりと懐を空けるとシエラは非常に緊張した面持ちになった。

 

「う、薄着でコール様のおそばに寄るのはあまりにも恐縮ですので……」

 

「気にすんな。ルイスだと身長的にマントのなか余裕ないだろうし、ライラックだとメイド服のスカートがデカいから埋もれるだろうし」

 

 ちょいちょいと指で招くと、「では……」とおずおずちょこちょこちいさな歩幅で近づいてきて、シエラはマントの内に納まった。濡れた上着を脱いだとき、白いワンピースが肌に貼りついていたので俺は目を逸らしておいた。双子そろって結構おっぱいあるんだよな……ルイスは相変わらず、サラシ巻いてうまく隠してるけど。

 

「冷えませんかコール様」

 

「ぜんぜん平気──と思ってたんだけどなんでだろう背筋に寒気が」

 

「な、なんでしょうねー。あはは……」

 

「じー……」

 

 ルイスが横から俺たちに視線を飛ばしている。ライラックは前の方を歩きながら「湿気で煙草に火ぃつかんのだけど、あーいらいらする」とヤニ切らしたようなことを言っていた。

 

「なんだよじっと見て……ルイスも寒いのか?」

 

「そうだと言ったら僕もマントに入れてくれるのかな」

 

「さすがに狭くなりそうだけどな……」

 

「強くは断らないんだね? じゃあお邪魔するよ。シエラと二人きりには、させられない」

 

「あ、おい」

 

 もぞもぞ、っとマントに潜り込んでくるルイス。左にシエラ右にルイスで、勝ちまくりモテまくりみたいになってしまった。ていうか密着してくるから歩きづらい。腕にぺたぺたもちもちしたものが触れてるけどコレ濡れて服張り付いた二の腕なのかおっぱいなのかどっちだ。さすがにちょっと気になるぞ。

 

「……坊っちゃんもやっぱそーだよね。若くてハリがある方がいーんだよね。あーさむさむ、マッチでやっと火ぃついたのに指先まで凍えそ」

 

 キレるんじゃなくていじけるのやめれ。一番始末に困るから。

 

 そんなこんなでマントの中も野営で寝るときよろしく交代制となり、ひどく進みが遅くなってしまった。

 

 しばらく歩いていくと、森の奥に光がちかちかしているのが見えた。お、人里かな? そう思いながら近づくと、ぼんやりした輪郭が見えてきて荘厳な尖塔を頂く建築が姿を現す。

 

「神殿、か」

 

「しんでん……聖域のことだったね」

 

「そう、それ」

 

 ルイスの確認に俺はうなずく。前もそうだったけどなんか用語が通じないときあるんだよな。ブレイズ領には神殿なかったし仕方ないのかもしれないけど。

 

 どうやらこの、霧深い一帯での生活拠点となっているらしき村だ。狩猟の際に使う解体小屋なども見えている。夜半だからか家々はしんとして、神殿だけが明かりを灯していた。

 

「洞窟とか平地があればと思ってたけど、室内借りられるならそうしたいな。行ってみるか」

 

「賛成だよ」

 

「わたしもです」

 

「んー、とりあえずあたしは一服してから入んね。さすがに聖域んなかで煙草吸えんし」

 

 ひらひらと手を振るライラックは軒下に留まった。俺とルイスとシエラで、門を開けて室内に入る。

 

 入ってすぐ天井の高い礼拝堂で、一番奥が祭壇。両側にベンチが並んでいる、いかにも結婚式とかで見る景色だ。

 

 ちょうど祭壇の前で、順番に燭台へ火を灯している人影があった。俺たちが近づくと、こちらに気付いて会釈をする。おかめみたいなふくよかな顔。髪をひと束も外に出さない黒い頭巾が印象的な、修道女らしい恰好のひとである。

 

 神殿──もとい聖域を各地に擁するローレン教は、神により天地を分けた創世の神話を聖典にしている一神教だ。聖職者は男女問わずたくさん居る。建物の管理を任される『代行者』という偉めの立場もどちらの性別でも成れるので、彼女がここの代行者かもしれない。

 

「夜分に失礼。こちらの代行者様でしょうか?」

 

「ええ、わたくしがそうですが……どうなさいました?」

 

「旅をしている者なのですが、霧に迷いそうになってしまい。一泊、軒先をお借りすることは可能でしょうか」

 

「まあ、こんな霧深い夜にそれは大変だったでしょう。奥には巡礼の者を迎える一室がありますので、ぜひそちらをお使いくださいな」

 

 俺が話しかけると、微笑んだ彼女はそう言って簡単に許可をくれた。ありがたい。なんだかんだ言ってもやっぱ室内で休めるのとそうでないのとでは身体の調子がかなり変わるからな。

 

「冷えたでしょうし、お湯を用意します。手足を温めて、身体を拭ってください」

 

「助かります」

 

「先に部屋でお待ちになって。毛布も隅に畳んであるものをご利用いただけますので」

 

 石造りの床をかつかつと鳴らし、代行者の彼女は去っていった。

 

 俺たちは奥の部屋を借りて、荷物と外套を下ろす。つかれたなー。本音を言えば湯舟張ってもらってざぶんと浸かりたいとこだけど、この山の集落だと湯は拭うのと洗うのに使って最後にかぶる程度で生活してるだろうし、さすがにそれは贅沢が過ぎるか。

 

「そういえばカンキ山にも聖域はなかったので、わたしはじめてです。このような場になっているのですね」

 

「中央都市・フルグに聖域のなかでもっとも大規模なものがあって、あとは各地にこうして小規模なものが点在してる。熱心な信徒は巡礼って言って、すべての聖域を回ろうとする者も居るそうだ」

 

 しかし聖域巡礼っていうと途端にオタクっぽく聞こえるな。いや巡礼こそもともとは宗教的な言葉なんだから、それに勝手に意味を与えたオタク側が悪いんだけど。

 

「そうなのですね。あ、そちらは聖典ですか?」

 

「みたいだ」

 

 シエラが指さしたテーブルの上にあったのは、ローレンの教えについて伝えるための簡易版だろう。俺は興味本位でこれを手に取り、ぱらぱらとめくってみた。

 

 ……んー?

 

 なんか記述が、思ってたのと違うな。

 

「どうしたんだいコール?」

 

「いや……『歴史書』で読んだのとちょっと違ったんだよ」

 

「聖典の内容が? それはなんだか、妙なことのような気がするけれど。だってローレン教はきみが生まれるよりはるか以前から存在するのだし、ギイさんの行動が変わったように『未来が視えるきみの行動の影響』は受けないはずだろう?」

 

「だよなあ」

 

 首をかしげつつ読み返してみるが、やはり記述が違う。

 

『この世は神・ローレンが【原初の刃】と呼ばれる剣で天地を分け、此方と彼方を分け、陸のものと海のものに分け、地を歩むものと空を行くものにわけ……と、あらゆるものを分割した末に生まれた。神・ローレンを讃えよ』

 

 というのがエグドロ原作における神話だ。

 

 だがここにある聖典では、そもそも出だしが異なる。

 

『この世は剣により天地を分かたれて生まれた。此方と彼方を分け、陸のものと海のものに分け、地を歩むものと空を行くものにわけ……そのとき人々を導いた者こそ、先導者・ローレンである。ローレンを讃えよ』

 

 ……神、居ねえ! 先導者が崇拝されてる。どういうことなんだこれ。

 

「苦しいときの神頼みとか、神はサイコロを振らないとか、そういう言い回しもしないもんなのかなぁ」

 

 ぼやく俺に、ルイスがふと思い出したように言う。

 

「そういえばコール、前々から思っていたのだけど」

 

「ん?」

 

「【聖剣】について説明するときも『俺たちとカミのみぞ知る』って言ったり、ときどき『カミ』って言うけどさ。()()()()?」

 

 ……んん?

 

 いや、急に言われると困るけどな。神の定義? ムズくない?

 

「人間を超えた、すごい力持った存在……それこそ世界を作り出すとか出来て、全知全能……的な?」

 

「『歴史書』には、そういうのが存在したの?」

 

「ああ、居るっていう話がローレン教のなかにあった」

 

「じゃあそれ、先導者ローレンのことじゃないの?」

 

「いや、神ってのは表に姿を現さない存在っていうか……」

 

「『居る』って言えるのかい、それ」

 

 結構クリティカルな話になってきてない? 宗論は勝っても負けてもキツいぞ。

 

 そう考えている俺に、ルイスは何気なく常識を説くように言った。

 

「先導者ローレンは、実在したから。それこそアルゼー王国の史書にも記述があるはず」

 

「……もしかしてそれ、そいつが国王で自分を崇拝させるために自己と神を同一視させたとか。そういう奴じゃないのか」

 

「ぜんぜん、市井のひとだよ。ただすごく長生きをして、天地を分けた開闢(かいびゃく)の時代からずっと見てきたこの世について伝えてる。その教えがまとめられたのが、聖典ということだよ」

 

 言われて、俺は手元の聖典に目を落とす。

 

 ……あっ。

 

 もしかして神という概念が、このエグドロ世界では生まれてない?

 

 神殿という言葉が通じなかった。『神』とつく言葉を発するとみんな怪訝な顔をした。

 

 極めつけがこの、聖典。エグドロ原作でも聖典の著者はとくに明かされてはいなかったけども、それでも先導者なんて話は出なかったし、もちろんそいつが実在の人物なんてことも書かれてなかった。

 

 この世界は、なんだ?

 

 俺の知ってるエグドロ原作と、なにかが、違うのか……?

 

「みなさん、用意が出来ましたよ」

 

 考え込んでいるとおかめ顔の代行者がやってきた。大きな木製のたらいを、腕をいっぱいにピンと伸ばして運んできてくれた。

 

 部屋の入口に立つ彼女の顔にかかるほど、たらいからはふよふよと湯気が上がっている。冷えた身体にはなによりありがたい。

 

 まあ一旦考え事は打ち切って、身体をほぐすか。お湯で身体を拭うのならルイスシエラが服を脱ぐし、俺はひとまず部屋の外に出よう。

 

 そう思って代行者に「ありがとうございます」と言いながら部屋の出入り口に向かう俺だが……あれ、なんか違和感。

 

 代行者の居る、部屋の出入り口付近の壁。

 

 ぱきぱきと白く、霜が張り出している、ような。

 

 

「用意が、出来ましたよ────あなたたちを、葬る用意がッ‼」

 

 

 代行者がくわっと眼を開くと、顔を覆っていた水分が弾けて輪郭がシャープなものとなる。おかめっぽい輪郭は水分を含ませることによる偽装だったらしい。

 

 頭巾も内から伸びた髪に引き裂かれて落ち、差し色にところどころ黒がまばらに入った長い白髪が飛び出す。

 

 同時にこめかみからねじくれた鉱物結晶の角。

 

 貞淑そうだった衣服もはだけ落ち、なかに着こんでいたらしいボンデージじみた衣装が露出度高く肌を露わにした。

 

 黄色い瞳に細い瞳孔を宿したそいつは、【四天王】がひとり。水の属性魔法(エレメント)を司る──

 

 

「【凍憑(いてつき)】のダーナ!」

 

 

 魔王軍の悪の女幹部に向かって叫び、俺は瞬時に未来視を発動した。

 

 

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