未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
──たらいに張っていた水が一気にすべて霧と化して室内を満たす
──視界を奪われた俺の懐に飛び込んできて鎖を振るうダーナ
──ガードした左手が鎖を伝ってきた超低温の冷気で凍り付く
──逆の手から繰り出される拳で左手が粉砕される
──俺の反撃は回避されてダーナが外へ逃げていく
──追って部屋の外に出るもすでに礼拝堂も村のなかも霧に満たされている
ヒット&アウェイかよ。……あのたらい、湯気が出てると思ったが実際には「
ああくそっ、油断した。こいつ俺たちをあの部屋に誘導したあと、周囲を霧で満たして自分のフィールドをつくってやがった!
【凍憑《いてつき》】のダーナは隣国であるミシン共和国の方を攻めている【四天王】で、この通り水の
つまり……ここに降りることになった原因の霧も、こいつが生み出したものだろう。ミシン共和国との国境沿いについてもこの霧を自在に出し入れする能力で敵軍を攪乱・行動を躊躇させて進軍を阻んでいる使い手だ。
しかしそちらの地域を攻めているのなら、こっちに来ている余裕は本来ないはず。これも俺の行動で歴史が変わってきているせいか?
ええい、原因究明はあとだあと。倒すぞ! リトライだ!
──ルイスに「風!」と魔法を使う指示を出す
──たらいに張っていた水が一気にすべて霧と化すが吹き飛ばされる
──後ろに引きながらダーナが室内へ鎖を振り回したので全員が屈んで避ける
──超低温の風が低空を薙ぎ払い俺たちの靴底と床が凍結接着される
──動きが鈍ったのを見てダーナが外へ逃げていく
対応が早い。ルイスの起こした風を見て即座に引いたか。この判断力の高さが指揮能力の高さにも繋がってて、厄介なボスなんだよな。
なら俺たちの方が先に外へおさらばしよう。ライラックとも合流したい。
──ルイスに「風!」と魔法を使う指示を出して俺は壁に寄る
──たらいに張っていた水が一気にすべて霧と化すが吹き飛ばされる
──ダーナの鎖が来る前に触れた壁へ「
──霧のなかから突如現れた幾本もの肉の鞭にルイスとシエラが絡めとられる。
──肉の鞭に見えた「舌」を辿ると洞穴のような黒い喉奥が霧のなかから現れる
──「舌」に飛んできた鎖が触れて間接的に冷気が伝いルイスとシエラが凍り付く
巨大な蛙型魔族。すでに水棲系の魔族を周囲に配置していたか……巻き付く舌、触手みたいでちょっとやらしいな。
先ほど指揮能力が高いと言った通り、ダーナは召喚魔法も得意だ。地形操作と【
蛙どもに動きを止められると、そこで瞬間凍結が連鎖してあっという間に全滅だ。
蛙どもの配置をすべて確認して戦う必要がある。
……しかし、ライラックはどこだ?
そう思って次のリトライに飛ぶと、聖域から出てすぐの解体小屋のところで腰をぬかして震えていた。……どうやら蛙が苦手だったらしい。
となると今回は俺たち三人で切り抜けるしかない。なるべく経緯も聞きたいから、生かして捕える方向で。
多数を相手取る戦いだが、まあなんとかなるだろう。
『シエラが居れば』な。
リトライ。リトライ。リトライ、リトライ、リトライリトライリトライリトライリトライ。
考えに考えを重ねて先を読んでいく。現れる状況に合わせて修正する。未来の情報は俺だけが把握しているので、いかに短く伝えて連携が取れるか。そこにすべてが掛かってくる。
やがて起きる事象に対しての〝流れ〟が完全に組まれ────
「────
眼を開いた俺は、行動を開始した。
「風っ!」
短い呼びかけで、ルイスは理解した。即座に風の属性魔法を発動する。
雷と同時にこちらも修練を積んでいたので、巻き起こる旋風はかつてのそよ風とは比較にならない。一気に室内の霧が吹き飛ばされる。
「あら、お早い対応だこと。早い男は嫌われるわよ?」
くすくすと煽るダーナが鎖を振りかぶるのを見つつ俺が壁に走ると、ルイスが言い返す。
「僕、男だって言ったかい? 見た目に惑わされないことだね」
鎖使いは向こうなのに鎖野郎みたいなこと言い出したな。なんてこと考えながら、俺は壁に掌をドンして
そのまま──暇つぶしに覚えた
待ち受ける蛙型魔族の舌の軌道と奴らの位置も把握済みだ。接近する舌は抜剣して切り刻み、稼いだ一瞬でシエラに指示を飛ばす。
「数は五十二、互いの攻撃軌道を邪魔しないよう等間隔に散らしてる! 飛竜で迎え撃て!」
「──承知」
ばさり。
シエラのマントがはためき、描かれた魔法陣が彼女の手に触れられその力を発揮する。
飛竜の大量召喚。陣から首を出すや凄まじい勢いで飛ぶ飛竜が、はばたきで霧を散らしつつシエラの正面に弾幕を張る。
当たる。外す。当たる。外す。
その結果をシエラは頭に叩き込み、この村内を俯瞰した図を描き出す。
当たったということはそこから大体、等間隔の位置に居る。目星をつけて召喚した飛竜で再攻撃、その成否をまた頭に叩き込んで次の攻撃箇所を修正していく。
それを、二十体召喚した(昼に召喚しすぎてたのでいまはコレが限界)飛竜の行動すべてに対して同時に行っていく。
頭こんがらがるなんてもんじゃないよな普通は。
「一、
でもシエラは普通じゃない。
全飛竜の行動範囲と速度と軌道と攻撃の成否を、リアルタイムで感じ取って修正を加えながら攻撃をつづけることが出来る。
自分の才能について旅の当初は自信を持てないようだったが、とんでもないご謙遜だ。
特異魔法などではない、シエラの強力な『特性』──それはこのように複雑な局面を難なく読み解く能力、言い換えれば『俯瞰能力』だ。
エグドロ原作にて洗脳状態で登場しルイスパーティを最初に敗走させたときも「連携が拙い」という点を把握しており、そこを突いていたというのが後のモルダー戦で明らかになることは前にも述べた通りだ。彼女は常に、その俯瞰能力で以て敵を封殺してきたというわけ。
俺たちの戦いでも、シエラの指示や感覚が適切だったことは枚挙にいとまがないって感じである。俯瞰能力ばんざい。
俺とルイスは剣でシエラに飛ぶ舌とダーナの鎖を弾きつつ、シエラが蛙型魔族を全滅させるのを待つ姿勢となった。
「なっ──こ、この小娘、どういう読みの正確さと速度なの⁈」
「驚き慄くがいいよ。僕の自慢の妹さ」
「チェス的なのでシエラと遊ぶと瞬殺されるからなマジで」
路銀稼ぐのに冗談で真剣師やってもらったら対戦相手がその棋譜を新定石として発表してたのが後々わかったくらいだからな。あとコッソリ賭博をやらせてたのがバレて、俺とルイスはこっぴどく叱られた。
まあそんな彼女なので、駒の数が三十程度違ったところでどうということはない。
見る間に牙で切り裂かれ、蛙どもは数を減らしていく。
「でも、まだよ! ……相討ちになさいっ!」
霧のなかからのダーナの指示で、蛙どもの動きが変わる。
ずんぐりした緑の身体を仁王立ちにさせて、太鼓腹で受け止め──胃袋をまるごと外に出し、消化液でダメージを加える。うわグロっ。原作だとアレに当たったミシンの兵隊がでろでろに溶けてくのが描写されてトラウマなんだよな。
翼の薄い膜部分を溶かされ、飛竜が絶叫した。牙が主な攻撃武器とはいえ、翼で加速して突っ込むのが前提である以上これは攻撃手段を消されたに等しい。ダーナがあはははは、と霧の向こうで哄笑を上げる。
勝ち確と思って笑ったか?
甘ぇよ。
「
「────は?」
ダーナは間の抜けた声を上げた。
召喚士とか式神使いとか傀儡師とかロボット使いとか、左右やら周囲に駒を置いてる奴は本体か駒のどっちかが回復技持っててそいつを優先して倒さないといけないのが
シエラは祝福と召喚のふたつがパラメータ高かったからとにかくそれを伸ばした。とはいえモルダーの【
シエラはこれを俺たち四人とすべての飛竜にかけている。
一発だけなら不意の攻撃に耐えられるように。……まあ凍結粉砕とか、デカすぎるダメージに対しては血止めくらいの効果になるのだが。
そしてシエラは一度でも見れば、不意打ちも織り込んで手を進めることが出来る。
捕まえられると消化液を喰らうのなら、その寸前から回復をはじめることでダメージ処理を相殺して飛竜の動きを止めさせない……ということまで実行していた。
気づけば蛙型魔族は全滅しており。
飛竜のはばたきが霧もあらかた散らして、鎖を握るダーナはもはや自分を守る駒もなく立ち尽くしていた。
「詰みです」
ダーナを指さすシエラの頭上では無傷、かつ二十体の飛竜が聖域の尖塔から屋根に止まり敗北者を見下ろしている。ルイス敗走時のカットがまさにこんな構図だった。誰かスクショしてくれ。めっちゃカッコいいから。
一方でライラックは蛙型魔族からふらふらと逃げてきたのか、切り刻んだ舌と唾液にまみれたどろどろの状態で泣きそうな顔をしておりめちゃくちゃ可哀想だった。……未来視はじめた時点でもう蛙型魔族と遭遇してたみたいなので、ごめん。消化液とか危険なのはリトライ繰り返して回避させたけど、唾液まではさすがにフォロー出来んかった。
「嘘よ……わ、わたくしがっ。こ、こんな小娘に、やられるなんてっ……!」
格の違いを思い知ったか、ダーナは震えていた。瞬間凍結の魔法があくまでも『水分を凍らせる』ものである以上、冷気を纏う鎖が直撃する、ないし蛙の舌のように水分豊富な物体に触れてるときでなければさほど怖くはない。手数が減ればこんなものだ。
霧も晴れて狙いやすくなったし、もうダーナに出来ることはない。
「……こんの陰湿女ァ。あたしが大っ嫌いな蛙なんざけしかけてきて、絶対許さん」
剣を低く構え、ライラックがドンッと進み出た。
「くっ!」
苦し紛れに振るわれるダーナの鎖。地を這う蛇のような白い鎖は──剣先からしたたる粘液によってわずかに可視化された【
ルイスがその鎖の先端に、人差し指を向ける。
「生け捕りだから弱めに撃ってあげるよ」
雷の属性魔法が、細く紫電を空に放つ。
鎖越しに
完全勝利である。
「……坊っちゃん、いま完全勝利だとか思わんかった? あたしのこの惨状を視ておきながら、『完全』とか思わんかった?」
前言撤回。
あの、俺の力不足でした。
ごめんなさい。泣くのはやめてください。そんなに蛙苦手なんて原作にもなくて知らなかったんだよぉぉ……。