未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
自分の鎖で縛られてたら世話ないよな。
ボンデージ姿なので完全にそういう店みたいな雰囲気になってしまっている解体小屋のなか、鎖でぐるぐる巻きにしたダーナを前に俺は剣を片手に尋問に入っていた。
「目が覚めたか?」
「……くっ」
殺せ! とか言いだしそうな雰囲気でダーナは下唇を噛んだ。
服装はボンデージだし武器は鎖だし蛙で触手みたいな舌を出すし、じつはエロ同人多いんだよなこいつ……。
そんなことを思いつつ、俺は剣先で顎クイした。あいにくと俺は拘束系の趣味はないし触手は、まー嫌いじゃないけどそこまでポイント高くないし。
なにより、この村は無人だった。
無人に、
俺たちを待ち受ける罠を仕掛ける間に、こいつ面白半分に村を滅ぼしたのだ。んなおぞましいことやらかしてた奴相手には……容赦するなんて選択肢は存在しねえよ。
「上空に霧発生させてたのもお前だろ。誰の差し金だ? ミシン共和国の国境線に居るはずのお前が、なんでここに居る?」
「わたくしが、答えると思っているのかしら?」
「質問に質問で返すな。こっちに【
「それがなによ?」
「部位を大きく損なうようなダメージでなければ、『回復が間に合わない』ってことはないっつってんだよ」
俺はマントの内側からごとごとと器具を落とした。
解体小屋のなかで拾った、肉を取り・骨を離すための道具各種である。
ダーナの顔がひきつった。
「お前の召喚した蛙どもからすくい取ってきた消化液もあるぞ。どこに塗られたいかくらいは選ばせてやる。それとも、好きな穴広げてそこから
俺の淡々とした物言いに、ダーナは想像を絶する苦痛を想像したようだった。
先の尖った筋切り鋏を手に取った俺は、閉じた刃をゆっくり開きつつ言う。
「さっさと答えないとこれで
暖炉の灰掻き用の金属製ちりとりにすくい取ってきた消化液を、倒れ伏したダーナの顔のすぐそばに一滴二滴と垂らしていった。
白煙を上げていくそれを見て限界まで眼を見開いたダーナは、ほどなく俺に助命を懇願した。それに対して「お前の言葉は一切聞こえない」「お前に指示した奴の言葉しか俺は聞かない」と繰り返したところ、あっさりすべてを白状した。
「そっ、それは……ダムドの連中を介して、報告があったのよ……『半年前から行方不明のモルダーはすでにやられている』『犯人はこの連中で、海上都市に現れたなら三日以内にここを通る』『倒さなければ魔王様の障害になる』って! じょ、情報元はわからないけど、モルダーの死体は見つかったから……!」
モルダーの死体、邪教団に見つかってんのかよ。どこから漏れて掘り返された? たまたまだったらいいけど、さすがにそんな楽観視しちゃダメだよな。
「【聖剣】を狙わせたのも俺たちをおびき寄せるためか?」
「……せいけん? なによそれ」
「そっちは別口か」
ギイに盗ませたのは魔王軍や邪教団の手の者ではないらしい。一体、誰だ?
ともあれ原作知識で脅しに屈するタイプであることは把握していたが、スムーズに進んだことは正直ありがたかった。いくら人殺し相手でも、拷問は気が進まない。
「わかった。正直に話した褒美に……楽に死なせてやる」
「は、話したのに⁈」
「助けるなんて一度でも言ったか? あの世で村のひとたちやいままで殺した連中、あとノカモの村に住んでたロクサーヌって奴の両親にも謝っとけ」
ルイスパーティの僧侶枠である彼女は、こいつに両親を殺されたせいで旅に出てるからな。とくに謝っておいてほしい。
「それとひとつ、良い話がある。さっき話した【聖剣】があればお前らの信奉する魔王も転生出来なくなるからな、遅いか早いかだけであの世で一緒になれる。寂しくないぞ」
剣を掲げながら俺が言えば、鎖に巻かれたまま逃げようとするダーナが困惑の表情でこう叫んだ。
「なっ、なに言っているのよっ、『
……?
エグドロ原作だとこういう感じに追い詰めたら、「わたくしは転生出来ないけれど、我が恨みは魔王様がどこまでも連れていってくださる! お前たちはいずれ必ず、転生をつづける魔王様に滅ぼされる定めよぉぉ!」みたいなこと言ってたんだけどな。
「……『生まれ変わり』のことだよ。魔王は倒されても何度も生まれ変わって、またこの世にやってくるんだろう?」
「そんな生命、あるはずがないでしょうっ! 一度きりひとつきりしかない御命だから、我ら【四天王】と悪魔宰相の奴がお守りしているんじゃないっ‼」
……はぁ?
どういうことだ。
転生もまた神と同じく、概念として存在してないのか?
◇◇◇
ダーナにとどめを刺して外に出た俺は、聖域の建物に戻った。
先に湯あみを済ませていた三人の視線が俺の衣服を上から下まで往復する。返り血が少ないことから、拷問がなかったと判じたらしくほっとしていた。ライラックなんて小屋に入る前「坊っちゃん。汚れ仕事ならあたしがやるから」とだいぶ食い下がったからな。
でも俺としてはもうライラックにも汚れ仕事してほしくない。だから「ダーナについては歴史書で弱味を知ってるからすぐ喋る」と説き伏せて、俺の方で請け負った。
「あんま、手荒なことにはならんかった?」
「脅しかけたらすぐ吐いたよ」
「そのような尋問のテクニックをお持ちだったとは、驚きです」
「……うん、『歴史書』にそういうのも書いてあったからな……」
さっき俺が使った言い回しとか態度はエグドロ原作における「ノルマ」こと拷問シーンからほぼそのまま抜粋したものである。
いやーでも消化液がくぱぁした臍に注がれるシーンはちょっとキツすぎて読んだあとしばらく肉系食べる気がしなくなった。画力も高いんだよねエグドロ……。
「吐いた情報からすると、邪教団から魔王軍に報告があったらしい。俺たちがモルダーを殺したことと、海上都市に移動してたことが奴らにバレてる。加えて俺らの移動手段もな」
「飛竜での移動が、ですか」
「それを前提にここへ網張ってたらしいからな。俺は飛竜でカンキ山から海上都市へ向かえる最短ルートを探したから、絞り込もうと思えば絞り込めたんだろう」
最適解は最適解ゆえに読みやすい、という奴だ。
「あとダーナは【聖剣】のことまだ知らないみたいだったから、ギイに盗みを依頼したのは魔王軍や邪教団じゃないな。ミシンの大富豪か、競りに参加予定だった奴がやらかした可能性出てきた」
「なーんかややこしいねぇ。あたしこんがらがってきちゃった」
「ともあれ、やることは変わりない。ギイに追いついて【聖剣】を取るぞ。あれはルイスの専用装備なんだからな」
「そういえばコール、取るなんて言っているけれど盗んだ品取り返したらちゃんと元の位置に戻すんだよね」
「えっ……?」
「えっっ? もしかして、そのままパクるつもりだったの?」
ずずいとルイスに上目遣いで迫られて、燃える赤い瞳からさっと視線を逸らしてしまう俺だった。
顔が良くて圧が強いのと、こっちが倫理的に立場弱いのとで言い返しにくかったからだ。
「せ、世界の窮地だし……とりあえず魔王倒すまでは借りて、それから返すって方向じゃダメか?」
「ダメだよ。あれを競りにかけることで海底資源調査の費用もまかなう予定だった、って新聞に書いてあったのだから」
「それはそうなんだが……」
「不正はナシ! 取り戻したら海洋調査館に戻すこと」
「でもよ。落札、出来なかったらどうする? 言ってるだろ、アレでしか魔王倒せないって」
「そのときは誠心誠意、落としたひとに頼み込むよ。『どうか貸してほしい』って。【魔剣】でしか壊せないんだったら壊れる心配もほぼないわけだし、僕が魔王倒したあかつきにはさらなる箔がついた剣が手元に戻ってきますよ? って言えばよくないかな」
ずばーんとまっすぐな言葉で、それでいて多少の計算を含めた提案をしてくる。
高潔でありながら、柔軟さも兼ね備える。背後に光が差して見えるようなまぶしい【勇者】の姿が、そこにあった。
「お前は『歴史書』のなかにあった【勇者】まんまだなぁ……」
「なにそれ。褒めてる?」
「この上なく褒めてるよ。俺はあの『歴史書』のなかのお前のファンだぞ」
「ふうん。現実の僕のことも、ちゃんと見てほしいのだけどね」
「現実の方がもっと魅力的だと思ってるよ」
原作は原作としてそれこそ俺にとっちゃ『聖典』だけどね。
慣れてきちゃってるが、いろんな表情を間近で見ることが出来るこの立場を俺はマジで役得だと思っている。ルイスもシエラもライラックも、作中だけでは知ることが出来なかった魅力がたくさんあるとわかった。ひとりの友人として好きだし、応援したいと心から思ってる。
「みりょっ……あのさーきみ、ホントそういうことばっかさぁ……ホントもうそういうとこが……あああ~もう! どうせシエラとかライラックさんにも似たこと言ってるくせに! わかってるのに! わーかってるのに顔が緩、……もうっ!」
なにか堪えようとしているかのようにほっぺたを両手でむにむにさせて、くるっと踵を返すと部屋の隅へずんずんと去っていくルイスだった。な、なんで怒ってんの。ときどき怖いんだよ、情緒。
「坊っちゃん、最悪~」
「なにが⁈」
「引きます」
「シエラも⁉」
ライラックに引かれるのはだいぶ慣れてきたけどシエラに引かれるのはちょっと、傷つくぞ。いやライラックに引かれるのも傷ついてないわけじゃないけどね。
気を取り直して、という感じにライラックが薄荷煙草に火をつけて、煙をひと筋ふた筋吐き出しながら話を戻した。
「さ、【聖剣】追うなら今日もさっさと休んで明日に備えんと。誰かさんが壁壊したから風吹きこんでくるけど、毛布あるし外よりはマシでしょここ」
「アレしか脱出の手立てなかったんだから仕方ないだろ……でももう少し、俺は外行ってくるよ。村人の遺体を埋めときたい」
「ん。そんならあたしもそれ手伝う。シーちゃんとルの字も行くよね」
「もちろんです。飛竜にも手伝わせましょう。ルイスも行きますよね」
「……うん。あと村がこうなったことについては、人里に着いたら官憲に報告を上げようか。僕らが犯人だと疑われないといいのだけれど」
「ダーナの死体を官憲に突き出せばいんじゃね? あたしら悪くないって伝わるでしょ」
「それをすると『ミシン共和国の国境が魔王軍から解放された』と伝わり、あちらのお国が軍備に走るのではないでしょうか……」
「あそっか。シーちゃんさっすが、頭良い」
「えへへ」
「ふふん」
「なんでルイスもドヤ顔してんだよ……」
ともあれダーナについては明日、飛竜で離れた場所に運んで埋めることでまた発見を遅らせることにした。俺たちが村の壊滅犯と疑われる可能性は……匿名通報で済ませて回避する。正直に動けないのは面倒だな。
それから俺たちは霧の晴れた村内を歩き、明かりの消えていた家々──住民はみな命を落としている──から、遺体を運び出して埋めていく。
死に触れている、という時間に接しながら、俺はふと三人に尋ねた。
「ところでさ、お前らに訊きたいんだけど。『転生』とか『生まれ変わり』ってのは知ってるか? あるいは、そういうもんがあると思うか?」
問いかけに、三人とも首をかしげた。その反応には、問いかけの意味そのものがよくわからない、という雰囲気がある。
転生概念がないとしても、動物が死んで養分になり植物を育て、それが動物の養分になりまた動物が死んで……という生命のサイクルなんかは発見されてると思うんだが。こういうサイクルから押し広げて発想する、ってことすら成されてない、ってのか?
「そのテンセイ、さっき話していたカミについての話と同じことかい? 『歴史書』には記述があったっていう」
「どうやらそうみたいだ。俺の『歴史書』に書いてあった内容の一部が、この世界だと存在してないことになってる」
「坊っちゃんの『歴史書』も完璧じゃないってこったね。そいや魔王軍の幹部は倒す順番が大事ってゆー話だったけど、ダーナは何番目の予定だったん?」
「倒す順番だけならモルダーの次、二番目だったから時期が早過ぎること除けばまだ予定から大きく外れてはいない」
エグドロ原作でも順番はモルダー、ダーナときてその次がヴェルマ連邦の【四天王】、最後に倒すのがロマニア皇国の【四天王】という順番だった。
たぶんこの順番がベストなのだ。
「なして二番目はダーナだったん?」
「ミシンとアルゼーの間が山脈でこっちが攻められにくく、かつアルゼーと同盟に近いロマニアとの間に挟まれた国だからだよ。逆にロマニアは同盟に近いっても大陸の端っこで、隣接してる国がミシンだけだから──」
「ロマニアを攻めている【四天王】を倒すと、にらみを利かせるべき相手がミシンだけとなり余裕が出来ます。よってこちらも軍備を拡大してきそう。ということですか」
「正解。冴えてるな」
「今日はシーちゃんが一番活躍してんね」
「えへへ」
「ふふん」
「お前らこの流れ毎回やんの?」
天丼しすぎは良くないぞ。
あとたしかミシンの方、凶作だからってアルゼーへの穀物の輸出減らして、かつアルゼーからの工業製品の輸入には関税をかけるって話も新聞に書いてあったな。
こういう互いの不満の溜めこみはめぐりめぐって戦争の原因になりかねない。ましてや、モルダーもダーナも死んだのが発覚すると両国とも軍事に金を割く余裕が出来るだろうから……あんまりうかうかしていられないな。
一年以内に魔王倒せるといいかな、って考えてたけどマジでこれは魔王討伐RTAに進まないといけない。
不確定な要素は多々あるけど、どうにかする。一刻も早くギイに追いついて【聖剣】を取り返して、競りにかけて正当に手に入れて残りの【四天王】を討ちにいこう。
「あと、ギイに盗みを指示した奴。ダーナが来るように報告した邪教団の奴。こいつを捕縛して、背後関係を聞き出さないとな……」
場合によっては尋問になる、かもな。
そう考え込んでいる俺の方を、ライラックがじっと見ていた。
なんだ? と思って顔を上げると「なんでも」と、まだ訊いてもないのに答えて肩をすくめる。なんかアヤシイなぁ……と思いつつも、その場で追及はしない俺だった。