未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
……原作におけるコール・ブレイズには当然だが未来視なんて備わっていない。そんなもんあったら強敵なんてもんじゃなくなるだろうしな。ではこれはなんだろう? 俺がコールに転生してきたイレギュラーで発生した副産物……とかかな。
まあ、いい。
未来が見えるなら願ったりだ。俺の二次創作ifルートを……ここに実装してやる! 原作は好きだけど、さすがに目の前で不幸が積み重なるのはキッツイかんね。
周りにいる客を押しのけて走り、裏口から出る。作中の季節は冬だったので、冷たい風が吹き荒んでいた。この作品、鉄道はあるけど自動車まだほぼ出来てないくらいの時代感だからな。暖房も当然ない。
俺は馬車に素早く駆け寄ると、馬と馬車を繋いでいる馬具を護身用に持ち歩いていたナイフで切断する。
シエラ・ヨークシア。ルイスの妹だ。
こんな状況でなければドキっとする、可愛い女の子である。縛られて強調されちゃってる胸元も、結構しっかりある。将来が楽しみですね。まあ作中で五年後となる六巻の将来で再登場したら美貌こそすさまじいが目が完全に死んでてこの世のありとあらゆる汚濁を見てきたような顔になってるんだけど……。
「おい、無事か?」
「あ、あなたは……コール・ブレイズ⁉」
なんであなたみたいな屑がここに⁈ って感情がありありと見える声だった。
まぁー、十五歳時点でもコールは貴族の立場を笠に着て散々悪さカマしてるので、しょうがないけど。助けに来たのにこの反応はちょっと胸が痛んだ。
またこのシエラの声に驚いてか、馬がいななく。周りに居た男たちが一斉にこちらを見た。
フードですっぽり顔を隠した、いかにも邪教の使徒である。彼らを見て、シエラは血相を変えた。
「い、いけません! 彼ら、わたしをさらおうとした一団です! 素人相手でも容赦いたしません、あなたも、あぶない……!」
「理解してるよ」
と軽く返したが、俺はマジでよく理解している。原作読みこんでるから。
この作中で主人公・ルイスたちが生まれ育ったアルゼー王国はローレンという宗教を信仰する。しかし彼ら邪教団は太古のむかしから存在して転生を繰り返している(と自称する)魔王を信仰しており、その教義においては「血を捧げること」が習慣のひとつとして取り入れられている。
その結果、邪教団がどんな連中になってるかというと……武器の扱いと生物の殺害に慣れた、バーサーカーばっかりって感じだ。そら容赦もしないだろうね。
「──でもさ」
「?」
「それが、『助けない理由』にはならないだろ?」
俺が言うと、シエラは一瞬呆気に取られて。
次いで、感極まった表情でぎゅっと唇を結んでいた。
ふふ、誰かを助けるのに理由がいるかい? ってやつだ。いや嘘です理由は明白だった。
だって俺は。
二次創作では、ハピエン厨だ。
決意を固める俺の前でフードの男たちが五人、それぞれにロングソードを抜いた。
「おいどこのガキが潜り込んでんだ……殺すぞ」
凄んだ言葉が腹の奥底に響いてきた。
こちらはまだ成長途上の十五歳。体格が完全に負けてる上に、武器もナイフだからリーチも終わってる。普通に立ち合えば一〇〇%敗北しか見えない。
でも、さっきみたいに未来が見えたら、どうだ?
ぎゅっと目を閉じて掌でまぶたを覆う。
──まっすぐ行ってヤクザの鉄砲玉みたいに腰に構えたナイフで刺そうとする
──切り捨てられて死んだ。
まっすぐはダメだ。じゃあほかの攻撃。
──走っていき、途中でナイフを投げつける
──運よく相手の腹に当たり、ロングソードを取り落とした
──ロングソードを奪い取り首を切る
──右から来た奴に刺殺された。
初手はよかったけどそのあとがダメそうだな。剣を奪わなければどうだ?
──走っていき、途中でナイフを投げつける
──運よく相手の腹に当たり、ロングソードを取り落とした
──あえてロングソードを拾わず右の奴に向き直って地面の土を蹴り上げる
──目つぶしされて動きが止まったのでここでロングソードを拾い攻撃
──最初にナイフが当たっていた奴の首を切る
──背後から迫っていた奴に斬られる。
……ナイフ当たってる奴にトドメ刺すのは後回しにするか。
これならどうだ? こうしたらどうなる。
これならいけるか? こう行けばこう来る。
これなら? あれなら? こうなら? それなら? どれなら?
目を閉じたまま、俺は片っ端からあらゆる手を試してリトライしつづけた。未来を見ている最中に死ぬとやり直しになるので、そのルートは覚えて使わないようにする。ひたすらにコレを繰り返す。
何度やったかわからない。
ただ、完璧に勝てる手順が完成するまで。俺は未来を見つづけ──────
「──
何十、何百通りものルートから確実な手を見つけて、目を開く。現実ではまったく時間が進んでおらず、構えた五人は動き出してもいなかった。
俺は走っていき、途中でナイフを投げつける。
「っぐぁぁぁ! このガキィィ‼」
相手の腹に当たり、ロングソードを取り落とした。
あえてロングソードを拾わず右の奴に向き直って地面の土を蹴り上げる。
「むぐっ、目が……おごぼっ、」
目つぶしされて動きが止まったのでここでロングソードを拾い喉へ攻撃。
死んだこの男からもロングソードを奪い、二刀になったと見せかけて片手の剣を投げる。
「剣を投げるなど邪道な、っああぁぁ……ぁ」
これを弾いて隙が出来たので、腰に構えたロングソードで突き刺して三人目を始末する。
うろたえた残り二人を前に、最初にナイフを投げつけた相手を斬り伏せてからこいつの懐より小瓶を取り出す。
邪教の自決用猛毒だ。これをロングソードに振りかける。
「これで、かすっただけでも死ぬよな?」
「おっ、脅したつもりか……舐めるなよ!」
俺の脅しに恐れから挑みかかってきたのを、タイミングよくしゃがんで前にちょんと切っ先を出す。
足首の辺りが少し切れて、四人目は毒が回って昏倒した。
最後の一人が半狂乱になっている。あわてて逃げ出そうとした背中に向けて剣を投げる。
これも二の腕をかするだけだったが、やはり毒で倒れた。毒強ぇ。
「よし、未来視で視た通りの結末だ」
……うん。まあね。言いたいことはいろいろあるよね。
大立ち回りというにはあまりにカッコ悪すぎる。でも十五歳の身体で戦闘訓練積んだ大人五人を相手に傷ひとつなく勝つにはこういう手順しかなかった。まぁ結果がすべてだよ。
あらためてシエラの方に向き直り、俺は身体を縛る縄を切ってから手を差し出す。
「無事みたいだな」
「あ、ありがとう……ございます」
いけ好かないガキ大将が自分を助けてくれたことに、まだ戸惑っているらしい。それでもお礼を言ってくれるあたり、優しい子だなと思う。
「気にすんなよ。お前はブレイズ家の馬車で送ってやるから、そのまま帰れ」
俺はルイスが【
するとシエラはひしっと俺にしがみついてきた。うお、美少女の急なアップは心臓に悪い。
「わたし、あなたのこと誤解していたかもしれません……ありがとうございます。この御恩は、けっして忘れません」
ぎゅうっと抱き着かれると、向こうが薄着なのも相まってこの冬の寒さのなかでもぽかぽかと温かかった。なんかベリー系のいい匂いもする。
美少女に詰め寄られる、それも大好きだった作品のキャラに感謝の気持ちを向けられるとなるとめちゃくちゃに気分が良い。役得役得。
いやあ、助けられてよかった。
なにせこの子、連れ去られて邪教団に洗脳されたあとは各地の村焼くわルイスのパーティ全滅させるわ、とんでもないことばっかするからな……。
未然に防ぐことが出来てよかった。本当に。
「忘れていい、いい。むしろいままで俺、お前の兄さんにも頻繁に絡んだりいびったりして本当に迷惑かけてきたから。これまで本当に、ごめん。ちょっとでも借りを返せたなら、よかった」
俺が頭を下げると、シエラはわたわたした。
まあ俺これまでいろいろやらかしてきたし、簡単に許される感じでもなかろう。俺は馬車までシエラを見送り、無事に送り届けるよう御者に厳命してその場を離れた。
さてルイスはというと、カジノのなかに戻るともうドレイクに圧勝して剣を高く掲げていた。うおおおおお! と観衆が沸き上がり、同時にドレイクに賭けていた連中がうあああああ! と悲鳴をあげている。
覚醒シーン終わっちゃってんじゃん! くそっ、見たかったのに。エグドロ原作だと見開きでばーんと倒れてるドレイクの上に片足載せてて燃える瞳と血濡れた切っ先が大迫力の名場面だったのに!
俺は涙を飲みながらすたすたと換金所に近づき、自分の札をばちんと叩きつけた。
「ルイスに賭けてた。五〇倍よこせ」
換金係はがっくりして俺に大金をよこした。ちくしょう、でも金で名シーンは買えねえんだよ!