未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
夜更け。
聖域のなかで眠っていた俺は、不意に目が覚めたのでもぞもぞと毛布のなかから起き上がった。
横を見るとルイスとシエラが重なって眠っている。
……比喩ではなくマジで重なっている。
あれで意外とシエラは寝相が悪く、横で眠っていると上に乗られたりするので心臓に悪い。寝苦しいなと思ったら顔が目の前にアップになって、視線を少し下に向けたら谷間がアップになってたのは寝起きの男には刺激が強すぎた。胸元緩い服を着るな……いややっぱり着て。
双子でもルイスの方は寝相こそ悪くはない。悪くはないのだが、俺の片腕を抱き込んでるときがあるのでこっちもやっぱり心臓に悪い。胸元こそ普段から男装なのでのぞき見防止の方のガードは硬いんだけど、タッチさせるのは勘弁してほしい。ふよよんと形変えるおっぱいから起こさないように腕引き抜くのマジで難しかった。
「って、二人しか居ないな」
あたりを見回してもライラックの姿がなかった。
ライラックは前の仕事が騎士団、それも追撃に関するものだったからか、眠りは浅い。身じろぎひとつしないでじっと眠り、俺が起きたら即目を覚ます。
だから起きたときに彼女の姿が見えないのはめずらしい。
手洗いかな……と思ったが、外から薄荷煙草の匂いが流れてきた。
剣を片手に(護身のため旅のなかで習慣になった)外に出ると、月明かりの下で亜麻色の髪を輝かせつつライラックがぼんやり煙草を吸っている。
視線をこちらに向けるわけではないものの、気配には気づいている風だった。
「眠れなくて煙草吸ってるのか?」
「いんや、さっき起きたとこ。坊っちゃんこそ、眠れんで起きてたの」
「寝てたよ。ライラックがマッチ切らしてないかと思って起きてきてやっただけ」
冗談めかして言うと、ライラックもほんのり笑った。
それから、少しだけ顔を引き締める。
「坊っちゃん、今日はカッコ悪いとこ見せたね。あんま役に立てんくてゴメン」
「蛙苦手とはたしかに思ってなかった」
エグドロ原作には書いてない情報だったからな。
シエラの寝相も、ルイスの性別も。この世界にやってきてから知ったことはものすごく多い。これからもっといろんなことを知るだろうし、その都度みんなが大事になるんだろう。
だからなるべく、全員無事な旅にしたいわけだが……
「俺こそ今日、べとべとになるまで助けに行けなくてごめん」
「ううん、いーよ別に。『行きたい未来への進み方がわかる』っても未来視スタート時点であたしと坊っちゃんたちが遠すぎて、逆に蛙との距離が近すぎたら……そんときはもうカバーしに行くのも間に合わん。ってだけでしょ?」
「そう、そんな感じだ」
正確には俺の未来視は『行きたい未来への進み方がわかる』じゃなくて『一分以内に出来る行動を片っ端から試せる』でしかないけど。正解の扉が一発でわかる能力じゃなく、正解の扉を含んだ無限の扉をいくらでも開けられる能力って感じ。
ただそこの説明はあえてしなくてもいいと思ったので、俺は話をつづける。
「消化液とかダーナの瞬間凍結はもし喰らうとダメージが大きく残りそうだったから。一番ダメージの少ない未来が、このルートだったんだ」
「なーるほどね。……でもまー、足引っ張りそうになってホント、謝る。今日はシーちゃんに助けられちゃったね」
「物量で攻めてくる奴だった、っていう相性の問題もあるし。そんな落ち込まなくてもいいだろ。パーティ組んでる理由は互いに長所生かして短所を補い合うためだ」
「それは、そーなんだけど。でも、相性のせいだろーがなんだろーが、守り切れんかったらそれまで……だと、思うんよ。今回は、シーちゃんのおかげで助かったけど」
途切れ途切れにつぶやき、ライラックは空を仰いだ。
しばらく黙ったライラックは燃え尽きた煙草を携帯灰皿へ押し消しながらつづける。
「あたしさ、自分の魔法のこと苦手って言ったでしょ。それが必要とされて、『国を守るために使える』って言われたから追撃部隊に入った。ここでなら自分の魔法(才能)でひとを守れると、思ったかんね」
「……うん」
「でも守るために殺す、だったわけよ。実際は」
亡命者や敵国スパイ。国にとって邪魔な人間を亡き者とすることで『国を守る』。それが【
それは、ライラックにとっては望んだ力の使い方ではなかった。
もう一本取り出した煙草に火を点けずもてあそびながら、彼女は言う。
「自分や、味方に殺意を向けてくる奴なら戦う気にもなんだけどさ。あたしが追うことになったんはいつも戦う術の無い人間ばっかで、それを一方的に殺すために騎士と模擬戦を積んで腕磨いて。どんどん殺戮のために自分が仕上がってくの感じた。ホントのホント、一番はじめは……むかし守れんかった友達のために、騎士になろうと思ったのに。なーんか、自分のしたかったことと全然違う、ってなっちゃった」
「友達を守れなかった、っていうのは」
「……今回のと同じタイプの蛙型魔族。に、やられた。言い訳っぽいけど、二十年近く経ってもまーだ忘れらんないみたい。あいつら見るとすくむんだよね、身体が」
そういうことか。いくらなんでも蛙が苦手過ぎると思っていたが、そんな過去があったなら納得だ。
だったら仕方のないことだろうと俺は思ったが、ライラックのなかではそう思えないらしい。
今回の戦いでうまく動けなかったことから、だいぶ凹んでいるようだった。
「年長者だし、みんなのこと守ろって思ってたのに。まだダメみたいで自分が腹立たしくって……ゴメン坊っちゃん。あのとき、『完全勝利とか思わんかった?』なんて言って当たるようなマネしてさ」
「いや。ライラックがべとべとになってるのに『完全勝利』とか思ってたのは俺が悪いし……というかいまさらだけど」
「なに」
「俺ってそんなに、顔に出るのか」
「……感情が眉に出やすいんだよ、坊っちゃん」
それはブレイズ家の、というよりは年下の少年として呼ぶニュアンスの『坊っちゃん』だったように感じられた。
うーん。俺はライラックに死んでほしくない、守りたいと思っているけどやっぱりまだまだライラックからすると『坊っちゃん』で『守る対象』なのかな。
それは、ちょっと寂しい。凹む必要なんてないし、俺のこと頼ってほしい。って思ってるのは、顔に出てんのかね。
「あたしに気ぃ遣ってくれてんのはわかる」
「あ、やっぱ顔に出てるか」
「うん。でもさ、気持ちはうれしいけど……こんななっさけない弱点も晒しちゃった、とこだけど。やっぱりあたし、頼るわけにはいかんって。だってさ……」
「だって、なんだよ」
「なんでもない。答えづらいから、言ーわない。あんま年上困らせんでよねー、坊っちゃん」
苦笑いを浮かべて手にしていた煙草に火を灯し、話はこれでおしまいという空気を醸し出すライラック。
前世含めたら俺の方がたぶん年上だけどな。とは、説明しづらいし言わないが。
なんとなくもやっとしたものを抱えつつもこれ以上どうすることも出来ず、俺はライラックと一緒に無言でしばらく月を眺めていた。