未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
なんてシリアスなことがあっても旅はつづくし、大人であるライラックと俺は翌日に引きずりはしない。
いつも通りに朝食をとっていつも通りにライラックが味の好みでシエラに叱られる。……濃い味が好きらしく、いつもライラックは調味料を多めにかけようとするのだ。
そんなやり取りを挟んで、俺たちは
「途中でどこか町に寄ってこの村のこと伝えたいし、早めに今日は出発しよう」
「了解、坊っちゃん~」
こんな受け答えもいつも通り。
の、はずだ。
ちなみにこのように竜や飛行型魔族を召喚して移動手段に使うのはメジャーとは言わずとも、よくある手段だ。とはいえ何十キロ何百キロという距離を飛ばすことは一頭では不可能なため、あくまで数キロのタクシーとしての利用が主だ。こういう長距離輸送が出来る奴はシエラ以外にほぼいないだろう。
ダーナの魔法の影響が消えて快晴の本日は、なるべく一気に進みたい。途中で補給と官憲への報告で町に立ち寄るにしても、明日には目的地に着きたいのだ。
「でも今日、晴れちゃいるけどちょっと向かい風だな。少し到着が遅れそうだ」
「
「いいこと思いついた。僕の風の
「そんなに細かい調節出来るのか……?」
【聖剣】手に入ったら無尽蔵に魔法使えるからそれで帆船に風当てて移動する、ってのはエグドロ原作でもやってたけどな。空飛んでる
「なんでも挑戦してみてからさ。風力・全か──、」
と言ってルイスの声が途切れた。
自分の後ろに発生させた旋風が右回転で
「ルイスーーーーーーっ‼」
フォッ〇スが撃墜されたときに叫ぶペッ〇ーみたいな声出た。まあ風を扱えるのであんまり心配してないが。
予想通り三十秒くらいすると風で飛ぶことで下から追いついてきて、ぜえぜえ言いながら俺の後ろに乗る。重いのか
「【
「おま、無駄撃ちを……」
もともと一日に一回という制限付きで、その鍵をこじ開けるのが【聖剣】だというのに。
「じゃあ、もう今日はルイスを頼れないな」
なんの気なしに俺がぼやくと、右手の方で
「……頼れない、かぁ……」
口の動きだけだが、そう言ったようだった。
頼る、頼れないのワードにはまだ敏感なのかもしれない。
まったく引きずらないわけにもいかなかった俺とライラックは、やっぱりなんだかんだで微妙な空気を残しながら空路を行くのだった。
やがて
ついでに補給しようと寄った町にて、シエラが
「それ、ちゃんと召喚した奴なのかね? ああそうなの、よかった。いやあ、上から
「カンキ山です」
「ああ……ということはきみか、あの
宿の主人は感謝の言葉と共にシエラに握手を求めていた。
なぜ知っているのだろう? と思っているとどうやら彼女が巣を壊滅させた(というか群れのボスになった)ことについては新聞記事になっていたらしい。
「シエラ、いつの間にそんな取材受けてたんだ?」
「ろくな食事も取れずにあの山から下りてきてすぐですね」
「ごめんて。マジで飯の恨み、一生言われつづけるのか……」
「ええ、一生です。……一生おそばに居ます」
ん? なんか後半重たいこと言われたような、痛い痛い。ルイス痛い。なんで脛蹴るの。
ともあれ宿の主人に三か月ほど前の記事を見せてもらうと、たしかに『
横からひょこっとのぞきこみながら、ルイスはふんと鼻を鳴らした。
「挿絵の出来がいまいちだね。シエラのかわいさが表現しきれていないよ」
「そうかぁ?」
「これならコールが描いてくれた僕らの絵の方がよほど上手だね」
「まあ俺の場合年季入ってるからな、お前ら描くの……待て。いまお前なんつった」
「コールの絵は上手い」
「ななななんで知ってんだよ」
思わず声が上ずる俺だった。たしかにブレイズ家を出てからも俺はときどき筆を執っては日々のルイスたちを同人漫画に描いていたのだが、こんなのご本人のナマものだから絶対に見せられないと思ってただ自分のためだけに保存してた、のに⁈
え? え? 急におそろしい情報ブッ込まれてビビってるんだけど。
お前、俺の絵というか同人活動知ってんの⁈
「坊っちゃん、屋敷に居たときにも絵ぇ描いてたじゃん。ここ来てからも宿の部屋でたまーになんか書いとるからなにかなーと思って」
「ライラックからバレたのかよぉぉ……」
「僕のことよく観察しているんだなーと思ってうれしかったと同時にキモかった」
「刺さる刺さるやめてやめて……」
「わたしの登場する絵にいつも描いてある、周りに散っている花や点の集合で出来た泡のようなものはなんなのですか?」
「華やかさの演出だよ……点描でほわっとした泡を描くのもそう……」
デジタル機器はおろかトーンもないからちまちま手で描いてたんだよ。
っていうかコレなに? 俺がたまたまエロいの描くタイプじゃなかったから致命傷で済んだかどうかってところだけど、まあまあ公開処刑に近いよ?
「そんなに知られたくなかったんなら坊っちゃん、もっとちゃんと隠しときゃよかったのに。ていうか絵日記みたいなもんでしょコレ。坊っちゃん自身は登場しとらんけど」
「たしかに僕とシエラとライラックさんしか出てこないようだったね。ライラックさんはとくに、戦っている様子が多いみたいだけれど」
「あたしの剣技現実より強くなかった? 剣振ったら遠くの山、斬れてんの」
「あ、僕も雷の
筆がノると誇張気味に書いちゃうんだよ。実際よりも絵面優先でカッケえ構図とか演出を入れちゃうんだよ。ていうかここ死刑台か? 死刑台だな? 本当にひとって恥ずか死が出来るのかを試そうとしてる死刑執行中だと思う。いますぐ脱獄進行中したい。いやアレは脱獄しようとしちゃダメか。
などとパニクってる俺に向かって、背筋を正したシエラが言う。
「コール様」
「はい、なんでしょう」
「……この形式の絵物語、コール様も出てくるお話で描いていただくことは出来ますか? わたしとセットでお話を描いてもらえたら、うれしいのですが」
「あ、それいいね。僕も描いてほしいかも」
「あたしはふたりのお話の隅っこに出してくれりゃいーよ」
…………。
……あの俺、夢主やるタイプじゃなくてね。あくまでワンシチュエーションを区切ってきてこう登場人物の心情とか過去とかに妄想をめぐらして描くのが俺の流儀……ダメだもうなに言ってもキモくなるな。
「勘弁してください」
心の底から絞り出した言葉にはよほど重みがあったのか、その場の追及はそこで終わった。
いや、ナマものをネタに描いてた俺がね、悪いんだけどね……。