未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
えっ?
ヤバイ。
感電で気絶するところまでしか未来を視ていなかった。
なんで起き上がれんだよ。倒したはずだろ。どっからどう見ても起き上がる気配なんて……
まさか。
いやでもあり得る。洗脳シエラ戦でのギイは
あらゆる気配を薄める彼の【
──瞬時に目を閉じて未来視を発動し、ここからもがいて脱出するルートを模索する。
が、ダメ。
死ぬ。死ぬ、死ぬ、死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
どういうもがき方をしてもこのあと一秒かからず、死ぬ。
……おい嘘だろ。
まだ、この世界を平和にしてねえぞ。
【聖剣】をルイスに手にしてもらったらそこから【四天王】を倒して、各国のぴりつきを解消して、魔王倒して……平和になった世界を、見て回りたいのに。
ここで、終わり?
…………くそ。
どうする。
もう、もがいても死ぬ運命なら。
抵抗しないことで生まれた一秒に最後に一言、なにかを残すしかない。
死につづける苦痛の一秒を繰り返しながら思考を高速で回した俺は。
ルイスとシエラとライラックに伝わるように、全力で声を張り上げることにした。
……行くぞ。
俺は眼を開けた。
瞬間、
……
「────南南東だッッッ‼」
ギリギリで言おうとしていた内容を変える。
俺を庇ったギイは、南南東からの射線を通した一撃で背中から貫かれた。
リトライで死にまくっていたのはギイが俺を殺すからじゃない。
俺がもがいたせいで、庇おうとしてくれていたギイの陰から頭を出してしまったからだ。
そして俺の言葉で、攻撃の発せられた位置を察したルイスとシエラとライラック。
ここでもう一度、未来視を発動する。
──ルイスは剣を盾にギイがこれ以上撃たれないよう出る
──しかし一手早く攻撃が来る
──ライラックが射線へ庇いに入り胸を貫かれる
ルイスに掛けてある【
千回ほどここでリトライした俺は射線に割り込んで死に覚え、攻撃タイミングを確認した。
よし、大体わかった。
「そこだッ!」
ルイスを庇おうとしたライラックの前に進み出る。
剣を正面に突き出し、斜め四十五度の角度で受け流す!
腕に伝わる強い衝撃と、同時に響き渡る音。
乾いた短い破裂の残響の先、三十メートルほど南南東の位置には──銃身の長いライフルをこちらに向ける、フード姿の男が居た。
「坊っちゃん、大丈夫⁈」
割り込んだ俺にあわてた声のライラックが叫ぶ。俺は振り向かずに片手をひらひらさせて、無事をアピールした。
「問題ない、剣の腹で受け流した。シエラ、ギイの回復頼む」
「は、はい!」
背後で背中を撃たれているギイはまだちゃんと息がある。
「死ぬなよ、ギイ。それと、庇ってくれたこと。ありがとう」
「……俺は、負けたんだ。勝った方が、生き残るのが、道理……それにお前、まだ若ぇのに、死ぬこた、ねぇからな……」
か細い声で彼は言う。ああくそ、あんただって死ぬことはないだろ。無理な庇い方はしないでくれよ頼むから。エグドロ原作で道具屋のガキどもと女主人、あんたの死後めちゃめちゃ泣くんだぞ。それ伝えに行かなきゃいけなかったルイスの気持ちも考えてくれマジで。
「でも、銃か……俺もさすがに立ち会うの、はじめてだな」
この世界の技術レベルは鉄道が通っているレベルだ。鉱山も当然発破を使っているし、そうなれば火薬で銃だってつくれる。当然の流れだ。
ただし魔族相手には正直、効きが悪い。図体がデカい奴も多いし祝福魔法で回復も出来る。点の攻撃かつ回数制限の厳しい銃撃より、範囲を大きく切り裂ける剣で身体強化して突っ込んだ方が有効な場合が多いのだ。
ゆえに、それほどメジャーな武器にはなっていない。
だがそれは銃が弱いということを意味しない。
「あたしは
ライラックが後ろでぼやいた。
そう、魔族と違って図体がちいさく・もとの身体強度も低い人間に対しては、銃はめっぽう強いのだ。間合いは遠く弾速は音に迫り予備動作も少なく、射手の数さえ揃えれば、とくに強力だ。互いの射線の隙間と装填の隙を埋めることが出来るのだから。
そして彼らはそのセオリーもきっちり守っている。
フードの男は、ひとりではなかった。
この切り立った崖に囲まれた一帯を、滝壺に向かって追い詰めるように。
何十……いや百人超えてるか? そんな人数の部隊が現れ、俺たちと対峙していた。
「邪教団……ダムド教の連中か」
フードとローブで姿を隠した彼らを相手に、俺はそう言った。
いま俺たちを銃撃してきた、構える銃口からまだ少し硝煙の立ち上る男がこちらに一歩出る。仮面をしており、そのご面相はわからないが若くはない声だった。
「邪教とは……ひどい名で呼んでくれるものだ。我々は救いを求めているに過ぎないというのに」
「俺たちを葬るのが、救いに繋がるっていうのか?」
「いかにも。我々は現生の人類の滅びを願うものである」
銃口を並べて淡々と言う。……連発式の銃、リボルバーと同じで回転式弾倉のタイプだ。この世界でのあのタイプの銃は威力との兼ね合いで装弾数は五。人数はかぞえたら六人の塊×二十の百二十人だから、単純計算六百発の弾数がある。これを潜り抜けなきゃいかんか。
リトライしまくった俺はたぶんもう銃弾はどうとでもなる。ライラックもその気になればいけるだろうし数発までなら耐えて【
問題は【
「愚かな人類はここで滅ぶべきだ。我らはその悲願のため、邪魔な【聖剣】をこの世から消すのだ」
勝手なことを言う男は、仮面の奥で俺ではなくルイスに銃口の狙いを定めた。
すぐにその射線上に俺は割り込み、奴に向かって挑発する。
「なるほど。お前がギイに依頼した奴か。見たところ身のこなしも並だし、そりゃ自分では盗みにいけないよな。それで──なんであれが【聖剣】だと知ってる? ギイは『遺物』としか理解してなかったはずだけどな」
「……、」
「お前ローレン教の、上層部に関わりがあるんだろ」
予期していたことだった。聖域における上層部に紛れた裏切り者により、【聖剣】の託宣が邪教団や魔王軍に流れるということは。
つまりこいつは裏切り者本人か、それに連なる者だ。
であれば、モルダーとダーナが動いたことにも納得がいく。邪教団を介して情報を魔王軍に流すなんて、いかにも裏切り者がやりそうなことだ。
仮面の男は、くぐもった声でクククと笑った。
「ご明察。【聖剣】の託宣については上層部の御方から聞き及んだものだ。なんでもそこに居る【勇者】が扱うと、魔王の命に届くかもしれないそうだな」
「……語るに落ちたな。なんで【勇者】がここに居ると知ってる?」
俺の指摘に仮面の男は黙り込んだ。
もう自分の望みが叶う寸前だからと油断したんだろうけど。情報をべらべらと漏らし過ぎでは、と思う。
「【勇者】の実在を、それが誰なのかを知ってるのは──俺たちを除けば、この世にただひとりだけのはずだ……お前、ルイスとシエラをブレイズ領に預けていった聖職者・ウィルヘルムだろ?」
そういえばあの聖職者、魔族に襲われてるシーンの後に神殿へ誰も辿り着いていないというコマが入る……って描写だけだった。確定で死んでることになるいわゆる『ナレ死』とかではなく、状況から死が暗示されてるだけだった。
つまりそういうこと。
ウィルヘルムは、死んではいなかった。そしてなぜだか知らないが、人類を裏切っていまや【勇者】と【聖剣】をこの世から消そうとしている……。
俺の言葉にずっと沈黙していたウィルヘルムは、ややあってから仮面を自ら剥ぎ取る。
その顔を見て、ルイスとシエラは声を上げた。
「あのときの……」
「聖職者様、ですよね」
仮面の下の顔は、傷だらけだった。魔族に襲われてその爪と牙と魔法に付けられたのだろう負傷の痕跡は、あまりにも重たいものだった。それでも、ふたりにはわかったらしい。
「なんで? 僕たちをわざわざあの村から逃がして、名前を変えてまで生き延びるよう言ってくれたのに……どうしていまになって、僕たちを殺そうとするの?」
ルイスが思わず漏らしたその言葉に、ウィルヘルムは歪んだ唇をひん曲げて、口角に泡を飛ばしつつ言った。
「……なぜと問うのか? ならば答えよう。私はあのとき魔族に襲われ、それでも【勇者】のことを伝えんと必死で生き延びた。顔だけではなく四肢も無残に傷つけられ、歩くこともままならなくなった体で……這って逃れ、川に身を流すことでなんとか生き永らえた」
執念を宿した目で彼は言う。
けれどいまはその執念の行く先が、かつてとは違う方向を指し示しているようだった。
「すべては人類を救おうとの思い。【勇者】の存在を、希望を伝えんとしたのだ。だが私の傷は深く、私が師事した大司教の待つ聖域は遠い。手紙で伝えれば、検閲にて裏切り者に露見しかねない。仕方なく私はある街でしばし傷を癒した。その途中、身体が復調しはじめた頃に牢獄で教誨《きょうかい》をしてくれないかと街の者に頼まれた……」
教誨っていうと、受刑者とか罪人の道徳心を育てて更生に向かせるためのものだよな。
舞台的に……なんか、嫌な予感が。
「そこに居た男は野盗をして捕まっていた。別段仕事に困り飢えていたわけではなかったが、日々の憂さ晴らしと小遣い稼ぎのための悪行だ。それも手口は悪辣で、自身の仕業と露見せぬよう……召喚した魔族に通りがかる者を襲わせ、殺してから身ぐるみを剥いでいたというのだ」
「……もしかして、あんたのそれも」
「そうだ! 男は語りのなかで『かつて逃がした聖職者が居た。ちょうどお前みたいな』とせせら笑うように語った。私の全身を刻んだ魔族も……この男が、召喚したものだったッ!」
怒りに震える男の叫びに、俺はもうなにも言えない。
本当に救いのない世界だ。
人類のためと苦労を重ねてきた男が、その尽くしてきた対象のひとりである人類によって、しかも遊び半分に身体の自由を奪われたとは。
「それでも私は耐えるべきと感じた。一度聖職を志した以上、許しを与えることが大事だと。けれど長い時間をかけて傷を癒して大司教のもとへ戻った私は、再び絶望した。【勇者】が見つからなかったことで人類の戦局に希望を見出せなくなった上層部は大半が腐り、あろうことか裏切り者に与して内部の派閥が完全に魔王に寄っていたのだ」
……え? ウソだろ。
エグドロ原作ではさすがにそこまで腐り果ててはいなかったはず。裏切り者が誰かはわからない状態で、二派閥に分かれて争いながらも信用出来る筋の人間がルイスをフォローしてくれる流れになっていた。
神や転生が存在しないのと同じく、ここでもなにか流れが変わっているのか?
「私は、もう吹っ切れた。人間のことは信用ならず、人類など滅びるべきだと感じた。魔王に対する信仰や忠義も持ち得ないが、もはやすべてを終わらせてくれるのであればなににだって魂を売って構わない。ここに集めたのは、邪教団のなかでもそのような信義を持つ者だけだ。真に私と、思いを通じる者たちだ」
どいつもこいつも不幸そうなツラだった。魔王を信仰もせずさりとて人類の味方も嫌だと。そんな連中を集めたわけね。
仮面をつけ直したウィルヘルムは、静かに片手を挙げた。全員が銃を構える。
ルイスとシエラは自分たちを幼少期に守ってくれた男がこのような蛮行に出たことにまだ動揺しているらしい。動きが、固まっていた。
「ここでお前たちを、歴史から消し去ってくれる!」
もう止まれない様子のウィルヘルムは再びこちらに銃口を構えた。
どうやら問答出来るような状態じゃない。倒すしか、ないか!