未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話   作:龍館まこと

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24話 【万雷】

 俺は眼を閉じると未来視を発動し、百二十人の射線を割り出す。

 

 

 ──正面に剣を掲げつつその場から後ろへ飛びのく

 ──シエラたちを庇って五発まで剣で捌くが右から頭部に喰らう

 

 

 オーケー、覚えた。次。

 

 

 ──正面に剣を掲げつつその場から後ろに飛びのく

 ──シエラたちを庇って五発まで剣で捌き、頭を下げて右からの弾丸を避ける

 ──剣を構え直すと斜め前方からの弾丸が胸を射抜く

 

 

 構える剣の角度変えないとダメだな。次。

 

 ……避け過ぎるとライラックの足に当たる。次。

 

 ……シエラの回復が終わったらギイには気配消して自力脱出してもらう。次。

 

 ……ルイスも雷の無茶なコントロールで魔力消耗してるな。次。

 

 ……ライラックの腕を撃たれそうだから庇ったら腹に喰らった。次。

 

 次。次。次。次。

 

 次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次。

 

 ……キツイな。さすがに射線が多すぎてカバー出来ない。

 

 これまで以上に深手を負わずに突破が難しいかもしれん。どうしても回復中のギイとシエラを庇うのと、ギイに魔法使って魔力消耗してるからワンテンポ遅れる。万全の状態じゃなくなることを見越して、このタイミングで襲ってきたなこいつら。

 

 どうする。全員を一瞬で止められる遠距離攻撃がないとダメだぞ。俺じゃ投石がいいとこだからさすがに全員は仕留めきれない。

 

 それにライラックとギイも問題だ。ライラックは【任意回復】があるからってやたら俺を庇おうとしてしまう癖があるし、ギイもせっかく回復させたのに(こっちは俺の未来視を疑ってるのもあるだろうけど)やっぱり盾になろうとする。フラフラなんだから無理すんなよ。

 

 ホント、本当に、無理すんなよ。

 

 千回二千回三千回とリトライして、こいつらが庇いに入らなかった回数の方がよほど少ない。それだって、すでに被弾して動けなかったからとかそんなんばっかりだ。

 

 ……ああ、くそう。ライラックが血に濡れると、本当に辛い。

 

 なあ、こんだけ庇いに入ってくれるこの大人ふたり見ても、この邪教団の連中はなにも感じねえのかな。いや、そりゃリトライしてる俺ほどの回数は見てないんだけどさ。

 

 でも人間って、お前らが思うような奴ばっかじゃないぜ?

 

『反射で動いて助けちまう』っていうこんな奴らもちゃんと居る。ライラックなんて、更生してないコールのためにも毒を飲んだんだ。みんながみんな裏切るわけじゃない。

 

 そういう奴らが居る世界だから────助けたいって、俺も思うんだよ。

 

 だから諦めるな。

 

 捨てるな。

 

 全員救え。

 

 一万回十万回の果てにだって……

 

 生きたい未来を、掴み取って見せる。

 

 

「──()()()。これしかねえ」

 

 

 眼を開けた俺はシミュレートの通りに動き出す。

 

 剣を構え、その場で殺到する()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……はぁ?」

 

 ウィルヘルムを含めた数名が呆気に取られた様子が伝わってくる。でもまだ終わってねえぞ。

 

 俺がまっぷたつにして捌いた十発はそれぞれが別の方向に飛び、シエラとギイを襲おうとしていた弾丸に当たって弾き逸らした。

 

 さながら弾丸ビリヤードだ。我ながらヤバイ技だとは思う。

 

「えっ──」

 

 驚愕で回復が止まりそうになるシエラ。止まるな止まるな! お前は治しつづけろ!

 

 バックステップ中にライラックを突き押して彼女の位置を奪い、また同じように弾丸を斬り捌く。とはいえいくつかはさすがにどうにもならん。脇腹や二の腕や大腿部に被弾して血が噴きあがった。

 

「坊っちゃ、」

 

「自分の身を守れライラック! 全員の動きを止めたら、お前は討ち漏らしを倒せ!」

 

 それだけ告げて俺はルイスのカバーにも入り、文字通りの弾幕を剣と身体の動きで極限まで弾き飛ばしていった。

 

 血が散り、肉が削げる。でも即死でも欠損でもない、まだ動ける。

 

「こ、コール、」

 

「ルイスお前が(かなめ)だ。俺の後ろついてこい」

 

 うろたえて動きの鈍いルイスを一瞬で説き伏せ、俺は移動する。

 

 剣で斬り捌き血路を開く。限界を超えろ、もってくれ俺の身体!

 

 そう思ったところで背後から腹部を貫通する。いってぇ。内臓割れたわ。

 

「【任意回復(リカバリ)】‼」

 

 でもここでギイの回復を終えたシエラが間に合うのもわかっていた。俺は身体に出来たそのほかの負傷と共に腹部も癒えたので、足を止めず進む。

 

 行く先はどこかって?

 

 膠着してる状況を打開出来るのは──伝説の武器って相場が決まってる。

 

 かなりの数の弾丸を捌き、辿り着くのはギイが最初に立っていた位置だ。

 

 その、足場である平たい岩畳に。

 

 俺は倒れ込むように左の掌底を叩き込む。強度下降(デバフ)──からの、寸勁‼

 

 剛性を下げてからタイムラグなしで砕くこの技、暇つぶしに覚えておいてよかった。

 

 岩は俺の付与魔法(エンチャント)を受けて脆くなり、粉々に粉砕される。

 

 そこから。

 

 日が昇ってきたかのように、まばゆい黄金の光があふれ出す。

 

「雷を落とせ、ルイス」

 

 左手で【聖剣】を掴み取ってパスする。

 

 普段使いの剣を取り落として、これを受け取るルイス。

 

 その顔が、きっと無茶してる俺を心配する顔が、目に入る前に。

 

 俺は全力で顔を背けた。

 

 頭部に着弾し、派手に血が飛び散る。

 

 

「…………っぁぁぁぁあああああああああああッっっっ‼」

 

 

 ルイスの、シエラの、それにライラックの悲鳴だろう。重なるそれは、痛ましかった。

 

 どさりと倒れ伏した俺の意思をそれでも継いで、ルイスが高く高く風の属性魔法で飛ぶ。

 

【聖剣】を抜いたことによりあふれ出る無尽蔵の魔力。

 

 限界を超えた【限解(オーバードライブ)】。

 

 高所を取ったルイスは左手に雷の属性魔法を数十、数百と重ねて発動していく。白い光はもうひとつの太陽がごとく輝き、もはや射手はまともに見て狙うことも出来ない。

 

 加えて、狙おうとしてそんな風に金属製の筒状物体を掲げるというのが、完全にアウトな行動だった。ライラックは逆に危険を察知して剣を捨てて伏せている。さすが。

 

 ルイスが左手を天から降り下ろすと稲妻で編んだ巣が、一帯へ迸った。

 

 

「────【万雷(ばんらい)】‼」

 

 

 放たれる雷撃が、幾筋にも拡散してすべての射手を貫く。

 

 からの、残った銃弾への着火。爆ぜる弾丸により手元で銃が壊れて火を噴き、武器を失う。

 

 百二十人からなる部隊の、行動停止だった。

 

「あっ……ああっ……がはっ!」

 

「寝てな」

 

 感電してまだしびれているなかで運よく戦える状態だった者は、「討ち漏らしを倒せ」との俺の指示通りライラックによって叩きのめされる。

 

 こうして残党も一瞬で気絶させられ、残ったのは暴発で右手の指をほぼ失ったウィルヘルムのみだった。

 

 ルイスが輝く【聖剣】を片手に、ウィルヘルムに近づいていく。

 

 その刃が自身の命に向くと思ってか、ウィルヘルムは地面に尻もちをつき、後ずさりした。

 

 けれどルイスは。

 

 ウィルヘルムの眼前まで来て、【聖剣】を鞘に納めた。放たれていた光が薄くなり、やがて消える。

 

「……殺しは、しないよ」

 

「なぜ……」

 

「コールは、僕に殺せって言わなかった。……あいつが弾丸を斬って捌いてたのだって、本当はその気になればそっちに返すことも出来ていたんじゃないかな。でもそうしてない」

 

「……!」

 

 いやそれはさすがに買いかぶりというか、角度的にほぼ無理だったよ。切り立った崖の上から撃ち下ろすようにしてたからね連中。そんなリフレクターみたいな真似は無理です。

 

「だから、殺さない。……嫌だよ、本当は許せないよ。でもっ……殺したら、また連鎖がつづくんだろう。僕は、そうしたくない。僕とシエラを生かしてくれた、あのときのあなたのことを、もう一度だけここで生かす」

 

 こう告げられて、ウィルヘルムはその目に、かすかに光を取り戻した。同時に、後悔と罪悪感が宿った色がある。周囲で倒れ伏す連中も、それぞれに──もちろん、そうはならない奴も居たが──光を取り戻している奴が居た。

 

 ルイスの精神が、ほんのわずかだけど連中に光を当てた。そういうことなんだろう。

 

 きびすを返したルイスは、背後で座り込んでいるシエラに「死なない程度に、怪我してるひとに回復を」と言いつけている。

 

 シエラはこれを受けて、こくりとうなずく。ライラックは落ちていた自分の剣を拾って鞘に納め、それでもやり場のない怒りがあるのか、鞘ごと地面に剣を突き立てて周囲にまで広がるひびを発生させている。肩がちいさく、震えていた。

 

 ギイはそんな三人の様子を眺めていた。

 

 それから、俺の方をじっと見る。

 

 立ち上がって俺の方にやってくると、死体を抱える感じでお姫様抱っこしてくれた。ぼそりと、耳元で言う。

 

「……『起き上がる気配』の殺し方、俺から学んだってぇのか。この、一回こっきりで」

 

 ギイが平然と話しかけてきたので、やっぱりこいつは本物だなぁと思った。

 

 今日のあんたの雄姿もあとでイラストに起こすね、と思いながら俺は周りにバレないようにちいさくこくりとうなずいた。

 

 

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