未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話   作:龍館まこと

25 / 26
25話 ライラックの傷痕

 

【聖剣】に辿り着くまでは五千回くらいでイケたんだけど、そっからが大変だった。

 

 どうしても『攻撃中』っていうのは隙になる。どんな武術でも言うところだよな。だから俺の場合も、岩を砕くために寸勁を打つあの一瞬だけは剣で斬り捌くとかそういうことが出来ず何回もあそこで死んだ。

 

 というわけでもう剣を振り回すとかせずに弾丸をいなす技を身に着けるしかなかった。

 

「弾丸が頭に当たった瞬間に鞭打ち覚悟で首を高速で捻じって、威力を受け流したんだよ」

 

 つまり弾〇すべりだ。

 

 あとはどのタイミングで生きてるって伝えよう、首もだいぶ痛いしそろそろ姿勢変えたい、なんて思っていたら、ギイがこそっと運び出してくれたのでまあとりあえずこの場が落ち着くまで死んだフリつづけるか……となった次第。

 

 で、ウィルヘルムたちはというと。道具屋で人質にとったこと含め、出頭するとのことだ。人質も解放するらしい……まあたぶんすでに俺の送った傭兵が解放させてるだろうけど。

 

 これで一件落着したのを見計らい、こうしてムクリと起き上がったのだが。

 

「……ねえそれ本当にほかの良い手なかったの? 僕ら、ホントにっ、死んだかとっ……!」

 

「ごめん、申し訳ない。でもこれしかなかったんだよマジで」

 

「許せない気持ちと、生きてたので許したい気持ちと、僅差で前者が勝ちそうです」

 

「ごめんなさい。あの、ホント許してください」

 

 ルイスとシエラに両側からひっつかれて、俺は弁明の時間になっていた。

 

 いやでもね? 俺が死んだ判定になればそれ以上撃たれることないし、奴らの第一の狙いはルイスと【聖剣】だから俺とルイスがあの位置に固まれば一旦シエラとライラックとギイは撃たれる恐れがなかった。

 

 そんで【聖剣】さえ手に入ればご覧の通りの無双ぶりだったのでなんとでもなった。ね? あれが最速の最適解だったでしょう。

 

「わたし、ずっとおそばに居ると言いましたよね」

 

 ふとシエラが口を開く。おそばに? えーと、ああさっき言ってたねそんなこと。

 

飛竜(ワイバーン)乗り換えるときに言ってたことか」

 

「はい。もしコール様が死んでしまっても、おそばに居ます」

 

「……?」

 

「おそばに、参ります」

 

 やめてやめて後を追うのは。さっきまで泣きそうだったルイスが横でものすごい顔して俺ときみを交互に見てるから。勘弁して。

 

 なんとかこの状況を脱したくて視線をきょろきょろさせると、岩に背を預けて片膝立てて座るギイと目が合う。

 

「小僧」

 

「なんすかギイさん」

 

「男を見せろ」

 

 親指を立ててそんなことを言われた。

 

 道具屋の女主人に思いを伝えられず逃げてる男に言われたくねえ~……。

 

 ともあれもうしばらく、謝り倒すしかない。俺は双子にぺこぺこと頭を下げつつ、夜が深まるまで機嫌を直してもらうことに奔走するしかなかった。

 

 その間ライラックは、ずっと離れたところで煙草をふかしていた。

 

 顔には泣いたあとがある。でも、俺への恨み言もなにも言わずただじっとしている。

 

 ……向こうが一番、大変そうだ。

 

 

        ◇◇◇

 

 

 夜中になって、ルイスとシエラは焚火のそばで寝静まり。

 

 火の爆ぜる音と、離れた位置の滝の音だけが聴こえるようになった頃。俺はギイに見張りを頼んでライラックの方に行った。

 

 滝のそばでまだ煙草を吸いつづけていたライラックは、俺に気付くと目だけこっちによこして、顔も身体も滝に向けたままだった。

 

「……怒るのも無理ないと思う」

 

 そう、切り出すしかなかった。

 

 昨晩の会話からすると、きっとライラックは身内の死に敏感なのだ。過去に友達を失った経験がトラウマになっていて、その記憶を打ち消そうと剣技を磨き、果ては人助けになるだろうと【銀霊騎士団(シルヴァ・オーダー)】に所属している。

 

 そんな人物の前で命を落としたふりをするのは、どうしてもこれ以外に突破法がなかったとはいえ、傷痕を抉るようなものだったろう。

 

「……死んだんじゃないかって。あたしマジで、ショックだった」

 

「……ごめん。でもライラックは俺が死んだとでもならなきゃ、絶対俺を庇いに来ただろ」

 

 言えば、また彼女は黙り込んだ。図星だったに違いない。

 

 モルダーのときも躊躇なく俺を突き飛ばして利き腕を失った。さっきだって、リトライのなかで俺は何度となく何十度となく、何百度も超えて何千という数、ライラックに救われた。

 

 だから全員が深手にならない道のため、俺が頭部に一撃喰らうくらいは……と思ったのだ。

 

「俺が頼りにならないから、庇おうと思うんだろうけど」

 

「違う」

 

 俺の言葉に首を横に振り、ライラックは顔を片手で覆う。

 

「頼りにならないんじゃなく、頼りに出来ない……の」

 

「頼りに、『出来ない』?」

 

 問い返せばライラックはうなずいた。

 

 ふるり、とひとつ震えてから吐き出されたのは、重たい言葉だった。

 

「あたしは他人を信じ切れんし──自分のことはもっと信用出来ないから」

 

 それははじめて聞く、吐露だった。

 

 あれほど強いのに。あれだけ研ぎ澄まされているのに、ライラックのなかで自分の評価は、ひどく低い。

 

 思えばそんなふしはあった。共に行動していて自分を下げる発言が多いとは感じていたが、まさかそこまで強い言葉で自分を否定するとは、思ってもみなかった。

 

「そんな自分があたしは、嫌いで、だからさ……ルの字やシーちゃんが坊っちゃんと互いを信頼してるのがわかるほど、他人を信じ切れない自分が、心底嫌になんの。それでも頼れない。相手に自分を預けるなんて、出来んの。自分のこと信じてないのに、そんなもの相手に差し出すの失礼でしょ」

 

 俺はライラックを信頼してるけど、ライラックの方は俺を信じ切れない、ってことか。

 

 そんでその理由は、自分自身を信じ切れないことに起因してると。

 

 ……根が深い話だな。友達を助けられなかったことが、たぶんそこで動けなかったことが、彼女の人生に陰を落としている。

 

 どう、話せばいいんだろう。

 

 この、本当に底の底から優しいのに、自分の優しさを信じ切れないひとに。どう信じてもらえばいいんだろう。

 

 そう考えていると、次第に膝を抱えて座り込んだ彼女はちいさなシルエットを震わせながら言う。

 

「あたしは、そこまでの人間じゃないよ。誰かを頼っていいほどの価値なんて……ないじゃん」

 

「……いやそれは俺が決めることじゃないか?」

 

 さすがに看過出来ないセリフなので、俺は即座に言い返した。

 

 コール・ブレイズは悪行三昧からちょっと足洗っただけのカスだし、他人にあれこれ言えるほどの立場はまだない奴だけど。半年くらいの付き合いだけど。

 

 それでもそこは、言っていいだろう。

 

 言うべきだろう。

 

 だって俺が言いたいんだから。

 

「いいんだよ、過去がどうだったとしても。俺が接してきたライラックは面倒見良くて優しくて、ちょっとめんどくさいときはあるけど……『俺にとって』価値あるひとなんだよ。守ってもらうほどの価値ないとか、言うな」

 

 可能な限り言葉を尽くす。

 

 でもライラックはまだ、心のどこかで他人にラインを引いたままで居るらしい。

 

 怯えた瞳は嫌われることを恐れると同時に、そもそも自分のことを大事に出来ていない者の目をしていた。

 

「ねえ坊っちゃん。あたしすごく、すごくひどいこと言うよ。……あたし、どうしても信じ切れないんだよ。あたしみたいな奴のこと、そんなに大事にしてくれるひとなんて居るわけない、って思っちゃうんだよ。だってさ。もしかしたら、坊っちゃんは……」

 

「なんだ?」

 

 それはきっと、昨夜口ごもった言葉だった。

 

 もう一度呑み込もうとしたその言葉を、俺はじっと待つ。

 

 どうにも沈黙に耐えきれなくなったように、ライラックはそれを、口に出す。

 

「……あたしが一番心動かされる言葉を未来で視てきてて、それを口にしてるだけなんじゃないの、って。そう、疑っちゃってんだよ。あたし」

 

 疑ってしまうことを隠さず、震える手を押さえながら言った。

 

 うーん……これは、たしかに。

 

 かなりひどいこと言われたな。

 

 正直、傷つかないとは、言えない。でも臆しながらもこういうこと口にするのはライラック的にかなり踏み込んだことで、それはひょっとすると俺にはかすかな甘えを見せることが出来てるってことなのかも、とも思う。これだけ言ってもまだ大丈夫、的な。

 

 どうすれば証明出来るんだろうか。俺が、彼女を裏切らないこと。

 

 長い時間掛けて、少しずつ……ということでしか出来ないよなぁ。

 

 よし。俺は肚を決めた。

 

 信じ切ることが出来ないと言うのなら、信じ切れるまでそばに居よう。ライラックの方が俺を突き放すようなことが、キライだと言い出すようなことがあるまでそばに居……あっ想像したら胸が痛む辛い。まあとにかく、ずっとそばに居ると伝えよう。

 

 と思っていたら、ライラックの方が先に口を開いた。

 

「……じつはあたしさ。坊っちゃんに一個だけ、ずっと隠してることがあんだよね」

 

 え、なに。急にこわいんだけど。

 

「あたしの【追惜者(トレーサー)】はね。その場の過去を視るだけじゃなくて、その場に焼き付いた、人間の思考とか感情も視れんの」

 

 ……ふむ? たしかに、よく考えるとそうでもないとギイを追えないか。盗んだ直後に意気揚々と「よーしこれからカンキ山から山ふたつ離れた滝のとこに行こう」とか口に出すわけないもんな。

 

「だからここで使えば坊っちゃんがもし、未来を視てきてたんなら。それが、わかる」

 

 あーなるほど。最適解を視てきて喋ってるだけじゃないか、わかるわけね。

 

「あたし、自分の魔法が嫌い。きっと誰のことも信じらんないからこそ、目覚めた魔法だと思ってるから……でも、ねぇ。もし視させてくれて、坊っちゃんが未来とか視て言葉を発してるんじゃなかったとしたら。あたし、もう今度こそ、吹っ切れる気がしてんの。そしたらもう、坊っちゃんのこと信じ切れると、思うから……一回だけ、視ても、いい?」

 

 淀んだ目ですがるように言われた。

 

 一回だけ、ねぇ……コレ、許可していいのか? 一回だけって言いながら毎回俺の発言の裏を取るようになるんじゃないか?

 

 でも会話については別に俺、リトライしたことないしなぁ。じゃあいいのか別に。世間では相手のスマホ見るパートナーって叩かれがちだけど最初に相互許可があればいいんじゃない派の俺だった。

 

「まあ、それでライラックが落ち着くなら……」

 

 俺は軽い気持ちでそう言った。別にこの場の過去を視られても、発言ミスはなかったはずだと回想の上でのことである。

 

 でもそう思った直後、『この場の過去』と考えて、おや? と思考が止まりかけた。

 

 この場で、さっきまで俺はギイやらウィルヘルムと戦っていたわけで。

 

 戦闘中は未来視でリトライしまくっていたわけで。

 

 俺がなに考えてたかと、()()()()()()()()()()()()()を、俺の死んだフリだけでここまで落ち込んでいたライラックが、視ることになるわけで。

 

「ちょい待ち。やっぱ考えさせて」

 

「やっぱり坊っちゃんあたしとの会話、未来で最適解視てそれ喋ってんだ……」

 

「違う違うそうじゃない。そうじゃなくて、ただあんま見せたくないものが」

 

「視るから」

 

「ライラック! ストーップ‼」

 

 俺お前にこれ以上の負担をかけたくなっ、あーこれこの表情もう見たな見ちゃったな見たんですね俺がめちゃくちゃ死にながらリトライしてるの!

 

 ライラックは頭に流れ込んできているのであろう、俺がリトライしている様子に目を白黒させていた。今日のリトライ、最終的にたぶん二万いくかいかないかくらいの回数だけどそれ急に流し込むのは情報量多すぎて無量〇処みたいになってないか。大丈夫なのか。

 

 次第に顔は青ざめていって、わずかに震えだす。俺の顔をじっと見て、いま己が目にしたものがなんであったのかを確認する言葉を紡いだ。

 

「……え? なに、うそ。だってこれ、こんな、あれ? ……坊っちゃんの未来視って、最適解を、ただ見てくるだけじゃ……なんで、何度も、何百回もっ、死っ」

 

「……詳細を伝えられてなくて、ごめん。最初に証明した方法が悪かったから、ずっと勘違いさせてたんだよな」

 

 ランダムな数列を覚えるのは一発だったけど、細かくいろんな条件で結果が変わる戦闘についてはそうじゃない、というのを、ずっと伏せたままになってたから。

 

 仕方なく、俺は未来視の詳細について説明した。

 

「俺の未来視、自分に都合のいい未来『だけ』を視てくるわけじゃないんだ。実際に行動して何回も試して、()()()()()()()()()()()()()()()()って方が近いんだよ」

 

 今回だと相性問題とメンタル不調もあってライラックが危険な場合が多かったからな。俺がカバーに入ったこととかもあり……俺が死ぬ様を、何度も見せてしまった。

 

 ライラックは先ほどまでとは違う震えを見せて、瞳孔の開いた目で俺を見つめつつ確認の言葉を紡ぐ。

 

「こっ、これまで、も? ひょっとして、ダーナのときもモルダーのときも、そのほかの戦いのときも……戦いのたび、坊っちゃんはずっと、こんな苦しい思いしてあたしたちを守って、きたの?」

 

「……ウソついても仕方ないから正直に言うよ。たしかに俺、何度もリトライしてきた。でも自分が何度も傷つくより、お前らが死んだり、深く傷ついたりする方がはるかに苦しい。だから何度だってやり直せたんだ」

 

 だってハッピーエンドに向かいたいから。

 

 もう十分に苦労して傷ついてるみんなを、これ以上曇らせたくないから。

 

 そう思っての行動でライラックをこれだけ曇らせてるんだから、始末に負えないが。こればかりは予想していなかった。

 

 ライラックは、見る見るうちに目に涙を溜め、俺にひしとしがみついてきた。

 

「う、ぁ……あああ、ごめんね、ごめんね坊っちゃん、疑って……ごめん、あたしの、あたしなんかのために、」

 

「だから、あたし『なんか』じゃないんだよ。……こんな形でわかってもらうのも不本意だけど。俺にとっては命懸けても惜しくない相手なんだ。いやもちろんマジで死ぬと一緒に居られなくなるからそれは避けたいけど……でも本当だ、本当に、大事なんだ」

 

 少しでも距離を詰めたいとばかりに抱き着くライラックを受け止めて、きちんと目を見て言う。

 

 ひくっ、と泣きじゃくった彼女を、優しすぎるからこうなってしまっている彼女を、支えていきたいと心底思った。

 

「好きだから、ずっと一緒に居たいと思ってる。だから守りたいし、頼ってほしいと思ってる……なあ。これでもまだ、信じてもらえないか?」

 

 俺の言葉を受けてライラックはぶんぶんと首を横に振った。離さないと言わんばかりに俺をぎゅっと抱きしめて、耳元でささやくように言う。

 

「しんじるっ、信じるよ……! あたしも、ほんとは、……好き、大好き! だから……うれしくて……もう、おかしくなりそ、で……。コール、ねえ、本当に、ありがとう……!」

 

 言葉にならないらしいライラックの頭をよしよしと抱えて、俺は彼女が落ち着くまでしばらくそうしていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。