未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
一夜明けた。
いやなんにもないよ。夢主ムーブの階段上っちゃった気がするけどそれ以上のことはないよ。
俺もライラックもいつも通りの朝食の席で、ルイスは野菜を嫌がってライラックは調味料ドカ盛りしようとして怒られる。じつにいつもの風景だ。
違うことがあるとすれば、昨晩はお互い気持ちを打ち明けたあとそのまま横でひっついていろいろこれまでの身の上話的なのをしたので、ライラックが調味料ダイスキなのが「追撃部隊だと食にこだわれなくて使えるときは大量に味付けしたから、そのときの癖が残ってる」とかいうわりと悲しい理由だと俺だけが知ってるとか。そういう感じだ。
「さーて朝ごはん食べたし稽古しようか、コール。ライラックさんもお願い」
ルイスが食べ終えて、剣(さすがに【聖剣】は使わないで普段の奴)を携えて立ち上がる。ライラックは薄荷煙草をくわえかけていたが、胸元にしまって剣を向ける。
もう俺たちもだいぶ力量が迫っているので、くわえ煙草で相手は出来ないと言ってくれるこの頃だ。
「ん。じゃールの字から掛かってきてもらおっかな」
「ふぇ? めずらしい」
「なにがよ」
「ライラックさん大体いつも、コールの方を先に相手するのに。なんで今日はコールが後回しなのかなって」
「んぇ? あー……いやなんとなく? 今日は坊っちゃんまだコーヒー飲んでるからゆっくりしたいんかな、みたいな?」
「普段は『常在戦場』とか言ってコーヒー飲んでても稽古になったら切りかかっていたような……」
「いーからやんよホラ早くルの字構える」
「え? え? うわちょっ速い速いライラックさん待って僕構えてない」
バシバシと鞘に納めた剣で打ち合い稽古をはじめながら、ライラックはちらっちらっと俺の方を見ている。「配慮してあげたよ」感をめっちゃ出してくる。
……はい、こういう感じです。
別にその、関係がめっちゃ進展したとかではないんだけど。横でひっついて喋ってる間にまあ、いろいろ。「なんでも贔屓したげるね」とか「ふたりっきりのときだけコールって呼んでいい?」とか。なんかいろいろふたりの間で取り決めが成されたというか。そんな感じだ。
「じー……」
「え、なにシエラ。こわいんだけど」
「いえ。なにも」
黙ってふいっとあっちの方を向いてしまう。お前後追い発言あったからこわいんだよ本当に。
……え? いやそういうのじゃないよね? 気のせいだよね? なんか感づいてるとかじゃ、ないよね? いや俺はライラックとそういう関係ではないが。ないけど、ないけども。
「小僧も大変だな」
「うわまだ居たんだギイさん」
「ひどくねぇ?」
ギイは別にパーティ加入するわけではなく、
からからと笑った彼は、あらためてという感じで正座姿勢のまま俺に向き直り、両拳を地面についた。
「とはいえ、命を助けてくれた相手ってぇわけだしな。俺も逆らう気はねぇよ」
「別に恩着せたくて助けたわけじゃないけどな……」
「ならどうして、殺さず助けた? 殺す方が楽だってぇのは、わかってたろ」
「楽に逃げても気楽にはならないんだよ」
ちなみにこれはルイス(二十巻時点)のセリフの受け売りだ。しんどい状況を多々潜り抜けてきたルイスが言うからこその重みなので、未来視でイカサマしてるような俺が言ってもあまり重みはないだろうけど。
でもそれなりに、ギイには響いたみたいだった。
「楽に逃げても……か。たしかに、それはそうかもしれねぇな」
「そうだよ。だからギイさんも野盗の真似はやめた方がいいぞ。野盗なんて仕業のせいで
さすがにギイの場合は
自分が楽をしようとしたことが誰かの牙を不用意に刺激する、その可能性を実感から思い知ったのだろう。ギイは神妙な顔でうなずき、「ああ」とだけ言った。
「それにしても、おっそろしい奴らだったぜ。連中はよ」
「そんなに強い奴だった?」
「いや……強さだけってぇなら別段、お前らほどの腕もねぇよ。ただ行動がな。どうも薄気味悪かった」
「というと」
「俺がたまたま、下流の堤防決壊で人足を要してて道具屋を離れる日だった。
「……え?」
「気味悪ぃだろ。まるで
いまとなっては俺の未来視を信用しているギイが、静かにそう口にした。
神と転生の概念の不在。聖域における勢力図の崩壊。加えてここに、未来を視ているような動きがあった、と?
「お前の『歴史書』がどこまでアテになるってぇのかはわからねぇ。ただ、いろいろ変わってきてんだろ? 用心するに越したこたねぇよ」
静かにそう告げられて、考えつつ俺はコーヒーをすすった。
眼前にはルイスと稽古するライラックと、それを眺めるシエラが居る。
三人とも『歴史書』──すなわちエグドロ原作の正史においては、とてつもない苦難を味わいその末に命を落としたり、かけがえのないものを失ったりしている。
俺以外にも、未来を視通している奴が居るんだろうか? そいつがもし、ギイの道具屋の子どもを人質に取ったように暗躍をしているのだとしたら……。
「……守るよ。なにがあっても、どんな敵が来ても」
コーヒーカップを置きつつ俺は言って、腰を上げた。
剣を手に取り、ライラックの方に進んでいく。
まあでも大言壮語を吐くなら実力も伴わないとな。
せめて好きな相手より強くないとねぇ……と思った俺はライラックに「一手頼もうか」と挑みかかって────ふにゃっふにゃでぜんぜんやる気の感じられない剣技を前にして「いやお前それは違くねえ?」と説教する羽目になるのだった。
終