未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
その場に居た男にテキトーに金を渡して「ルイスに『妹は解放された』って伝えとけ」と言伝を終えた俺は夜の深まる頃、迎えの馬車を呼んでブレイズ家に戻った。
しかし、まぁーデケえ家だ。
この世界での十五年の記憶があるとはいえ、パンピーの庶民感覚をインストールされた俺はめちゃくちゃにデカい屋敷におののき、自室も三〇畳くらいありそうで落ち着かなくて、隅っこの方に椅子と机持ってきてようやく人心地ついた。
「さて、今後について考えなくっちゃな」
エグドロ原作は十五歳の少年編ラスト、つまりいまの時点でシエラを探してルイスが旅に出る。そこで一気に五年が経過し、三巻からは二十歳に成長したルイスとそのパーティの話となる。
行く先々で魔王の配下である魔族を倒し、魔王崇拝の邪教団と戦い、ときに仲間を失いときに辛い決断を重ねながら旅をつづける。
過程で各地のいろんな人物に視点が移り替わり、【
この様をしてタイトルが『
「……っていうか俺もう原作の完結、拝めねえのかよ……」
椅子の上で膝を抱えた俺は月光に照らされながらしくしくと泣いた。
二十五巻、もう終盤だったのにな。魔王戦が迫っててさ。
ルイスが最後どうなるのか。
不滅の存在である魔王は本当に倒せるのか。
聖女は死なずに済むのか、焼かれた故郷で意味深に散った花の意味は、大商人と交わした約束の伏線は、騎士団で習得したっていう奥義の詳細は、などなどなどなど……。
「俺が原作通りに生きれば、原作ルートに入って全部それらのオチもわかるんだろうけどなぁ」
でもキッツイわ~。
俺の立場が嫌われ者のクソ悪役コール・ブレイズってこと以上に、あのエグドロのストーリーが目の前で展開されるのはキッツイ。
ひとめっちゃ死ぬし男も女も凌辱されるし。拷問シーンが一巻に一回は出てくるから次第に拷問のこと「ノルマ」って呼ぶ風習がファン界隈で構築されてたし。
とくに魔族が魔法に反応して襲って来るから、『強い奴は戦う義務があるけど、強い奴ほどエグい死に方する』っていう世界観のシステムがね。ヤバいよね。「強いんだから戦えよォ!」って民衆に押し出された魔法使いがグチャドロになって死ぬとか日常茶飯事。
そんなわけでまあ、原作ルート行くのは無しだ。俺のメンタルが終わる。
「でも魔王を倒せるのは【勇者《ブレイバー》】に選ばれたルイスだけ。ってなるとぉ……ルイスの実力を引き上げながら、先々で起こる惨劇を回避する、ってのが一番か」
今回、シエラを助け出せた。
この調子で本来なら悲惨な目に遭ったり死んだりするひとたちを守り、原作読み込んだ俺が知ってる情報を駆使して安全安心に魔王を倒す……ってのがいいのかな。
その道筋を作るには──やっぱり、この能力が役に立ちそうだ。
俺は両眼を閉じると未来視を試してみる。
ぐっと目に力を込めると発動するそれは、カウントしたところ最大で一分間まで先の未来を見通せるようだった。
──自室を出て左に行く
──廊下の向こうでカンテラを持ってくしゃみしているメイドに遭遇する
──傍若無人なコールは屋敷内の人間に恐れられてるので挨拶もされない
──そのまま進んで夜の中庭に出る
──煙草をくわえて、ポケットをごそごそ探っている別のメイドが居る
──目が合い、「火、忘れたみたいで」と言われる
……そんな、未来を視た。
ふむと考えて、俺は引き出しを探る。健康でも優良でもない不良少年だけあって、そこにはパイプと煙草とマッチが入っていた。十五歳のくせにナマイキ~。まあ一回試してむせて以降一度も使ってないアホのコール・ブレイズの記憶があるのだが。
俺はマッチを手に取ると、自室を出て左に行く。
カンテラを持ったメイドが廊下を曲がってきて、俺を見ると「ひっ、コール様」とおびえた。
……これも記憶にはあるけど、ささいなミスでいびったり罵倒したり散々なことしてたからなコイツ。こんな対応されるのも仕方ない……今日からは改善しよう。
「夜、冷えるから。もう少し厚着した方がいい」
「へ? あ、あの……はっくしゅ! し、失礼しました!」
「いや、俺こそ仕事中にごめん。それと……いろいろ、これまで辛く当たったこともすまなかった。急になんだと思われるかもしれないけど」
「え、ええ?」
「これからは心を入れ替える。賭博だの夜遊びもしない。本当にすまなかった」
つづけて頭を下げると、メイドはあわてて「そんなコール様、私などに頭を下げるのはよしてください!」と言っていた。変化が急すぎて疑わしいよなぁそりゃ。
今後の行動で示すから! とだけ言い残して俺は去った。シエラに対してもそうだったけど、とりあえずこれまでいびったり脅したりしたひと全員に謝るとこからだな……先は長い。
けど、これから遭遇する人物は。
唯一コールがいびったり脅したりしていない人物だ。
俺は夜の中庭に出て、冷たい空気のなかでその人物に向き合う。
二つに結い分けた亜麻色の髪が腰より長く伸びており、着ているメイド服のスカート部に沿って落ちる。
身長は高めで、ヒールを履いているからなお上背がある。
組んだ腕の上にずっしりと乗った色気ある胸元から箱を取り出し、はちみつ色をした眠たげな目で薄荷煙草をくわえる超美人の女性がそこに居た。
ごそごそとスカート部のポケットに手を突っ込んでいるが目当てのものがないらしく、んー? と首をひねり、その途中で俺に気付いた。
「火、忘れたみたいで。マッチとか持ってません? 坊っちゃん」
軽いノリでそう
美人メイド。名はライラック・レイハウンド。歳は二十六。
エグドロ原作では享年も二十六の、作中上位クラスの強キャラである。
まず彼女を、死の運命から逃れさせようと思う。