未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
……俺は剣について、前世でちょっと剣道やった経験くらいしかない。生き死にの戦場を潜ってきているライラックに勝てる道理は一切ないだろう。千回やってもたぶん無理だ。
でも未来視のシミュレートで一万回リトライしたなら。
一回くらいは、取れるんじゃないか?
側面から狙うとか背後に回り込むとかスライディングして脛切り狙うとか、ありとあらゆる手段を総動員してライラックの隙を探すのだ。
──まっすぐ行って面打ちを狙う
──こっちの先端をハタキで打ち落とされつづけざま小手を喰らって棒を落とす
──拾った瞬間に棒を投げつける
──正確に弾き返されて俺の頭にクリーンヒット
──下から薙ぎ払うと見せかけて先端で土を抉って目つぶし
──左手で眼に当たる分だけ払いのけてハタキで反撃してくる
──背後に回り込んで脱いだガウンをばさっとかぶせる
──ハタキで切り裂かれたあと突きでぶっ飛ばされる
これならどうだ。こうすればどうだ。ああしたらどうだ。こうなればこうだ。
試せ。狙え。読め。見ろ。ライラックの動きを覚えてほんのわずかでも苦手な角度とか癖が出る瞬間とかを探し出せ。
それにしてもさすがだった。達人ってのはマジでこわい。どれだけかき回してもまったく動じないで流麗な動作を叩き込んでくる。
この、反応とか反射の領域に至るまで身体に覚え込ませる経験を。
俺は未来視のシミュレートのなかで、自分の身体に叩き込んでいく。
ハタキだし手加減してくれてるとはいえ結構痛いよ? それでも心が折れることはなかった。挑みつづけることができた。
なぜなら……ライラックが近ぇ! ビジュが良い‼ ゼロ距離で推しキャラを拝見出来る‼
というわけで痛いししんどいけどこのトレモを俺はひたすらにつづけた。
やがて。
「──視えた。勝利の道が」
俺は目を開け未来視の世界から帰ってくると、即座に後ろを向いた。
「は?」
俺の突然の行動にライラックが呆気に取られた声を出す。
そのまま、ライラックに背を向けた俺はゆっくり後ろ歩きで彼女に近づいていった。
「ちょちょちょ、坊っちゃん……奇策で裏掻こうってのは──」
──甘いよ。と言ってハタキを打ち下ろしてくる。
そのタイミングも身体で覚えた。俺は屈んで避け、同時に走る。ライラックの右側に回り込んでいった。
低い位置から切り上げるように、地面を抉って土を飛ばす。
「目つぶしたぁ姑息だね……ぐぅっ⁈」
それだけじゃ左手で払いのけられるのを知っている。
だから俺は──後ろ歩きの途中で、舌を噛み切って口のなかに溜めていた血液をブフッと吹きかけていた。血の霧の目つぶしは避けきれずライラックは視界を一瞬失う。
それでも間合いに入ったものは自動迎撃するような勘を持っている彼女だ。そのまま突っ込んで倒せるわけではないので俺は飛ぶ。視界がなく聴覚に頼るライラックは右か左か、俺がどちらに飛んだかの判断に一瞬迷う。
でも実際にはその場でジャンプしただけだ。
そして俺が落下し、ざりッと地面で音がした瞬間にライラックはその位置を薙ぎ払う。
「残念」
それは着地より一瞬早く、俺が腕を伸ばして棒の先で地面を擦った音だ。棒の先端は斬り飛ばされたが、ライラックに一手無駄な動きを強いた。
俺は後方に振りかぶる動きを取った。手の内から棒が走る。
「まだまだだよ坊っちゃん!」
ここで、燕返し。
振り薙いだハタキを一瞬で返し、ライラックが切り上げてくる。
のけぞってこれをかわした俺は、攻撃に移りにくい体勢になった。ライラックはまばたきと涙で視界を取り戻しており、俺の不利を見て笑みを浮かべる。
俺もにっこりして、ライラックに声をかけた。
「線から出た」
「えっ──」
ライラックは回復した視界で足元を見る。たしかに爪先が、わずかに線を出ている。
「──いや、これは坊っちゃんがさっき引いた線だ」
正解、いまのはブラフだ。着地したと思わせて地面を棒で擦ったときに、若干上書きするように線を引いただけ。ライラックはまだ土俵を割っていない。
後ろに振りかぶっていた俺に、ライラックの突きが届く。
胸に喰らって後ろに倒れた。
「ははっ、思ったより善戦したね坊っちゃん。でもまだツメが……」
「いや、
俺のぼやきと同時。
ライラックは、俺の手に棒がないことに気付く。
次の瞬間。
ぽくっ、と軽い音と共にライラックの頭に棒が落ちてきて、当たった。
「……あ」
とつぶやいたライラックの口から、ぽとりと煙草が落ちた。
「棒を後ろに振りかぶる姿勢を取ったとき、もう上に投げてたんだよ」
足元の線に注意を引き付けたのも、俺の手がカラだと気づくのをギリギリまで遅らせるためのブラフだった。
人間やっぱ頭上は死角だから気づきにくいね。だってホラ水柱でさえ危うく斧に当たりそうになったもんな、第一話で。
そんなわけで大ヒット漫画の戦法を取り入れた俺の作戦勝ちだった。
「……まじかぁ」
ずれたヘッドドレスを直しつつ、ぽかんとした顔でライラックは言う。
「千回やっても絶対、当たんないと思ってたんだけどなあたし。それもまぐれじゃあなく確信あっての一発喰らうなんて、予想外過ぎんだけど」
「まー一万回とはいかなかったけど二千は試したからな……」
「え?」
「いやこっちの話」
合計で二千分ですよ……身体の疲労とかはないけど、三三時間ぶっつづけで戦ったわけなので気持ち的にはめっちゃ疲れたよマジで。
もう隙なんてひとっつも見つからないんじゃないかと五百回時点で途方に暮れたもんな。六百あたりで二段階の目つぶしが効いたときに興奮して「見えた! 隙の糸!」ってつぶやいたのが最終的な攻略法のひらめきに繋がりましたよ、ええ。
「ハァーしょーがないか。あたしの負け負け、坊っちゃんの勝ち。潔く認めたげるよ。てゆーかなんか変だったことない、坊っちゃん」
「なにが?」
「開始した瞬間は素人丸出しのポンコツな目つきだったのに、なんかまばたきしたら一瞬で覚悟キマった目の据わり方したじゃん。アレちょっとビビったんだけど」
「あー。たぶんこれからも稽古つけてもらうとき、似た感じになると思う」
気持ち的な疲労を無視すれば、達人相手に時間無制限で打ち込み稽古出来るわけだからな。毎回俺の目つきは変わってくと思う。でもこれが剣技極める最短ルートだ。
そう伝えるとライラックはくっくくと笑って、もう一本取り出した煙草に火をつけた。
「面白。芽どころかなんかヤバいもん育てはじめたような気ぃしてんだけど、あたし」
「目標のために強くなりたいからさ。どうか頼むよ、これから。……それと、これまで俺ロクな素行じゃなかったと思うし、その。だいぶ、アレだったと思うんだけど……」
「んー。たしかに坊っちゃん、完全にカスの不良だったよね」
「めっちゃ直接的に言うなおい」
「ボカしてもしょーがないじゃんこーゆーのは。でも、ただのカスがあたしから一本取れるわけないんだよね」
へにゃっと笑ったライラックは、手を伸ばすとまた俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「変わろうとしてんのは、変わってきてんのは伝わってきた。坊っちゃん言いたいの、そゆことでしょ?」
「……うん。これまで迷惑とか心配かけてきて、ごめん。心入れ替えるから、どうか力を貸してほしい」
「いーよ。……あたしだって、あんまひとにどーこー言えるような生き方してきてないからさ。坊っちゃんの目標、手伝ってやんよ。で、どういうことしたいん?」
「ライラックを守れるようになりたい」
享年が決まっておりいま一番危ないのが彼女だ。毒殺を防ぐためにもいろいろ立ち回りたいし、とにかく彼女を守るのが第一。
なにせ真っ向勝負なら作中上位陣だ。彼女が仲間に居るだけで、この先俺がルイスをフォローしつつ安全安心に魔王を倒す旅はかなり楽になる。
などと考えつつ顔を上げると、ライラックはまたぽかんとしていた。
次いで髪の毛をいじいじと指先に巻き付けると、なにかごまかすように顔を背けながら、俺の頭をまたくしゃくしゃする。
「……ナマイキ~。ガキのくせに。でも、ありがと」
推しキャラから「ありがとう」いただきました! ひゃっほう!