未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話   作:龍館まこと

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6話 シスコン勇者

 

 

 一夜明けて翌日。

 

 剣技について鍛えるアテができた。これでパラメータは大きく上がるだろう。

 

 あとおまけページ情報でコールが伸びやすいのは付与魔法(エンチャント)だとわかっているのだが、これについては熟練度が上がりやすい修行法が二十巻で明かされてた。取り入れればすぐ伸びる。

 

 というわけで、そのほかの準備を進めることにする。

 

「いまが少年編ってことは……日付的にも、まだスパニエル商会が立ち上がったばっかのはず。昨日ルイスに賭けて買った金を全額そっちに回してやれば恩を売れて、かつ半年もしないうちに何倍にもなって返ってくるはずだ」

 

 俺は資産づくりの計画を立てた。やっぱ金があって困るこたないからね。

 

 ブレイズ家はシンプルに言えば商売に成功した成金貴族だ。隣国との流通開拓と交易品でひと山当てて左うちわライフを謳歌している。まあコールが落ちぶれてのちにこの町が火の海になるとき、同時に一家断絶するのだが……コール自身とちがってご両親は心底悪い奴ではない。その辺の破滅も回避してやろうと思う。

 

 ともあれ、商売系の家庭なのでその筋の連中と繋がりを作るのは容易い。

 

 俺は先々での活動援助を目的として、五年後のパートで出てくる大商人アレックス・スパニエル率いるスパニエル商会にコナをかけておくことにする。

 

 エグドロ原作においても終盤でルイスの活動をサポートしてくれるので、あいつら〇ピードワゴン財団みたいなもんだ。早めに接触しておくに越したことはない。

 

「拠点は早めにここから移したいしな……スパニエル商会から人脈繋ぐのも並行して、あとはシエラがまたさらわれるかもだからその対策を」

 

「お前、いまシエラのことを話していたか?」

 

 後ろから急に話しかけられてぎゃあと飛び上がる俺。

 

 ちなみにいま居るのは家ではなく学院──要は冒険者予備校──で、お昼休みの時間である。

 

 席に座っている俺を見下ろしているのは、滑らかな金髪ショートボブに燃えるような赤の瞳を持つ人物。小柄で、救貧院暮らしのためぼろぼろのサイズ合わない服を着用している少年。

 

 キリっとした怜悧な顔つきでツリ目の、ルイス・ヨークシア。

 

 腰の剣の柄に片肘を載せる、彼の癖であるいつものポーズで俺の後ろに立っていた。

 

「る、ルイス、ヨークシア……」

 

 勇者ぁぁぁあああ! と心の内で俺は叫んだ。昨日は活躍と覚醒を見届けること出来なかったからな! いやーやっぱ主人公って面構えだわこのひと。

 

 しかしこの端正な顔が苦悶に満ちる展開ばっか待ち受けてると思うと、マジでこの世界のしんどさと神の理不尽さに打ちひしがれるよ。

 

「どうして急に空を仰いで固まっているんだ、お前……」

 

「ちょっと神の理不尽さについて考えてた」

 

「カミ? なんだいそれ。それが僕のシエラになんの関係があるというんだよ。また悪だくみをしているんじゃないだろうな、コール・ブレイズ」

 

 じろっと俺をにらみ、フルネームで呼ぶルイス。普段この学院で俺=コールはさんざん彼に突っかかって絡んで嫌がらせを積み重ねてきたので、この反応も致し方ない。

 

 俺は立ち上がると、ルイスに正面から向き直った。

 

「なんだい。やる気か? それなら表に出なよ、コール」

 

「いや……悪だくみとか疑われるのも無理ないなと思ってさ」

 

「はあ?」

 

「言葉だけで言ってもしょうがないのはわかってるけど、これまで本当にすまなかった。そう謝ったところで俺がやったことが帳消しになるなんてありえないから……今後の行動で示してみせる。それでもだめだと思ったら、その場で切ってくれても構わない」

 

 深く、頭を下げる。いやエグドロ原作でコールがやらかしてることマジでろくでもないからな……これだけ言ってもまだ足りないくらいだ。

 

 ややあってから俺が顔を上げると、ルイスはしどろもどろになって手をわきわきさせていた。こんな反応が返ってくると思ってなかったらしい。素行のせいだなぁ……。

 

「し、信じないぞ。お前、そう言って僕を騙し討ちしようとしているんだろう。前の学院内昇格試験で僕にしたこと、忘れたとは言わせない」

 

「ああ、ルイスの使う模擬戦用の剣に細工して壊れやすくしたのは俺だ。金で抱き込んで周囲の人間に妨害をさせたのも俺だ。あのときの俺は本当に、どうしようもなかった……ルイスのほかにも文句がある奴、出てきてくれて構わない。絶対に避けないしあとから報復もしないから、煮るなり焼くなり殴るなり、好きにしてくれ」

 

 俺はその場に膝をつき、正座の体勢になった。

 

 途端、周りがざわつきはじめる。

 

「『床に座るなんて汚れるから』と級友を椅子にしていたコールが、膝をついた……?」

 

「不正の証拠がどれだけ揃っても『ふん、現行犯じゃないなら罰せられまい』とか開き直っていたコールが……?」

 

「結局ルイスに成績負けてるくせに『僕こそ真のエリート、エリートならばなにをしても許される』ってわけわかんないこと言ってたあいつが……?」

 

「『庶民に殴られるなど鞭打ちより耐えがたい』ってさも鞭打ち耐えたことあるように言ってたけど縄跳びが脛に引っ掛かっただけで泣いてたあいつが、好きに殴れって……?」

 

 こいつ本当に評価が地の底だな。情けなくて涙が出そう。でもまったく反論できないんだよねえ、全部事実だから。

 

 あのコールが殴っていいってんなら、一発いっとくか? みたいな空気が流れ始める。じり、と一歩進み出ようとする者が複数。ルイスはというと俺の眼前で、なにか迷いを抱えた表情を見せている。

 

「やめてください!」

 

 と、そこに涼やかな声が響く。

 

 誰かと思えば、教室の入り口に立っているシエラ・ヨークシアだった。ルイスと瓜二つの顔だが髪質がふわふわしていて瞳の色が薄めな彼女は、かつかつと近づいてくると俺の横にひざまずく。

 

「たしかに、コール様のこれまでのおこないはひどいものでした。わたしも正直、苦手としていました。けれど昨日、人買いにさらわれそうになっていたわたしを助け出してくれたのは、コール様なんです! ルイス、昨晩わたしそうお話ししたじゃありませんか⁈」

 

「うっ、それは聞いたけれども……でもシエラ、その人買い集団の姿は見当たらなかったよ。僕は闘剣(デュエル)が終わってから裏口を出たけど、そこに血の痕跡すらなかった」

 

 魔王崇拝の邪教団だからな。基本、活動は隠密だ。たぶん実行役のあの五人のほかに監視役も居て、俺が全員倒したあとで現場を見つけてあわてて証拠隠滅したんだろう。

 

 でもその状況がルイスにはすごーく疑わしく見えたらしい。しょうがないね。

 

「コールがきみを助け出すことまで含めて奴のマッチポンプの策略で、さらった人買いとコール・ブレイズがグルという可能性も考えられるじゃないか⁈」

 

 コールだとやりかねないなぁ。俺は反論出来なかった。

 

 しかしシエラは俺に助けられたことですっかり信用しているらしく、そんなルイスの疑いに真っ向から食ってかかった。

 

「そこまで手間をかけてわたしをさらっても、メリットがとくにないではありませんか! そもそもわたしがさらわれそうになった理由自体、よくわかりませんし」

 

 ぶっちゃけるとシエラがさらわれそうになったのは、ルイスと間違えられてのことだ。

 

 この世界では十五年前に神殿で『この年に生を受けし、金色の髪に燃える瞳、左手に剣の紋章を宿す者、其は魔王を討つ者なり』との予言が出ている。

 

 誰あろう、ルイスのことだ。魔王を討てるのは、ルイスのみなのである。

 

 しかしこの予言が魔王側にバレると全世界の金髪の子どもが全員狙われかねない。よって神殿に属す者のなかでも上層部だけに予言が伝えられ、ずっとそれらしき子どもが探されていた……という次第。

 

 ではなぜルイスが狙われ、シエラがさらわれそうになったかというと、これは簡単。

 

 上層部に裏切り者が居るからだ。そいつが魔王崇拝の邪教団に属しており、この町でカジノオーナーを抱き込んで誘拐に踏み切ったわけ。

 

 だが外見特徴だけで捕まえたので、双子のシエラが連れ去られたのだ。

 

 邪教団の方では結局【勇者(ブレイバー)】ではない者を捕まえてしまったわけなので、腹立ちまぎれにシエラは洗脳と改造を施され最悪の刺客としてのちにルイスの前に現れる。という流れ。

 

 まあこの時点でのエグドロ原作ではその辺がまったくわかっていないので、ルイスは「なんかよくわからないけどすごい力に目覚めたから、妹を助けだすために旅に出る!」ってなるんだけどね。落ちぶれたコールはその旅路を後ろから追っかけて妨害する感じ。やだねえ、男のジェラシーは見苦しいぜ。

 

「……シエラがさらわれそうになった理由なんて、ハッキリしている」

 

 そこでふいに、ルイスが真剣な声音を出した。

 

 なんだ? 人買いにさらわれかけた理由がわかるって? と周りが聞き入る。

 

 その注目が最大になったところで、ルイスはガッとシエラの両肩を掴んだ。真正面から食い入るようにシエラを見つめ、宣言する。

 

「シエラが可愛いからに、決まっている!」

 

 こいつ若干シスコンこじらせてるんだよなあ。いやそうでないと妹を追って旅になんて出ないだろうけど。

 

 シエラは気恥ずかしそうに目を逸らした。小声でぼそぼそと「……あの、わたしたち双子で、顔そっくりですから……そういう言い方は……」と言っている。

 

 わかるよ。ルイスに他意が無くてもナルシストに片足突っ込んだ発言になってるよな。でも止まらないんだよこいつ。

 

 パラメータとかもほぼ欠点ない男だけど、唯一シスコンだけなんかおかしいんだよな。自分はぼろい服着てでもシエラにはなるべく可愛い恰好させようとしてたり、恋愛ものの物語本をやたら読んで「シエラが恋したときに活かしたいから」とか言ってたり。そういう描写が原作でも多かった。

 

「きっとシエラの将来性を見越してのことだ。おのれコール・ブレイズ、手の込んだまねを」

 

「いやシエラが美人になるってのは同意するけど、俺そんなことしてないって」

 

「び、美人って……そんなお言葉……」

 

 あれ、なんかシエラが頬染めてる。そーかルイスからは褒められ慣れてるけど他人からの褒めに不慣れなんだっけ。

 

 そしてそうなった要因は、横のお兄さんにある。

 

 俺の不用意な褒めに、ルイスはぷるぷると震えはじめていた。

 

「ほらぁ! やっぱりじゃないか! シエラを射止めようと手練手管に小細工を弄して!」

 

 そう、こういう感じで兄上が突っ込んでくるから軽々に周りが褒めること出来ないんだよね、シエラ……。

 

「お前、人買いたちが素人相手でも容赦しない奴らだ、ってシエラに言われてなお『それが、「助けない理由」にはならないだろ?』とか言ったそうじゃないか!」

 

「言ったけど」

 

「そんなのもう落とす気のセリフだよ! 絶対そうだ! もう許さない、表に出ろ!」

 

 なんでこうなるの……。コールが稼いでいたヘイトがデカすぎるからですね、そうですね。

 

 しかし、こうなったらもうこの状況も先々に活かしていくしかないか。

 

 現在ルイスは【勇者(ブレイバー)】の力に目覚めて、あの最強闘技者をも軽く瞬殺出来るだけの力を得ている。

 

 でもけっしてチートとかではない。たとえば、作中終盤上位クラスに匹敵するライラックには手も足も出ないだろう。経験値も違い過ぎる。

 

 さてではそんな状態で魔王が倒せるでしょうか? そもそも、妹を取り戻すとかそういうモチベがない状態で旅立ちなんてするでしょうか?

 

 しないよなあ。

 

 となると、それを踏まえてルイスが魔王を倒せるようお膳立てが必要だ。全員ハッピーエンドに導きたいのはもちろんだけど、当人たちにも頑張ってもらわないことには話が進まないのだ。

 

 つまり……俺がここですべきことは。

 

「わかった。受けて立つ」

 

「コール様⁈」

 

「不用意にシエラへの好感を示してルイスに不愉快な思いをさせたのはこっちだ。ルイスの気が済むようにしてもらっていい」

 

「コール様がわたしに、こ、好感……」

 

「ふん。気の済むようにとは言っても、別に一方的に制裁を加えるとかじゃないよ。正々堂々、闘剣(デュエル)で決める。僕が勝ったら今後一切シエラに近づかないでもらう。お前が勝ったのなら、そうだね。シエラを助けたっていう言い分については、認めてあげよう」

 

 うーん。ここで過度な制裁とか報復条項を提示しないあたり、やっぱルイスって勇者だなと思う。これこれ、この高潔さ~! って感じだ。

 

 さんざんいままで迷惑かけられてるんだし、俺が彼の立場だったら「土下座したまま学院の周りを百周してこいよ」くらいの条件足すもん。十五歳時点で人間が出来てるよなぁ……。

 

「なんだい、その生暖かい視線は……」

 

「すまん。解釈一致で感極まってた」

 

「よくわからないな……とにかく、木剣を持ってきなよ。僕は細工されないように自前のものを使うから」

 

「わかった」

 

 俺は教室の後ろのラックに突っ込んであった模擬戦用の木剣を手に、外に出ていく。

 

 さて。

 

 ルイスにこれまでのコールのやらかしを詫びた上で、原作ファンとして尽くしたいのは山々だけど……彼には強くなってもらわなきゃ困る。

 

 なにせこの世界は残酷さがウリのダークファンタジー、エグドロなのだから。

 

 邪教団は本来、シエラの誘拐で『【勇者】ルイスを確保した』と勘違いしたのでその後この町への手出しが一時止まる。その間に支度を済ませたルイスが旅立ち、邪教団との接触はだいぶ先になるわけだ。

 

 でも今回は俺がシエラを助けているので近いうちに第二陣を送り込んでくるだろう。それをルイスがどうにか出来るかというと、いまの強さではアヤシイ。

 

 つまりここからは、ライラックによる俺のトレーニングに並行して。

 

「ルイスには、超えるべき壁として俺を意識してもらおう」

 

 切磋琢磨するライバルキャラが俺なんかで、ごめん。シエラを守るためだと思って我慢して。

 

 

 

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