未来予知と原作知識でハードな世界をハッピーなifルートに変える話 作:龍館まこと
そんなわけで外に出てきた俺はルイスと向かい合った。距離は五メートルくらい。
互いに中段に構えて、切っ先を見据えた。観衆に囲まれながらルイスが言う。
「ルールはどうするんだい? 魔法は使うのか」
「習ったことはすべてアリでいこう。俺もそうする」
「わかった」
この時点でルイスに使える魔法は風の
剣技についてもあくまでこの学院では首席、という程度。
俺は大きく水をあけられているわけではなかった。
……昨日までは。
「──はぁぁぁあああああッッ!」
気迫を込めたルイスから、すさまじい熱量を感じる。
この世界の生命体が使用できる不思議パワー、『
いや武道家としても手合わせしたくないね。こんなん反則だろ。
要するに【
魔力を一定時間、無尽蔵に使える。これぞルイス専用の
「ルールもうひとつ追加してもいいかな、コール」
「なんだ?」
「どっちかが降参したらそれで終わり」
煽りじゃなくてこれ言えるのも強いよな~。必要以上に痛めつけないっていう自分の筋を通したいんだよね、わかる。
俺はうなずいた。ちなみに俺の手札はというと、ルイスよりちょっと劣る剣技・軽い身体強化の
対していまのルイスは魔力が無尽蔵に使えるので、魔法の重ね掛けも可能だ。
たぶん身体強化だけでも出力は俺の十倍とかになるだろうな。風の属性魔法を追い風にして加速もしてくると思う。
戦いは、一太刀で終わる。
そのつもりでルイスが深く身を沈めてるのが、なんとなくわかる。俺も伊達に三三時間も剣の達人ライラックさんに挑んでないからね……。この戦闘経験値は、ルイスに優っている点と言えよう。
さてもちろんそれだけでは勝てないので。
俺は強く目を閉じ、未来視を発動した。
──超高速で突っ込んでくるルイス
──斜めに抜けて回避しようとしたが、肩にわずかにかすめたことで吹っ飛ばされ気絶
……ギリギリでの回避は無理だな。動体視力が間に合わん。
──初手から大きく避けておく
──途中で進路をくの字に曲げて突っ込んできて一撃もらい気絶
……大きく避けるのも無理か。受けたなら?
──鍔迫り合いに持ち込む
──強度上昇をかけてなお木剣がひび割れ、袈裟に喰らい気絶
……パワーが圧倒的だな。ゴリラと人間って感じだ。
奇策は? 目つぶしは? 上に避けたら? カウンター狙ったら?
これならどうだ。ああすればどうなる。これで当たるか。それならこうだ。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えろ。
……やがて。
「──
目を開けた俺は木剣を握り直し、ルイスに向かって──突撃した。
「なに⁈」
ルイスが少しだけ驚いて目を見開く。もともとのコールは「エリートの僕は泥臭く前に出たりなどしない」「後の先というものさ」とか、たいした腕もないくせにあまり前に出ようとしないタイプだったらしい。
しかし今回についてはルイスが加速しきる前になんとしても初撃をいなさなくてはそもそも勝負にならないと、百回ばかし未来視シミュレートのリトライを重ねて理解した。
中段構えのまま間合いを詰めて、ルイスが焦って剣を振り下ろしてきたら──ここだ! 構えを変えて、俺は柄頭を左斜め上に突き上げる。
切っ先が右斜め下に向く。
自分の正面に、木剣によって『受け流すライン』が出来上がる。
ばヂヂヂチッ、と木剣同士の接触でしちゃいけない感じの音がした。表面から白い煙がうっすら上がる。摩擦熱で火を
だが受け流しは成功した。互いに無傷で斜めに抜ける。
「ぜぇぇぇあああッ!」
俺は受け流した勢いで左へ回転し、左片手で斜め掛けの斬撃を返した。
片手持ちでリーチを伸ばした俺の一撃をルイスが受ける。ここから鍔迫り合いになったら負けちまうな。だから狙いはそこじゃない。
──強度上昇、解除だ。
俺が木剣に掛けていた物質強度上昇の
すると、さっきの受け流しでもすでに限界だった木剣は。
ルイスの剣と接触している刃のど真ん中でぱっきりと折れて、切っ先が空中を飛んだ。
「折れた!」
「いいや、
偶発的な出来事だと思ってるルイスと、こうなることを知っていた俺とでは反応速度にわずかな差が出る。
片手持ちになることで空けていた右手で、俺は折れて回転している切っ先を掴み取った。
左手の木剣でルイスの剣を封じつつ、その切っ先を喉元に向けて──寸止め。
「なっ……」
「勝負ありだろ、ルイス」
間髪入れずにそう告げて、俺は降参をうながした。
……実際には身体強化を重ね掛けしてるルイスはこっからまだぜんぜん動ける。身体の強度に任せて俺を跳ね飛ばして木剣を叩き込むことも出来るだろう。
でも観衆に見られてるなかで、明らかに追い込まれてると見えるこの体勢から見苦しい足掻きはしない。
【
「……僕の、負けだ」
悔しさを滲ませながらもそう言った。
俺はすぐにルイスから剣を離し、二歩引いてから礼をした。この世界での模擬戦は開始時はなにもしないが、終了後は『遺恨無し』と示すためこのように礼をする。
でもコールはこれまで「庶民に下げる頭など」と言って無視していた。ので、ルイスがびっくりしている。
「⁈ お前が、剣の礼儀を守るだなんて……」
「こうした当たり前の行動から少しでも変わりたい、自分を変えていきたいと思ってるんだ。シエラのことについても……たとえ今回のことをルイスが認めてくれようがそうでなかろうが変わらない。次にまたシエラが襲われていても俺は必ず、命を懸けて助ける。その行動の積み重ねでしか、きっと信じてもらえないと思うから」
それだけ言い残して俺は去った。なんか視界の端でシエラが口許を押さえて動揺してるのが見えたけど、ルイスが負けたのがショックだったのかな。まあここんとこのコール、模擬戦で全敗してた記憶あるもんな。ルイスが勝って当然と思ってたならさもありなん。
するとルイスが声を震わせ、背後から俺に叫んだ。
「い、命を、って……お前っ、おまえぇーっ! もう絶対落とす気だろ! 言い回しがっ、ぜったい意識してるだろソレ! 僕この前本で読んだぞそういう言い回しっ」
「いやお前が読んだ本のことは知らんけど……別になんか参考にして言ってるわけじゃないぞ? ただ俺がこれまでの自分を顧みて、そうしたいと思ってんだよ。お前たちにどう思われてようと、俺はこの気持ちと行動を曲げない……同様に、お前に危ないことがあったらそのときも命を懸けてでも助けるぞ。ルイス」
振り返りつつ言えば、ルイスは一瞬固まって。
次いでものすごい勢いで顔を赤くすると、ぐっと力を入れてこっちに駆け込んでこようとした。
「おまえ、誰にでもそういうことっ……っていうか僕まで落とそうとするってっ、まさかっ、気付……⁈」
なんかよくわからんこと言いながら走ってきたが、そこでどうやら【
急に身体強化が効力を失ったからか、踏み出す力が空回りしていた。
「おい危なっ」
顔面からずっこけそうになったルイスに駆け寄り、俺はキャッチする。
後ろから右腕で
え、身体
動いたあとなのもあるだろうけど熱っ、っていうか胴回り細っ。
あれこれ体格があまりにもほっそりしてるけどもしかして……腕触ったの、おっぱい?
「っあああああああ!」
どんと突き飛ばされて、俺は地面に転がった。
ルイスが全速力で走って学院校舎へ消えていく。
「ルイス!」と呼びながらシエラもその後ろを追っていく。
俺以外の連中はみんな状況がわかってなくてきょとんとしている。
…………俺は、
推し漫画の推しキャラの性別が思ってたのと違ったことに、ただ茫然とするしかなかった。